結ぶと解く   作:ながずぼん

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第89話 和解と現場

 クスメギのトンチキに殴られた頬を氷で冷やしながら、京都のことを話した。

 どこの部分は話さないようにするのか考えるのが面倒だったのでだいたいのことは話したが、空間をどうこうする話は説明が面倒だったので省いて、物質はがんばればバラバラにできると思うと言って誤魔化した。実際使いこなせていないし。

 

「そのアサガオさんて人を追うためにうちの部署が作られたんだけどなあ」

 

「彼女は別に悪いことしてないんだからそっとしておいてやれよ」

 

「おれたちだって彼女をどうこうしようってんじゃねえんだよ。ただ、わからないことが多いからいろいろと教えて欲しいだけなんだよ」

 

「じゃあ、まあ、教授から連絡があったときに聞いてみるよ。期待はするなよ」

 

「ああ、頼む。それが叶ったら今回の件、チャラにしてやるからさ」

 

「はあ?殴ったじゃねえか。もうチャラだろうが。てめえ泡にして消しちまうぞ!」

 

「わかったわかった。殴ったのは悪かったって。だからさ、繋ぎ役を頼むよ、な?」

 

 このボケナスをどうやってとっちめてやろうかと考えているとふと思い出した。

 そういえばこいつ上野で飲んだ後、サクラさんとなにをしていたんだ?

 

「なあ、クスメギよ。おまえサクラさんとなにがあった?」

 

「ああ、それか。俺もよく覚えてないんだよ。あんたたちと別れてバーに行って、そこからの記憶が飛んでいてな。朝起きたら部屋で彼女がおれの上で寝てたんだ」

 

「上で寝てた?え?抱き合ったまま寝てたってこと?」

 

「そうじゃなくて、二人とも仰向けで、俺が下で彼女が上で、で、腹の上で十字になってんの。こう、90度ズレてんの仰向けで」

 

 ぜんぜん意味がわからない。なにがどうなればそうなるんだ。

 

「なんかいい感じの雰囲気にはならなかったのか?彼女かわいいじゃん」

 

「ならねえよ。仕事の愚痴と上司の悪口をさんざん聞かされただけだ。外交官ってストレス多いんだな。あんたの悪口も言ってたぞ。女の髪型に気付けないクズだって」

 

 サクラさんめっちゃ毒吐いてるじゃん… 腹の中にはいろいろあるんだな。

 ママのこと引きずらないようにと思ったけど余計なお世話だったのかも。つうか男女の機微のわからないおれは世話焼きが向いてないのかもしれない。

 

「そうか。まあ、おまえもがんばれよ。また新しい恋が待ってるよ」

 

「はあ?なに呑気なこと言ってんの?あんたが行方不明になって恋だのなんだの言ってられない状態だったんだぞこの一ケ月。毎日毎日チクチク怒られるし」

 

 おれが携帯の電源を切ったことで基地局との接続が切れて所在が全くわからなくなり、外務省、防衛省、総務省から連日管理不行き届きだと責められ続けたらしい。

 アヤママに一ケ月で戻ると話した期日が唯一の望みで、外事室としても京都でアサガオさんと会っているという情報は他に洩らせない話だったらしく、とにかく針の筵だったと愚痴られた。いや、ほんとごめん。

 

 ママたちとの約束の時間が近くなったので、今夜は店に来るかクスメギに訊くと「ちょっと用事がある」と言うので、後でママから誘ってもらえばいいかと思い「そうか」とだけ言っておいた。

 

―――――

 

 アヤママの店からそれほど離れていないビルの2階がアオイさんの店になる予定の現場だった。16時ちょうどに店に着くと中にはもう2人が待っていた。

 「おつかれまです」と挨拶をして、さっそく現状確認をする。

 

 つい最近まで営業していたようで、朽ちたようなところはなかった。

 とはいえ換気されてなかったので少しカビ臭いような。ビルのオーナーはアヤママのお客さんで、通電してもらっていたのでひとまず照明器具や換気扇のスイッチを全部入れる。フロアの換気扇が排気できていない感じだったので、断ってから煙草に火を点ける。案の定ほぼ煙を吸っていない。これ、給気が足りない感じかな。

 後は問題なさそうで、エアコンもフィルター交換して掃除すれば十分そうだった。

 

 厨房とカウンター内の水廻りは中古屋に引き取ってもらったのかシンクからなにから撤去されていた。水道は止まっているので給排水の不具合はわからない。

 トイレはけっこう年季の入った便器なので交換したほうが良さそうだった。

 

 店の広さ的にはどうなのかとアオイさんに客席をどうしたいか尋ねると「カウンター席が3人ぐらいで、4人掛けのボックス席が3つ」とのことだった。

 カウンターはそのまま使えそうだし、ボックス席もでかいソファを選ばなければ3つは作れそうだった。人数でレイアウトが変えられるようにもできそうだ。

 

「で、どんなお店にしたいか、ざっくり言葉にできますか?」

 

「えーと、さあ酔うぞ!って来店して、ちゃんと酔って帰れる店にしたいです」

 

 言葉をそのままノートにメモする。ここまではっきり言ってくれるとやりやすい。

 

「ありがとうございました。また今度、中に入らせてもらって寸法とか測りたいんですけど、それは大丈夫ですかね?」

 

「ええ。オーナーさんに鍵を預かっているから、入りたいときは言って」

 

 何度か入ることになるだろうからアヤママが鍵を持っていてくれて助かる。

 知らない人から鍵を預かるのは緊張するから。

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