ガラル地方のむしジムリーダーなんだけど余命一年でわろえない 作:一般むしポケ好き
ボールから出てきたのは小さく儚いアブリー。
この広い広いバトルスタジアムにもし紛れ込んでいても気づかれないほどの小さな存在だ。
実際、アブリーというポケモンは正直そんなに強いと言われるポケモンでは無い。
草むらにいけば割といるし、花集めしてる子とかに近寄ったり、うちの街ではバタフリーとケンカして負けて泣かされてる姿もよく見る。
街でも初心者向けむしポケモンとしてよく見るくらいだし。
……私はリーさんと、出会ったと同時に寝てしまった。
ゲットした経緯も半分事故のようなものだったから、最近は頑張ってお喋りをするもメラさんの方が仲良いし、私の事ちょっと避けてるし、指示もまだ完璧に覚えてる訳じゃない。
でもね、私はクレータウンジムリーダー、むし使いのモナル!
活躍できないむしポケモンなんて居ないって、小さいやつでも弱っちいやつでも戦えるって教えてやらなきゃいけない。
それに、リーさんにたった1年だけでも最高のトレーナーに会えたって思って欲しいしね!
「……これは…見えない…」
「ねえ、知ってます?アブリーって、実はとあるポケモンにとっては天敵だったりするんですよ?」
「なんじゃ…?」
リーさんはまだ進化前で火力も無ければ防御力もない。
うちのパーティーは全体的にダメージを受けるの前提な防御型のポケモンが多いこともあって、その戦い方には合わないとすぐに分かった。
でも、うちのパーティーと最高に相性がいい部分もある。
この、風の吹き荒れる視界不良の中でもいつも通り見えるそのアブリーにだけ許された特殊な視界だ。
「リーさん、安心してね。技を出すタイミングは私が指示するから、頑張ろ」
「……リ!」
アブリー達は花やポケモン、人間から出るオーラのようなものが見えるらしい。
そのオーラは生き物が動こうとするとそれを予知するように動くらしく、森でもよくそれを見て逃げるアブリー達の姿を見ていた。
そして、噂によるとアブリーは……ヒメンカの花粉を狙う為に近くを飛び回ることがあるらしいじゃないですか。
プンプンと飛び回り風に流され浮いたリーさんは既にヤローさんからは見えないだろう。
まあ残念ながら私にも見えてないんだけどね。片目じゃ尚更無理。
だから私が最初に教えこんだのは動きと番号…ペンさんとの移動訓練!
「1番!」
「あまごいを利用してやろうと思ったんじゃが…流石だなぁモナルさん!ワタシラガ!リーフストーム!」
「リーさん!訓練通りに!」
リーさんは同族の中でも特にオーラを認知する能力が高い。
相手が動こうとする中でもそれを先読みし直ぐに逃げていく程で、最近は私が訓練させようとした途端逃げるくらいだ。このやろう。
訓練を続け触れ合っている中で理解したのはメラさんがひのこを出そうとした時に射線からしっかり逃げられているということ。
リーさんは特殊技でも放たれる前に避ける事ができるってことだ。
「当たりませんよ!リーさんむしのていこう!」
「くっ…じゃが!弱点は見抜いたんだな!ワタシラガ!リーフストームを撒き散らすんじゃあっ!」
「ちっ…」
即座にリーさんの耐久の無さを見抜いたヤローさんは敢えて狙うのではなく撒き散らすように葉を巻き込んだ竜巻を起こしてくる。
それは暴風と合わさり広範囲に広がりフィールド全体を覆い尽くす。
散らされ通常より広範囲に広がるその技は他のメンバーなら簡単に耐えられるだろうが、リーさんにとってはカスるだけでも大ダメージだとわかる。
教えたような規則性のある動きは逆に危ないと考え即座に逃げに徹した自由行動を命じる。
しかし、そうなればリーさんの経験の浅さが出てしまうのは自明だった。
「動きが読める!そこだ!グラスミキサーッ!」
「まあこうなりますよね」
「なんだ!?」
だから当然対策も用意してる。
リーさんに自由行動を命じた時に1つ技を使う事をお願いしておいた。
たった一度だけ技を掻い潜りさえすればどうにかなると信じていたからこそ、この奇襲が刺さる。
「これは……みがわり!」
「むしのさざめき!!」
「なっ……しまった!」
「リイイイイイッ!!」
リーさんはみがわりを盾にヴィィィンと虫の羽音の様な、鈴のような私にとっては聞き慣れた音をその小さい身体から放つ。
たかが進化前、たかがむしポケモン。
数いるポケモンの中でも最小クラスであるアブリーが今、ヤローさんのエースのひとりであるワタシラガを仕留めたのだ。
「ふふん、お見事リーさん。ジャイアントキリング達成!」
「っ…どこからどこまでが罠だったのか…わからんなあ!」
警戒したヤローさん相手にただのギャンブルはやらない。
私は臆病者で卑怯者なのだ、罠くらい幾らでも仕掛ける。
今回仕掛けた罠は3つ。
ひとつは初手で使った「むしのていこう」、これはむしのさざめきと比べて威力も低く射程も短い。
ただ、進化前のむしポケモンが大半覚えている技で使っても違和感のない技だ。
だからこれを見せることでヤローさんに
「ワタシラガを直ぐに仕留めるにはまだ火力が足りていない」
と思わせた。
ふたつめはシズさんのダイビングとたきのぼり。
貴重な技の枠をつかってまで態々覚えさせたのは空中への対策というのもあるけれど……1番は、それ以外に空中に対する対処法がないと思わせることだ。
エースのひとりであるシズさんの技を割く、だからこそ、空中戦への対処を一手遅らせることができた。
最後にみがわり。これは言わずもがな耐久が低いからこそ簡単に倒せると思わせられた隙を突いた技だ。
ふっふっふ……かんっぺき!
