ガラル地方のむしジムリーダーなんだけど余命一年でわろえない 作:一般むしポケ好き
「……クヌ、まずいねこれは」
「……フォ…」
病院の裏手にある、木陰で私とクヌは2人して倒れ伏していた。
ただ、私はいつも通り過ごそうと思っていただけなのに、こんな事になるなんて思わなかったのだ。
「まさか…………こんな事になってるとは…………」
「フォレ…………」
ざァ───と吹き抜ける風に身体を震わせながら、空を見上げる。
霞む視界の中で、雲ひとつ無い青空を眺めながら、すぐ側にいる金属質なクヌの身体の冷たさを肌で感じる。
こんな事になるなら……もっと早く、言って欲しかった。
まさか───
「布巾すら重くてっ……まともに持てない位弱ってるなんて……!」
「フォレ……」
「見つけた!!モナルさん!居ました先生!ここです!」
「早く捕まえろ!ネットボールだ!」
「げぇーっ!見つかった!私は別にむしタイプじゃぬあああああああああ」
諦めろと言わんばかりにどこか不満気な顔をしたクヌにまたもど突かれて、病室を抜け出していた私は看護師さんに捕まってしまうのだった。
ちぇーっ折角いい感じの木陰見つけたのにさ。
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「貴方は!今全身が衰弱しきっているんですよ!?どうしてそう出歩く……というかどうして歩けるんですか!?」
「ペンさんの背中借りましたー」
「いいですかっ!!キミ達!キミらの主人は今ほんっっっとうに危険な状態なんだ!守りたいなら絶対に外に出ないよう監視してくれ!!」
「ドラ…………」
「シズ…………」
「メラ…………」
「ウチの子達は優しい子なんです!そんなに怒らないで……!」
「貴方のせいでしょうが……っ!」
バチギレしているお医者様にごめんなさいして病室に叩き込まれた私モナルは、病院生活かれこれ2週間目に突入していた。
いやあ、だってさー4年と2週間もクヌのお手入れしてないなんてトレーナーとしてどうかしてるって感じじゃん?
再会した時にお手入れしてあげるって言ったからそろそろやってあげたかったのにさー。
……まさか、布ひとつまともに動かせないか……いや動かすだけなら出来るけど、拭くのは難しいなー力入んなくて拭くというより撫でるだけになってるし。
だって4年ぶりに手持ちの皆が逢いに来てくれたとは言え暇なもんは暇なんだもん。
ちなみにペンさんとシズさんは病室にいる私を見た途端にであいがしらしてきて死ぬかと思った、お医者さんめっちゃキレてて笑ったわ。
スリスリしてきたメラさんは本当はお腹に置いときたいけど重くてね…だって今体重私と一緒だよ?ヤバスギ。
いやーまあね、私もね分かってますよ流石に。
お医者様の言うことは聞けなんて子供でもわかる事は流石にわかってる訳ですよ。
でもね、ぶっちゃけた話あと1年で死ぬって聞いてから前とは違う意味でやる気が出ないんだよね。
前はせっつかれるような焦りもある中で頑張らなないとなーっていう考えと、それなりに頑張ってるつもりなんだけどなぁって言う若干の苛立ちもまあ、正直あった。
今はなんかもう違う。
全部無駄っていうか、どーせ死ぬしなって言う投げやりな方でやる気が出ない。
このまま一年ベッドで過ごしてテキトーに死ぬくらいなら好きな事して死にたいなーっていうかさ。
あとまー、これは私個人の話だけど私が今死んだら多分……まあ?自惚れじゃなかったらまあまあな人が悲しんでくれる気はする。
気はするけど、多分1年も…なんなら半年経たないうちに立ち直ると思うんだよね。
だからまあいっかな位の考えだ、なんなら無駄に悲しませるくらいなら寝たきりのまま死んでた方が皆「やっぱり」って思ってすぐ立ち直れたかもなのにね。
……あーでも、ポケモン達は結構落ち込むかな。落ち込んでくれるくらい好かれてるといいけど。
クヌ?クヌはいーの、多分私と同じくらいで死ぬだろうし。2人でならなんにも怖くないよ。
「やー暇、暇だねみんな。今度は屋上にでも行ってみようか」
「ドラ!」
「シズ!」
「あら、監視が増えたわ」
「フォレ」
聞き分けが良かったのは他の子達の様で、私をベッドから動かすまいと監視しているし私がなにかしようとする度のそりとその大きな身体で見張ってくる。
「えー後でモモンのみあげるからさー」
「ど………………ドラ」
「シズ!!」
「ドッッッ…」
「だーはっはっは!怒られてやんの!」
シズさんにど突かれてる食いしん坊なペンさんをからかって遊んでいると、扉が控えめにノックされる。
すわうるさくし過ぎたかと説教の予感を感じ嫌な顔をしていると扉を開けたのは意外な人物だった。
……意外でもないかな?
