リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
カレン・シュバイド。
彼女の生まれは欧州であり、その家系の源流はとある王族に仕えた誉高き騎士の血に連なり、代々軍事面に功績を残してきた一族であった。
しかしハイパーリンク建造から三十年。
人類は繁栄の時代にあり、戦乱の時代ではない。
そして、女性の軍属は求められていない。
そもそも国家間の争いが激減したことから、各国も軍縮を進め、職業軍人の成り手も少なくなっていた。
カレンもまた例外ではない。
女性であることから、幼少期は軍属に就くことなく、淑女として育てられるはずだった。
転機となったのは五年前。
ハイパーゲートを通ってきたV.L.Tの侵攻によって、すべてが変わった。
親族の多くが死んだ。
カレンの両親は辛うじて北米へと逃れることができたが、住んでいた欧州はV.L.Tの手に落ちた。
パイロットであった父は、目立った戦果こそなかったものの、その適性から新型兵器「ハウンドアーマー」のテストパイロットに抜擢される。
プロトハウンドアーマー「トリプルゼロ」。
それに乗り込んだ父は、やがて目覚ましい戦果をあげた。
特筆すべきは「ノルマンディー反抗作戦」だろう。
五人のパイロットで構成され、のちに伝説と呼ばれたミラクルイーグルスの遊撃手を担った父は、絶望的な戦場を切り裂き、母と自分の元へと帰ってきた。
その功績もあり、父は地球軍の上役に昇進し、北米基地の一つ、ヒューストン前衛基地へと赴任する。
カレンにとって父は、尊敬する存在だった。
誇りであり、目標であり……そして、失いたくないものだった。
だからこそ。
パイロット候補の徴兵が始まったとき、カレンは迷わず軍人の道を選んだ。
父の背中を追うために。
ゲームでのシナリオでは、父はテスト運転時にV.L.Tと交戦して死亡する。
ノルマンディー反抗作戦に参加する前に命を落とし、降下直後に何もできずになぶり殺された、と記録されている。
そのためカレンは、同期生から「落ちこぼれの娘」と揶揄われる存在だった。
そんな中でも、父のようにならないと心に決め、パイロットとしての素養を開花させていく。
それが本来のカレンの姿だった。
だが、この世界では違う。
父は生きている。
それどころか、落ちこぼれどころではない。
英雄として語られる存在となっていた。
そんな偉大な父を持ったカレンに待っていたのは、尊敬の眼差しと、父と比較され続ける現実だった。
誰もが言う。
「さすがハインツの娘だ」と。
その言葉は、賞賛であるはずなのに。
カレンにとっては、自分という存在が“父の付属品”として扱われているようにしか聞こえなかった。
カレン自身、パイロットとしての素質は父……ハインツを大きく上回っている。
だが父は、ミラクルイーグルスという常軌を逸した戦場で
仲間内でも、一番操縦が上手いのはハインツだと評されるほどに。
その圧倒的な経験と技術の前では、カレンの才能など意味をなさない。
評価されるたびに、比較される。
期待されるたびに、突きつけられる。
お前は、あの男に届くのかと。
カレンは努力する。
誰よりも訓練を積み、誰よりも結果を求める。
だがどれだけ積み重ねても、父の背中は遠いままだった。
追いつけない。
その現実が、じわじわと心を蝕んでいく。
尊敬しているはずなのに。
誇りに思っているはずなのに。
その背中が、憎らしい。
届かないことが、悔しい。
そして……その感情を抱いてしまう自分自身が、何より許せなかった。
やがてカレンは思うようになる。
父は、守るべき存在でも、追いかけるべき目標でもない。
超えなければならない“壁”だと。
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(あ、これ……死ぬやつだ……)
真っ白に染まったVRの画面。その圧倒的な死を目の前に、身体が硬直する。
過ぎ去るのはこれまで努力を続けてきた自分の姿だった。
ずっと走ってきた。
息が切れても、足を止めずに足掻いてきた。
追いつくために。
あの背中に。
けど……足は止まった。
膝に手をついて、地面に顔を下ろす。
ただ苦しくて、息を続けることしかできない。
吸っても、吸っても、足りない。
水の中に沈められたみたいに体が重くて、呼吸ができない。
走馬灯の中によぎるのは、未だ追いつけない父の背中。
父のような偉大なパイロットになる。
その一心でここまで走ってきた。
けど……私はまだ、父の足元にも及んでいない。
どれだけやっても届かない。
どれだけ積み上げても、差は埋まらない。
努力すればするほど、思い知らされる。
あの人は、別格だと。
走馬灯の中の父が振り返る。
その顔は、優しくて。
誇らしげで。
腹が立つほどに。
憎らしいほどに。
……父はいつも言っていた。
「自分なんて大したことはしていない」と。
そんなわけない。
誰よりも速くて、誰よりも正確で、誰よりも生き残ってきたくせに。
それを当たり前みたいにやってのけるくせに。
それを“大したことじゃない”で片付ける。
そんな父だから……。
そんな父だから……!
