リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第18話 ゼブロイド

 

 

 

「諸君。集まってくれてるな?フレデリック・スミスだ。残存する士官の中にいる階級の関係上、私が説明をすることになった。さて、知っての通り……地球軍は今や壊滅的な打撃を受けた」

 

レンネル基地に置いて一番大きな会議室に入ってきたフレデリック・スミス少佐と、レンネル基地の司令官、ロベルト・アレクサンダー大佐。

 

この基地の司令官はロベルトであるが、彼は前線を離れてしばらく、この基地でだらしないを体現したような勤務態度であった。

 

対してフレデリックは佐官としてはロベルトより下であるが、前線にいたという点、そしてミラクルイーグルスのメンバーであったという背景から、フレデリックが表立って話し始めた。

 

そして、この場にはボルトボックスのメインストーリーを飾る主要メンバーが揃っていた。

 

訓練生であるテルリード・サーキス、カイ・ローベルト、カレン・シュバイド。

 

そして彼らを教導するデルベルト・ロッジ。

 

レンネル基地は、カエデ・ガルダリアをはじめとしたスタッフたちが一同揃っている。

 

そして、フレデリックやロベルトたちと共に入室したダン・ムラクモ、レイラ・ストーム。

 

医務室に絶対安静と言われている面々にもミーティングアプリで接続し、この基地にいる全員がこれから先にことを考えていた。

 

「ソロモン諸島、レンネル基地から最も近いニューブリテン基地、ハワイ諸島のカイルア・コナ海上基地……北米大陸はもっと酷い」

 

モニターに表示されるのは太平洋を超えた先にある北米大陸。

 

その地図に表示された地球軍の軍事拠点の大半が赤い丸で塗りつぶされている。

 

「それぞれが地球軍の拠点であったが、その全てとの通信が途絶している。これが何を意味するかというと……状況は最悪ってことだな」

 

地球軍の総本山であるはずのロサンゼルス基地を含め、北米大陸のほぼ全域がV.L.Tの手中に落ちたことになる。

 

それも、たった一夜にしてだ。

 

それが可能になる程、V.L.Tの有する特A型とは別次元の存在なのだ。

 

その脅威はこの場にいる誰もが昨日の戦闘で体感している。並のパイロットでは手も足も出る前にやられて終わる。そんな戦力を有するV.L.Tが北米を落とした。

 

フレデリックにも、ロベルトにも、心のどこかで「ついにその時がきたか」という感覚もあった。

 

地球軍のV.L.T撃退のための戦線は大西洋にある「グレイライン」を突破できず停滞していたし、北米大陸の政治的な主導権争いも水面下で激化していた。

 

V.L.Tの脅威を北米から追い出してからそんな調子だ。組織の杜撰な体制。そんな中で、特A型による同時多発の奇襲を受けても文句は言えない

 

「……高高度監視ドローンでの映像も、五時間前に途絶えた。よって今の我々に他基地がどうなっているかを知る術もない」

 

映し出されたのは、ニューブリテン島基地の五時間前の映像。

 

炎の海と化した基地の中に佇むV.L.T特有の機体シルエットが映っていた。

 

この映像を見るだけでも、特A型による地球軍への同時拠点襲撃は見事に成功したのだろう。

 

ふと、視線を向ける。

 

訓練生の中でずば抜けて優秀であるテルリード、彼の幼馴染であるカイは表情をあまり変えなかったが……。

 

彼らと競うように絡んでいるカレンは明らかに動揺していた。

 

彼女の家は軍人の名家。

 

父親は南部最大の兵站拠点であるヒューストン前衛基地にいると聞いている。

 

そこも例外なく、特A型に奇襲を受けた。

 

その脅威と戦った経験から彼女が動揺するのも無理はなかった。

 

彼女の父の安否、ロサンゼルス総司令部の状況、その全ての状況を知る手立てすら、今の自分たちは持ち合わせていない。

 

つまり、命令を発する場所も、帰還する場所も無くなったのだ。

 

「さて、我々の今後の方針を説明するとしよう」

 

そう切り替えるようにフレデリックが言うと、火の海の画像を映し出していたメインモニターが暗転し、レンネル基地を中心とした3次元化の広域マップを表示し始めた。

 

