リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
ニューブリテン基地。
それは、ボルトボックスのメインストーリーで避けては通れない地点のひとつだ。
主人公たちが逃げ込んだレンネル島は、ソロモン諸島にある小さな島だ。プロローグで世界各拠点がV.L.Tの同時多発奇襲を受け、資材の供給源であったニューブリテン基地からの供給も絶たれている。
資材や食糧備蓄を考えると、基地を奪還するか、それとも資材があると考えられるユーラシア大陸方面に向かうかの二択を取るしかない。
メインストーリーの表ルート、裏ルートでも触れられるこの基地は、それぞれのルート上での役割も異なる。
ユーラシア大陸を横断し、欧州に向かう表ルートでは、南太平洋を横断するための軍艦を調達する際に、ニューブリテン基地は序盤の難所として登場する。
プレイヤーが初めて特A型V.L.Tに遭遇する舞台装置として配置されている。
ニューブリテン基地に隣接するニューアイルランド島には、奇襲をかけてきたV.L.Tの勢力から逃れたパイロットや兵士たちが、必死に抵抗を続けていた。
主人公たちもその抵抗に加勢すると伝えるが……。
「若い奴らに俺たちの尻拭いをさせるわけにはいかんよ!」
「行け、お前たちにはこの先で頑張ってもらわなきゃならない!」
訓練生部隊であった主人公たちを、彼らは受け入れず、先に進むように指示する。
主人公たちをユーラシア方面へ向かわせるため、命懸けでニューブリテン基地の特A型V.L.Tに抵抗し、その命を散らしていくというストーリーが展開される。
地球軍の上層部は腐っているが、現場で戦う兵士たちの矜持や在り方を示す展開でありながら、特A型V.L.Tとの圧倒的な戦力差を思い知らされ、同時に特A型V.L.Tへのヘイトを溜めるシーンとしても重要な役目を果たしている。
そして裏ルート。
ユーラシアを横断し、欧州のV.L.Tを撃破したプレイヤーは、表ルートで得たハウンドアーマーや武器を手に、満を持してニューブリテン基地にいる特A型V.L.Tと死闘を繰り広げることになる。
この時、ニューアイルランド島にいる仲間たちは驚愕の声を上げる。
「なんだ、あの訓練生は!?」
「特A型と正面からやり合っている……!なんて戦いだ!」
「訓練生だけにやらせるな!俺たちも援護する!若い奴をこれ以上死なせちゃいかん!」
そう言って、特A型V.L.Tと戦う主人公たちを援護するため、彼らもまた死地に飛び込むという胸熱シーンがある。
表ルートでは、逃げるため。
裏ルートでは、戦うため。
それぞれのルートで重要な役目を持つこの基地。
その造形もかなりこだわって作られている。
ニューブリテン基地は、オーストラリア北東、ソロモン海域にあるビスマルク諸島最大の火山島だ。
細長く形成されたその島の中央には活火山帯が連なり、東西の移動は山岳によって分断されている。
そのため、人も物資も戦力も、島南部……ニューアイルランド島との海峡付近の沿岸部に集約される構造となっていた。
ニューブリテン島南部に位置するラバウル、ココポ一帯は、天然の良港と広い平野を併せ持つ数少ない場所だ。
海峡部は外洋に面しながらも波は穏やかであり、大型艦の接岸が可能。さらに内陸へわずかに入れば、機甲部隊の展開に適した平地が広がる。
地球軍はここに拠点を築いていた。
ココポ南西に広がる緩やかな高原地帯には、ハウンドアーマー機甲師団の駐屯地。
補給を担うサウス・ブランチ軍港。
それらを統括するラカル地下指揮中枢区。
そして、それら軍事施設を支える企業群、オーストラリア海域で採取されるレアメタルの抽出・加工施設、工場群、さらにそれらの稼働に必要な一般市民も居住するという一大拠点である。
ニューブリテン基地は、南方戦域における兵站と指揮の要。いわば心臓部であった。
▼
深夜。
衝撃的なエーテリアスの告白と今後の方針についての話し合いの後、俺は1人、ニューブリテン基地に関する資料と三次元地図を眺めていた。
通信は依然として回復せず、救援要請も戦闘記録も、何一つ届いていない。
ぶっちゃけ、今はかなりまずい状況だ。
ゼブロイドやエーテリアスの話もそうなのだが……ニューブリテン基地をどうにかしないと、いろいろと詰む可能性がある。
ゲームでも主人公たちは、ユーラシアに行くにしろ、ニューブリテン基地にいる特A型をぶち倒すにしろ、早々に決断を下していた。
理由は単純で、それは時間にあった。
時間が過ぎれば備蓄は先細り、できることがどんどん限られてくる。
それに、ニューブリテン基地から脱出した者たちのこともある。放っておけばV.L.Tの手勢に蹂躙され、壊滅させられる。
そうなればどうなるか?