私は、どこまで行っても“届かない側”のままだ。
「……パ……パパ……アタシ……」
光が迫る中で出たその言葉は、助けを求めたものか。
それとも、認めてほしかっただけなのか。
自分でもわからなかった。
父は振り返りながら微笑む。
そして、口を開いた。
【カレンちゃんってば、そんな攻撃も満足に避けられないの?操縦へたっぴなんだねぇ〜可哀想〜プークスクス】
「は……?」
キレそう。
「っっっっざけんじゃないわよぉおっ!!!」
過ぎ去っていた走馬灯をまとめてゴミ箱にぶち込む。
心臓が跳ねる。
空っぽになっていた肺に空気が流れ込む。
止まっていたはずの体が、勝手に動き出す。
機体をぐるりと後ろに引っこ抜き、宙返りするような動きで、コクピットを貫こうとした位相収束砲を躱した。
コクピットを覆う装甲を収束砲が掠めるが、そんなことなど、もうどうでもよかった。
「カレン!?」
「ウラアアアアアーーー!死ね!クソ親父ぃ!!」
テルリードの心配するような、驚いたような声を置き去りにして、スロットルを全開にして踏み込む。
尊敬も。誇りも。劣等感も。
全部まとめて叩きつけるように。
真正面から敵へと突っ込む。
片腕に装備していた
ぶち抜かれたB型の体を貫いた腕からは、駆動用のグリスや油が血のように噴出していて、それがカレンの乗るレイジングブルを濡らしていく。
真っ白なオイルに塗れた機体だが、遠目で見ていたテルリードには、それがはっきりと返り血のように見えていた。
「フーッ、フーッ」
髪を逆立てる勢いで怒りを爆発させたカレンは、自分を射殺そうとした相手の残骸から腕を引き抜き、打ち捨てる。
「次ぃ!!」
その怒号にも似た声と共に、カレンは機体を翻し、他にいるB型へと飛びかかっていく。
それはまさに獣じみた動き。
さっきの手練のような機動で避けていた動きではなく、右へ左へと軌道を細かく刻んで的を絞らせず、そのまま刃を突き立てるように飛び掛かる様は……なんというか恐怖そのもの。
その後、カレンは
ちなみに。
走馬灯の中で出てきたカレンの父。
あれは記憶の中の父ではなく……カレンが偉大な父相手に拗らせに拗らせまくった結果……。
ありもしない“自分を煽る父”というトンチキイマジナリーファザーを脳内に召喚したものであった。
▼
先行させたレイジングブル二機がもうすごいことになってる件について。
た、たしかにメインストーリーでもカレンは途中で覚醒してレイジングブルを野性的なレスポンスで操縦することに長けたパイロットに成長するのだが……。
しかし、今のカレンは獣性にステータスを振り込んだような状態である。
B型を次々と文字通り「串刺し」にしていくカレンを横目に見ながら、俺も稲妻を纏ったボルガーの腕を振り抜き、群がってきていたC型を打ち砕く。
「と、とにかく!よくやった、カレン!B型の脅威はなくなった!」
飛来する位相収束砲の脅威がなくなった以上、この平原の突破の難易度は一段階下がったと言えよう。
眼前のC型を振り回して放り投げるボルガーを見て、デルベルトはすぐさま指示を出した。
「このまま平原を突破する!」
その言葉と同時にボルガーはデルベルトのエンフィールドと共に前進。B型を駆逐したカレンとテルリードのレイジングブルも合流し、せっせとC型を再生産しているA型V.L.Tの元へと向かう。
敵はこちらに気づいているようだが、その反応は鈍いし、A型を守護するC型の数は少なく、頼みの綱であったB型は撃滅されている。
つまり、圧倒的好機。
「もらったぁ!」
行き掛けの駄賃と言わんばかりに無防備なA型のボディに、カレンとテルリードのレイジングブルが、
