結ぶと解く   作:ながずぼん

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第78話 未来と滅亡

 アサガオさんは「今から50年ほど未来の話なんだけどね」と話し始めた。

 

 西暦2050年にアサガオさんはドイツで生まれた。

 その頃の人工知能はすでに人間の処理能力を大幅に凌駕し、あらゆる分野においてAIなくして世界は成り立たない状態だった。量子コンピューターの進化もAIが担っていて、天気予報から金融市場まで幅広く実用化がされている社会だった。

 そのAIが開発したモデルで核融合発電も実用化され、エネルギーを巡る国家間の争いは終結していた。

 アサガオさんが生まれる少し前からそういう社会となっていたそうだ。

 

 人類の全てがその恩恵を享受できていたなら素晴らしいことだったが、実際はそうではなく、そういった技術に投資し運用してきた資産家や巨大企業が恩恵を受けるだけで、世界は支配層と被支配層に完全に分断されていた。

 民主主義や共産主義といったイデオロギーは形骸化し、名ばかりの国家や政治といったものはAIによって管理、最適化され、情報ですら完全にコントロールされていた。

 

 電力がほぼ無尽蔵となったが量子コンピューターや超伝導体に使われるレアメタルの乱獲は枯渇状態になっても留まることを知らず、環境破壊は深刻化していった。

 そこで支配層は「未来の地球のために」と耳障りのいい言葉で糊塗された更なる資源開発を行い、スローガンにそそのかされた者や、学力や所得の低い者たちは火星での資源採掘に狩り出されていた。初めは犯罪者の懲役から始まったそうだ。

 火星は地質活動が少なかったので鉱床が地表に近い位置に存在していたからだ。

 

 アサガオさんが14歳の誕生日を迎えてすぐの頃、火星で超耐熱、超耐放射線性を持つ、新たな鉱物が発見される。それを用いれば新型宇宙船を建造し人類未到達の領域に辿り着き、第二の地球を発見できる可能性が広がる代物だった。

 すぐに火星での採掘作業員を増員すべく、数百万人規模の巨大コロニーの建設が始まる。と同時に地球では新型宇宙船の建造も始まった。

 一年後には新型宇宙船はほぼ完成し、未踏領域での惑星探査チームが組まれることとなった。支配層が移住を目論む第二の地球である惑星が居住可能である確率は50%以下であり、更なるデータの精査に時間がかかっていた。

 

 そんな中、火星の軌道が一秒間だけブレる現象が観測される。

 火星に設置された監視衛星から送られてきた画像は「星の背景が歪んでいるだけ」であり、AIも原因不明と解析結果を吐き出すだけだった。

 物理的な説明ができない現象について科学者たちも「なにかが起きている」とは推測するものの、それがなんなのかわからないでいた。

 その現象は然程の時間をかけずに最悪の事態となって地球の人々が知ることとなる。

 

「ちょっと休憩ね」アサガオさんはそう言って水を一口飲み、ふぅと大きく一息ついた。あまり思い出したくない過去?いや、未来の話のようだった。

 

 「じゃあ続きを」そう言って彼女は話を続ける。

 

 当時、火星を監視するためにたくさんの衛星があり、異常が検出されれば即座に地球で把握できた。にも拘わらず、まるで空間を切り裂いて現れたかのように突如として超高速の隕石が火星のすぐ近くに飛来し、そのまま衝突した。

 採掘のために火星で働いていた人たちに生存者はいないと断言できるほどの衝撃だった。しかし悲劇はそれだけに留まらなかった。

 火星に重力波が発生した。火星は小さなブラックホールと化してしまったのだ。

 

 科学者もAIもホーキング放射で小さな小さなブラックホールは消滅すると考えていたが、予想に反してそれは安定していて周囲の物質を吸い込み始め、自らの質量を増やしてさらに物質を飲み込み成長を続けた。

 ブラックホールは火星の軌道を維持しながら成長を続け、地球の公転軌道が乱れるところまできたところで、いよいよ人類滅亡のカウントダウンが始まった。

 巨大地震や大津波が発生し、世界中にある沿岸部の都市は文字通り消滅した。

 

 世界はパニックに飲み込まれ、法律や経済などは意味を成さなくなった。

 一瞬で世界中が無法地帯となったが、誰にも生き延びる術がないという現実がそれを鎮静化させていった。自暴自棄になり自殺する者やそれを救済とする信仰宗教も興ったが、大半は誰かに寄り添い穏やかな最期を迎えることを望んだ。ちゃんと世界は成熟していたのだった。

 そんな中、人類滅亡に抗う術を探していた科学者たちはAIを駆使して様々な可能性を検討していた。そして一つの結論に達する。

 古い映画に出てきた、出産可能な女性を集めて人工受精卵と共に生存可能な惑星を目指すという方法、人口爆弾というものだった。

 これを全世界に公表し、すぐさまプロジェクトが始動する。もちろん反発する声もあったが、支配層や各宗教団体の長などがプロジェクトを指示するよう呼びかけ、混乱は最小限に抑えられた。そんな中、AIが無作為に抽出した100名の16歳の少女が集められた。アサガオさんもその中の一人に選ばれた。

 

「でも、あれは無作為ではなかったと思う。遺伝的多様性というのかしら、いろんな子がいたのよね。あと、みんな精神的に強かったように思う」

 

 新型宇宙船は恒星間航行が可能とされていて、ナビゲーションAIが目的地に定めたのは最新のデータで生存確率49%の惑星だった。大気と水はありそうだが生命の兆候はない、そんな星だった。よほど絶望的な状況だったのか惑星までの距離は最後まで明かされなかった。負けが濃厚な賭けだったが時間が躊躇を許さない状況だった。

 航行も出産プログラムもAIが行い人間の大人は搭乗しない。コールドスリープ装置も実際の運用は初めてで、地球との通信もいつ途絶えるかわからない状況。それでも選ばれた少女たちは人類の存続という使命を果たすため全員が宇宙船に搭乗した。

 

 出航の日、世界各国から様々な言語で少女たちにメッセージが届く。

 感謝の言葉や、謝罪の言葉、未来を託すと懇願する言葉、最も多かったのが「幸運を祈る」と旅の無事を願う言葉だった。

 

 それはまさに人類が一つになった日だったと、彼女は嬉しそうに言った。

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