リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
いつか。
姉と同じように、ハウンドアーマーのパイロットとして戦う。
それを夢見ていた私にとって、今の状況はあまりにも鮮烈で、そして致命的だった。
退避する調査委員会の面々を案内し、離陸準備を進めていた輸送機は、突如として現れた特A型V.L.Tが放った位相収束砲によって、その空間ごと削り取られたように消し飛んだ。
その直後、ダン・ムラクモ中尉率いるハウンドアーマー隊との戦闘が始まった。
至るところで銃声と轟音が響き、格闘戦を繰り広げるハウンドアーマーが、ビルの壁面を蹴って加速し、空へ跳ぶ。
「きゃっ……」
壁を叩く凄まじい衝撃音に、思わず身体が跳ねた。
幸い、基地内部の建造物は耐震性も耐衝撃性も高い。ハウンドアーマーが一度二度蹴った程度で倒壊することはない。
それでも、その音は人の本能を抉るには充分すぎた。
私が案内した調査委員会の面々は、輸送機ごと消えた。尊大で、偉そうで、好きになれない人たちだった。
けれど、あの真っ白な位相収束砲で、虫ケラのように消えていい命なんかじゃなかった。
あの光は、理不尽で、圧倒的で、ただ一方的に命を奪ってゆく。
ムラクモ中尉が特A型を引き付けてくれたおかげで、私たち地上スタッフの大半は助かって、堅牢な倉庫まで逃げ込むことができた。
「ぅ……うぅ……っ」
けれど、戦闘音は止まらない。
腹の底を揺らすような振動。外で何か巨大なもの同士がぶつかり合っている気配。
目と鼻の先にある本物の戦場を前に、私の身体は震えることしかできなかった。
「レイラ!」
倉庫の奥から、カエデさんが駆けてきた。
入口は危険だと、放心しているスタッフたちを促しながら、私の肩を押して奥へと連れていく。
倉庫の奥へ進んだ先には、昼間と変わらず、ボルガーが鎮座していた。
「カエデさん……わた……私……」
「喋らなくていいわ」
そう言って、カエデさんは私の肩を優しく叩いた。
「レイラには酷だったわね。私は何度か見たことがあるけど……やっぱり本物の戦場は危険よ。引き込まれそうになるのも分かる。けど今は、とにかく冷静になりなさい。それだけ考えればいい」
力強く、それでいて静かな声だった。
私は弱々しく頷くことしかできなかった。
特A型を見て感じたのは、絶対に勝てないという確信だった。
あれは兵器なんかじゃない。
人智を超えた何か。
圧倒的な絶対者。
見ただけで絶望を植え付けてくる存在。
あんなものと……姉や、父や、前線の人たちは戦っているのか。
逃げる最中に見た、特A型と交戦するハウンドアーマー。
中でも漆黒の機体の動きは、私がシミュレーターで動かしていたものとは別物だった。
当たれば消滅する収束砲を紙一重で躱し、死の懐へと飛び込み、
狂気じみていて。
それなのに、美しかった。
戦場という一瞬の世界を舞うようなあの姿は……私が夢見ていた“パイロット”という存在を、残酷なまでに突きつけてきた。
無理だ。
私には、あんな操縦はできない。
今の私は、倉庫の隅で、外から響く轟音と、激戦に震える建物に怯え、自分の身体を抱き締めることしかできない。
そんな私が、よく前線に出たいなんて言えたものだ。
あれほどの技量がなければ、最前線では生き残れない。
特A型V.L.Tを前にして、一日ともたず死ぬ。
だから父も、姉も、教官も。私をこの安全なレンネル基地に送り込んだのだろう。
戦える者たちから見れば、私は戦えないパイロットだ。
こうして後方の基地で、戦いとは関係ない仕事をして、幸せに生きていればいい。
戦いは他の誰かに任せていればいい。
