結ぶと解く   作:ながずぼん

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第57話 寿司と母親

 カラオケ屋の近くの寿司屋は元の世界では高校の同級生がやっている店だった。

 寿司屋に入るとアフターと思しき二人連れが一組と奥の座敷にもう一組がいた。

 店主と目が合う。誰だこいつ?お互いにそう思ったように固まった。

 メイさんに気付くと「アヤママの?」と尋ねられ「そうです」と答えると、彼の目の前のカウンター席に座るよう促された。

 「飲み物は?」と訊かれ「お茶をください」と答える。

 メイさんは生ビールだそうだ。さっきの大泣きが嘘のようにニコニコしている。

 

「わたし、ここのお寿司屋さんに来ると、実家に来たような気持ちになるの」

 

「そうなんだ。とにかく気が晴れたみたいでよかったよ」

 

 店主は同級生ではなかった。なんというかコスプレでもしているのかのような似た感じの別人だった。こんなパターンもあるのかと思って店主をチラチラと見てしまう。

 

 ここの寿司屋で一番うまいのは『つきだし』だった。仕入れが悪くてふつうの時もあったけれど、いつだったかビシソワーズを出された時はうますぎておかわりをお願いしたぐらいだ。寿司屋より懐石料理の方が向いているんじゃないかと思っていた。

 きょうは山菜みたいなやつと、貝の煮つけのようなものだった。味は普通だった。

 

 「どうしましょう」と訊かれ、青魚の握りをホワイトボードの端から頼んだ。

 メイさんは刺身を適当につまみで出してもらって喜んでいた。

 

「ハナちゃん、さっきはごめんね。ていうか、きょうは迎えからごめん」

 

「いいよ、許す。話してくれたから。さすがに理由がわからないと困る」

 

「うん、今度から困ったことがあったら相談するね。ハズキに相談したのが間違いだった。あっ、ハズキって一番仲のいい友達ね」

 

「性病の人ね。言い訳がちょっと斬新すぎて火傷しちゃったね」

 

 その後、好きでもない異性に襲われかけたときの一言という大喜利が始まり、なんだかんだでリスクはあるが性病が最強なのかもという話でまとまった。

 

 寿司は全部普通に美味しかったが、店主と憎まれ口を叩き合いながら笑って食べた味に比べるとその分だけ落ちるような気持になった。

 ほんとは茶碗蒸しとかカニコロッケも食べたかったけれど、おいしい記憶を失いたくなかったので腹がいっぱいだということにして食べなかった。

 メイさんは出汁巻き卵と日本酒を頼んでベテランの酒飲み化した後、握りで貝づくし。つぶ貝、赤貝、北寄貝、鳥貝の握りを頼んだ。おれも赤貝のヒモ軍艦を頼んだ。

 

 寿司屋に入って一時間以上経っていたのでそろそろいいかと思い、クスメギに連絡して様子を尋ねると、もう話は済んだようだったのでお土産の握りをお願いする。

 せっせと握りを作っている店主は元の世界の彼に本当に似ているのだけど、どこかが違う。激ムズの間違い探しをしているような気分で彼の様子を眺めていた。

 

 お土産が完成したのでお会計を済ませて寿司屋を出てカラオケ屋へ。

 カラオケ屋の部屋に入ると、二人は楽しそうにデュエットしていた。

 仕事はどうしたと思ったが、どうせ今夜のことは報告しないのだからこれでいいのかもしれない。ママさんが身構えずにクスメギに話ができる環境が必要なのだし。

 

 折りを二人に渡して解散となった。なるべく早く上がろうと思ってはいたが、2時を回っている。

 ママがタクシー代行を頼んで、クスメギをホテルまで連れて行ってくれることに。

 「メイちゃんをよろしくね」とママに頼まれ、結局送りもすることになった。

 車を取りに行く間カラオケ屋で待っているか訊くと「食べたから歩く」ということで、二人より先にカラオケを出て一緒に駐車場まで歩いていった。

 

 車に乗り込む。メイさん帰りは助手席に乗って来た。若干酒臭い。

 寄り道なしで南へ進み彼女のマンションまでもう少しという頃。

 

「わたしさ、別れた旦那がほんとうにクズだったのね、いつも威張ってて。だから最初に会ったときからハナちゃんみたいな優しい人いいなあって思ってたの」

 

「ああ、そうなんだ。大して優しくないけどな」

 

 この物語の三代目ヒロインが誕生しそうな雰囲気があった。

 

「でもさ、やっぱりおじさんすぎるじゃん。たぶんハナちゃん勃たなくて子供が産めないじゃん。だからハナちゃんは、わたしのお父さんになってくれないかなって」

 

「あの、メイさん?さっきからなんの話をしているんですか?」

 

「きっとお母さんもハナちゃんのこと好きになると思うの。だから真剣に考えてみて、お母さんのこと。ね?」

 

 ぶっ壊れてんのかなこの人。酔ってるのか?言っている意味がわからない。

 とにかくおれが恋愛対象からいま外されたってことだけわかる。

 

 そして彼女のマンションに到着する。

 

「明日からお休みなんだよね?気を付けて行ってきてね」

 

「うん、ありがとう。戻ってきたらまたよろしくね」

 

「わかった。じゃあ、おやすみなさい。お母さんをよろしくね」

 

「おやすみ」

 

 お母さんには触れない。触れてはいけない。おかしなことになる

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