ガラル地方のむしジムリーダーなんだけど余命一年でわろえない 作:一般むしポケ好き
騒がしいスタジアムから響く熱狂とBGM、派手なスポットライトに演出。
全部煩わしい。
煩い。
見てるだけでイライラしてくる、でも我慢するしかない。
ここで目立てば、きっとみてもらえるから。
「邪魔です、そこどいてください」
「え、ん?あ、ああ、ごめんね…きみはたしか…そう、モナルくん!初めましてだね!」
「初めまして、それでは」
「え?…う、うん…」
スタジアムはこんなに馬鹿みたいに広い癖に、待合室が全員同じ場所だというのは何故なんだろうか。
きっと馬鹿なんだろうな、こんな馬鹿みたいに金儲けしか考えてないような場所なんだし。
今話しかけてきたのは、ほのおタイプ使いのカブ、今回の戦いの中でもトップレベルの警戒対象だ。
ランタナも負けるなら大体カブかポプラのふたりだった、だからその分対策はしてきたけれど、こんな呑気に話しかけてくるなんて、本当にくだらない。
カブがどいてようやく自分のロッカーに辿り着けたのでしまって置いたタオルをひったくり、また待合室の隅に行く。
「……ちょっとあなたねえ、いくらなんでも態度ってものが…!」
「ああ、ルリナくんいいよ、ぼくが邪魔してたのは本当だからね……仲良くはしたいのだけれど」
「……カブさんがそういうなら、でもあなたも少しは!」
「…………仲良しごっこなんかして、楽しいですか?バトルしに来てるので、私。話しかけないでください」
ルリナ、みずタイプに強く出れるポケモンが少ないむしタイプでは苦戦を強いられる可能性が高い。
ただクヌとシズの二人で受けながら戦えば勝機は必ずある。
……違う、勝機じゃない、勝たなきゃ行けない。
勝たなきゃダメなんだ私は。
ランタナの跡を継いだ、クレータウンのジムリーダーとして私はここに居る。
私は勝たなきゃいけない、絶対に。
顔を赤くして今にも手が出そうなルリナを…あれは、ヤローだったか、ガタイのいい男がそれを止めて宥めているが馬鹿らしい。
どいつもこいつも、仲良さげに話していて益々苛立ちが募る。
本気じゃないの?チャンピオンになりに来てるんじゃないの?周りは全員敵じゃないの?
チラと周りを伺ってみれば興味なさげにしている人も居れば、私を見て口笛を吹くような真似をしているやつもいる。
それを見て、また腹が立ってくる。
誰も彼も私のことをバカにしやがって、むしタイプだからってバカにしてるんだ、すこし蹴れば言うこと聞くような小さいヤツとでも思ってるんだ。
「へー?新人って言うからどんなもんかと思ってたけど跳ねっ返りの強そうなヤツだな」
「彼女もきみにだけは言われたくないと思いますよ、あの年頃の女の子なんて皆あんなもんでしょう」
「オレさまは素直だろ、というか妹もあんな感じなのか?」
「………………ノーコメント」
余裕そうにしやがって、後で全員吠え面かかせてやる。
===
ランタナからジムリーダーの座を譲られたのは、つい2ヶ月ほど前のこと。
それまでもジムトレーナーとして戦ってきていたけれど、本当に突然の事だった。
「お前はもう私より強いよ、モナル。だからアタシも安心して引退できるし、この街を任せられる……大丈夫だって!こんなの今までどーりやっとけばなんとかなるって!セリも居るし!」
とか、言って、あいつは旅に出てしまった。
引き止めたかったし、ずっと一緒に居ると思ってたのに、いきなり居なくなっちゃった。
だけど私は笑って見送った、だって今まで迷惑かけてきたのに、こんな所でまた迷惑かけたくなかったから。
ずっと旅するのが夢だったって言ってたから、その邪魔をしたくなかった。
寂しくて、毎晩泣いてたけどクヌ達が居るから悲しくない。すぐに慣れるよ。
それに大丈夫、私は強いんだ。
ランタナは私の事を強いって言ってくれたから、私はそれに応えなきゃいけない。
街のみんなも、こんなよそ者の私を応援してくれてる。
ランタナは任せるって言ったんだ。
だったら、私は
『おおーっと!凄いぞ!期待の新星クレータウンのモナル!この余りにも不利な対面を!あの炎の男を!打ち破ったああああ!』
「不利な相性の中でこのカブに勝つとは…ぼくの長年の経験をきみの才能が上回ったな!今日は戦えて良かったよ!」
「そうですか、私は次の試合があるので」
「そうかい?……でも少しだけいいかな」
「はぁ……なんですか?」
「うーんとね…もう少しだけ、肩の力を抜いてみるのはどうかな?」
「は?」
「きみの戦い方は……見ていて辛いよ、まるで昔のぼくを見てるみたいだ」
「そうですか、どうでもいいです……貴方と違って私はチャンピオンになるので」
「……はっはっは!そうだね…ならぼくに言えることはひとつだけ!健闘を祈る!」
なんで、そんな風に負けた癖に笑えるんだ。
皆が期待してる、皆が応援してる、炎の男カブを見ているのに、なんで笑える?
