リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第9話 絶望の到来

 

 

A型V.L.Tを撃破してから翌日。

 

私にとって、何の意味もなく、退屈で、普遍的だったレンネル基地での内勤生活は、何もかもが一変していた。

 

Unknown01……今はボルガーと呼ぶべきだろうか。

 

ハイパーゲートからV.L.Tが現れたその日、同じゲートからこのレンネル島へ墜落してきた機体。それに乗っていたダン・ムラクモ中尉が基地へ帰還してから、わずか数時間後。

 

軍の高速機で北米大陸から飛来した調査委員会と、それに同行する少佐が姿を見た。

 

フレデリック・スミス少佐。

 

北米大陸、地球軍中央司令部に籍を置くその人物は、私が訓練生として養成学校に通っていた頃から知っている名前であり、ノルマンディー反抗作戦において、V.L.Tに多大な損害を与えた「ミラクルイーグルス」の一員だった。

 

ノルマンディー反抗作戦に投入された兵力、その70%が失われたという。

 

私の姉もその作戦にパイロットとして参加しており、C型V.L.Tを15機、B型を2機を撃破した功績によって、現在は北部防衛隊の大隊長として前線を指揮している。

 

そして、その戦いで目覚ましい戦果を挙げたパイロット。

 

ダン・ムラクモ。

アーノルド・ゼノン。

フレデリック・スミス。

チェン・ウェイフェン。

ハインツ・シュバイド。

 

たった五名で編成された小隊「イーグルス隊」は、C型を245機、B型を153機、そして拠点制圧を担っていたA型すら撃破している。

 

その戦果は、もはや奇跡としか形容しようがない。

 

何度も読み返した兵科教本に、その名が刻まれているほどだ。

 

姉が大隊長ならば……「ミラクルイーグルス」のパイロットとは、いったいどれほどの人物なのだろうか。

 

そんな想像は、この基地へとやってきたムラクモ中尉の飄々とした態度によって、あっさりと打ち砕かれていた。

 

調査委員会に同行していたフレデリック・スミス少佐もまた、遠目に見ただけでも、教本に掲載されていた写真より幾分やつれた印象を受ける。

 

そして調査委員会が基地に到着して以来。

 

ムラクモ中尉との面会は、一切禁じられている

 

そしてボルガーが、合体と呼ぶべきだろうか……変形というか、ドッキングを果たし、ボルテリガーになった様子の一部始終を目撃した私や、カエデさんも、調査委員会からの事情聴取を受けた。

 

とはいえ、私たちも何が起こったのか把握している訳でもなく、ありのまま起こったことを伝えたのち、基地からの外出禁止を言い渡されて現在に至っている。

 

カエデさん、基地司令やスタッフ、そして私も含めて、全員が基地から自宅や社宅へ帰ることが禁じられているが……基地内には入浴施設も揃っているし、仮眠室も充分に備わっているので特に不満が出ることはなかった。

 

ただ、朝昼晩と基地のエネルギーバー生活だけは勘弁してほしい。

 

味は悪くはないが、口の中がパサつくのと、あまり食べた気にならないのに腹持ちがいいという気持ち悪さが苦手だった。

 

それでも不思議とお腹は空く。

 

時間は既に昼を過ぎていて、私はまだ昼食をとっていないだろう相手に、食堂から持ってきたエネルギーバーを届けにきた。

 

「カエデさん。昼食持ってきましたよ」

 

基地内にある倉庫。

 

基地スタッフも外出禁止と言われているが、そのほかにやることもないので通常運転をしている。

 

相変わらず搬送用のロボットが動き回って倉庫内にある物資の整理を続けている中、カエデさんは工具を手に、再び鎮座した「ボルガー」のメンテナンスを続けていた。

 

「ありがとう、レイラ」

 

安全ゴーグルを外し、少し乱れた髪を手でかきあげるカエデは、レイラから渡されたエネルギーバーの包装紙を剥いて一口齧る。

 

淡々とした仕草ではあったが、その横顔には昨日までのどこか虚ろな空気はなかった。

 

「どうですか?その機体」

 

「……ムラクモ中尉が降りてからは、またダンマリになったわね。ただ……あれだけの戦闘をしたというのに、機体損傷は全くない。装甲にも傷はついていないし、関節部分にも負荷の痕跡がほとんど見当たらない。まったく、この機体に使われている技術っていうのは……本当に、とんでもないわ」

 

そう言いながら、カエデさんは機体表面を確認する手を止めない。

 

メンテナンスというよりも、理解できないものを少しでも理解しようとする意地でそこに立っているように見えた。

 

