リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第21話 戦地、上陸

 

 

Coordinates: 5.95°S, 151.95°E

 

ニューブリテン島 南東沖の海上。

 

21:53.25。

 

 

 

 

 

 

その日のソロモン海域の天気は晴天。

 

ただし、海はあまり穏やかではない。

 

ソロモン海域は、常にうねりがある海域だ。波高は1.5M程度であるが、貿易風がほぼ常時吹いてる状況。

 

そんな中を、機体の存在を示す照明装置を全てオフにしたフライテールが飛んでいた。

 

フライテールはグラマン・フライヤー社が手がけた世界初のハウンドアーマー輸送機だ。

 

もともとは貨物輸送機を開発、製造していたメーカーであったが、V.L.Tの襲来と、ハウンドアーマー開発の空気感をいち早く察知した同社は、ハウンドアーマー向けの輸送機開発に着手し、同社の大型貨物飛行機、テールマンをベースに積載量の強化、ハウンドアーマー降下用の下部ハッチの取り付け、短距離滑走路でも離着陸できるエンジンと翼を組み合わせた。

 

そして、のちにハウンドアーマー用に開発される水上滑走用オプション「フロートサンダル」のプロトタイプを搭載した結果、フライテールは水上着陸も可能な万能輸送機としてロールアウトした。

 

当時ではその破格の性能から多くの戦場で採用されたが、後継機や他メーカーの類似品の競争もあったこと。そして前期生産型の退役もあって、一機のフライテールはレンネル基地に配備されるに至った。

 

当時は退役した在庫機を押し付けられたと基地の全員が思っていたが、それがまさかこんな形で役に立つとは予測もしていなかったようだ。

 

「トランスポートリーダーより各機」

 

フライテールの操縦機能は、今回の部隊の実質的な指揮官となったデルベルトが担っていた。

 

彼からの通信に全員が耳を傾ける。

 

「目標エリアに接近中。距離31マイル。レーダー高度200フィート、キープ。ETA(到着予定時間)約6分」

 

超近距離で用いる接触回線。

 

ハウンドアーマー同士が微弱な電磁パルスを送受信することで機体間の通信を可能にするそれを聞きながら、バイタルスーツの対G機能と衝撃緩和装置を起動し、首元の操作スイッチでVRヘルメットの透過モードを切った。

 

バイタルスーツ。

 

それはハウンドアーマーのパイロット用に設計された専用戦闘服だ。

 

粘り強く衝撃を吸収する素材で構成され、防爆性と防刃性に優れる。

 

太ももと腰部には、戦闘機動時にパイロットへかかる負担を軽減する補助機器が組み込まれていた。

 

ヘルメットにはVR機能が備わっている。

 

通常時は透過モードを有効にすることで、透明な強化プラスチック製バイザーとして扱える。

 

だが、ハウンドアーマー起動中は外界を直接見ることはない。

 

視界は完全に遮断され、赤外線センサーや外部カメラが捉えた機体周辺の情報がVR映像として投影される。

 

要するに、バイタルスーツは機密兵装ではない。

あくまでパイロットの生存性を少しでも引き上げるための装備にすぎない。

 

もっとも、V.L.Tを相手にする戦場では、そんなちっぽけな備えなど、役に立たないこともしばしばあった

 

「これ以上下げられないんですか?見つかったらやばいわよ」

 

「無理だ。海が荒れていて、これ以上下げれば波に捕まる」

 

デルベルトのエンフィールドを先頭に、縦一列にフライテールに懸架されたハウンドアーマーは全部で四機。

 

デルベルト機の後ろにいるテルリード、そしてもっと低く飛んだほうがいいと意見を言ったカレンのレイジングブル二機。

 

そして最後尾は俺とストーム少尉が乗るボルガーだった。

 

「方位3-0-5、距離18マイル。構造物。ビジュアル(目視確認)……ワイド湾の旧軍港跡地だ」

 

ボルガーにはVR機能はない。その代わりに半天周囲型モニターがコクピットに備わっている。

 

