マリアちゃんは結局お昼を食べられなかったらしく、回転寿司で補填するかのように食べている。マグロの赤身が気に入ったようだ。あとイクラ。軍艦巻きの海苔の処分をするのがおれの役目。それに気付いた店員が3皿目からは海苔なしで出してくれた。
パウラさんも「オイシイデス」と食べている。特に集中するネタはなく万遍なく食べているが、イカはあまり得意ではなかったようで一貫おれのところに回ってきた。
サクラさんは最初は普通に食べていたけれど、そのうちネタだけ食べてシャリはおれとクスメギに回す暴挙に出始めた。「ちょっと酷くないですか」とクレームを入れると「細かい男はモテませんよ」と開き直っている。
なんだかそれが流行ってしまい、マリアちゃんもパウラさんもシャリだけおれに渡してくるので、おれの皿の上に6貫分のシャリミッドが完成した。
このままシャリだけ積み上げると店に怒られるので、違うものを食べに行こうと河岸を変えることを提案した。とはいえなんのアテもないのだけれど。
とりあえず高架下を行ったり来たりして、焼鳥屋へ行きささっと食べて、串揚げ屋へ行く。そこでもささっと食べて、モツ煮屋へ行った。日本の大衆食を過剰摂取してもらうため諸外国の店には行かないのがおれの大和魂。
おもてなしの心全開であり、腹がぱつんぱつんなのである。
「ハナダサン、マダ、牛肉食ベテナイケド、イイノ?日本ニ、チビート、ナイ?」
「もう食べられないです。チビート無理。食べたいけど無理」
そう言うおれの背中にはモツ煮屋で寝てしまったマリアちゃんが背負われている。
ほろ酔いのクスメギはしっかり酔ったサクラさんに絡まれているが、面倒事に巻き込まれたくないので距離を取っている。
そろそろ帰りますかとホテルの場所を訊くと「ハナダさんはパウラたちを送って。わたしはこの人に用がある」とサクラさんは言い、クスメギを従えて通りの向こうへと消えてしまった。
パウラさんにホテルの場所がわかるか尋ねるとスマホで地図を見せてくれた。
ホテルは昭和通り沿いで、現在地から割と近かった。
「マダ、モウ少シ、オ話シシタイデス。帰ラナイト、イケマセンカ?」
「いや、そんなことはないんだけど。マリアちゃん寝ちゃってるし」
「ワタシノ、ホテルノ部屋、来マスカ? サクラ、マリア同ジ部屋デス」
いや、そんなところにいたら帰ってきたサクラさんに殴られる。
「えーと、話ができてマリアちゃんが寝かせられる…あ、カラオケでいいのか」
すぐ近くのカラオケ屋へ行くと割と部屋が埋まっていたもののすぐに入れた。
ソファにマリアちゃんを寝かせ、受付で借りてきたブランケットを掛ける。
15歳とはいえ日本人に比べたら大きいほうだと思う。正直重かった。
「もしかして、マリアちゃんは同じ歳の子と比べて背が高い方?」
「ハイ、マリアハ、大キイデス。ワタシヨリ、大キクナル。兄サン、大キカッタカラ」
「お兄さんたちは、いま何をしているの?」
「天国ニ、イマス」
「あ…」適当な言葉を探すが、上辺だけ取り繕っても仕方がない。
慈しむようにマリアちゃんの寝顔を見るパウラさんの長い睫毛に一瞬見惚れてしまい言葉探しがリセットされる。妙な沈黙が続いてしまう。
「ごめん、そうだったんだ。だから二人で暮らしているんだね」
ようやく絞り出した言葉がこれ。語彙力なさすぎた。
「イイエ、ハナダサンノ、セイ、デハアリマセン。ワタシガマリアノ、オヤデス」
「優しくて綺麗なお母さんで、マリアちゃんが羨ましいな」
「ウフフ。褒メルノ上手ニナリマシタネ。サッキ、マリアヲ背負ッテイタ、ハナダサン、オ父サンミタイデシタ」
「おれの子供もお兄ちゃんが14歳なんだよね。弟は11歳だね」
「家族ニ、会エタ?サクラハ、ハナダサンノ家族、イナイト、言ッテマシタ」
パウラさんには言ってもいいだろう。彼女も秘密を明かしてくれると言ってくれているわけだし、きょう会ってる3人には隠し事なしでいいんじゃないか。
「パウラさん、うまく説明はまだできないけれど、おれ、この世界の人間じゃないみたいなんだ。どういうことなのか知るために、明日から京都へ行ってくる」
「ハイ、ワタシモデス。キョウ、話ソウトシタノハ、ソノ話」
えっ?えっ?えええええ!!!
なにそれ、わたしもってどういう意味?時間がかかる話って、え?え?え?
「えーと、パウラさんは自分が元いた世界と、この世界が違うこといつ知ったの?」
「元カラデス。ワタシ、宇宙人。ワタシモ、黒イ穴、通ッタ」
まったく脳みその処理が追い付かない。能力があるとかじゃなくて宇宙人て。