なんで勝者を見て笑える?
『2回戦!!新進気鋭のルリナを見事!新星が打ち砕いたあああ!』
「……悔しいけれど、完敗よ。見事なバトルだったわ」
「そうですか」
「……っ!……いえ、敗者が言える事じゃ無いわね…」
「…………」
「でも!ひとつだけ先輩トレーナーとして言っておくわよ!」
「どうでもいいです、もう話しかけ──」
「少しは!嬉しそうにしたら!……それだけよ!」
「………………」
嬉しそうにしたら?
通過点を通っただけで?
私はチャンピオンにならなきゃいけないのにその程度で?
……そんな時間は無駄。全部無駄。
たった1回勝ったくらいで喜んでたら、また馬鹿にされる。
たまたまだとか、偶然だとか、どうせみんな言ってくる。
だから、無駄。
一番にならなきゃ証明できない、チャンピオンにならないとみんな認めてくれない。
『っ……!この大きな壁すらも超えて見せたモナル選手!!あのキバナ選手と激闘の末!チャンピオンへの挑戦権を手に入れたああああっ!』
「ぐがああああっ……!…………強いとは思ってたが……まさか負けるとはな、こんなオレさまも記念撮影だ」
「チッ……」
「ん?なんだあ?舌打ちとはゴキゲン斜めじゃねーか、このオレさまに勝ったんだから喜べよな」
「うるさい、お前みたいなドラゴン使いが1番嫌いなんだよ……!」
「ああん!?…オマエ、そんなんじゃ大人になってから苦労すんぜ」
「うるさい、うるさいうるさいうるさい!」
「……なんなんだよ、ちぇ一緒に記念撮影したかったのにな」
ずっと、耳鳴りがして、頭が痛い。なんだかお腹もちょっと変な感じがする。
セリさんに言ったら、きっとはちみつの入った甘いモーモーミルクとかくれるだろうな。
ランタナなら寝ときゃ治るだろ!とか言って、一緒に寝てくれるかな。
……違う、こんなこと考えてる場合じゃない。次が最後なんだから。やっと終わるんだから。
控え室で座り込んでいると、集中できていないのが自分でもわかる。
相手はあのチャンピオンダンデ、10年間無敗を誇るトレーナーだ、こんなコンディションで挑んだら負けるかもしれない。
集中しろ、集中、集中するんだ。
集中──
「お!居た居た!キミがモナルくんだな!初めまして、チャンピオンダンデだ!」
「……………………ぃ」
「さっきの試合!見事だったぜ!まさかキバナを倒してここまで来るとは、正直思ってなかった…こんな強いトレーナーと戦えるなんてオレは凄く嬉しく思っている」
「…………さい」
「全身全霊!決勝も楽しもう!熱いバトルを──」
「うるさい!!どいつもこいつも!!みんな!!!黙ってて!!!喋りかけないで!!!ほっといてよ!!!」
「…………す、すまない…な、何か気を悪くさせたかな?って、うおっ!?ど、何処に行くんだ!?」
チャンピオンも、観客も、全部が煩わしい。
音が聞こえる度、地面に振動が伝わる度に耳鳴りが酷くなっていく。
逃げた先で耳を塞いで目を瞑って蹲っても音が消えてくれない。
別のことを考えて誤魔化そうとしても、頭が痛くて思考が乱れていく。
なんにも分からないのに何故か視界がボヤけ、口からは呻き声が出てしまう。
私はみんなの期待に応えたいからここにいるのに。
私はバカにしてきたやつを見返したいからここにいるのに。
「…………クヌ、クヌ……クヌは私を見捨てないよね……?ずっと居てくれるよね……?大丈夫だよね?……勝てるよね?私達なら……勝てるんだよね……?」
虫の様に蹲る私はひとりブツブツと薄暗い廊下でボールに向かって呟くことしかできないのだった。
「………………」
「やあ……その、さっきは大丈夫だったかな?」
「………………」
「あー……うん、成程……先に一つ言っておくぜ!オレはこの場に立った時はチャンピオンとして本気で相手すると決めている!」
「………………」
「だから……うぅん……これ以上!言葉は不要ということだな!さあ!レッツチャンピオンタイム!!」
あれ、私なんでここに立ってるんだろ。
あれ?もう、試合始まってるの?
…………っ!くそ!無能!能無し!ゴミ!だから私はダメなんだ……!
集中しろって言ったのに…!なんでこんなこともできないんだよ!
