第87話 帰郷と日常
山崎の駅から京都駅まで行き、ロッカーで携帯を回収する。
携帯の電源を入れると、ぶっ壊れたかと思うほどSMSメールの着信音が鳴りやまず通行人からじろじろ見られて恥ずかしかった。
SMSメールの夥しい着信履歴はほとんどがクスメギだった。鬼電ってやつだ。
GPSで位置情報がモニターできるようになったからか、すぐに着信があった。
「あんた、なにやってんだよ!いまどこだ?無事か?」
「ああ、すまん。ちょっと事情があって携帯使えなかったんだよ」
「無事なんだな?GPSで探知もできねえから攫われたんじゃねえかって大騒ぎだよ!」
「いま新幹線で京都から名古屋に向かうところ。で、高速バスで地元に帰る」
「呑気すぎんだろ!全く!明日行くから詳しく話聞かせろ。昼間は暇なんだろ?」
「あー、そうだな。あんまり詳しくはあれだけど、そろそろ乗るから切るぞ」
あんまり考えてなかったけれど、すごい面倒くさいことになっている。
クスメギの立場を考えればああなるのは仕方ないとしても、アサガオさんのこと、どこまで話していいのかな。
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新幹線の車内でメッセージを確認すると、パウラさんたちの旅の写真がなかなかのボリュームで届いていた。東北の田舎で3人が浴衣姿のもの、打上げ花火を見上げているパウラさんの横顔、浜で焼き牡蠣を食べてるマリアちゃん、東京に戻って…ここは銀座かな?3人の写真、トランジットだろうかどこかの空港のベンチで寝ているサクラさん。最後はカラスコ空港に到着した時のパウラさんとマリアちゃん、日本の夏を満喫できたみたいでよかった。
あとはメイさんからスタンプがいっぱい届いていたのと、シンちゃんパイセンから「早く戻ってきて…」という悲痛な叫びがあった。
名古屋駅に到着したらバスセンターでチケットを買い、高速バスに乗り込む。
2時間ほどバスに揺られながら、パウラさんとサクラさんに返信をしておいた。
地元の駅前に到着する。歩いて部屋に向かいドアを開けると、しばらく換気をしていなかったせいでムァっとした空気が充満していた。
窓を開けて空気の入れ替えをする。
今日中に帰ってこられたのはよかったが、のんびりしている暇もなく送迎に出なければならない。店のグループを確認すると、いつもの4人を回ればよさそうだった。
着替えを済ませたら窓を閉めて部屋を出て駐車場に向かう。
ひさしぶりに車に乗る。ドアを開けると部屋と同じようにムァっとしている。
全てのウインドウを全開にして送風を全開でダクト内の熱い空気も吐き出させる。
少し待ってから車内に入りウインドウを閉めてエアコンを点ける。涼しい…
まずはメイさんのマンションへ行く。定刻に到着すると「おかえりー」と変わらない感じで助手席に乗り込んで来る。「ねえ、八つ橋は?京都に行ってたんでしょ?」とお土産を催促される。「ごめん、買ってる時間がなかった」と謝ると「そうなんだ。じゃあいいか」と気にしていない様子で助かった。お土産大事、覚えた。
続いてアオイさんの家に向かう。敷地に車を停めて待っていると少しして家から出てくる。「おはようございます」と後部座席に乗り込んでくる彼女は、以前とどこがどう違うのかわからないが貫禄が出た気がする。
すると「アオイちゃんチーママになったんだよ」とメイさんが教えてくれる。「何も変わらないですけどね」とアオイさんは笑っているが、その笑顔も余裕があるというか。
ユキさんとナオさんはふつうだった。「おひさしぶりー」とか「ごぶさたー」みたいな感じ。前は車内でオンナのコ同士の会話は少なかったように思うが、きょうはすごく喋って笑っている。なにかあったのか?それとも新チーママの統率力が発動?
オンナのコを降ろしたら車を駐車場に戻して店に行く。通用口から入り「おはようございます」と声を掛けると、店長やシンちゃんパイセンが挨拶を返してくれる。
バックルームに掃除道具を取りに行くとアヤママがいて「おかえりなさい」と迎えてくれた。なんだかんだで今のおれのホームがこの店なんだなーと思った。
するとママが「ちょっといいかしら」とテーブルの方へ手招きする。
「忙しいのに長いこと休んですみませんでした。そのまま働かせてくれて感謝します」
「いいのよ、そんなことより、その、悪い人に拉致されたんじゃないのよね?」
「え?ああ、クスメギが何か言ってましたか?」
「京都の用事が長引くって連絡くれたじゃない?あの連絡のちょっと前に、ハナちゃんの居場所を知らないかってすごく焦った声で連絡があったのよ。で、どうしたのって訊いたら拉致されたかもしれないって言うから」
そういやGPSで居場所が探知できなくなって大騒ぎだって言ってたな。
「ちょっと携帯が使えない場所にいたもので。クスメギにはもう無事だって連絡しておきました。その件で、明日説教に来るみたいです。同伴の約束は?」
「い、いいえ、約束はしてないわ。クスメギさんからの連絡の後でハナちゃんから連絡があったじゃない?そのとき無事だって言っていたからそれは伝えたんだけど」
「すみません、いろいろとご迷惑をおかけしました。明日クスメギが来たらよく説明しておきますので」
クスメギが騒ぐのは仕方ないとして、アズマ教授がハナザワ室長に一言言っておいてくれればいいのに。どうしてこう秘密主義な奴らばっかりなんだ。
そんなにお互いの口の堅さを信用できないものなのかな。