調査委員会が到着した直後。

 

ほかの調査員や執行官、護衛についていたパイロットたちも数名がボルガーを動かそうと試みた。

 

だが、機体は何の反応も示さなかった。

 

「外には執行官と護衛のパイロットたち……なんだか、物々しくて落ち着かないです」

 

「まぁね。私たちは“動かないはずのものが動いた現場”を目撃したんだし……あっちも、コイツが訳わからなさすぎて対応に困ってるんでしょう」

 

訳がわからないから。

 

このレンネル基地に放置して、全員で忘れたふりをしていたくせに。

 

吐き捨てるようにそう言って、カエデさんは外で警備に当たっている人間たちを一瞥し、小さく鼻を鳴らした。

 

昼食を終え、ようやく一息ついた頃。

 

私は、ずっと気になっていたことをカエデさんに尋ねることにした。

 

「……カエデさんたちは、どうしてこの機体のことを黙っていたんですか?」

 

エネルギーバーを持つ彼女の手が止まる。

しばらくの沈黙。

 

やがて彼女は、視線を落としたまま口を開いた。

 

「動かない以上、この機体の出自を貴女が知る必要はないって……そう思っていたからよ。……勝手なことをしたわね」

 

あの機体は、なにぶん、特別だ。

 

V.L.Tの出現と同じタイミングで落ちてきた機体なのだから。

 

それから、多くのことがあった。

 

ユーラシア大陸がV.L.Tに制圧され、ヨーロッパが蹂躙され、多くの人が死んだ。

 

その傷と恨みを抱えたまま、この島に落ちてきたボルガーを解析することに、皆ががむしゃらになっていた。

 

すべては、何もかもを破壊し、奪い続けたV.L.Tに復讐するために。

 

「……ガルダリア・エンジンを搭載したハウンドアーマーが実戦投入されたあの日。私は浮かれていた。Unknown01から得られた技術を使って……人類を救える力を手にしたって、そう思っていたの」

 

技術者として。

 

そして開発の中心にいたあの頃。

 

まだ人類が未来を信じられる時代の名残を引きずっていた。

 

軌道エレベーター、ハイパーリンク、テンタクルブリッジ。そして、全人類の希望となるはずだったハイパーゲート。

 

そのどれもが、本来は人の生活を豊かにするために生まれたものだった。

 

心のどこかで、そう信じていたのだとカエデさんは言う。自分が作るものが、いつか人々の生活を支える何かになると。

 

だが、現実は違った。

 

「私が作ったのは兵器よ。殺して、殺される戦場で使われる兵器。……それに乗るパイロットの命なんて、何一つ保証できない」

 

彼女はガルダリア・エンジン、そして第二世代機開発の責任者として、前線から送られてくるデータに触れ続けていた。

 

それは、目の前で見た光景ではない。

だが、それ以上に鮮明だった。

 

精神汚染。適合失敗。廃人化。

 

ガルダリア・エンジンによって引き起こされた、予期しない人体への悪影響。

 

それをどうにか抑えたとしても、今度はそれを使った者たちの結末が待っていた。

 

戦死報告。断末魔のような通信ログ。

 

それらすべてが、自分の作り出したものの延長線上にある現実だった。

 

「それを知って……V.L.Tによって荒廃した世界の恐ろしさに、私はようやく気づいた。そして怖くなったのよ」

 

一度、言葉が途切れる。

 

「私が作ったものが……この世界を、更なる地獄に陥れてしまうんじゃないかって」

 

「カエデさん……」

 

彼女の手が、わずかに震えていた。

 

ガルダリア・エンジンと、ハウンドアーマーという〝兵器〟を生み出した結果、確かに人類には追い風が吹いた。

 

だが、その風には血と硝煙の匂いが混ざっている。

 

一度巻き込まれれば抗えない、戦いの連鎖へと引きずり込む風だ。

 

それが生まれたのは、きっと必然だったのだろう。

カエデ自身が作らなくとも、いずれ誰かが辿り着いていたに違いない。

 

それでも、その地獄を知ってしまった彼女の受けた衝撃は、計り知れない。

 

「わかってるわ。この世が既に地獄だってことくらい……。でも私は、技術者だった」

 

彼女は、かすかに息を吸う。

 

「人のためになるものを作る。私の父や母も、そう信じてハイパーリンクや、ハイパーゲートを作った。私もそうなりたいと思ったのに……人を死なせる兵器を作って、私は壊れた」

 

ガルダリア・エンジンをこの手で完成させてから、カエデさんは前線から退いた。

 

