結ぶと解く   作:ながずぼん

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第70話 浴場と合流

 さて、おれたちはどうするかとクスメギに訊ねると「横になりたいけど、あんたを置いて帰るわけにもいかねえし」と言う。別に一人で時間潰すぐらいどうってことないのだが、浅草は前例があるし、二度目がないとも言えないので少し考える。

 そういえばROXにスーパー銭湯みたいなのがあったので提案すると、おお、それいいじゃん!と乗り気だったので歩いてROXまで行き、風呂に入って寛いだ。

 

 サウナは息苦しくて苦手だったのでおれは入らなかったが、クスメギは出たり入ったりしていた。おれは海水風呂という海水と同成分だという風呂に入り、モンテビデオの海で浮いていたのを思い出していた。

 

 随分前のことのように思うがあれから半年程度しか経っていない。

 しかも何かをしたわけでもない。スペイン語は習得できていないし、科学知識だって齧った程度。仕事のスキルだってコロコロの紙を剥がすのが上手くなった程度だ。

 誰かのお膳立ての上に乗っかるばかりで、自分で決めたことと言えば地元に帰ったことと、黒服兼送迎の仕事に就いたことぐらいだ。

 

 毎日それなりに頑張って生きてはいるけれど、誰かの役に立った実感はない。

 それなのに、きょうは最初に地球の反対側で世話をしてくれたパウラさん、次に日本への帰国の世話をしてくれたサクラさん、そして日本に着いてから世話を焼き続けてくれているクスメギ、3人が何の得にもならないおれと笑って過ごしている。

 申し訳ないぐらいの幸せ者だなおれは。ちょっと泣きそうだよ。

 

「おい、そろそろ上がってビールでも飲んで昼寝しようと思うけど、あんたまだ入ってるのか?腹は減ってないのか?」

 

 閉じていた目を開けると目の前にクスメギが立っていた。たいそうなものを携えて。

 あいつのソレはまるで中華街で大活躍だったロングバトンスタンガンだった。

 圧倒的敗北感に包まれていそいそと前をタオルで隠しつつ風呂を出た。

 薄い本が発刊になるなら、おれのネコが確定した瞬間だった。それはつまり顎関節と括約筋の死亡が確定したことを示していた。

 

 食事処へ行き、遅い昼食を摂る。絶対に今夜食べなさそうなものを注文するべくメニューを凝視しカツカレーに決める。いくらなんでもカレーはないだろう。

 クスメギは小鉢とビールを注文し「生き返るー」とか言ってる。おまえのそれはゲロフラグだとおれは思っている。

 

 腹が膨れたところで休憩室に行って昼寝をする。つもりだったのだが、おれだけうまく寝付けなくて漫画本がいっぱい置いてあるスペースへ行き読むことにした。

 ジョジョの6部のラストのあたりは流し読みしてしまったので、ちゃんと読んでおこうと思い、刑務所を出てからのあたりから読み始めた。スペースセンターに辿り着く頃にはやっぱり意味がわからなくなって、最後まで読み終えて頭の中が『?』だらけになったところでクスメギが起きてきた。

 

「眠れなかったのか?」と訊かれ「おまえの隣で寝ると薄い本が捗るからな」と返事をすると「なんだそれ」と意味わかんないという顔をされた。おまえはいいんだよタチなんだから。おれは死ぬ。あんなの直腸までズタズタになる。

 

―――――

 

 サクラさんからそろそろどうですか、と連絡があったので着替えて上野に向かう。

 花やしきで新宿とか渋谷、六本木あたりの東京っぽいところじゃなくていいのか尋ねたら、パウラさんのおばあちゃんの実家が東北だから上野拠点なのだと言っていた。

 

 予定より早く待ち合わせ場所の上野駅広小路口に着いた。

 

「なあ、きょう誘ってくれたのって、パウラさんはもしかして…?」

 

「そう、さっき確認した。だけどサクラさんは知らないっぽいから二人にすれば他人にバラされる話じゃないよな。今夜おれたちが口にするのはナシにしよう」

 

「わかった。やっぱりそうか。あんた能力者を引き付ける力でもあるのか?」

 

「スタンド使いはスタンド使いと引き合うってやつか。そうなのかもな」

 

 辺りをぼんやり眺めながらクスメギとぼそぼそと喋っていると、視界に違和感があった。そちらに視線を向けると、ペデストリアンデッキに通じる歩道橋の手摺の陰に3人組を見つけた。

 はっきりと顔を彼女たちに向けて手を振ると、3人が移動し始めた。

 

「きょう誘った理由はサクラさんと会わせるためだよ。破れた恋とストッキングはすぐ捨てろってな。あの人、見た目かわいいけど芯が強くて素敵な人だよ」

 

「ちょっ…おまっ…」

 

 クスメギがなにか言いかけたところで3人と合流した。

 

「どっちが先に見つけるかって賭けていたんですよ。まさかハナダさんとは」

 

「ワタシハ、ハナダサンニ、ベットシマシタ」

 

 どこまでも買い被りすぎなパウラさん。そして侮りすぎなサクラさん。

 マリアちゃんはどっちだと思ったのかパウラさんに通訳をしてもらうと、さっとクスメギの方を指さした。スペイン語ができるからあいつの方が親しみがあるのだろう。悔しくなんかない。おじさん悔しくなんかないんだもん!

 

 道を渡って高架下に沿って御徒町方面へ。

 回っていてもいいか確認すると回っている方がいいとのことで回転寿司へ。

 

「日本ハ、ナンデモ回シマスネ。遊園地モ、寿司モ、ベッドモ回ス。ナゼ、回スノデスカ?回スト、気持チイイ?」

 

「ちょっとパウラ!」

 

 パウラさんの思いがけない夜の発言で夜の部の幕が開ける。

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