結ぶと解く   作:ながずぼん

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第59話 脅迫と官能

 高速で地元に戻っている最中に、ホテルへ連絡してクスメギの宿泊予約をきょうにずらしてもらうようお願いすると、問題なくクスメギの部屋を確保できた。

 万が一ホテルの部屋が取れないとなるとおれの部屋に泊めることになり、事実無根の薄い本が発刊されて一部界隈が捗ってしまう。あぶないところだった。

 

 地元には21時過ぎに到着した。送りに行けなくもなかったが、ドライバーをとっちめる作戦を練るために予定通り休むことにした。

 クスメギの部屋で相談する。ここも薄い本になってしまう不安はあるが仕方ない。

 

「―――――というわけで、そいつをスタンガンでビビらせてやろうと思う」

 

「あんまり効果ねえと思うけどな。そいつが噂流すたびにそれやるのか?」

 

「いや、まあ、そうだな。めんどくせえな」

 

「だろ?それにターゲットが他に向いたらそれはフォローできないだろ?」

 

「ああ、他の方面のコたちは然程接点ないからな。相談もしてこないだろうし」

 

「でも人手不足だからやりすぎてドライバーに辞められても困るんだろ」

 

「ああ、だからママや店長にクレームが入れられなくて野放しなんだ」

 

「きょうはあんたに迷惑かけたからな、俺が協力させてもらうよ」

 

 クスメギが随分と頼もしい。二日酔いでゲロ吐いてたくせに。

 

―――――

 

 店長に連絡をして例のドライバーに送迎後、店に寄るように連絡してもらった。

 1時すぎに店の裏に到着してドライバーが戻ってくるのをクスメギと待つ。

 黒いワンボックスが店の裏に横付けされる。これがドライバーの車だろう。

 運転席からぼさぼさパーマのガタイのいい男が降りてきた。30代後半ぐらいか。

 通用口へ入ろうとしたところへ二人で近づき後ろから声を掛ける。

 

「おい、おまえ、どうしておれがスカウトだって知ってんだよ」

 

「は?スカウト?あんた、新しいボーイの…?」

 

「そうだよ、で、なんで知ってんのかって訊いてんだけど?」

 

 クスメギと二人でにじり寄り逃げないように退路を塞ぐ。

 

「お、俺は関係ねえし。なんの話だか知らねえよ。人違いじゃないのか?」

 

「オンナのコに妙なレッテル貼るのもやめろ。商品価値が下がるだろ」

 

「だから関係ねえって言ってんだろ!」

 

 あくまでシラを切るつもりなのだろうが追撃の手を止めない。

 

「稼げる女が調達できないとさ、この人に怒られちゃうわけ。で、その原因がおまえだってことになれば、この人おまえに責任取ってもらうってなるわけ。これ脅しじゃなくて忠告よ?」

 

 ここで謎の男であるクスメギさんがようやく口を開く。

 

「あなたいい身体してますねえ。あなたみたいな人が好きな顧客もたくさんいるので、私としてはオンナのコでもあなたでもどっちでもいいんですけどね。フフフ」

 

「なっ…」

 

「だってよ。こっちの仕事の邪魔するとおまえ、商品になっちゃうかもな」

 

「商品て…だから知らねえって言ってるだろ!おれは関係ないんだって!」

 

 ターゲットにされて叫ぶように否定する彼。頃合いなのでトドメを刺しておこう。

 

「逃げたらクロってことで追われることになるからな。真面目に送迎してりゃ、店にもオンナのコにも、おれたちにも感謝されて平和な毎日が過ごせるんだから、妙な気を起こさないようにしたほうがいいと思うぞ。この人たちからは逃げられないし」

 

「あなた、新しい悦びの扉を開くとしたらどんな相手がいいですか?私の顧客にはいろんな方がいますからご希望に合わせてあげますよ」

 

 このクスメギ、ノリノリである。ていうか追い込みすぎて泣きそうだよ彼。

 

「いや、待ってくださいよ。彼が妙な噂を流さなきゃおれが調達できますから」

 

「そうですか。じゃあ、彼が大人しく働くようならそっちの件は諦めましょうか」

 

 ドライバーは己の貞操危機にすっかり口ごたえする気力も失われたようで、おれとクスメギを交互に見てあわあわしている。

 

「店やオンナのコたちにチクったらわかるよな?人知れず薄い本だからな。真面目に働けよ、じゃあな」

 

 そう告げておれたちはその場を立ち去った。

 ドライバーは青ざめた顔でヨロヨロと通用口のドアに手をかけるが鍵が掛かっていることに気づき、周囲を警戒した後に、足早に車に乗り込み去っていった。

 

 部屋とホテルは同じ方向なので歩きながら小芝居の感想を言い合った。

 

「おまえさあ、新しい悦びの扉とか追い込みすぎだろう。あいつ泣きそうだったぞ」

 

「あんたこそ、人知れず薄い本ってなんの話だよ。笑い堪えるのに必死だったぞ」

 

「本当は上の口と下の口とか言ってみたかったんだけどな。規約がな」

 

「官能小説じゃねえんだから。あれ以上続けられたら完全に噴き出してたぞ」

 

 予め役割だけは決めていたが、台詞はほぼアドリブだった。

 

「これで大人しくなるといいな。それでもまだなにか言うようなら事情を説明してクビにしてもらったほうがいいかもな。あんたの噂も晴らさないとだし」

 

「ひとまず様子見だな。繰り返すようなら次こそ店にも伝わるだろ。おまえがいてくれたからリアリティあったとおもう。ありがとうな」

 

「これできょうの失態はチャラだな。明日はあんたも一緒に来るか?」

 

「邪魔しねえよ。仕事にかこつけてデレデレしてこいよ。下心はバレるけどな」

 

「ばか、そんなんじゃねえよ。なんなんだよもう、いい歳なんだし、そういうんじゃ」

 

 明日の夕方に部屋の下の喫茶店で会う約束をして部屋に戻った。

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