リーさんを活かして戦おうと思った時に考えていた戦法が綺麗にハマった事にニヤけてしまう。
私は思考トレースが一番の得意技だけどこういう策略も大好きだ。特にジャイアントキリングした時は尚更ね!
ニヤけすぎていたのでヤバと思いつつ前を見ると、ヤローさんもどこか懐かしいものを見る目で笑っているではないか。
も、もしかして私前もこんな顔してた?
「……ああ、思い出すなぁ…そうだ、そうだったなあ。きみはいつも嫌そうに試合に出るのに……作戦が上手くいったらそういう顔をしてたんだなあ」
「う、や、まあ……ちょっとくらいいいじゃないですか!」
「ワハハ!勿論いい事じゃ!さあさあ!まだ試合はここから!」
「なんの!まだまだいくよ!リーさん!」
「リーーっ!」
嵐の中、透明な岩が浮いて、そこに綿まみれの蜘蛛の巣が張り巡らされたとんでもないフィールド。
その中にヤローさんは敢えて真ん中に向けてボールを放った。
自信満々に飛び回るリーさんの足元に相変わらず謎にキレのある投げから飛び出して来たのは──
──アマージョだった。
うん、アマージョか。アマージョね。
………………誰!?知らない子なんだけど!
「あっれえ!?てっきりルンパッパかと思ってたんですけどね!?」
「きみは知らんじゃろう!ぼくの新メンバーだ!さあアマージョ!」
「っ!リーさん逃げ回っ───」
「あまいかおり!」
「あ゛っ!?」
フィールドにふわりと甘い匂いが漂い始め、思わず歯噛みする。
鼻をくすぐる香しい花の様な、果物のような良い香り。
「リーさん!むしのさざ……」
「今じゃ!トロピカルキック!」
「シャナララ!」
「リ゛ーーッ!」
花の蜜を集めるのが好きなリーさんにそれに釣られるなというのは酷だったか。
バチンッ!という音と共にフラフラと近寄ってしまったリーさんに向かって容赦の無い上段蹴りが突き刺さる。
耐久の"た"の字もないリーさんは当然受けきれるはずもなく吹き飛び、そのままボールへと戻っていく……
……くっそ、やられた。
先程の意趣返しだろうか、ニヤリと和やかな顔に似合わぬ笑みを浮かべたヤローさんと、女王然としたアマージョについつい苦笑してしまう。
「私相手以外に、使う機会ないでしょその技!」
「ワハハ!普段は農作業用じゃ!」
この香りはマズイなぁ……
ペンさんを出すべきだが、多分……うん、ほぼ間違いなくペンさんは匂いに釣られる。だって食いしん坊だもんあの子。
匂いにつられて進んだ先で顔面にとびひざげりなんか食らったら目も当てられない。
クヌは耐久はあれど、反撃までが遅すぎるのでジリ貧になりかねないし……まだ役目があるからダメージを受けさせたくない。
なりふり構わずに冷静なシズさんを真っ先に落とした理由がやっとわかった。これは非常に辛い。
シズさんさえ落とせれば後はワタシラガでフィールドを作り、アマージョとタルップルの二人でごり押せると考えたんだろう。全くもってその通り。
……ただ、ようやくお互いの手の内が割れてきたことで脳内トレースが鮮明になり、ヤローさんの目的がハッキリしてきた。
多分、ペンさんを機能停止させること。
この走りにくいフィールド、あまいかおり、わたほうし、全てがペンさんへの不利に働く。
うちのメインアタッカーを使わせないって訳か。
「この盤面…4年前のぼくには出来なかった。でも今こそお見せできる、きみへの快気祝いじゃあ!」
「……嬉しすぎて泣きそうですよ、ほんと……」
まー実際は快気してないけどね。
それでもこんな熱烈な歓迎を受けちゃったからには私も全力で受け止めなければ。
……スーツの残り時間は残り半分も無い。
盤面は完全に制圧され不利真っ只中。
嬉しいな、燻っていた私に対してここまで警戒してくれてるなんて。
そう思いつつ、私はペンさんを場に出す。
「ドラアッ!!」
「……っ嫌な表情じゃなあ」
「……そうですか?いつも通りだと思いますけど」
「それは…情け容赦ない、初めて見た時のきみの顔なんだなあ」
「今すぐ忘れてくださいそれ」
私ってもしかして表情とか分かりやすいのだろうか。
