ハナザワ室長は能力者の能力についてさらに開示する。
「相手の思考を読むことがダウンロードだとすると、応用としてアップロードもできるはずです。いわゆる思考操作です。未だ遭遇していませんが、そういうことができる人間がどこかにいてもおかしくありません」
「洗脳みたいな感じですか。怖いですね。ていうか無敵じゃないですかその人」
「ははは。無敵じゃないですよ。通用しない人間がいま私の目の前にいます」
「えっ? ああ、もしかしてそれも自動で『弾く』んですかおれの脳みそ」
「ええ。本当の無敵はあなたなんです、ハナダさん。宇宙を破壊する能力です」
天敵どころか悪の権化になってしまった。
曰く、弾く能力を自発的に発動すれば、あらゆる物理法則の干渉を弾き、時空間をバラバラにすることも可能だろうとのこと。正直言っている意味がわからない。
「で、おれは何に気を付ければいいんですか?」
「来月の検査時にアズマ教授があたなに面談したいと言っています。彼にいまお話した内容であたなの能力について正誤を求めてみてください。だいたいで構いません。彼ならその先の答えを知っているはずです」
「アズマ教授ですか。確かにモンテビデオの時から何か知っている感じはしていましたけど、なにも教えてくれないんですよね」
「能力を正しく理解して欲しいのではないでしょうか。経験と予備知識を得たいまのハナダさんになら、答えを教えてくれると思いますよ。ワームホールの件も」
「え?ワームホール?アズマ教授はあの穴がなんだったのか知っていたんですか?」
「どこまでご存じなのかわかりませんが、おそらく、どういうものなのかは知っていると思いますね。最初に痕跡を発見したときから知っていたはずです」
まじか…だとしたらもったいぶらないで教えてくれよ。
不思議と腹が立たなかった。なにか、いまに辿り着かなければならなかった気がしているからかもしれない。あれこれ体験して勉強して人に会って、でなければカラクリを教えてもらっても理解できなかった気がする。
「わかりました。来月の検査に無事来られるようしっかり警戒して過ごします」
いろいろ教えてくれたハナザワさんに礼を言ってクスメギと一緒に事務所を出た。
クスメギの運転する公用車で神田のホテルに向かう。
今朝、東京へ向かう道中でなんとなく聞き辛いと思った話をここでしてみる。
「なあ、ママとなんかあったのか?昨夜も店に来なかったし」
「ああ、やっぱりその話する?するよなあ。してこないなって思ってたし」
どうせ送ったら上りだし、飯食って行くかということで町中華へ。
まだ早い時間だったので、酢豚と餃子をつつきながら話をすることに。
「懐かしいなあここ。おまえが奢ってくれたんだよな、あの時」
「ああ、あの頃のあんた、むくれたガキみたいだったな。成長したもんだ」
「おい、親目線やめろ。で、ママとなにがあった?」
クスメギはしょんみりしながらママとの話を淡々と語ってくれた。
実は昨夜も同伴するつもりで一緒にご飯を食べていたそうだ。
その場で「当面は遠距離になってしまうが付き合うことを考えてくれないか」とママに告白すると、言いたくなさそうに「それはできない」とママは返事をした。
もしも距離が問題ならいずれ東京からこちらに来る腹積もりがある、そうじゃないなら理由を教えて欲しいと尋ねると、ママは「好きだから覗いて安心したくなるから」と漏らしたそうだ。
それで気が済むならいくらでも頭の中を見ればいいと言ったが、それは信じていないことと同じで裏切りなのだ、とママは悲しい顔で苦しそうに言ったそうだ。
「あんなに悲しい顔をさせちゃうなんてな。告白は失敗だったかもなあ」
「あなたに優しくされるたびに力を使いたくなる。わたしに愛される資格があるのか不安になる。その怖い気持ちは誰でもあるものだとしても、こんな力を使って確かめることじゃない。あなたの気持ちを素直に受け取ることができないから一緒にはなれないの」というママの言葉を一言一句覚えているクスメギが「本気」と書いて「マジ」と読むぐらいの本気だったのがよくわかる。
「彼女、『私はもう片思いだけでいいの。あなたの前に相応しい人が現れることが私の幸せよ』って泣きながら笑って言うんだよ。おれの目の前にその人がいるのにさ」
「… … … …」
「って、ちょ、なんであんたが泣くんだよ!俺の方が泣きたいんだよ!」
いや、もう涙が止まらないんだが… こんな悲しい両想いあるのかよ…
「まあでもさ、俺だって格好つけたいから別れ際に、客としてなら会ってくれるかって尋ねたら、うん、いつでもって笑ってたよ。いつも通りの素敵な笑顔でな」
もうやめてくれ!これ以上泣いたらしおしおに干からびる…
他人の痩せ我慢て、すぐ涙腺が崩壊しちゃうんだよ…