「まず我々が抱える大きな問題は物資不足だ。ニューブリテン基地から送られる定期便が不通になったわけだからな」

 

輸送船ルートに×印が表示される。

 

ニューブリテン基地との連絡は一切取れていないし、あの基地がどういう状況になっているかも判断できない。

 

ニューブリテン島は、地球軍にとっては重要な資源採掘基地でもある。ハウンドアーマーの製造に必要なレアメタルをオーストラリア大陸の沖合から採取し、その抽出、加工を一手に引き受けている重要拠点だ。

 

そして同時に、この南側太平洋に点在する基地への物資供給拠点としても重要であった。

 

その基地から、定期船で物資の補給を受けてきたレンネル基地にとって、この現状は致命的とも言える。

 

「現在、我々はどの基地がどういう状態に陥っているのかもわからない状況だ。しかし、基地の物資も限られている。このままの状況では、我々は物資不足という兵糧攻めに合うばかりだ」

 

そこまで話をしたフレッドの表情はより険しいものに変わる。

 

「もっとまずいのは、昨夜の戦闘での状況確認だ。護衛任務として調査委員会に同行していた訓練隊のハウンド・アーマー、レイジングブルについては現存機2機。脚部をパージした機体が1機。これは部品取り用に使用されることになる」

 

さきほどまで、カエデを中心に破損したハウンドアーマーの修理やメンテナンスは続けられているが、その成果は芳しくない。

 

レンネル基地はもともと開発局があり、さまざまな部品は倉庫に保管されているが、ハウンドアーマーの大半は北米大陸のメーカーが製造していたものだ。

 

「ロッジ大尉のエンフィールドは健在だが、ムラクモ中尉とターレン大尉のレイブンアームズは大破。私の乗っていたアーマライトも両脚部を失い大破し、戦闘に耐えることはできない」

 

この基地にはそんな最新鋭の部品は在庫されていないし、第二世代前期のレイブンアームズ、アーマライトも言わずもがな。

 

第一世代機の部品で流用できるものを組み合わせているものの、万全の状態に持っていくことは不可能であった。

 

つまり、今万全の状態で動かせる希望がある機体はレイジングブル2機と、デルベルトのエンフィールドとなる。

 

「たった三機」のハウンドアーマーで敵が占拠した基地を奪還するなど……現実逃避もいいところだ。

 

それに、このレンネル基地には他の問題もある。

 

「……ダン・ムラクモ中尉とレイラ・ストーム少尉が搭乗した機体……Unknown01についてだ」

 

この基地が抱える唯一の人型機かつ、調査委員会が来るほどの厄ネタ。

 

ブリーフィングルームの端にいるダンは、なんとも言えない表情のままで……成り行きで乗り込んだレイラ・ストーム少尉は居心地が悪そうに、あたりに目を向けていた。

 

「機体名はボルガー。合体後の名称は……ボルテリガーとなるわけだが……」

 

なにせ情報がやばすぎる。

 

今後情報を出せと言われてもこうしか言えない。

 

「長年動いていなかった機体が突如として動きだし、その日に到着したばなりのダン・ムラクモ中尉、そしてナノマシン適性のないレイラ・ストーム少尉を乗せて、ハイパーゲートから現れた三機のモジュールと合体してボルテリガーになりました」

 

報告書を作成した者は精神鑑定を受けるよう促されること間違いなしだ。

 

「ロベルト司令官はボルガーについて何か知っていたのか?」

 

「あの機体は5年前、V.L.Tがハイパーゲートを通って現れた時。ソロモン諸島に落ちてきた機体だったねぇ……」

 

急に話を振られ、そう答えるロベルト。

 

フレデリックは、基地スタッフから渡されたデータを見つめる。

 

Unknown01。

 

そう呼ばれた機体は、その全てが謎に包まれた機体。

 

地球軍が保有するガルダリア・エンジンを完成させるきっかけとなった存在。

 

「このボルガーは何が目的で起動し、なぜムラクモ中尉とストーム少尉が動かせたのか。そしてボルテリガーとは何かを、我々は知る必要がある」

 

【そこから先については、私から説明をさせていただきます】

 

滑らかな口調と女性らしい声がブリーフィングルームに響き渡った。

 