……そう言われている気がした。
「…………ふざけるな」
気づけば、自分の頬を両手で叩いていた。
乾いた音が広い倉庫の中に反響する。
何を安心している。
何を怯えている。
何を納得しかけている。
ふざけるな。
私の覚悟は、こんなものだったのか。
気まぐれで夢を語ったのか。
お花畑みたいな覚悟で、ハウンドアーマーのパイロットになりたいと言ったのか。
安全な家も。
友人も。
引き止めてくれる人たちも振り切って。
私は、自分で決めて軍に入ったんだ。
姉のような立派な軍人に。
父のように誰かを守れる人間に。
そうなりたいと、そう誓ってここに来たんだ。
「……後方だから安心して置いておける?冗談じゃない……」
守られるだけで終わるなんて、そんなのは嫌だ。
私は、お荷物なんかじゃない。
ただ倉庫整理だけをして、戦場から目を逸らして生きるために軍人になったわけじゃない。
特A型が怖い。
死ぬほど怖い。
足がすくんで、身体が震えて、息だって上手くできない。
それでも。
それでも私は、戦える人間になりたい。
誰かに守られるだけじゃなく、誰かを守れる側に立ちたい。
「私も……私だって……!」
震える声を、無理やり喉から押し出す。
「父や、姉みたいに……誰かのために戦いたいんだ……!」
そう吐き出した瞬間、少しだけ、呼吸が戻った。
震えていた手を、私はゆっくりと開く。
指先はまだ震えている。
けれど、さっきまでみたいに、自分を抱き締めているだけの手ではなかった。
【……でしたら、私が貴女の力になりましょう】
声が届いたのは、その時だった。
「……え?」
震えが収まらない身体のまま、私は周囲を見渡す。
「だ、誰……? 誰が、私に……」
【時間がありません、レイラ・ストーム。貴女の力が必要なのです】
次の瞬間、凄まじい爆発が施設を揺らした。
遠くから聞こえるスタッフの悲鳴。崩れる資材。転がる備品。
私はバランスを崩し、そのまま床へと叩きつけられる。視界の端で、ひとつの部品がカラカラと音を立てて転がっていった。
その行き先を、反射的に目で追う。
そこに、いた。
巨大な影。
鎮座する鋼の巨人。
その中央で、オレンジ色の眼光が、こちらを見下ろしていた。
【私の名はエーテリアス】
静かで、それでいて確信に満ちた声。
【貴女なら……操れます。このボルガーを】
先のA型との戦闘後、カエデさんが解析と調整を試みたが、まったく反応を示さなかった。
それが今、特A型の襲撃という危機に呼応するように、目覚めている。
大きな機械の手が、私の眼前に迫る。
息を呑む。
脳裏に、過去がフラッシュバックする。
ナノマシン不適合。操縦不能。ハウンドアーマーを歩かせることすら満足にできなかった。
そんな醜態を叱責する教官。訓練結果を見た同情の視線、そして父の言葉。
「お前には軍人は向いていない。縁談を受けて家に尽くせ」
母の声もそれに連なる。
「無理に危険なことをしなくてもいいのよ。貴女には貴女の生き方があるのだか」
そして、私を見つめていた姉の視線。
何も言わず、ただ無関心に通り過ぎていった背中。
(……だから、どうした)
他の同期は、全員がナノマシンに適合した。新型のハウンドアーマーであるレイジングブルの操作訓練を受けているのを、私はガラス越しに見つめていた。
私だけが、その資格から落ちた。
最後の希望として縋っていたハウンドアーマーへの登場資格を剥奪され、有無も言えずに後方へ送られた。
(……だから、どうした)
何もできない。
向いていない。
戦えない。
そう、散々言われてきた。
(……だからっ……!)
胸の奥で、何かが弾けた。
(それがっ……どうしたッ!!)