VRヘルメットを透過バイザーモードにし、デルベルトが言った目標ポイントを見つめる。

 

「トランスポートリーダー。敵影はあるか?」

 

「敵影はなし。バルルメア山稜にもいない。どうやらニューアイルランドで抵抗している友軍にかかりきりのようだ」

 

「ひとまず、ひとつ目の賭けには勝ったな」

 

ふぅ、と通信機越しに誰かの吐息が聞こえる。ここまでくれば水際で撃墜される可能性はかなり低くなる。

 

もう少し遅ければ、バルルメア山稜にB型が配置されていてもおかしくはなかった。V.L.Tも逃げ延びて抵抗している地球軍の相手に必死になっているのだろう。

 

その友軍を助けるためにも、こちらも急がなくてはならない。

 

「予定通りNOE(低空飛行)で進行中。速度維持。ターゲット・イン・ビジュアル。快適な空の旅は終わりだ。降下フェーズに移行する」

 

フライテールはわずかに上昇。海岸線を突破し、機体は島の上空へと差し掛かる。バルルメア山稜の奥で何かが光る輪郭が見えた。島の北部に位置するラバウルはいまだに戦闘状況が継続しているらしい。

 

「トランスポートリーダーより各機。ドロップまで90秒。各員、ドロップ準備」

 

デルベルトの言葉の直後、機体下部のハッチが開く。風が引き裂かれる音とともに、眼下にはワイド湾にあった旧時代の軍港、そして軍港を起点に栄えたカウバデムキ旧基地の跡が見える。

 

だが着地点はもっと北側。俺たちはバルルメア山稜の森林へと向かっている。

 

「スタンバイカウント、10、9、8……」

 

ふと、背後からかすかに息遣いが聞こえる。ストーム少尉の握るコントロールグリップが、微かに震えているのがわかった。

 

俺はあえて何も言わずに降下準備に入る。ここで慰めなければ戦えないのなら、残念だが戦闘中には何もできないことになるのだから。

 

「3、2、ドロップ……ナウ」

 

ガシャンとホールドされた懸架機が外れ、デルベルトのエンフィールド、テルリードとカレンのレイジングブル、そして最後に俺たちのボルガーがフライテールから分離して眼下の森林へと降下する。

 

ふわりと落下にさらされる肉体。内臓が入れ替わるような感覚に、ストーム少尉の息を飲む音が聞こえた。

 

わずかにスラスターを駆動させて位置を調整。

 

「フライテール、リモートオペレーションへ移行。方位0-4-5へ」

 

デルベルトの設定を最後に受け継いだフライテールは、そのまま下部ハッチを閉め、機体を旋回させて沿岸部に倣うように飛んでいくのが見えた。

 

四機はリズミカルな感覚で森林の中へと着地。

 

バイタルスーツの対G機能と補助機器が十分に機能し、着地時の衝撃はほとんど感じられなかった。

 

「ちょっと。飛んでいっちゃうけどいいの?」

 

旋回して飛んでいくフライテールを眺めながらカレンは言う。その言葉には俺が通信で応じた。

 

「帰りの燃料はない。あれは片道切符だ。捨てるにはもったいないから使う」

 

「使う?」

 

「囮だ。あいつをラバウルに流す。V.L.Tは必ず食いつく」

 

このやり方は昔からよくやっている方法だ。

 

フライテールの操縦はハウンドアーマーと連携させることができるというメリットを活かした陽動作戦。

 

飛んでいるものをとにかく撃ち落とすB型にしたら、格好の的であり……そして目を離してはいけないものになる。

 

だからよく使う手だった。とくにひしめいている敵に対する突破口を開くときの効果は絶大だ。

 

「それに撃ち落とされたフライテールが、友軍への合図ってわけですね。気付きますか?」

 

デルベルトの言葉に、俺は機体を緩やかに移動させながら応える。

 

「どうだろうな。それは運だ」

 

「頼りないわねぇ。それにそれで私たちがこっちに来てるのバレたらどうすんのよ」

 