「……楽しそうな所、失礼するよ」
「んお?……あーカブさん!お久しぶり……なんですよね?」
「うん、久しぶりだねモナルくん。本当に……久しぶりだよ」
「私としては2週間ぶり位ですけどねー。あ、今暇で暇でしょうがなくて!お相手してくださいよ!」
「ボクでいいならもちろん!」
久しぶり(?)に見たカブさんは前よりも心做しか髪が白くなっている気がする。
4年もあればそりゃー変わるか。
しかし相変わらず精悍なようで元気ハツラツ……と思ってたけど、なんかいつもより元気ないな。下がり眉だ。
いや、わかる。わかるよ?多分ダンデさんと同じパターンだこれ。
「……その前に一つだけ」
「あーいいですいいですやめてくださいね謝るとか。本当に。私ふつーに困りますよ。ダンデさんから聞きました、あの時対応に出たのがカブさんとキバナさんとダンデさんの3人だったってのは。でも私は街を守って欲しくて救援要請をしたんです、カブさんはそれを成し遂げた、私もそれを願ってた……ね?お互い様です。」
「いや、でもね」
「じゃあお礼だけにしてください。私からもお礼を言いたかったので……改めて、街を守ってくれて本当にありがとうございました。」
「……うん、こちらこそ。ありがとう!ガラルを守ってくれて!……ダンデくんにも言われたけどやっぱりこっちの方がいいみたいだね!」
「そーですよ、悪くない人にごめんなさいされても気まずいだけですよー」
「そうかな……そうかもね。お互い感謝の方が気分もいいしね!」
そう言いながらやっといつも通り眉を上げ、元気な顔になってくれて差し入れをくれた。
これは…あれだ、手でバネを握るみたいな握力用の筋トレグッズ。そういえばこの人ランニングとか筋トレ好きなんだったっけな。
試しににぎにぎしてみるも、まるで動かざること岩の如し。カブさん、こいつぁ私には早かったみたいです。
「まだ筋力が戻ってないみたいだね。大丈夫、それも使って徐々にでも取り戻していこう!」
「うわお…久々に浄化されそう……」
「ぼくもリハビリに手伝えることがあったら協力するよ、まずは軽いウォーキングができるようにしよう!」
「うっ……まあ歩くくらいは出来なきゃですね」
リハビリがなーこれがきついんだまた。
歩くだけなのに思うように足が動いてくれないどころか、支えてる腕さえもまともに動かないときた。
最初の方はマッサージみたいな固まった関節を看護師さんが解してくれてようやくまともに動けるようになったくらいだ。
……まあ、どうせ動いても1年でおさらばだしな。
車椅子でいい気がするなー。
「……なにか違和感が」
「はい?」
「いや、気の所為かな……うーん、何か違和感というか……」
「えー?何すか気になるじゃないですか」
「いや……前ならもっとこう、距離を取られていた気がするんだけど…いや、4年ぶりだからぼくが勘違いしているのかもしれないね。」
「……あー、まあ流石に命の恩人にそんな扱いは出来ないですよ」
「気にしないでくれると嬉しいな……うーん、いやしかし、なんというか…………そうだね、ポプラさん風に言うとピンクじゃない!という表現がいちばん近いかな」
「またピンクか……ポプラさんは今も元気なんでしょうねー」
「そうだね、ただ最近ジムリーダーの座は譲ったそうだよ」
「えっ!!!?!!?!ポプラおばあちゃん引退したんですか!!?!」
今日一びっくりなニュースだ。
チャンピオンも変わってるわリーグ委員長も変わってるわフェアリージムも変わってるわもうビックリだね。
えー今ならワンチャンその新しい人に勝てたりしないかな。ポプラおばあちゃんと比べたら殆どの人がマシに見えるし。
……って、私はもうトレーナーそのものを引退したんだった。
未練がましいというかなんというか、まーそりゃ2週間前までリーグ戦に出てた身ですからね。違和感の方が大きいよ。
その後、カブさんはお見舞いを終え帰宅し私はまた暇な生活とリハビリを繰り返すだけの単調な日に戻るのだった。
ルリナさんやカブさん、ダンテさんは忙しいだろうに定期的にお見舞いに来てくれて、1度だけポプラさんもお見舞いに来てくれた。
頭を撫でられながら「馬鹿な子だよ…」とか言われて私どうすればいいかわからんかったです。はい。
そして、それから更に2週間ほどして私はようやく1度帰宅する許可を得たのだった。
「いやぁ、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ命を扱うものとしていちトレーナーである貴方には感謝しています」