もう二度と、あの地獄はごめんだと、心のどこかで無関係だと自己弁護をしながら、この基地の中で何も作らず、何も関わらず、ただ時間をやり過ごしてきた。

 

「だから……私は、もう逃げない」

 

〝カエデ女史。それでも俺は……ハウンドアーマーのパイロットだ〟

 

一人のパイロットとして、ダン・ムラクモ中尉が必死に抗う姿を目にして、自分を恥じた。

 

壊れている場合か。

 

地獄を見たからといって、後悔の中に閉じこもっていていいのか。何より空から降りてきた、自分が技術を得るきっかけとなった機体が今、再び空へと羽ばたき、ボルトと戦おうとしている。

 

ならば、自分には〝始めてしまった責任〟を背負う義務がある。

 

「正しいことに力を使える。無茶苦茶になった世界で、それでも〝戦う〟と言うなら……」

 

一歩、踏み出す。

 

「それに応えなきゃ、私はもう生きていけない。人の未来を信じた両親に顔向できない」

 

そう言って立ち上がる彼女の目には、これまで見てきたような弱々しさや、諦めの色は一切なかった。彼女は、その目に取り戻していた。あの日、地獄を見てから失っていた「情熱」と「信念」と呼べる意志を。

 

「コイツの技術的な側面を知るのは私だけよ。なら、私がやらなきゃならない。……今度はもう、どこにも逃げない」

 

再び工具を手に、鎮座するボルガーへと向かうカエデさん。そんな彼女の背を見て、私は……何もできていない自分に情けなさを覚えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、同日の夕方。

 

破滅は虚空から、姿を現したのだった。

 

 

 

 

特A型V.L.T。

 

ゲーム風に言うなら、その存在は、まさにチャプターボスだ。

 

各章のラストを飾るに相応しい性能とスキルを持ち、挑んでくるプレイヤーたちの前に、あらゆる戦略で立ちはだかる。

 

距離を詰めれば逃げ、遠距離から正確無比な狙撃を叩き込んでくるタイプ。

 

逆に、自ら距離を詰めてきて、こちらのシールドを粉砕せんとばかりに殴り潰してくるタイプ。

 

中近距離を自在に行き来し、気がつけば機体ごと縦横にスライスしてくるタイプ。

 

特A型V.L.Tのバリエーションは豊富で、攻略が進むたびにインフィニティランカーたちは新たな地獄を叩きつけられ、発狂していた。

 

だが、問題はそこではない。

 

奴らの真の脅威は、共通して搭載された防御機構、「流体エネルギー膜」にあった。

 

それはワームホール技術を応用して構築されたシールド機構。受けた物理エネルギーを別次元へと逃がし、自機へのダメージを完全に無効化するという、とんでもない代物だ。

 

唯一の攻略法は距離を詰めること。

 

エネルギー膜を貫通する出力で、ゼロ距離から格闘を叩き込む。

 

……だが、それこそが罠だった。

 

ノーマル、ハード、ハーデストでは、それはただ強い防御に過ぎなかった。

 

だがインフィニティモードに突入した瞬間、そのシステムは、牙を剥く。

 

流体エネルギー膜は、文字通り機体表面を覆う“流体”だ。

 

では、それを「裏返したら」どうなるか。

 

当時、攻略と考察を発信していた一人の実況者が、その可能性を指摘した。

 

「考えすぎ」「妄想乙」と他のプレイヤーに一笑に付されたその仮説は見事に的中する。

 

インフィニティモードに慣れ、敵の攻撃を捌けるようになり、慢心が生まれ始めた頃。

 

ゼロ距離まで踏み込み、必殺の一撃を叩き込もうとした、その瞬間。

 

プレイヤーたちは洗礼を受ける。

 

流体エネルギー膜を反転させ、機体周囲すべてを呑み込む殲滅機構……「ブロークンインパクト(B.I)」。

 

それは、間合いに踏み込んだハウンドアーマーを容赦なく飲み込み、無慈悲に、暴力的に、貪り尽くし、破壊した。

 

「B.Iで直葬」

 

そのパワーワードがトレンド入りするほど、その一撃は理不尽を極めていた。

 

防御特化、通称“ガチタン”。

 

速度も旋回も捨て、ただ耐え、一撃で仕留めることに全てを賭けた機体ですら。

 

「さすがガチタン!なんともないぜ!」

 

……などと言う間もなく、直葬。

 

ランカーたちが集う掲示板は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

離れれば攻撃は通らず、収束砲と個性あふれる攻撃で一方的に蹂躙される。

 