「安心しろ。フライテールが落とされる頃には、俺たちは敵陣に突入してる」

 

あの輸送機の目的は、ニューアイルランドにいる友軍に背面から強襲を仕掛ける自分たちの存在証明だ。

 

俺たちが敵陣に攻め込んだタイミングで友軍が気付けば、ニューブリテン基地にいるV.L.T勢力を北と南側から挟み撃ちにすることができる。

 

「それを聞いて安心したわ」

 

「おしゃべりはここまでだ。まずは山稜を越えるぞ。ムラクモ中尉、頼みます」

 

「了解しました。あと俺に敬語は使わなくていいですよ、ロッジ大尉。階級はそっちが上なんですから」

 

「関係ありません。俺にとってあなたは尊敬するパイロットですから」

 

「……わかった。ひとまずタッチダウンポイントまで前進。なお、この後の無線の使用は禁止だ。次に喋れるのはバルルメア山稜を超えたあたりだ」

 

それだけ伝えると俺は無線機を切って小さく息を吐く。

 

あー、もう、やりづらいったらありゃしない。

 

「ストーム少尉、大丈夫か?」

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

肩を揺らしがなら困惑気味にそう応える彼女。その様子は明らかに戦闘に緊張している心配のそれだった。

 

バルルメア山稜の森林は鬱蒼としてあるが通れないほどではない。ボルガーはガルダリア・ドライブからもたらされるエネルギーを元にホバー移動し、後続に続くデルベルト、テルリード、カレンのハウンドアーマーも問題なくついてきているのが見えた。

 

やはり、上手いものだ。

 

操縦にまったくムラや迷いがない。

 

タッチダウンポイントまでは40キロ。

 

過ぎ去っていく木々を眺めながら、俺はストーム少尉の緊張をほぐすことにした。

 

「緊張してるか?まだ作戦エリアまで距離はある。今から張り詰めていたら持たないぞ?」

 

【それに、この機体ならそう容易く落ちることもありません】

 

自信満々の説明どうも。

 

すこし不満げなエーテリアスは、もともとこの作戦には反対で、やるならV.L.Tと同じく敵の主力がある地点に上空から接近して撃滅すればいいと言っていた。

 

そんなことをすればB型に狙い撃ちにされるし、相手には特A型V.L.Tがいる。あまりにも無茶苦茶すぎる。

 

そういえばエーテリアスは決まって言うのだ。

 

【ボルテリガーになれば問題ありません】と。

 

……俺個人としては、あまりそれに過剰な信頼を置きたくはない。

 

強い力を手にして、それに傾倒すれば、その力が通じないときに戸惑う。

 

そうやって俺は負けたこともあるし、それから抜け出せずに悩み、迷ったこともあったのだから。

 

「あの、緊張っていうか……なんというか」

 

ふと、思考の底に沈みかけていた意識を引き上げるように、ストーム少尉がぽつりと呟いた。

 

その声は小さく、しかしはっきりと震えていた。

 

「私、ずっとこうやって、前に出て戦うことを考えてて。ハウンドアーマーに乗って……お姉ちゃんみたいに……V.L.Tと戦うって……お姉ちゃんみたいになりたいって」

 

言葉を紡ぐたびに、呼吸が浅くなる。視線は前方を向いたまま、だが焦点はどこにも合っていない。

 

「で、でも、前に出て戦うのって……すごく怖くて……なんでこんなに怖いのに憧れたんだろうって……でも、お姉ちゃんみたいになりたいっていう気持ちが……一緒にあって……」

 

操縦桿を握る手に、力がこもる。バイタルスーツのグローブ越しでも分かるほど、その震えは隠しきれていなかった。

 

「あ、逃げたいとか!嫌とか!そんなんじゃないんですよ!?でも、なんというか……戸惑ってるというか……」

 

言い切るように言葉を重ねたあと、彼女は小さく息を吐いた。その様子は、恐怖だとか怖いとかいうよりも、自分自身の中に渦巻いていて、押し込めていた感情に戸惑っているようにも見えた。