会議室の扉が開いたが……人が入ってきた様子はない。視線を下に向けると、一台の搬送用ロボットが入ってきているのがわかった。丸いシルエットに、無軌道で動くタイヤがついたそれは、普段なら倉庫内で物資搬送で使用されているものだった。

 

「作業用ロボットがなぜここに?ここに入るプログラミングなんて……」

 

産業用ロボットの制御を担当していたカエデが戸惑った様子でそう呟くと、会議室に入ってきた搬送ロボットは、緑色のランプを明滅させながら電子音声を奏でた。

 

【すいません、私が一時的にこのロボットの制御権を取得しています。貴方たちとコミュニケーションを取るために】

 

ロボットから聞こえる言葉にしては、明らかに滑らかで……人間らしい声色。

 

ざわつく会議室の中で、ダンやレイラをボルガーに導いた存在……エーテリアスは、改めて挨拶をした。

 

【私の名はエーテリアス。貴方たちがV.L.T呼ぶ存在……ゼブロイドの1人。この世界の定義に合わせるなら……高位電子生命体、とでも呼ぶべき存在です】

 

 

 

 

【私たちも元は、貴方たちと同じ有機生命体でした】

 

エーテリアスから放たれたその言葉と同時に、会議室のプロジェクターがひとりでに起動した。

 

誰も操作していない。

 

だが、それを不自然だと思う余裕は、もう誰にも残されていなかった。

 

モニターに映し出されたのは、緑に覆われた一つの星だった。

 

地球に似ているようでいて、どこか決定的に違う。空の色、雲の流れ、大陸の輪郭。そのすべてが微妙に噛み合っていない。

 

見ているだけで、胸の奥に引っかかるような違和感があった。

 

【遠い昔、私たちの祖先は、貴方たちと同じ有機生命体でした】

 

その言葉に、会議室のあちこちで小さなざわめきが広がる。

 

俺自身も、驚きを隠せなかった。

 

当然だ。

 

こんな話、現実世界のボルトボックスでも聞いたことも見たこともない。キービジュアルや設定資料、作家の対談ですら触れられていない、完全な未知の領域だ。

 

フレッドや、主人公たちの動揺も無理はない。

 

敵だと思っていた存在が、人間と同じ出自だったなど、そう簡単に飲み込める話じゃない。

 

だが、エーテリアスはそんな空気など意に介さず、淡々と語りを続けた。

 

【ただ、ある時、劣化する有機体を脱却し、肉体から精神を解き放つ「解脱論」を提唱した科学者が現れました】

 

加齢により衰え、やがて死に至る肉体。

 

それは生命の発展を阻害し、種として存続していく上で大きな障害になる。その科学者はそう語り、多くの人々に訴えかけた。

 

【その技術は、肉体という物理的制約から解放されても、生命が存続できることを証明するものでした。私たちの祖先は、それに傾倒しました】

 

静かな声だが、その内容はあまりにも重い。

 

【肉体を捨てても自己は成立する……それは、不老不死という問いに対する、一つの答えだったのです】

 

その荒唐無稽な話に、フレッドが思わずこちらに視線を向けてくる。気持ちはわかるが、今は口を挟むべきではない。

 

腕を組んだまま動かない俺を見て、フレッドは肩をすくめ、再び前へと視線を戻した。

 

不老不死。

 

それは、人類にとって永遠に手の届かないテーマだ。

 

肉体を失っても自己を保てる。

 

そんな技術があると知れば、死という概念に怯える者たちが歓喜して飛びつくのも無理はない。

 

【しかし】

 

ほんのわずかに、エーテリアスの声の調子が落ちた気がした。

 

【祖先が「解脱論」に熱狂する中で……その科学者は、個々の意思こそが進歩の障害であると結論づけ……そして、肉体を失った精神を一つへと統合する計画を実行しました】

 

「……それは……」

 

誰かがそう言いかけて、再び言葉を失う。明かされる真実としては、その重さは尋常ではない。部屋が鉛で満たされたように重く感じられた。

 

【私たちの祖先は、強制的に一つの存在へと統合されました。それは個の消失に他なりません】

 

映像の星が、ゆっくりと変質していく。豊かな緑は失われ、代わりに均質な光の層のようなものが表面を覆い始めた。生命の多様性は消え、ただ一つの意思だけが支配する世界へと変わっていく。