「あー、へへ、はい、あざます」
「ただ患者としては最悪でした。二度と脱走なんて言うことは考えないよう次こそは対策させていただきます。」
「へへへ…………スミマセン」
「…………投げやりになる気持ちは、わかります。しかし今後回復する可能性もまだありますので……あまり、無鉄砲に動かないようにしてください。お願いします」
「………………はい」
流石に脱走とかリハビリを適当にしていたせいか、お医者様には投げやりになってる理由がバレてしまい色々とメンタルケアの時間も増えた。
ただ色々言われても私としてはもうなんにもやる気が出ないのだ。メンタルケア担当の先生には悪いことしたと思うけど、いいじゃん、ほっといてくれたって。
車椅子を押してもらいながら病院の外に出るとたまに抜け出していたのに、久々に青い空の下に来たようで思わず頬を抜ける風に目を瞑る。
冬の寒さがようやく落ち着き始めた、春の予兆を感じる風だ。
「お迎えはいるのですか?」
「あー、多分?私今ロトムフォンどっか行っちゃってて……私の家かな?一応この時間に出ればいいと言われてたけど」
「ロト、お間違いないですロト。」
「おあ…ロトさん、久しぶり?」
「…お久しぶりですロト。お迎えに上がりました」
病院の外で周りを見ているといつの間にかロトさんがすぐ後ろに来ていた。
相変わらずロトムにしては珍しく大層真面目な受け答えをする子だ。そういえばあの時も私の救援要請と位置情報を送り続けていてくれたらしく、直ぐに見つけて貰えたのはこの子の力が大きい。
「やーロトさんには助けられちゃったね。ごめんね、無茶なこと言って…心配かけた?」
「…………心臓が縮むという言葉の意味を真に理解しましたロト。二度とあんな思いはさせないでください」
「あはは、ごめんね……」
と、ロトさんと話していると前の方から見慣れた車が走ってくる。
うちのジムで使っている社用車から出てきたのはセリさん。あら、もしかしてまだうちのジムに居てくれてたのかな。
「セリさん、お久です」
「…………本当に久しぶりモナルちゃん、ごめんなさいお見舞い来れなくて」
「やーいいですよ、ジムの方任せっきりだったし私が起きてバタバタしてたでしょ」
「ええ、まあ…………左目、その眼帯は?」
「あーちょっと、その、ぶっちゃけ言うと見えないです」
「………………」
車から出てきたセリさんは今まで見たことがないくらい落ち込んだ表情だった。
いつも笑顔で飄々とした人だったから意外だったけど…まあ、皆謝ってくるな。別に謝られたくてやったんじゃないやい。するならせめて褒めてくれ。
その上私が今つけている白い眼帯のことを聞かれうぐぐとなってしまう。
検査の結果ほぼ見えてないという事がわかり、大人しく眼帯生活に。そのうち義眼とか入れてみようかな、蜘蛛の巣柄のかっけーやつ。
まあそのことを聞いたセリさんは先程より明らかに凹む…というより、それすら通り越して苦しそうな顔をしていた。
「あの、セリさんこれは気にしないで…」
「ごめんなさい!ごめんなさいモナルちゃん!貴方に……私、貴方に全部任せちゃって……大人が矢面に立たなきゃ行けなかったのに!」
「ぐむぎゅ」
ぎゅっと抱きしめられ謝られながら頭をなでなでされてしまう。久々にセリさんのなでなでなのでしれっと堪能しておくけれど気まずいものは気まずい。
私としては謝って欲しくないと思っていたけれど、あれからまた何度かお見舞いに来てくれた人は皆「大人としてのケジメ」と言っていたので大人しく謝罪を受け入れる事に。
私がどんなに気にしないと言っても大人はそうではないらしい。
「せり……セリさん、いきが、」
「ああ、ごめんね……ヒグッ…顔、そんな傷まで……」
「これは前からある奴」
「こんなに細くなって……」
「ぶっちゃけあんま変わってないよ」
「うぅっ……ごめんなさい……」
「セリさん、私謝罪じゃなくてお褒めが欲しいでーす」
そういうと、きょとんとした顔……きょとんとしてるのか?これ、細目でわかんねーや。
とにかく少しの間考えてから、泣きながら私の頭を撫でか細い声で「ありがとう、頑張ったね」と言ってくれた。
他の人から褒められるのは恥ずかしーけどセリさんとかは別。ふつーに嬉しい。もっと撫でて。
お医者様に改めてお礼を言ってから、ようやく、自覚の無いまま四年ぶりに家に帰れるのだった。