アヤママの考えを聞いた後、今回の件について3人で話をした。
女の態度が最初からおかしかったこと、男は美人局の脅迫係だったであろうこと。
2人を雇い指示をしたタハラ氏が国家安全部から直接の指示で動いていたことを突き止めることができたのは、クスメギがママから聞いた話からだった。
あの日の会計がヘネシーを入れたことで10万を超えたそうで、半分は現金で払ってくれたが半分は会社宛てに請求書を出すよう言われ、翌日に貰った名刺にある会社のことを調べたら会社は存在せず電話も繋がらなかったそうで、その時にちょうどクスメギから店で何があったのか尋ねる連絡が来て、ママが事情を説明した。
ところが偽住所のビルは実在し、中国系企業の所有物であったので調べを進めると、タハラ氏はそこの会社への出入り業者であることが判明し、逃亡寸前で身柄を捉え背後関係についての自供を取ることができたそうだ。
「なんでわざわざ実在する住所を使ったんだ?しかも雇い主のビルだなんて」
「怪しい依頼だったから保険を掛けたのかもな。万が一のときの道連れにって」
「次からハナちゃんを席に呼ぶときは、お客さんの頭の中を覗いてからにするわね。あと、一見で売掛の場合は頭の中を覗いてもいいかしら?」
ツケの客に対して能力を使ってないっぽいということは、実際のところママはほとんど能力を使っていないのかもしれない。まあ、ママに会いに来る客なんてろくでもないことを考えている輩がほとんどだろうから見たくないのだろう。
「ママが篩にかけてくれるのは助かります。売掛の場合も問題ないです、悪いのは金払わない方なので。すぐに無銭飲食で警察に突き出してやってください」
クスメギが笑いながらそう言うと、ママはありがとうと嬉しそうだった。
ちょうどその時に店のグループに出勤の通知があったので、店長に連絡をしてママから働いていいと判断された旨を告げると、送迎に行けるか訊かれたので行けると返事をして、おれだけ先に会食の店を出ると二人に告げた。
「お客様、今夜は同伴ですか?」とクスメギに尋ねるとママが「もちろんよね」と答え、クスメギは「うん」とか言ってまんざらでもない様子で頷いている。もう付き合っちゃえよと思いつつ「ではご来店お待ちしております」と言って送迎に向かった。
ひさしぶりにメイさんの住むマンションに行くと、おれの車を見つけた彼女は小走りでやってきてニコニコしながら「刑期は終わったの?」と尋ねてきた。
いつもの如く、アオイさんやユイさん、ナオさんを拾うたびに「お勤めご苦労さま」とか「出所できてよかったですね」とか「やっぱり、もう来るなよって言われたんですか?」などなど、すっかり刑務所に入れられたことになっていた。
それがオンナのコたちからの事情に踏み込まない心配の表れだと知ったのは、店でシンちゃんパイセンに「店のみんな心配してましたよ」と教えてもらった時だった。
その日もクスメギは幕開けワンセットで切り上げ、翌日には東京へ戻った。
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仕事に復帰してから3週間、特にトラブルもなくママから怪しい来客があったというような報告もなく、淡々と時間が過ぎて行った。
月曜日にクスメギが迎えに来た。てっきり同伴だと思ってたが店には来なかった。
アヤママと何かあったのだろうか。ママの様子は至って普段通りだけれど。
翌日、9時にホテルの駐車場でクスメギの車に乗り、検査のために東京へ向かう。
高速は混雑しておらず予定通りに大学病院に着き、頭部MRIと脳波検査を受ける。
異常は見られないと先生から教えてもらい、地元を出るときにクスメギから説明された通りに外事室の事務所でハナザワ室長との面談になる。
「ご無沙汰してます、ハナダさん。体調はお変わりなく?」
「はい、お蔭様で健康なようです。腹周りの浮き輪肉だけが育ち盛りで心配ですが」
「ははは、それはもう中年の性ですね。運動して筋肉で抗ってください」
「で、世間話をするために呼ばれたわけじゃないんですよね?」
「ええ。以前に能力者からの干渉を受けた際に『弾かれた』と言われたとお聞きして、ハナダさんの身体に起きている事象について仮説を立ててみたのです」
アヤママが他人の思考を覗き見ているとき、記憶のシナプス情報を繋げてダウンロードしているとする。それを認識の外で妨害したということは、脳内のミトコンドリアが記憶にリンクする物質に対して自動的に反応して阻害する物質を吐き出した可能性があるという。そして物質同士が対消滅を起こし光子になることで『目の前に火花が散る』現象が起きたのではないか、というのがハナザワさんの仮説だった。
「それって、どうやって検証するんです?脳内を観察する方法はあるんですか?」
「残念ながら検証方法はありません。私の持つ能力では他人の脳内を覗き見ることはできませんし、仮にできたとしても、おそらく私の脳は無事では済まされないでしょう」
「え?それってどういう…」
「仮説の仮説になりますが、対になる物質が均衡していれば対消滅で済みますが、ハナダさんの能力が強く出た場合はリンクを辿って逆流して、私の記憶が真っ白になったり人格が失われたりするでしょう。十分に訓練されていない能力ではおそらく覗く側の出力が小さいはずですから」
「アヤママがある程度使い慣れているからバチバチで済んだということですか」
ハナザワさんは真剣な顔で深く何度か頷いた。
なんだか能力者の天敵にでもなった気分だった。