娘さんとお店を譲り受ける金額の話をした。設備や什器の価値を勘案して200万円で買うことになった。夜の店で働いている分は生活費に消えるから、最初に研究協力費として貰った600万円が車代や部屋の保証金なんかで減った分からさらに減った。
これはどうにか稼ぎを増やさないとどんどん目減りしそうな気配がある。
店主さんの癌が転移したことを知ってから、ずっと気持ちは沈んだままだ。
店に行っても「元気ないね」とか言われる始末。これはよくないことだ。
12月に入りすっかり寒くなった頃、久しぶりにクスメギから連絡が来た。
アオイさんのお店がオープンした時に顔を出して以来だから1ケ月ぶりか。
「アズマ教授からまだ連絡はないのか」とのことだった。アサガオさんと繋ぐ約束をしていたのをすっかり忘れていた。店主さんの癌を治したくて連絡したことは黙っておこう。それで「まだないな」と返事した。
「ハナザワ室長がかなりじれてるんだよ。あんたの方から連絡してくれないか?」
「わかった。連絡してみるよ。でも繋がらなかったら勘弁してくれ」
「ああ、頼む。それからアメリカ行きがそろそろになりそうだぞ。室長がそう言ってた。その件でアズマ教授から連絡入ると思うんだけどな」
「そうなのか。じゃあ連絡しやすくなった。また掛ける」
エルリカ捜索とアメリカ行きが連動しているようなこと教授が言ってたな。
エルリカはどうでもいいわけじゃないけれど、アメリカ行きはいつになるとか滞在期間とか、こっちでの生活に絡んでくるから確認しておかないといけない。
教授の携帯に連絡をしてみる。
「ああ、ハナダさん、ちょうど連絡をしようと思っていたところでした」
「それってアメリカ行きの件ですか?」
「ええ。エルリカさんの捜索は難航したままですが、アメリカでの検査がもうこれ以上先延ばしにできそうにないので、それのお願いです」
「それは約束したことですから行きますよ。で、いつですか?」
「クリスマスにこちらを発って、向こうで一ケ月程度の滞在の予定です」
「クリスマス?もうすぐじゃないですか。期間は了解しました」
アメリカ行きの話を切り上げてクスメギのお願いの話をする。アサガオさんとハナザワ室長の面談の話。頼みこまれているのだがどうでしょうかと尋ねる。
教授は想定していたようで、渡米前に外事室でおれも交えて面談できるよう考えているとのことだった。それを伝えてしまってもいいか尋ねると、直接ハナザワ室長に連絡をするというので、その旨をクスメギに伝えることにした。
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夜、店に行ったときにアヤママにアメリカ行きの件を伝える。
「また一ケ月もいなくなっちゃうのね。年末の忙しい時期だし乗り切れるかしら」
「すみません。ずっと前からの契約で。もしあれだったら代わりを探しますか?」
「ふふふ。ハナちゃん知り合い少ないじゃない。気持ちだけで十分よ」
「いつも迷惑ばっかりかけてすみません」
心当たりのあるおれの代わりの黒服兼ドライバーは一人しかいない。
――――
翌日、おれの代わりを頼めるやつに連絡をする。
「連絡ついたのか?会ってくれそうか?」
「ああ、アメリカ行きの連絡が来たぞ。クリスマスの渡米前にそっちで面談するように考えているみたいだ。詳しい話はハナザワ室長に教授から直接連絡が入る」
「そうか。ありがとうな。助かったよ」
「ああ。そのお礼に頼みたいことがあるんだけどさ、おれがいない間、黒服兼ドライバーとしてママの店で働いてくれないか?」
「はあ?そんなのできるわけねえだろ。公務員なんだぞ?副業禁止だよ」
「そこをなんとか頼むよ。年末年始で忙しいところ抜けるわけだし。それにアメリカ行きはおまえのところの差し金だろ?」
「差し金って。つうか素人が黒服なんか勤まるわけねえだろ。送迎はともかく」
「あれ?おまえちょっとやる気になってねえか?毎日ママと一緒にいられるし」
「ば、ばか、そんなんじゃねえよ。だけどそっちに滞在する理由もねえだろ?」
「煮え切らねえ野郎だな。もういいよ、ハナザワ室長におれが頼むから。クスメギをおれがいない間こっちに派遣してくれって」
「あー、それならワンチャンあるかもな」
「おまえやる気まんまんじゃねえか。なにが滞在理由がねえだよ」
どうやら助っ人は確保できそうでよかった。