「ドラパルト!かえんほうしゃ!」
「っあ、ぺ、ペンぺン!戻って!」
対策が、全部砕かれていく。
「ドサイドン!ヒートスタンプ!」
「シズ!避け……くそっ!」
いつもの戦い方が、通じない
「……リザードン!キョダイゴクエン!」
「あっ、あ、ぅ……クヌ…………」
目の前に迫り来る炎の壁に私は、何も出来ず立ち竦むだけだった。
熱と、その火を真正面から受け、ダイマックスが解け小さく沈んでいくクヌを前に、私はなんの指示も出来なかった。
歓声が、遠く聞こえる。
目の前が、段々と薄暗く明瞭に捉えられなくなってくる。
自分が今立っているのか、座っているのかも分からないまま呆然としてしまう。
多分、ダンデが何か話している。
誰にだろう、私にかな。観客にかな。
何も分からない。
この醜態を皆が見ていた。見られていた。見られちゃったんだ。
何も考えたくない。
いつの間にか、控え室に居る。どうやって帰ったんだっけ。
ロトが、何か言ってる気がする。よく聞こえない。
何すればいいんだっけ。
…………ああ、そういえば、クヌが煤まみれだ。洗ってあげないと。
「…………フォレ…」
「…………………………」
私、負けたんだ。
あんなに期待されてたのに、頑張ってって言われてたのに。応援されてたのに。
こんな、あっさりと。
ピシ、と何か胸の内で壊れちゃいけないものにヒビが入る音がした気がした。
「フォレ…」
「………………ん」
次がある、と慰める様にクヌは言ってくる。
そうかな、そうなのかな、こんな醜態晒したようなやつに次なんてあるのかな。
でもそっか、そうだ、私はまだジムリーダーなんだからまた戦える。
今回は負けた、それは仕方がない、事実なんだから受け止めるしかない。
だから次こそ、次こそは勝とう。
次こそは皆の期待に──
「いやー……やっぱダンデが勝ったなあ」
「そりゃな、期待の新星とか何とか言ってても、無敵のダンデ相手じゃ分が悪いだろ」
「むしタイプなら頑張ってた方だよなあ」
「なあ、充分やってると思うぜ……ま、ダンデには勝てないだろうけどなあ」
「そうだなー」
きた、いに…………
廊下の方から聞こえてくる会話に、その気持ちすらペキンと折れてしまう。
私、期待されてないじゃん。負けるって思われてんじゃん。
「頑張った方」って何?むしタイプにしてはって何?
私負けたんだよ?なのに、頑張ってたって、なんで。
勝てないだろうけどなって。
「ははっ……あは、はは…………はは……なにそれ…………」
クヌを拭くタオルにポタポタと涙が零れていく。
零れていくのに、何故か笑いが止まらない。
負けたし、期待されてないし、なんの意味もなかったんだ。
私はやっぱり、無能で、ゴミで、結局何も変われてないんだ。
ランタナの言葉も裏切るようなカスだったんだ。
「……アハ、ごめん、ハハ、ごめんね、ごめんクヌ、わたし、もうだめだ、むりだ、アハハァ……むりだったんだぁ…………」
「フォ、フォレ!?フォ!!?」
「ああああぁあああああぁ〜〜〜!!アハハ!はは!ふぐっ、アハ、おぇ……ふ、フフ…………むり…………もう…………」
拭いても拭いても、何故かクヌから汚れが取れなくて、結局セリさんが迎えに来るまでそこに居た。
街に帰るとセリさんも、皆も、頑張ったねって言ってくれる。
負けたやつに、そんな事を言ってくる。
じゃあ、もういいかな。
なんだか、疲れたし、大会に出たら、皆頑張ったねって言ってくれる。
そうだよね、ジムリーダーってすごいことだもんね。
チャンピオンなんか、目指さなくてもいいよね。
うん、そうだよ、私頑張ったよ、バカにしてきたやつもこれくらい頑張ったって言ったら認めてくれるよ。
私が旅に出た目標はもう達成できたんだ。
そうだよね?クヌ
*補足1
Q.この後どうやってルリナさん達と仲良くなったのさ
A.ルリナさんはなんやあのクソガキャ!と思っていましたが廊下でブツブツ言ってるモナルを見つけ控え室まで連れて行ってくれました。
その時、なんの反応もしないモナルを見てあっなんかこの子ちょっとメンタルヤバいかも、と思いそれから話しかけるようにしていたのですが、当の本人はもうやる気の欠片も無くなっていたという感じでした。可哀想……
カブさんはルリナさんから相談を受けて、なら励まさなきゃね!と接するように。まあそいつもうやる気ないんだけど。
*補足2
Q.皆の呼び方なんかおかしくない?
A.この後、モナルは「あの態度ヤバすぎだよな〜」と反省しセリさんに相談したところ
「目上の人はさん付けでよんだらどうかしら〜?」
と言われ成程と思うものの、元々口が悪いので慣れず苦労する事に。
そのため咄嗟に出るようにみんなの事もさん付けで呼ぶねと言い始め〇〇さん呼びに。
ちなみにクヌだけはさん付けするとキレるのでしてない。
補足3
Q.どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!
A.おくびょうS全振りのモナルは、ランタナやセリさんの前では基本いい子でいようと努めていて、2人もいて本人に余裕のあった頃は実際それで上手くいっていました。
ただ、なら大丈夫かな?と思われジムリーダーに就任させる事で成長させようとしたのが裏目ったのと、ランタナが想定しているモナルからの好感度を読み違えこんなことになりました。