ニューブリテン基地を迂回するにしろ、奪還するにしろ、その難易度は加速度的に高まっていくのだ。
俺にその決断ができる裁量権があれば早々にやるのだが……これまで特に何も思っていなかった万年中尉という肩書きが、今になって煩わしく思う。
こうなるのなら、「誰かさん」が言うように上に行くのも、選択肢の一つだったのかもしれんなぁ。
「なにやってんですか、隊長」
そんなことを考えながら、キャンプ用のステンレスマグカップに入れたコーヒーを煽っていると、部屋の入り口からそう声をかけられた。
振り返ると、いつも着ている少佐を示す軍服の上着を脱ぎ、雑にエネルギーバーをもぐもぐ食べているフレッドが立っていた。
「隊長。いつもこうやって、夜に1人で作戦予定地の地図を見てましたよね。昔から全然変わってないですよ」
そうだっけ?そうだったわ。
たしかトリプルゼロのテストで5人を死ぬ気で守りながら突破した後、こうやっていつも次の作戦の内容や地形を頭に叩き込んでたっけな。
「まぁ、そうは言うがな。こっちも結構マジでやらないとやばいぞ。今そうやって食べてるエネルギーバーも、備蓄量を考えたらあと1ヶ月持つかも怪しいんだ」
ちなみに一番人気のフルーツ味は持って二週間。一番不人気なサラミ味は持って1ヶ月半くらいである。食糧管理担当のスタッフが泣きそうな顔でそう報告したのをよく覚えている。
「その時は、近くの港で釣りでもしますよ。ここは結構入江があるので魚資源は豊富だよ」
ふと、また入り口から声がして、俺とフレッドもそちらに目を向けると、そこにはこのレンネル基地の司令官、ロベルト・アレキサンダー大佐がいた。
思わず俺もフレッドも敬礼すると、彼は穏やかな笑みを浮かべたまま両手を上げて、俺たちの敬礼を制する。
「そんなに畏まらなくていいよ。フレデリック少佐と同じ態度で構わないからさ」
「いや、そうは言っても中尉ですよ?俺」
「僕はね。そう言って前線で仲間を守って戦い続けている貴方を尊敬してるんですよ。ムラクモ中尉」
そう言う彼の目には、嘘偽りはなかった。
ロベルト・アレキサンダー大佐。
その名はゲームには登場しない。メインストーリーでのレンネル基地は破壊されている。その時にこの人も……亡くなっているのだから。
彼の経歴については、あらかた説明を受けた。元環太平洋防衛艦隊の護衛艦「ラッキーヤード」の艦長を務めた人物であり、そしてV.L.Tのユーラシア侵攻時に生き残った人でもあった。
そのことを思い返しているのか、ロベルトの顔は初めて会った時……取り寄せた雑誌を見ながら咥えタバコをしていた頃とは想像できない顔になっていた。
「……僕はね。何も守れなかった。だから諦めたんですよ、全部」
「アレキサンダー大佐……」
「ロベルトで構わないよ。畏まるのは形式上、必要な時だけでいい」
そう言ってくれるロベルトは握手の手を伸ばす。俺も笑みを浮かべて頷き、差し出してくれたロベルトの手を握り返した。
「で?ニューブリテン島の地図を見て、今度は何をアホなことを考えてるんですか?」
話を切り替える。フレッドは俺が眺めていたニューブリテン基地の地図をチラリと見て、何かを察した様子だった。
「わかるか?」
「隊長のことはおおよそ」
アホなことと堂々と言ってのけるフレッド。
ほんと強くなったよなぁ、お前。
ノルマンディー反攻作戦の時なんて、何かやるたびに「今度こそ死んじゃいますよぉ!」とか、「死ぬ゛か゛ど思っ゛た゛」と泣き叫んでたのに。
立場が人を強くするっていうアレなのかな。
さて、フレッドの言うことはおおよそ当たりである。
俺はステンレスマグカップを手に取り、ニューブリテン基地の地図を眺めながら2人に聞いた。
「フレッド、ロベルト。2人ならこの島、どう攻める?」
「……それはどう奪還するかって話じゃないんですか?」
フレッドの素朴な問い。
うん、いい質問だ。
しかし、それはニューブリテン基地の状況がはっきりとわかっているから言えることだ。
まぁゲーム知識でその状況については把握できているけど、それが今の状況とイコールとは考えにくい。
だからこそ、この島を攻めるならどうするかという思考実験が必要なのだ。
「……そうですね。本島南部にあるココポおよびラバウル周辺は、比較的広い平野と天然の良港を有しているから、基地も要衝も、ここに集約されているね」
先に話を切り出したロベルトは、三次元地図を操作して島全体を見渡す。
ニューブリテン自体、オーストラリア海域北東に位置する細長い火山島。
南北を海に挟まれた険しい山岳地帯と、沿岸部の平地によって構成されている。
「ニューアイルランド島との海峡に位置する南部の沿岸部の拠点が、戦略上の要衝になっている」
