目覚めると白っぽい部屋にいた。
ああ、ここは神田のホテルだ。異世界じゃない。
昨夜パウラさんから衝撃のカミングアウトがあって動転しているうちにマリアちゃんが起きて、ホテルで寝たいっていうから送って行って、頭の中がぐるぐるしてて歩いているうちにホテルまで戻ったんだった。
途中で襲撃されなくてよかった。無抵抗で攫われてたと思う。
とりあえずシャワーを浴びて、チェックアウトの支度を済ませたらクスメギに連絡を入れる。しゃがれ声のクスメギが出る。東京駅へ見送りに行くぞと言うと「無理」と一言だけ残して通話は切れた。相当量のアルコールを摂取したのだろう。
チェックアウトを済ませ山手線で上野駅へ向かう。
平日だけど通勤の時間帯は大幅に過ぎているので車内はそれほど混んでいない。
上野駅に着く。新幹線のりかえ口が見える位置で3人が来るのを待つ。
だいたい予定の時刻通りに中央改札から3人が現れた。
パウラさんとマリアちゃんが手を振りながらこちらに来る。少し遅れて険しい表情のサクラさんが続く。昨日と同じ格好をしている。部屋に戻ってそのまま寝たのかな。
パウラさんは濃いベージュ色のニットのノースリーブを着ているので、とにかく破壊力がすごい。好きにならずにはいられない。おれも東北について行きたい。
「おはよう」と声をかけると「オハヨウゴザイマス」とそれぞれ返してくれるのだが、サクラさんのみ、頭を下げるだけで声を出さない。
「そんなに飲んだんですか?」
「はい…上野で別れてからの記憶が曖昧で… 気づいたら彼の部屋でした」
「え?クスメギの?」
「はい…でも、なにもなかったと思います。彼にも気にしないようお伝えください」
「わかった。代わってあげたいけど、いろいろと役不足なのでがんばって… あっ、ちょっと待ってて」
構内のすぐ近くにあるコンビニに入り、スポーツドリンクと、お茶を2本買う。
3人の元へ戻り、お茶はパウラさんとマリアちゃんに。スポーツドリンクは飲めるかわからないけれど、サクラさんに渡す。
「パウラさん、サクラさんこんなだから、困ったことがあったら連絡してね」
「ハイ。何モナクテモ、連絡シマス。サクラハ、任セテクダサイ」
「うん。マリアちゃんも日本を楽しんでね。また会おうね」
パウラさんが通訳して彼女に言うと「アリガトウゴザイマス」と返してくれた。
そしてパウラさんが「マタ、会イマショウ」と言ってくれたので「
「じゃあ、サクラさん。新幹線で寝て回復してください」
「はい…ありがとうございます。二人は無事にウルグアイに着くまで面倒見ますので。ハナダさんもお元気で」
新幹線の改札を抜けて、姿が見えなくなるまで見送って東京駅に向かう。
東京駅に着いたらクスメギに連絡をしてみたけれど電話に出なかった。
―――――
アズマ教授と約束した時間になり、八重洲中央口近くのコンビニの前で待っていると教授がやってきた。心なしか表情が上気している気がする。
「お待たせしてしまいすみません、チケット売り場が混雑していて。はいこれ乗車券と特急券です」
「え、チケット代払いますよ、きょうはプライベートですよね」
「いえいえ。この日のために研究費を国から引っ張ったんですから同じです」
「そうだったんですか。じゃあキリがないんでお世話になりますね」
この日に辿り着くために何ヶ月もかけてしまった、不甲斐なさを感じつつ教授と東海道新幹線のホームに向かう。すぐに新幹線はホームに滑り込んでくる。改めて運行ダイヤがとんでもないなと思った。
指定の席に座り、この後の詳しい予定を教授に訊く。
きょうは京都市内のホテルに泊まり、明日、例の人に会うため山崎の山荘へ。
「まずは今夜、前段として私の全てをお話します。ハナダさん湯豆腐はお好きですか?」
「湯豆腐ですか、んー、外で食べたことがないので、イメージしている素っ気ない鍋が教授の言っているものと同じかどうか。あ、でも豆腐は好きですよ」
「そうですか、よかった。ちょっといいところを予約してあるので」
相変わらず孫に接するような優しい笑顔で嬉しそうにしている。
私の全て、と言っていたけれども教授の経歴を聞いて、なるほど!みたいになるのだろうか。そもそも大学教授のなり方を知らないから特殊な道のりを披露されてもそれが特殊だと気付けるのかどうか。
いま熱海駅を通過した。もう静岡県に入ったのか。新幹線はやっぱり早いな。
サクラさんからメッセージが入る。仙台に着いたようだ。新幹線すごい。