とりあえず現場の下見は終わり、アヤママの予約した寿司屋にタクシーで向かう。
座敷に入ると座卓の上に3人分の口取りがすでに用意されていた。
おれの目の前にアヤママとアオイさんが座る。二人に同時に見られると照れる。
飲み物を注文して揃ったところで乾杯をする。
「新しいアオイちゃんのお店が素敵なお店になりますように」
よくあるふつうの一言をママが口にした。だけど聞こえ方が違った。改めてその責任を負ったのだなと身が引き締まる思いだった。いい店にしよう。アオイさんもお客さんも働くオンナのコたちも気に入るような素敵な店に。
「アオイさんはお店に入って長いんですか?」と尋ねると「今年で6年目ですね」とのこと。この業界で同じ店に6年勤めるって長いほうなんじゃないだろうか。
「わたしがチーママになった頃に入って来たのよね。かわいい子が来たなって覚えているわ」ママはそう言うと「アヤママには入った頃からすごくお世話になりました」と返す。おれの性根が曲がっているからか美辞麗句に聞こえてしまう。
お椀や小鉢と一緒にでかい船盛りが運ばれてきた。伊勢海老とかあるし。
京都の湯豆腐屋も豪華だったけれど、きょうはきょうで豪勢だ。前の世界ではこんな感じの食事なんか年に一度あるかないかだった。こっちでは贅沢してるなあ。
「ハナちゃんはこれから頑張ってもらわなきゃだから、たくさん食べてね」
「はい。ありがとうございます。3分の1は遠慮なく頂きます」
そう言って、刺身の枚数をさっと数えつつ自分の分をもぐもぐ食べる。
ママとアオイさんはごにょごにょなにかを話しているが頭に入ってこない。人の名前がいっぱい出てきているからお客さんの話をしてるのだろう。
ひとまずノルマというか自分の分は食べてしまったので小鉢を突いたりしていると会話が途切れたので、ここはなにか話題を提供しないといけいないのかなと思う。
「アオイさんが好きなものってなんですか?ジャンルも期間も問わないとしたら?」
もちろん店の内装に反映させるための質問だ。結局ここに収束するからだ。
「私、女の子が好きなんです」
「「え?」」まさかの同性愛者?それでよくおじさん相手に仕事してるものだ。ママもびっくりしてアオイさんの顔を凝視している。
「あっ、違うんです。女の子が楽しそうにしているのが好きなんです。アイドルとかTGCとか。K-POPのコたちもかわいいなーって」
「ああ、そういうことですか。まさか新しいお店はショーがある感じですか?」
「あの広さでステージ作れないですよね。ステージのプロデュースは楽しそうですけど、今はなにも考えていません」
「この辺りでステージのあるお店はないし、広くても客席にしちゃってるわねえ」
あの広さでステージを所望されたら無理って返事をするしかなかったので、最初から諦めてくれていて助かった。でも、ソファの組み合わせで通路をどうにか広く取れればワンチャンないかな…
「ちなみに今のお店ではイベントデーみたいなものあるんですか?」
「クリスマスのときにドレスの上からサンタのコート着たりするけど、特に考えたこともなかったわね。でも面白そうだからやってみようかしら。ハナちゃんはどんな格好にぐっとくるのかしら?セーラー服とかナースとか?」
「あはは、それじゃ風俗店じゃないですか。おれの好みは一般受けしないと思うんで聞いても参考になりませんよ」
「いいじゃない、やるかやらないかは別として、ね、教えてよ」
「ぜったい引くから言いたくないです」と断るも興が乗ったママが引き下がらないのでアオイさんに助けを求めると「吐いて楽になりましょう」と笑顔で言う。
「この場がどんな空気になっても知りませんからね」と前置きして、
「喪服です。洋装の」
「… … … 喪服?」
ほらね!やっぱりね!微妙な空気になったじゃないか!だから言ったのに。
「えーと、ハナちゃんのお誕生日にはみんな喪服で出勤ってことにしようかしら」
「それ縁起悪すぎでしょう。誕生日じゃなくて命日じゃないですか」
おれの性癖はさておいて新しいお店の話に戻さないと。
「ちなみに、アオイさんのお客さんって年齢層どのくらいの方なんですか?」
「うーん、やっぱり年上の方が多くて、30代半ばから70歳ぐらいですかね」
「そうね。若い子はあまり飲まないから、どうしても上の方が多くなるわよね」
「今度のお店もそこらへんの年齢層を狙っていく感じですか?」
「そうですね。いま付いてもらっているお客さんを呼んでスタートになると思うので、若い人向けよりはおじさん受けがいい方がいいのかなあ」
おっさん好みとアイドル感、二律背反まではいかないけど合わせられるのか?