事実、地球軍はこの地形を活かして大規模な軍事拠点を形成していた。
「ココポ南西に広がる緩やかな高原地帯は、視界が開けた平地であり、大規模な機甲戦力の展開・運用に適している点も手伝って、ハウンドアーマー機甲師団が常駐するにはうってつけだ」
「ラバウルより南方約40kmにはサウス・ブランチ軍港があります。ここは外洋に面しながらも波浪の影響が少なく、大型輸送艦および補給艦の接岸が可能な天然港ですね」
そうやって出そろった情報を整理すると、見えてくる答えがある。
ニューブリテン基地の性質は、V.L.Tへの攻勢を仕掛ける積極的なものではなく、地球軍の物資、ハウンドアーマーの原材料などを確保する後方支援基地という側面が非常に強い。
そのため、堅牢で攻略が難しい基地というよりも、物資輸送に特化したアクセスのしやすい基地という性質が強く出ている。
故に、攻略方法もおのずと流れが決まってくる。
2人は顔を見合わせてから言葉を続けた。
「攻めるとしたら、まずはココポ南西にある高原演習域に展開していたハウンドアーマー機甲師団を急襲し、迎撃戦力を分断し、無力化します」
「同時に、抵抗の可能性がある拠点にはC型ユニットを大量投入、面制圧を実施」
「並行して、ラバウル南東内陸部に設置されたラカル地下指揮中枢区には、特A型による精密打撃を行い、指揮系統を崩壊させる。この電撃戦で各部隊は統制を失い、戦線は短時間で瓦解しますね」
まるで示し合わせたかのような戦略であるが、この地形を整理すれば最適解はそれとなく定まってくる。
「おそらくそれが短期で制圧するには一番の方法だろう。なら、脱出した兵や撤退したハウンドアーマーはどこに向かう?」
「ニューアイルランド島ですね。ラバウルのすぐ北東にある上に、海峡を挟んで距離が近い。小規模船でも渡れる距離ですから……。けど、あくまで可能性ですよ?」
俺の言葉にフレッドはそう答える。状況が把握できない以上、友軍が撤退してニューアイルランド島に立てこもっているという予測に確証はない。
けれど、その予測の精度は状況証拠で上げることはできる。
「ロベルト。通信途絶から今まで、レンネル島近辺に敵影はあるか?」
「沖合のソナーブイやレーダーよる監視結果では穏やかなものだね。敵の影は……あぁ、なるほど」
そこまで言って気づく彼も、かなり優秀な指揮官だ。護衛艦の艦長という経歴は伊達ではない。そしてロベルトの言葉でフレッドも気づいたようだ。
「ニューブリテン基地を短期で押さえたなら、敵はすぐに他の補給基地や後衛基地にも襲撃をかけるはずだ。しかし、このレンネル島には丸一日経っても敵は来ていない」
「ニューアイルランドに撤退した部隊が蓋をしているということですか」
「おそらくな。しかし、これは時間との戦いだ。ニューアイルランド島に残存兵力が撤退し、抵抗しているのなら、それがやられると次は俺たちになる」
フレッドも考えるように唸る。
今、レンネル基地に敵が近づいている様子はないが、おそらくニューアイルランドの友軍が落ちれば、敵は一気にこちらに流れ込んでくるだろう。
「エネルギーバーが無くなる前に、必要なくなってしまいますね」
軽い口調でロベルトは言うが、その時は基地にいる俺たちもこの世からおさらばしているだろう。
「だから、俺たちも攻勢に出る。ここで手をこまねいていても、待っているのは破滅だからな」
ことは刻々と変化している。こうしている間にもニューアイルランド島にいる友軍が消耗していて、こちらが勝てる要素がどんどん減っているのだから。
「しかし隊長……どうするつもりですか? こちらにあるのは3機のハウンドアーマー……しかも2機はナノマシンがないと動かないんですよ?」
フレッドの言いたいことはわかる。
それはつまり、敵の正確な数や配置もわからない状況の中へ、訓練生であるテルリード、カイ、カレンのうち、2人を連れていくことになるということだ。
訓練生である3人にはかなりきついことになるのは明白だ。生きて戻れる保証なんてものもない。
だからこそ、俺は有利なうちに手を進めることを話した。
「3機だけじゃないさ。この基地にある戦力はな」
「それってどういう……まさか?」
嫌な予感がするのか、顔をしかめるフレッド。ロベルトはおおかた予想できたのか、肩をすくめた。
「そのまさかだろうね」
「やっぱりアホな隊長の考えることはアホだった……」
そう頭を抱えるフレッド。その姿を見るのも久しぶりな気がしたが、本当にそういうところは変わってないよな。
ただし、方針は変えない。
「この基地にある使えるものは、全部使う。出し惜しみはなしだ」
たとえそれが、敵からもたらされた存在であったとしてもだ。