 

肉体を捨てても個を保とうとしたはずの理論が、最後にはその個すら不要だと切り捨てる。

 

皮肉にしても、笑えない。

 

【膨大な生命が一つにまとめあげられたその存在は、やがて星そのものを覆い尽くし……生命の定義から逸脱しました】

 

エーテリアスの語る内容に、会議室の空気が重く沈んでいく。

 

だが、それでも終わりではなかった。

 

【一つになったその内部で……内戦が起こったのです】

 

まあ、当然だなと誰もがそんな顔をしていた。

 

無理やり一つにされるような真似をされたら、反発が生まれるのも無理はない。

 

【すべてと溶け合う“全”ではなく、個としての意思を持つ存在こそが尊ばれるべきだと】

 

ロベルト司令も、フレッドも、主人公たちも、誰一人として口を開かない。エーテリアスの語る言葉に引き込まれていた。

 

【長い戦いの末、すべてが一つだった存在は再び分離し……個として存在することを選びました】

 

【それが、我々……ゼブロイドという存在です】

 

全から個に。生き物としての絶対的存在になってから、再び個体という不完全な存在に回帰する。

 

話としてはできているが、それがV.L.Tの正体だとすると……重すぎる。

 

「ゼブロイドが……V.L.Tの正体だというのか?」

 

フレッドの確認するような声に、エーテリアスは静かに光を明滅させた。

 

【ええ。私たちは有機物の肉体を持たず……老いることもなく、永遠に自己と意識を保ち続ける存在です】

 

明かされたV.L.Tの正体に、誰も言葉を発することができなかった。

 

可能性として考えなかったわけじゃない。

 

だが、ここまでとは誰も想像していなかった。

 

ユーラシア大陸と欧州の大半を焼き払った存在が、意思を持ち、肉体を持たない生命体だなどと。その事実の重さは、あまりにも大きすぎた。

 

「君たちのような存在が……なぜ、我々を攻撃してきたんだ」

 

ようやく絞り出された疑問。それは、この場にいる誰もが抱いていたものだった。

 

エーテリアスは、しばらく沈黙したあと、ゆっくりと語り始める。

 

【個々の意思を取り戻したゼブロイドは繁栄しました。ですが……いつしか、有機生命体だった頃へ回帰したいという願いが広まりました】

 

【それを「回帰論」と呼びます】

 

その言葉に、俺はわずかに目を細める。

 

確か、昨日対峙した特A型V.L.T……ノクロスも口にしていた言葉だ。

 

【ですが本来、それは一つの思想に過ぎません。私たちに帰るべき肉体は存在しない。それは、過去の過ちを悔やむがゆえに生まれた、後悔の産物でした】

 

だが、とエーテリアスは続ける。

 

【その思想が、ゼブロイド全体で共有されたタイミングが悪すぎたのです】

 

「タイミング?」

 

【ええ。ある時、私たちは時空間の歪みを探知しました】

 

「時空の歪み……?」

 

エーテリアスは、見たこともない星間図を映し出し、ある一点を拡大する。そこには、空間そのものが歪んでいるとしか思えない光の乱れがあった。

 

「……ワームホール……」

 

思わず、口から漏れる。

 

【観測した私たちは、その歪みが規則性を持って発生していることを突き止めました。そして、その先に別次元の世界が存在することを観測したのです】

 

その言葉を聞いた瞬間、何かが繋がった気がした。

 

「……まさか」

 

そう思考が至るよりも先に、カエデさんが息を呑むように声を上げた。

 

「ハイパーゲートの起動実験……?」

 

それはひとつの可能性に過ぎない推察。だが、口をついて出たその言葉には確かな手応えがあった。エーテリアスはしばし沈黙し、やがて静かに応じる。

 

【その通りです】

 

迷いのない肯定だった。

 

【あなた方が作り上げたハイパーゲートの起動実験。それこそが、私たちの世界と貴方たちの世界が、ほんの一瞬だけ接続されたきっかけでした】

 

【それは、別の生命体が存在するという証明でした】

 

【回帰論に傾倒した者たちは、我々の電子体を格納できる有機の肉体を求め……侵略計画を立てました】

 

重苦しい沈黙が落ちる。

 

あまりにも身勝手で、あまりにも一方的な理由だった。

 

