『日本妖怪大事典』水木 しげる, 村上 健司2005/7/16
納戸と言えば、どんな物を想像するだろうか?
建築基準法によれば、窓が無い等、採光が足りなかったり、換気性が不十分だったり、住むのには適さないとされる部屋を指す。
昨今では、サービスルーム、ユーティリティスペース、フリールーム、マルチルーム、多目的ルーム等と呼ぶこともあるようだ。
しかし、ただ納戸と言った場合は、どこか暗く黴臭い、乱雑に物が置かれた場所を想起させないだろうか?
今回はそんな納戸にまつわる、あるお話をしよう。
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ある一軒の家があった。
どこにでもあるような、ありふれた日本家屋だ。
家族構成はいわゆる核家族、夫婦と、そしてまだ幼い息子である。
その息子は物覚えが良く、特に手間の掛からない子供であった。
人好きの良い性格で、少々大人しいが、利発で勉強も運動も良く出来た。
学校ではいつも一番で、両親にとっては自慢の子であった。
そんな息子なのだが、両親には一つ不満があった。
少し前に亡くなった姑に、よく懐いていたせいだろうか、迷信深いのがどうも気に障るのだ。
思えば姑は、事あるごとに言っていた。
「この子を納戸に近付けちゃならねえ」
この家の納戸には、良くないモノがいるのだという。
ソレは大人に悪さをすることはないが、子供は別だと。
今風の家と違い、少々古い日本家屋のこと。
窓も無く、土壁が使われた納戸は、どこか陰気で黴臭く、不気味な印象があるのは確かだ。
子供が怖がるのも仕方がないのかもしれない。
だが息子の態度は、異常な程だった。
納戸を開けるだけで怖がり、大慌てで別の部屋に逃げ込んでしまう。
無理に連れて行こうとすると、凄い声で泣き喚く程だ。
なまじ出来が良い息子だっただけに、両親は心配になった。
こんな迷信を信じていては、将来の為にならないのではないか?
だからある日、やってしまったのだ。
姑がしてはならないと、いつも口煩く言っていた事を。
それは煩わしい姑に対する反抗だったのか。
それとも息子が親である自分達以上に、姑に懐いていた腹癒せであったのか。
だけどそれは・・・・・・決してやってはいけないことだったのに。
そう、嫌がり泣き叫ぶ息子を、無理矢理に納戸へ入れて閉じ込めたのだ。
こんなものはただの迷信なのだと。
ここはただの納戸でしかない。
子供に悪さをする良くないモノなど、いるはずがないと。
可哀想だけど、こうすれば利発な息子は気付くはずだと思い込んだ。
怖いモノなど何もいないと。
「あけて、あけてよおとうさん、おかあさん!!」
狂った様に納戸の戸を叩く息子に、胸を締め付けられる思いで、両親は戸を押さえ続けた。
これが終われば、きっと分かってくれる。
これが息子の為なのだと信じて。
納戸の中は、窓も無く一個の電球があるだけ。
物置として乱雑に物が置かれた納戸の中は、電球が点いていても、沢山の物が影を生み出し、一層薄暗く感じさせる。
戸を叩く衝撃で、吊られた電球がゆらりゆらりと揺れれば、影もゆらりゆらりと動く。
納戸の中は異界であった。
ゆらりゆらりと、影が伸びる。
ふらりふらりと、手のように。
ひたりひたりと、黴の臭いが。
ぴたりぴたりと、頬に当たる。
くびりくびりと、巻き付いた。
「ホーー」
「たすけておばあちゃん!!」
直後に響いたのは、家が震える程の絶叫だった。
あまりの事に、両親も思わず戸を開けて。
開けて見れば、そこに息子の姿はどこにもなかった。
それっきり、終ぞその子は見つかることはなかった。
ということで、ちょっとホラーチックに納戸婆を書いてみました。
納戸婆はちょっと謎の多いやつですが、今回は子供を神隠しにするタイプを。