近づけば勝機はある。だが、ノーモーションで放たれるB.Iに触れた瞬間、すべてが終わる。

 

その理不尽さに心を折られたプレイヤーは少なくない。インフィニティランカーを引退し、難易度を下げる者すら現れた。

 

だが。

 

その程度で折れるような者は、最初から本物ではない。

 

真なる変態は、引かぬ。媚びぬ。顧みぬ。

 

膨大なプレイ時間。蓄積された死。そして、執念。

 

やがて彼らは辿り着く。B.I発動の、わずか1フレームの“兆し”。それを勘と直感で捉え、回避するという狂気の領域へ。

 

インフィニティランカーたちは、ついに特A型V.L.Tの撃破に成功し始めた。

 

しかし、その歓喜は長くは続かない。

 

開発者は、更なる地獄を用意していた。

 

追加パッチ。特A型V.L.Tへの、大幅な上方修正。

 

そして、短距離テレポーテーション機能の実装。

 

インフィニティランカーたちは、激怒した。

 

この世の理不尽を煮詰めたかのような調整に、

かの開発者を許すまじと、怒号が飛び交ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

「特A型だと!? 一体どういうことだ!!」

 

訓練の一環として行われていた調査委員会の護衛任務は、その一言で、最悪の形へと変貌しようとしていた。

 

訓練生たちの教官であるデルベルト・ロッジが通信士へ怒鳴り声を上げる。

 

だが、その言葉に含まれていた「特A型」という単語が、すべてを塗り潰した。

 

ついさきほどまで「いつになれば帰れるか」と笑い合っていた訓練生たちは、その言葉を聞いた瞬間、揃って顔から血の気を失っていた。

 

特A型。

 

その名は、訓練生となったとき最初に叩き込まれる教本に記されている。

 

V.L.T最強、最悪の機体。

 

だが、その正体を示す正確な情報は存在しない。

 

ただ一つ判明しているのは、エネルギー収束砲を三門備えているという事実のみ。

 

なぜ、それだけしか分かっていないのか。

 

その理由は単純だ。

 

そのデータは特A型と接触した、米国最強と謳われた第七艦隊の記録から得られたものだからだ。

 

そして、その情報を本国へ送信した直後、艦隊との通信は途絶した。救援も、確認も、何も間に合わなかった。残骸すら回収されていない。

 

つまり、誰一人としてその後を見た者はいない。

 

そんな、正体不明のまま伝えられる最強。その存在が、今まさに自分たちのいる基地へ向かっている。

 

動揺するなという方が無理だった。現に、訓練生の一人がパニックを起こし、仲間に取り押さえられている。

 

場の空気は、一瞬で崩壊していた。通信を受けたデルベルトですら、圧倒的な死の予感を前に、必死に平静を装っているのが分かる。

 

「ヒヨッコども……聞いての通りだ」

 

デルベルト・ロッジは一度、言葉を区切る。

 

「ここに……V.L.Tの最強級、特A型が来る」

 

この場にいる訓練生たちは、先月までシミュレーター訓練を受けていたばかりだ。

 

実機での教習は、今月に入って数えるほど。

 

今回の任務も、二人一組で配備されたばかりの第二世代後期ハウンドアーマー、レイジングブルに交代で搭乗する、ただの護衛任務のはずだった。

 

教官も、訓練生も、それ以上のことは何一つ知らされていない。万が一を想定していたとしても、特A型と戦う覚悟など。

 

そんなものは、想定外もいいところだった。

 

「……我々の任務は、調査委員会の護衛だ。この基地の防衛ではない」

 

デルベルト教官の声は、妙に落ち着いていて耳にすとんと落ちてくる。

 

「護衛対象が基地を離れるなら、我々も離脱する」

 

その言葉に、わずかな安堵が場に広がる。

 

逃げられる。そう思った瞬間だった。

 

「だが……」

 

その一言で、すべてが凍りついた。

 

「調査委員会の主要人物を確実に離脱させるため、誰かが殿を務める必要がある」

 

静かに、淡々と。

 

「指揮は俺が取る。……五機のうち、三機が残る」

 

それは紛れもない、死刑宣告だった。

 

彼と共に残る三機。

 

つまり、三人。

 

その意味を理解した瞬間、誰もが言葉を失う。

 

デルベルトの表情は、何かを押し殺すように歪んでいた。

 

無理だ、と。

 

その場にいる訓練生の大半が、同じ結論に辿り着いていた。C型ですら脅威となる敵に対し、特A型など戦闘にすらならない。

 

それでも。主要人物を守るためには、三人の犠牲が必要になる。

 

