町中華で号泣する中年を店員や他の客が好奇の目で見ていたが知ったことか。
「おい、クスメギよ、おれにできることはあるか?」
「ねえな。こればっかりは誰にもどうにもなんねえなあ」
「そうか。泣いたら腹減ったから、定食頼んでいいか?」
「ははは。食えよ。あんたがそんなんで助かるわ。悩むのがアホらしくなる」
「生きるってことは食うことだからな。忘れるなよ、凹んだときは食うんだ」
ニラレバ定食を食べて、ホテルに入った。
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前回の検査からおよそ一ケ月が経った。特に変わったことはないが、下の階の喫茶店の店主が病気になったらしく何日かお休みしていた。
サクラさんからパウラさんと姪っ子と一緒に日本に来ると連絡があったので会う約束をした。向こうのスケジュール的にここ(地元)へ招くことは叶わなかったが、ちょうど東京での検査日に絡められそうだったので、店から3日間の休みをもらった。
あと、メイさんがお母さんと付き合えとは言わなくなった。夜食の会は週二ぐらいで続いている。だいたい愚痴を聞いているのだが、金のない奴ほど飲み方が汚い。
検査の前日、いつものようにクスメギがやってきた。一カ月ぶりだ。
ママと同伴なのか尋ねると、不安そうに「そうだ」と言うので、昨日ママに明日はクスメギが来るけど約束してるかと訊いたときに、乙女な顔をしてたことを伝えた。
いつもより30分遅い20時半に二人は店にやってきた。軽く腕を組んで。
結局デレデレしているクスメギを見たら、イラッとした。嫉妬ではない。この場面を薄い本とかにして発刊しないで欲しい。
翌日、朝9時に合流してクスメギの車で東京に向かう。上り線は空いていて下り線は混雑していた。学校が夏休みに入ったからだろうか家族連れのワンボックスが多い。ちなみに上り線の追い越し車線をさほど速度の出ていないワンボックスが占領している場面に何度か遭遇して、旅先で小さな不幸に遭いますようにと願った。
大学病院での検査を終えると理学部棟に向かい、アズマ教授との面談になる。
きょうはウチヤマさんは同行しておらず、クスメギも席を外してアズマ教授と一対一での面談になっている。
「お久しぶりです、お元気でしたか?」
教室で待っていたアズマ教授は相変わらず孫でも見るような好々爺然とした笑顔で話し掛けてきた。
このタヌキじじいめ。今日こそ全部吐いてもらうからな!という意気込みで対峙する。孫だっていろいろ勉強してんだからな。
「はい。いろいろありましたけれど、お蔭様で元気でやっています。それできょうはどんなお話を?」
本題に入れと水を向けても教授は笑顔を崩さず、感慨深そうに言う。
「以前より逞しく見えますね。でも雰囲気が変わっていないところを見ると、こちらの世界で良い人たちに巡り合われたのですね」
ん?こちらの世界?いま、こちらの世界って言ったか?
驚いて次の言葉が出ないでいると、教授はそのまま続けた。
「ハナザワ君から概ね聞いています。変異ミトコンドリア由来の能力について、あなたに説明したと言っていました。この世界についても全容を知る段階にあると」
「…教授は、あなたはいつからどこまで知っていたんですか?なぜ何も教えてくれなかったのですか?」
「申し訳ないが、私も全てを知っていてお話できるわけではないのです。ただ、あなた自身の意思の強さが今後大きく関わってくるので、この世界のことを知りながらあなたの意思がどうなるのか見定める必要がありました」
「意思の強さ?おれは最初から帰りたいって言ってましたよ」
「すみません、いつも言葉足らずで。イメージする力も育てる必要がありました。自分がどうなりたい、どうしたいのか、強くイメージする必要があるのです」
教授は苦笑いして言い直した。
そうだった、この人は前からデフォルトで言葉足らずだった。
「それで、その資格を得たから、きょう全てを教えてくれるのですか?」
「いえ、もったいぶるつもりはないのですが、私では役不足です。きょうはお誘いに来たのです。京都へ来てはくれませんか?そこで全てを説明できる方に会わせます」
「京都?京都に教授より能力やワームホールに詳しい人がいるってことですか?」
「はい。変異ミトコンドリアの祖となる方です」
変異側にもミトコンドリアイブがいたのか。てことはきっと女性なんだろうな。
京都行きのスケジュールを話合う。
明日はパウラさんたちと東京で会うから明後日の見送り後なら行けると伝えると、それでいいと言われたので、明後日東京駅で待ち合わせをした。
京都滞在は2日間の予定なので店長に連絡をして休みをもう2日伸ばしてもらった。
京都もあれだけど、明日モンテビデオのみんなと再会できるのは楽しみだ。
パウラさんがおまじないと言っていたのはきっと頭の中を覗き見る能力だろうし。
クスメギも呼んでおくか。サクラさんはもう知っているかもしれないし。