「エーテリアス……貴方も、回帰を望んでいるのかい?」

 

沈黙を破ったのはロベルト司令だった。低く抑えた声の奥に、わずかな警戒が滲んでいる。

 

【いいえ】

 

即答だった。

一切の迷いも、揺らぎもない。

 

【私は回帰論に反対です。ゼブロイドは、自らの意思で肉体を捨てて生まれた存在です】

 

その言葉には、自らの種族を語っているにもかかわらず、明確な棘があった。

 

【それを取り戻したいという理由で、有機体を望むなど……烏滸がましいにもほどがあります。違いませんか?】

 

それは、エーテリアスの矜持のようにも聞こえた。自分たちの犯した罪。それがたとえ過去であろうと、それを虚しいからといって、よその誰かから奪っていい理由にはならない。

 

自分たちのテリトリーで静かに生き、そして存続し続ける。それだけで良かったはずなのに、とエーテリアス自身の嘆きが聞こえるようだった。

 

【ですが……大多数のゼブロイドは回帰を選びました。ハイパーゲートが完全に接続された瞬間、この星への侵攻が開始されたのです】

 

それが、今の戦争の始まり。誰もが理解していた事実が、別の意味を帯びて重くのしかかる。

 

【私は、それを止めるためにこの世界へ来ました】

 

一拍の間。

 

【そして、一つの可能性を持ち込みました】

 

搬送ロボットのボディが、ゆっくりとこちらへ向く。

 

【V・ウェポン。ボルガー……そしてボルテリガー】

 

胸の奥が、わずかにざわついた。あの機体の名を、こうして改めて聞くだけで、鼓動が一瞬強くなる。

 

【これは、ゼブロイドが有機生命体だった頃に存在した兵器です】

 

「……ちょっと待って」

 

間髪入れず、カエデさんが口を挟んだ。

 

「それっておかしくない? あれは……あなたたちが作ったものじゃないの?」

 

鋭い指摘であり、俺も同じ違和感を覚えていた。

 

あの性能、あの構造。明らかに人類の技術体系から逸脱していて、そしてV.L.Tの技術に近い何かを感じた。

 

【いいえ。あれは、私たちが生み出したものではありません】

 

会議室の空気が、一瞬止まる。

 

【あれは、さらに以前、私たちの文明が成立するよりも前に存在していた……解脱論に熱狂する以前に作られた遺産です】

 

つまり、ボルガーはゼブロイドがまだ肉体を持っていたときに作られた……遥か過去に存在したものだという。

 

【しかし、V・ウェポンの構造、原理、そのすべてを完全に解析することはできていません】

 

明らかに既存の技術体系から逸脱した存在であり、ゼブロイドの技術をもってしても「なぜ動くのか」を証明できないレベルのものとなっていた。

 

【ですが、V・ウェポンの存在があったからこそ、ゼブロイドはここまで発展することができたともいえます】

 

「……どういうことだ?」

 

フレッドが低く問う。

 

【私はV・ウェポンの研究をしてきました。あれは単なる兵器ではありません。エネルギー制御、情報伝達、物質変換……あらゆる分野において、私たちの技術体系の基準となりました】

 

【言い換えれば、私たちの文明は、あれを模倣することで進化してきたのです】

 

ぞくり、と背筋に寒気が走る。

 

【しかし同時に、それは、私たちがいまだにその本質へ到達できていないことの証明でもあります】

 

誰も、言葉を発しなかった。

ただ一つ、確かなことだけが残る。

 

ボルガーは、ただの兵器じゃない。

 

そして、それを作った“何か”は、人間や、ゼブロイドすらも超えている。

 

【私は、回帰論を主張する者たちの目を盗み、ボルガーをこの世界に持ち出しました。これこそが、暴走するゼブロイドを止める最後の希望だからです】

 

「ボルガーは……ゼブロイドには使えない兵器だったのか?」

 

【有機体を持たない私たちでは動かすことはできません。素質を持つ有機生命体のみが扱うことができます】

 

そういうと、エーテリアスが宿る搬送ロボットは、俺とストーム少尉へその体を向けた。

 

【ダン・ムラクモ、そしてレイラ・ストーム】

 

名を呼ばれ、反射的に背筋が伸びる。

 