視界が、開ける。私は、差し伸べられたボルガーの手に飛び乗り、導かれるままに、そのままコクピットへと滑り込む。
「なっ……レイラ!?」
倉庫の奥から、驚愕の声が響いた。
「ボルガーが……なんで、今……!?」
カエデさんの声だった。
けれど、もう振り返らない。
コクピットを見渡す。コンソールの配置も、インターフェースも、モニターも、すべてが未知。
それでも、不思議と、恐怖はなかった。
「私が必要なら……」
スロットルに手をかける。
震えは、もう止まっている。
「やってやる……やってみせる!」
【サポートは私が行います、レイラ・ストーム】
静かに、寄り添うような声。
【……このままでは、彼が危ないのです】
彼……脳裏に浮かぶのは、あの漆黒の機体。
死の間合いで舞っていた、あのパイロット。
(……助ける。私が、あの人を!)
その一念だけが、残った。
【だから。共に、救いましょう】
「……うん!」
スロットルを握りしめ、フットペダルを踏み込む。
次の瞬間、轟音が響き渡り、オレンジ色のカメラアイが、閃光のように輝いた。倉庫の空気が震え、衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
そして、ボルガーは天井を突き破り……空へと跳び上がった。
▼
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!
特A型の装甲が硬すぎてキレ散らかしそう。
しかしナノマシンがナイナイ人間ですので、ガルダリア・エンジンの出力が足りていません。
つまるところ、絶大な威力を誇るMMXが出力不足のためカスダメしか出ないということである。
あぁああ!!辛すぎて死んでしまいます。
特A型は派手にのけぞったけど……ダメージ通った手応えが全くないんだよなぁ!!
しかも、特A型の装甲は他の敵よりも強力。
A型と比較すれば、その装甲値はなんと2倍。
装甲値2倍!2倍ですよ!奥さん!
おい運営!お前正気か!?
MMXのダメージは確実にあるはずだが……単純に装甲は貫くために2回、同じ場所にぶち込まなきゃならない。
しかも鬼のように迫る位相収束砲を避けながら。
はぁああ、まぁじインフィニティだわあ。
やってられるかい、こんなもん。
リンとフレッドの援護に加え、偶然巻き込まれた三機の訓練用レイジングブルと、あーー……あれはエンフィールドかな?うん。そんな愉快な仲間たちの援護を受けてこの体たらくである。
はーまじ自分つっかえ。
特A型とは一度タイマン張ったことあるけど、あの時は自分は大破間際まで追い込まれて、なんとか撤退させたくらいだったからなぁ。
こりゃ勝てるかわからん。
しかも仲間の半分が訓練機。
制式採用のレイジングブルなら、生存の希望が0.1%くらい上がるけど、訓練機が仲間は絶望しかない。
てゆーか、誰だよ、調査委員会の護衛に訓練機を付けたアホは。あ、地球軍の上層部の人たちか。
俺を問答無用で銃殺刑に処そうとしていたわけだけど、自分たちが死んでたらザマァないぜ。
それに第一こんな時期に訓練機……。
ん?
あれ?待てよ?
この時期って……メインストーリーが展開される前で……主人公たちはまだ「リトルウイング隊」に入っていない時間軸で……。
《すまない!君たちはどこの所属の訓練機だ!?》
おっと、俺が特A型の注意を逸らしているうちにフレッドが聞いてくれたぞ!
ありがたいけど!
こっちの!援護も!よろしく頼むぜ!
「あっぶねぇ!!」
MMXを叩き込んだ直後に反撃のエネルギー斬撃が飛んできて、機体をぐるりと宙返りさせて紙一重でそれを躱わす。
「さすが隊長!未来予知でもしているような回避です!戦いが終わったら占い師でもやりましょう!」
「軽口言えるようになったリンもかなり逞しくなったよね!本当!」
そんな言葉を交わしながらも、リンもカベットライフルとショットランチャーを巧みに使って特A型の注意を逸らしてくれている。
けど、二機のレイブンアームズでどうにかなる相手じゃねえんだわ!!
「我々は56訓練師団の訓練生小隊です」
指揮官機であろうエンフィールドがそう答える。
56訓練師団ね!
ほほう、なるほど。で……教官機に乗るのはデルベルト・ロッジ教官と。ふむふむそうかそうか。
???????????
それって、ボルトボックスの主人公たちがいる訓練師団の代……つまり、ゲーム主人公やないかいっ!!!?