花やしきに到着するとマリアちゃんは一目散に駆け出してしまった。となると思っていたのだが意外と慎重派のようで、パウラさんの手を握り大人しくしている。
チケット売り場で人数分のフリーパスを買い、マリア隊長を先頭にぞろぞろと後ろを着いていく。最初はローラーコースターに乗るらしい。
マリアちゃんとパウラさんが並んで乗るので順番待ちをしている間、サクラさんとクスメギに歩いている間なにを話してたのか尋ねると「愚痴だな」「愚痴ですね」と二人で苦笑いをしていた。
「クスメギさんて仕事に対してもっとドライな方なのかと思っていました」
「そりゃあこんな大きな子供みたいな奴の面倒見てるんで感情的にもなりますよ」
「ごめんね、ストレスで飲んでゲロ吐くほどの二日酔いにさせちゃって」
「あの時は悪かった、俺が悪かったよ。でも最近は気を付けてるだろ?」
「うふふ。ハナダさん。オトモダチが出来たみたいでよかったですね」
「いや、おれサクラさんのほうが七兆倍嬉しいです。親友になってくださいよ」
そんなこんなで順番が来て、クスメギと並んでローラーコースターに乗る。
カタカタと音を立てて坂を上っていく。
「おまえの仕事内容、どこまでサクラさんに話したんだ?」
「ふんわりな。あんたが調査対象で保護対象でもあるとは伝えてある」
「能力がーーあーるーーみたいーなぁ話はしぃいたのかーー」
「してねぇっぅえけど、きっとーー察しぃてるぅんーじゃーぅぁないかー」
コースターに振られながらも無理矢理に会話を続ける中年二名。
割とすぐに終点に着き、コースターから降りるとサクラさんが「お二人ってバカなんですか?」と笑っていた。
次はスペースショット。4人乗りなのでクスメギは自ら志願してお休み。
フリーフォールと思わせておいての逆バンジー。マリアちゃんが怖そうにしている。
「ウルグアイってこういう遊園地ないんですか?」
「アトラクションがメインのものはないですね。あってもメリーゴランドとか?」
花やしきの乗り物は富士急や長島の「絶叫系」に比べたらかなりヌルいので、物足りないのではないかと思っていたが、慣れていなければこれでも刺激があるようだ。
カウントダウンが始まり、スポンと上に跳ね上げられる。その後、びよんびよんと数回上下に行ったり来たりを繰り返した後、スーっと地上へ降ろされる。
パウラさんは一番上に達したとき物凄く笑っていた。高いところが好きなのかな。
次はディスク・オー。たぶんこれが花やしきの中で一番三半規管をやられるやつだと思う。様子を眺めていて「ワタシ、無理デス」とパウラさんから降参宣言があった。
円盤の外周にあるスツールみたいなのに座り、円盤が回転しながら三次元に動くなかなか食後には厳しい感じのやつだ。
ここで初めて気が付いたのだけれど、クスメギがマリアちゃんの隣に座ってスペイン語で話をしている。なんだか恥ずかしい気持ちになる。ちゃんと勉強しとけば…
「ハナダさん、たった三ヶ月で随分と余裕が出ましたね。お仕事はなにを?」
「そうかな?仕事は飲み屋さんでボーイと送迎をしてるよ。バイトだけど」
円盤がゆるゆると回転を始めて、上下前後左右に不規則に動いていく。
「ああ、それでですか。女性に慣れた感じがしているのは。パウラにもわたしにも自然に接しているなって思ったんですよね」
「前はそんなに不自然だったの?自分ではわからないけれど」
「ハナダさんの腰が引けすぎてて逆に距離感に気を遣う感じでしたよ」
髪をなびかせてそう笑うサクラさんは、少女っぽさが抜けて大人の女性になった感じがする。どこがどうってわけではないのだけれど、前と雰囲気が違う。
「サクラさんは大人っぽくなりましたね。芯が強くなったというか…あ!髪か!」
「いつ気付いてくれるのかと悲しい気持ちになっていましたよ。クスメギさんですら、会ってすぐに言ってくれたのに」
「ごめん、本当にごめん。でも、すごく似合ってる。若さを保ったまま大人になったっていうか、かわいいが美人寄りになったっていうか、一枚殻が剥がれた感じ」
「殻が?なんですかそれ。でも褒めてくれてありがとうございます。さすが女の園で鍛えられているだけありますね。褒め方に悪い気がしないです」
回転が止まり、ぞろぞろと出口に向かう。
不意にサクラさんに背中を小突かれた。「やっぱりむかつく」ともう一発。
振り向くと彼女は笑っていた。よかった泣いていなくて。
マリアちゃんが少し疲れたみたいで、ひとまず飲み物でも飲みながら休憩することになった。そりゃそうだ、長時間フライトの直後に遊園地なんだから。