……ま、いいか。
勝ち筋はもう見えたのだから。
「アマージョ!あまいかおり!」
「ドッ……ドラ!ドララ!」
「ステイーステイだよペンさん。絶対動いちゃダメ」
香りに目を輝かせ、「今すぐあそこに行かせて!!」と目で訴えてくるペンさんを宥めそこに留まらせる。
……そう、留まらせるのだ。
高速、高威力のペンさんが向かってこない事に違和感を覚えたのか、ヤローさんは困った様子でこちらを伺っている。
確かに今のペンさんを走らせたら、無意識に匂いに釣られてしまうだろう。けどまあ流石にこの距離で動かさなければ釣られることも無い。
動きのないフィールドにお互い千日手、観客は冷めてるだろうなー。
そんでもって、ヤローさんは忍耐力が高い人だし痺れを切らすこともないだろう。
…………状況が変わらなければ、ね。
「……?ん、雨が……」
「あらぁ……なんだか雨があがってきましたね、風も落ち着いてきた」
上を指差し見上げるとザアザアと降りしきっていた雨空が履け始め陽射しが見え始める。
そして、吹いていたおいかぜも止み始め、ターフタウン特有の爽やかな風だけが吹き始める。
釣られて上を見たヤローさんは、雨風はワタシラガのやられた今、もう意味のないものだと思ったのか対して気にする様子はない。
でもね、それに気がついた時点で
「………あ、あれ?……ペンドラーは、どこに?」
「さあ、どこでしょう?」
「っ!アマージョ!そこを離れるんじゃ!」
上を見上げたヤローさんの脳裏には今、にほんばれを使うかどうかが一瞬過ぎったはず。
タルップルが持つソーラービームやせいちょうの為にもその選択は間違ってない。
ただ、ヤローさんはまだまだ私の性格の悪さを理解しきれてないね。
「ドッラアアアアアアアアアア!!!!」
「シャナッ!?」
空中には綿毛、地面はべちゃべちゃ、ならもう残ってるのは地下だけだよね。
「なっ!なんで位置が……!」
「食いしん坊さんにその匂いは厳禁ですよ!」
「っそういうことかあ!」
あなをほるは一見無敵の技だが、狙っていた位置から大きく離れれば相手を見失い躱しやすい技でもある。
目印でもなければね。
「アマージョ!はなふ──」
「おっと、そこは通り道ですよ」
そしてヤローさんなら、きっとアマージョをその位置に動かすと信じていた。
自分からは見やすく、私からは見えにくい丁度その位置。
そこはさっき、ペンさんが迂回した穴の通り道だ。
ストン、と踏み切ろうとした軸足が突然沈んだ地面へとめり込み、驚いたアマージョは動きを止めてしまう。
「メガホーン」
「ドラアアアアアアアアッ!!!」
ドスンッ!!と今日一良い音が響き渡り、アマージョが吹き飛んでいく。
加速はいつもより足りないけれど……ペンさんの火力なら充分だ。
実際、地面を何度かバウンドし、ようやく止まったアマージョは目を回し既にひんしになっていた。
「っ……アマージョ、お疲れ様じゃ…………参ったなあ、ぼくの頭の中を覗かれてる気分だ。」
「サイキッカーに転職する気はないですよ」
…………さあ、今日の大一番。
ここまで遂に来てしまった。
「そりゃあ、きみの天職はバトルだろうからね!……でもまだ負けてない!ぼくたちは 粘る!農業は粘り腰なんじゃ!」
「よしっ……交代!行っておいで!クヌ!!」
ヤローさんの手が光ったかと思うと、ボールが一回り大きく光り輝くものへと変化している。
私は両手で持ってもいっぱいいっぱいだが、ヤローさんは簡単な様子で片手でそのボールを持ち、ぽんぽんと優しく撫で───
「さあ!いきなりキョダイマックスだ!根こそぎ刈り取ってやろう!!タルップル!!」
タルップル図鑑説明
しゅしょくは あまい りんご。
あまい みつに さそわれ よってくる こがたの むしポケモンも たべる。
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> むしポケモンも たべる <
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