 

そして、その矛盾を抱える気持ちには、俺にも思い当たるところはあった。

 

「……わかるよ。その気持ち。俺も何度も思ったことがある」

 

短く答える。

 

その言葉に、ストーム少尉はどこか驚いているようだった。

 

「ムラクモ中尉も……ですか?」

 

「ああ」

 

一拍置いて、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「最前線にいて、仲間を守るために必死に戦ってきた。……けどな、最初の頃は、なんで戦ってるんだろうって思うことも何度もあったよ」

 

なんで命をかけてるんだって。

 

この世界……ボルトボックスは、フィクションの世界だった。

 

最初は死ぬのが嫌だったし、知っていて、死んでほしくないキャラクターが現実の世界にいるように思えて。

 

その結末を知っているからこそ、必死に戦ってきた。

 

けど、北米の前線に送られてからは、そんな思いはどこかに行ってしまった。

 

知っている奴は後方に行き、俺1人が戦場に残った。戦う意味がわからないまま、けれど戦うことを必要される状況が続いて……どこか、狂いそうな何かを抱えていたと思う。

 

「ムラクモ中尉は……なんで戦うんですか」

 

彼女の問い。その頃の俺は、機械的に本心のない言葉で誤魔化していただろう。自分の置かれた状況に流されていたゆえに出る重みもない薄っぺらい言葉。

 

でも、今は……。

 

俺は少しだけ間を置いて、答える。

 

「仲間がいるからさ」

 

あの狂いそうな戦いの中で、俺は新しい仲間と出会った。

 

ゲームの中では、名前も、過去も、ただのデータだった存在。

 

だが戦場で出会った仲間には、顔があり、声があり……帰りたい場所があった。

 

守りたい誰かがいた。

 

生きて帰る理由が、確かにあった。

 

ただゲームが好きなだけの男だった俺に……偶然助けた誰かからの感謝と、信頼と、期待が向けられた。

 

その重みは、逃げられないほどに現実だった。

 

「こんな俺を信じてついてきてくれる仲間がいた。だから……そいつらを死なせたくない」

 

余計なものは削ぎ落として、本音だけを残す。

 

俺にとって、もうゲームとか、現実とか、そんなものはどうでもいい。

 

共に戦場を駆け抜け、共に戦い、共に飯を食い、笑い、支えてきた仲間がいてくれるから。

 

俺は自分の中にある狂いそうなものを抱えたまま戦うことができる。

 

「そいつらが信じてくれた俺であり続けるために、戦ってる」

 

静かに言い切る。

 

「そこから戦うことに迷うことがなくなったんだ」

 

まっすぐ前を向く。

木々が流れ、影がコクピットをかすめていく。

 

ストーム少尉の顔は見えない。

 

やがて、少尉の声が少しだけ沈んで返ってくる。

 

「やっぱり、私は……違うんだなぁ……」

 

まるで溢れた水のような声色だった。

 

「ストーム少尉?」

 

「レイラ」

 

俺の問いにかぶせるように、彼女は言った。

 

「私のことはレイラって呼んでください」

 

突然の名前の要求に、思わず聞き返す。

 

「どうした急に」

 

彼女は、さっきまでとは違う、はっきりとした声で答えた。

 

「一緒にこうしてボルガーに乗ってるんです。私はムラクモ中尉のパートナーなんですから」

 

その言葉はどこか強がりで。

それでも確かに覚悟が混じっていた。

 

思わず苦笑が漏れる。

 

「リンに聞かれたら、すごい怒られそうだな」

 

「……あの人なんて別に……いや、どうだろう……」

 

一瞬の間。

 

「めちゃくちゃ怖いかも」

 

思わず吹き出しそうになるのを堪えた。

 

だがその軽口のおかげで、さっきまで張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。

 

三機のハウンドアーマーとボルガーは、山と森の中を進む。

 

目的の場所は、もう目の前だった。

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