【貴方たちが、その適合者です】

 

隣にいるストーム少尉が、小さく息を呑む音が聞こえた。

 

【私は長い間、適合者を探していました。同時に、回帰論に傾倒した同族に対抗するための行動も続けてきました】

 

そう言うと、エーテリアスは再び搬送ロボットのボディを反転させ、今度はカエデの方へと体を向けた。

 

【カエデ・ガルダリア。貴方も素質を持つ者の一人です】

 

「え……」

 

カエデさんの肩が、わずかに震える。

 

【この地に来た貴女に接触し、私が持つ基礎理論を貴方に送りました。その結果、生まれたのが……ガルダリア・エンジンです】

 

 

その言葉は、カエデにとって決定的な意味を持っていた。

 

この島に墜落したボルガーを目にした瞬間。

まるで稲妻に打たれたかのように、彼女の中に流れ込んできた知識。

 

存在しないはずの機械工学、未知の理論。それらは偶然ではなく……エーテリアスによって与えられたものだった。

 

突然与えられた知識は、彼女に力をもたらした。

 

同時に、それは苦しみでもあった。

 

理解できるはずのないものを理解してしまう違和感や、生み出してしまったものに対する恐怖と、それによって人が死ぬ現実の重み。

 

たしかに、その重みに潰されそうになった。

 

けれど、それでも戦うと言ってくれた人がいてくれたから。

 

 

……なんだ?

 

カエデさんの様子が、おかしい。

ただ驚いてるって感じじゃない。

 

もっとこう、引っかかってるような、そんな顔だ。

 

カエデさんは視線を落とし、しばらく動かない。何かを考えているのか、それとも思い出しているのか。

 

その指先が、わずかに強く握られているのが見えた。

 

しばらくして、彼女が顔を上げた。

その視線が、まっすぐ俺に向く。

 

「……」

 

なんだよ、その顔。

思わず首を傾げる。

 

するとカエデは、小さく息を吐いて、ほんの少しだけ笑った。

 

区切りをつけたみたいな、そんな笑い方だった。

そして、エーテリアスへと向き直る。

 

「……そうだったのね」

 

かすれるような声だった。理解と、戸惑いと、そして納得。すべてが混ざったような響きだった。

 

【しかし……回帰論に傾倒した者たちも、この世界の有機体との融合を試みました】

 

嫌な予感が、背筋をなぞる。

 

【人体実験を行い、脳へ干渉するナノマシンを開発したのです】

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ……そんな荒唐無稽な話……」

 

思わず口を挟んだフレッドの声は、明らかに動揺していた。

 

【第二世代後期型ハウンドアーマー、レイジングブル】

 

ぴたりと、言葉が止まる。

 

【それを開発したトーラス研究所。その所員……あるいは上層部の人間の中に、V.L.Tから知識の提供を受けた存在がいるのでしょう】

 

「……じゃあ、ナノマシンを投与された者は……V.L.Tに乗っ取られるのか……?」

 

【それはありません】

 

即座の否定。

はっきりと、断ち切るような声だった。

 

【ナノマシンでは、ゼブロイドは有機体へ回帰することはできませんでした】

 

【結果として、この世界で肉体を得ることはできなかったのです】

 

空気が、わずかに緩む。

 

だが、不気味さはまるで消えていなかった。

 

【以上が、私からお話しできるすべてです】

 

静寂が落ちる。

 

誰も、すぐには言葉を発せなかった。

 

それは、そうだろう。

 

一度で聞いて理解するのも、それに納得するにも時間がかかる。

 

【この世界では……】

 

ハッと顔をエーテリアスに向ける。

 

「ムラクモ中尉?」

 

隣にいるストーム少尉が不思議そうに俺を見ていた。さっきのエーテリアスの言葉……聞こえていないのか?

 

エーテリアスは何も答えず、ただじっと俺の方にその体を向けていた。

 

……この世界では。

 

まるで、それ以外が存在するかのような言い方であり……俺には心当たりがありすぎる言葉だった。

 

俺は、この世界がゲームの世界であるということを知っている……転生者だ。

 

エーテリアスは、それを知っている?

 

俺がこの世界に来ることになった理由も……まだ語っていない真実もあるのか?

 

その疑問は尽きることはなかった。

 

 

 

 

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