問題は、誰がその死刑台に上がるのか。

 

「教官、俺がやります」

 

動揺に包まれた訓練生たちの中で、一人だけ、迷いのない声が上がった。

 

テルリード・サーキス訓練生。

 

彼はこの中でも群を抜いた成績を誇る、期待のルーキーだった。

 

だが相手は特A型。分の悪い戦いどころの話ではない。その立候補に、周囲の訓練生たちがどよめく。

 

「自殺行為だ……」

 

そんな囁きが、あちこちから漏れた。

その時だった。

 

「お前が残るなら、私も残らないとな」

 

やれやれ、とでも言いたげな軽い口調。テルリードの隣にいた女性訓練生、カイ・ローベルトが、同じように手を上げていた。

 

男勝りな性格に反して、その実力は確かで、成績もテルリードと肩を並べるトップランカー。

 

そして幼馴染でもある。

 

〝相棒〟の志願に、テルリードは一瞬、驚いた顔を見せる。やがて、その表情は苦く歪む。

 

「……すまない」

 

そう呟くことしかできなかった。

 

すると少し離れた位置にいた一人の女性が、ゆっくりと髪を払う。

 

「貴方たちが残るなら、当然アタシも残るわ」

 

カレン・シュバイド。その名を口にしただけで、周囲の空気がわずかに変わる。

 

軍属の名家に生まれた彼女の父、ハインツ・シュバイドは、かの「ミラクルイーグルス」の一員にして、現在は北米基地の司令官を務める人物だ。

 

“そうあるべきだ”と叩き込まれてきた血と矜持。

 

訓練学校では、テルリードやカイと常に成績を競い合い、やがて因縁のライバルとして知られる存在となっていた。だが今、その関係は競争ではなく、並び立つ覚悟へと変わっていた。

 

手を上げたのは、その三人だけ。

ほかに志願する者は、誰もいない。

 

沈黙。重く、息苦しい沈黙が、その場を支配する。やがてデルベルトは、深く息を吐いた。

 

「……それ以外の者は、要人と共に退避しろ」

 

三人を残し、命令は下された。

 

「すまない。恨むなら……貴様たちを死地にしか送れない、この俺の力不足を恨んでくれ」

 

そう言い残し、デルベルト・ロッジは自らのハウンドアーマー、HA-11 エンフィールドへと歩き出す。

 

その背中は、あまりにも重かった。

 

彼は本来、ここで死ぬ運命ではない。

 

そもそもこのタイミングで、この物語の主人公たちが、特A型と遭遇すること自体があり得なかった。

 

テルリード・サーキス。

 

それは「ボルトボックス」ストーリーモードにおける、主人公のデフォルトネーム。

 

カイ・ローベルト。

カレン・シュバイド。

そして、デルベルト・ロッジ。

 

彼らこそが、窮地に立たされた地球軍を勝利へと導くはずのパイロットたちだ。

 

物語が始まるのは、ここから半年後。

 

テルリード、カイ、カレンは過酷な訓練課程を乗り越え、デルベルトが率いる部隊「リトルウイング隊」へと配属される。

 

そこから、すべてが始まるはずだった。

 

初任務はC型の撃破。いくつかの実戦を経て、やがて北米大陸に特A型が出現。

 

地球軍最大の拠点、サスカチュワン宇宙基地が壊滅する。

 

ボルトの攻勢は一気に激化し、特A型と自律兵器の猛攻によって基地は崩壊。

 

リトルウイング隊はレンネル基地へ撤退し、そこから、反撃が始まる。

 

それが、本来の物語だった。

 

状況は、すでに破綻している。

 

レンネル基地で確認されたボルテリガーの調査に向かった調査委員会の護衛として、彼らはこのレンネル基地へ来てしまった。

 

C型との戦闘すら満足に経験していない彼らが挑むのは、この世界におけるボス。

 

まともにやり合えば、勝ち目など存在しない。時間だけが、無情に過ぎていく。他の訓練生たちが、執行部の人員とともに輸送機へと乗り込んでいく光景を、ただ見送ることしかできない。

 

そのときだった。

 

空が、光る。

 

それは太陽でも、星でもない。

 

人工的な光が、空を横に裂くように走った。

 

次の瞬間、眩い閃光が、大気を焼く。

 

そして。その光が消えた場所に、“それ”はいた。

 

青白い稲妻を大気中に滞留させ、無機質な金属で構成された、異形の機体。存在そのものが、世界の理を拒絶しているかのような威圧。

 

それこそが、特A型V.L.Tであった。

 

 

 

 

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