話はもう終わったと思って立ち上がろうとすると「もう一つお話があるの」とアヤママに呼び止められた。
さっきまでの表情を打って変わってすごくにこにこしている。
「アオイちゃんからもう何か聞いているかしら?」
「アオイさんですか?さっき車でチーママになったって聞きましたけれど」
「ええ、今後のためにチーママになってもらったのね。それでね、11月にアオイちゃんのお店を出すことになったのよ。場所ももう決めてあるの」
アオイさんは指名客も多いし店としては抜けられると痛手になるはずなのにママは嬉しそうにしている。オッサム並みに面倒見の鬼だなアヤママは。
「でね、その新しいお店の内装を、ハナダデザインにお願いしようと思うのね」
「え?」一瞬なんの話をしているのかわからなかった。個人事務所の名前は決めてなかったし、前の世界の会社の名前はそうじゃなかったから。
「だから、アオイちゃんの新しいお店を作ってあげて欲しいの。ちゃんとお金は払うから。もちろんアオイちゃんもハナちゃんにお願いしたいって。だめかしら?」
「だめなわけないじゃないですか、こっちから頭下げてお願いする話ですよ」
「じゃあ決まりね。明日3人でなにか食べに行きましょう。キックオフミーティングっていうのよね、こういうの。ふふふ」
明日16時に現場を見てからご飯を食べる約束をして、コロコロを持ってフロアに出ると、オンナのコが待機している場所にいるアオイさんと目が合った。
ペコリと頭を下げると事情を察したのか微笑みながら軽く頭を下げ返してきた。
営業中は相変わらず盛況な感じで、久しぶりの黒服稼業はとにかく疲れた。
店が終わり、ユイさん、ナオさん、ユキさん、メイさんの順に送り届ける。
メイさんだけになったとき「コンビニで食べる?」と誘われたが午前中の山歩きで疲れていたので「帰って寝たい」と言って断った。
彼女は全然気にしていないようで助かった。
―――――
泥のように眠り起きたら昼前だった。掃除機をかけ洗濯機を回して下の喫茶店へ。
入口に「本日休業」の札が掛かっていた。また店主の具合が悪いのだろうか。
駅前の台湾料理屋で昼飯を食べているとクスメギから着信があり、14時にこちらへ到着するとのことだったので、ホテルのロビーで待ち合わせることにした。
部屋に戻り洗濯物を干しているときに、この濡れた洗濯物の水分だけを解いたらすぐに乾くのかなと思い、だめにしてもいいタオルで試してみた。
結果、親指が入るぐらいの穴が開いてしまった。トランス状態になるぐらい集中すれば水分だけ飛ばせるとは思うが、そこまでやる気になれなかった。疲れるし。
14時、ホテルのロビーでひさしぶりにクスメギに会う。ものすごく不機嫌そうな顔をしている。
まったく小さい男だ。済んだことをいつまでもネチネチと。
「16時に約束があるからそれまでな。時間足りなかったら店がおw…」
いきなり殴られた。グーで。父さんにもぶたれたことないのに!
「あんたさ、大人だろ?追跡されたら困るようなところに行ってたのはわかるけどよ、だったらそう言えよ!電源切るぞって。すぐ済む話じゃねえか!そんな暇もねえのか!それともなにか、おれたちがそんなに信用できねえのか!」
殴られた頬も痛かったが、それよりこいつの信頼を裏切っていた自分の横着さ加減が痛かった。また調子こいてしまっていた。悪いのはおれだから素直に謝ろう。
「おれが悪かった。おまえの言う通りだな。本当にごめn…」
また殴られた。またグーで。なんで?母さんにもぶたれたことないのに!
「なんかムカつくんだよ、謝ってんじゃねえよ!口ごたえしろ!言い訳しろよ!」
は?なに言ってんだこいつ。2発目完全に八つ当たりじゃねえか!
「てめえ謝ってんのに殴るってどういうことだよ!言い訳しろってなんだよ!」
叫びながら殴りかかり、もみくちゃになっているところをホテルの従業員に止められた。羽交い絞めにされてクスメギと離された後、事務所に連れていかれた。
「警察沙汰にはしませんけれど、次もし何かあったら出入り禁止にしますから!」
「「大変ご迷惑をおかけしました」」と深々と頭を下げて謝罪した。
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ホテルを出てお互い罵倒し合いながらおれの部屋まで歩いた。
実際のところ8割おれが悪いと思っていたけれど、余計な2発目がやっぱり許せなかったので、五分五分の過失という線で和解してから部屋に入った。