昼前に起きて部屋を掃除する。洗濯を済ませて部屋を出て、昔からやっている中華そば屋で昼飯を食べる。ちょっと柔らかめの変わった麺の店。
食べ終わったら、前の世界で関わった会社のリストの続きをやる。
16時過ぎに面談が終わったとクスメギから連絡があったので下の喫茶店に。
フレンチコーヒーを飲みながら待っていると、割とすぐにクスメギが来た。
「おつかれ。今度はちゃんと話聞けたか?」
「ああ、夜に聞いた話はほとんど覚えてなかったな。助かった」
それでアヤママはどういう扱いになるのか尋ねると、特になにもしないという。
「今後どうしていきたいのか」という問いに「後継を育てて街を盛り上げて行ければ」と真っ当な返事が返って来たそうで、勘の鋭い女と差がないと判断したそうだ。
「じゃあ、今後は何かない限り接触しない感じなのか?」
「まあ、基本的にはそうなるな。問題が起きたときに相談に乗る程度だな」
「そうか。来月の検査のときにこっち来たらまた店に来いよママも喜ぶだろ。あ、そうだ。今夜は本当に早めに切り上げるようにして飲みに来ればよくね?」
「ああ、うん。同伴なんだ。18時から。そろそろシャワーを浴びないと…」
「わかった、うん。そうだよな、うん、楽しそうでなによりだ、うん」
喫茶店を出てクスメギと別れ、部屋に戻ってシャワーを浴びて仕事の支度をする。
店長からの連絡が入る。アオイさんは同伴なので迎えは不要だけどユイさんをこっちで拾うルートになった。
メイさんのマンションに行くと彼女は堂々と助手席に乗って来た。例の噂話をもう気にしなくなってくれたのだろうか。あと、お母さんが出てこなくてほっとした。
ユキさん、ナオさんを拾い、最後にユイさんのところを回って店に着く。
ミーティングが終わり開店になる。すぐにアヤママとクスメギが来店する。
軽く腕を組んでいるクスメギはちょっと照れたような顔をしている。見ているこっちが恥ずかしい。不慣れだからこそママは率先して絡んでる気がする。手練れだ。
クスメギをボックス席に案内したママがこちらに来た。
「ハナちゃん、いい人を紹介してくれてほんとうにありがとうね」
「いえ、あいついい奴なんで信用できると思いますよ。困ったことがあれば連絡してやってください。きっとすぐに飛んできますよ」
「あと、ニシダくんの件でもお世話になったみたいで」ママの声が小さくなる。
「ニシダくん?って誰ですか?」とママに合わせて小声で尋ねる。
「ほら、もう一人のドライバーさんの。私もいずれ、彼の考えていること調べてみようと思うけれど、そういうことに使ってはダメかしら?」
どうやらクスメギはドライバーの件をママに告げたらしい。どこまで喋ったのかわからないが、ママも様子見することにしたっぽい。
能力を使って頭の中を覗くってことの是非は個人のモラルでしかないが、勘の鋭い女が相手の思考を見透かしたなんて話はどこにでもあるだろう。
「いいんじゃないですか?自衛行為ですし。むしろそれで何か出てきたら対応できるので店長もオンナのコたちも助かると思いますよ」
「ありがとう。そのときはまた相談するわね」
ママはクスメギの元へ去って行き、おれはパイセンとおしぼりの仕込みをする。
―――――
成長したクスメギはワンセットで帰っていった。さすがにオープンラストはないと思っていたけれど延長もしないで帰るとは。よほど懲りたのだろう。
23時頃、アイスペールに製氷機から氷を移していると店長に呼ばれる。
ママの席でおれを呼んでいるらしい。今夜はそれほど忙しくないのにと思いつつ作業の手を止めて呼ばれた席に伺う。
ママの傍らで片膝をついて「お待たせしました」と声を掛けると「あのねハナちゃん、こちら名古屋からお越しのタハラさん。近くに彼女のお店を出すから内装業者を探していらっしゃるの」と太ったおじさんと東南アジア系の女性を紹介される。
「初めまして、ハナダです。以前内装デザインの会社をやっていました。設計はやれるのですが施工のお話ですとお請けできかねます。大丈夫でしょうか?」
「ああ、忙しいところすみません、タハラです。いやね、こいつ長い付き合いでこんどスナックやらそと思ってたんやけど、こっちの業者に明るくないんですわ。居抜きで物件押さえてあるんやけど、自分の店になるんなら改装したいみたいで。もしよかったら話聞いてやってくれないですかね」
「ヨロシク、オ願イシマス」
ついに来た!と興奮していた。思ったより早く仕事を再開する足掛かりができた。
「そういう事でしたら。私でよろしければぜひお手伝いさせて頂きます」
「ありがとう。いやー、ほんと困ってたところだったんですわ。ママさんありがとう。この店に来てよかったわー。一番いいボトル入れなかんね。あはは」
「よかったねハナちゃん。がんばってね」
その後、連絡先を交換して、翌日物件の案内をしてもらいながら改装のイメージを聞かせてもらうことになった。
ずっとこの世界で生きるつもりはないが、元の世界への戻り方を調べるためには長期戦になるだろうから、生活基盤はなるべく強固にしておきたかった。
そんな中で一番慣れてる仕事が得られたのはかなり運がいいと思った。