アオイさんから新しいお店の構想をだいたい聞けたけれど、なかなかの宿題になってしまった感じがする。働くオンナのコたちが主役気分になれて、なおかつおじさん達が酔うぞ!って酔える店。
なんか居酒屋の店員が魔法少女ぐらいのミスマッチな気が…
「アヤママ、お店のオンナのコたちのモチベーションてどうやって上げてるんですか?」
「お金よ。身も蓋もないけれど彼女たちは稼ぎに来ているのだから、お金よね」
「そうですねー。お金にならなければおじさんたちの相手なんかしてないですね」
働く環境だとか客が喜ぶからなんてものは二の次だった。シビアな世界だな。
ということはオンナのコたちの気分は後回しで、客が気持ちよく酔ってお金を落とすための店作りを目指せってことなのか。だけど引っ掛かるなあ…
「さっき『女の子が楽しそうにしてるところ』って言ってたじゃないですか、あれってどんな感じなんですか?」
「私の好きな女の子は、優しくて、清潔で、品があって、芯があって…」
「恥じらいがある?」
「えっ、どうして?ハナさんどこでそれを知ったんですか?」
「かわいいの法則じゃないですか。知ってる人は知ってるんじゃないですかね」
目の前でアオイさんは乙女な顔ですごく嬉しそうにしている。よかった。
なんだ、かわいい店を作ればいいのか。それなら心得がある。
「なになに、二人だけで納得しちゃって、私ぜんぜんわからないじゃない」
ママに『かわいいの法則』についてレクチャーした。『かわいい』の構成要素と、それを建物に当てはめたときにどの要素に対応するのかを。そもそもこれは前の世界でおれが仕事としてずっとやってきたことなので、説明もスラスラだった。
「ハナちゃんはどうして仕事として『かわいい』を目指そうとしたの?」
「争わないからですよ。『かわいい』の他に『かわいい』があっても比べなくないですか?どっちも『かわいい』で終了ですよ」
ママはいまいち納得していないようだったが、アオイさんは賛同してくれている。
喪服フェチのスケベ野郎だと思われたときは信用ゲージが赤点滅していたけれど、いまは黄色満タンぐらいまで回復しているぐらいどうにかリカバリーできたと思う。
送迎に向かう時間になったのでママに先に帰ると言うと引き止められた。
「送迎はお願いしてあるから、お店が始まるまでゆっくり食べていって」
「そうなんですか?新しいドライバーさんが見つかったんですか?」
「ううん。そうじゃないけど。きょうはハナちゃんのおかえりの会でもあるから」
え、なにそれ、そんなに優しくされたらクスメギと三角関係になってしまう…
―――――
19時半近くまでのんびりとお喋りしながら食事をご馳走になり、着替えるために二人を店に残してタクシーで部屋に戻った。歩けなくもなかったが汗をかいてシャワーを浴びる時間がなかったから致し方ない。タクシーって便利だ。
着替えて歩きで店に入るとクスメギがいた。え?なんで?
「美女二人との飯は楽しんだか?」とにやにやして訊いてきたので「そりゃまあ」と答えてから「つかなんでおまえがここにいるの?」と尋ねると「お客様だけど?」とふんぞり返っている。まだ店開いてないし。なんだこいつ。
すぐにママとアオイさんが出勤してきた。ママはクスメギに「ごめんなさいね甘えちゃって」と謝ると「俺が言い出したことだから気にしないで」と笑っている。
もしかして今日の送迎って、ママたちと飯を食う時間を作るためにクスメギが?
「きょうの送迎ってこいつが?」とママに尋ねる。
「そうよ。きょうはアオイちゃんと3人で食事するって言ったら、じゃあ送迎があるとゆっくりできないから代わるって。でもそれは内緒だって」
クスメギを見ると、やれやれみたいな顔をして笑っている。
我慢の限界だった。もうなんかいろいろと全部溢れてしまった。
「お、おい、泣くことねえだろ。ちょっと送迎代わってやっただけだろ?」
前の世界でもいろんな人に世話になって、その恩を返せたかどうかもわからないまま生きてきた。こっちの世界では貰ってばっかりだ。おれに優しくしてくれる人たちに何かを返せているとは思えない。むしろ迷惑をかけていることの方が多いのに。なのにみんなバカみたいに優しくて、それが嬉しくて申し訳なくて不甲斐なくて。
立ったままぼろぼろと涙を流していると、アヤママが背中を押してバックルームに連れて行ってくれた。それでもまだ涙は止まらない。
「みんながハナちゃんのこと好きなのは、そういうところなのよ。ちゃんと気持ちを受け取ってくれてるから、みんなハナちゃんに良くしたくなるのよ。私もそう」
そう言い残してママはフロアへ出て行った。