そして破損したボディにデルベルトが装備したショットランチャーが炸裂。
そして、総仕上げだ。
「出力100%!ダン中尉!お願いします!」
「サンダーボルトォオオ!ナックルッ!」
稲妻を纏った腕を突き出し、ガルダリア・ドライブの推力を地面に叩きつけて前進。地を砕きながら突き進むボルガーは、そのまま突き出した腕を前にA型へと突っ込む。
拳が刺さり、上肢が刺さり、肩までボディに叩き込む。
「バンカーアウトっ!!」
一際大きな稲妻が迸る。
A型V.L.Tのボディから煙が上がり、火を噴くとそのまま爆発四散。その爆炎を切り裂き、ボルガーはキメの画角で佇んでいた。
「A型撃破!」
気がつけば、平原にいたV.L.Tの勢力のほぼ全てを撃破してしまっていた。
途中から弾薬節約のために近接技である「サンダーボルトナックル」を多用していたが……ガルダリア・ドライブのエネルギーは減る様子はなく、ボルガー自身も全くの無傷であった。
他のメンバーだが、カレン機は少し損傷はあるものの行動は可能。テルリードとデルベルトは無傷と来ている。
(ほんと、とんでもない機体だな。ボルガーは)
難易度で例えるなら……ノーマルモードで敵を蹂躙するような感覚である。北米大陸で戦っていた頃は死に物狂いであったが、その時の苦労が嘘のようだ。
あ、圧倒的じゃないか……!
レイブンアームズに乗ったときに感覚バグってたらどうしよう。
【性懲りもなくボルガー以外に乗るつもりですか?浮気性ですね】
俺の思考を読んだのか、エーテリアスがそんなことを言ってくる。全くもって酷い言われようだ。
だが、一つ気になることもある。
初めてレンネル基地に来て、拉致同然でボルガーに乗った時に戦ったA型V.L.Tとは……なにか違うような感覚があった。
あれほどの手強さを、今回は感じられなかった。
「どうかしましたか?ムラクモ中尉」
「いや、なにかこう……手応えがあまりなかった感じがな」
そう素直に言うと、レイラは信じられないような顔をして、デルベルト、カレン、テルリードは何とも言えない顔……いや、見たことある顔だな。
現役時代のフレッドやアルたちが、よく俺を見てそんな顔をしていた。
「だいぶエグい戦いでしたけど、気のせいですかね?ね?」
あれだけ大暴れして物足りないというか。四人の気持ちは一つになっていた。元部下であり、今は少佐の人たちが「アホな隊長」となんの悪びれもなく言っていたが……その気持ちが少し理解できたような気がした。
「いや、そういう意味じゃなくてな」
そう言い訳しようとすると、収音マイクが遠くから接近してくる何かを察知する。すぐさま視線を感知した方へと向ける。
そこには、二機のハウンドアーマー……一般兵用の塗装がされたレイジングブルが、空を飛んできているのが見えた。
「反対側から奇襲を仕掛けるとは、とんだ大馬鹿な連中がいたものだ」
低く、呆れたような声が通信に入ってくる。
ハウンドアーマー用フライトユニットを背部に装備した二機のレイジングブルが、白い噴煙を引きながらこちらへと接近してきていた。
煤と焦げ跡にまみれたその装甲は、つい先ほどまで激戦の中にいたことを物語っている。
「貴方たちは……」
「俺たちは状況確認のために選抜されたニューブリテン基地のパイロット。俺はヘンリー。こっちはザスだ」
ニューアイルランドに残存する部隊。
彼らは合流するなり、自身の所属をざっくばらんと告げ、そのまま説明を続けた。
自分たちを指揮していたハウンドアーマー隊の隊長が戦死。さらに現地の指揮官も全員死亡したことを。
淡々と軽い言葉で報告されるその内容の重さ。声色は妙に乾いていて、それだけ、彼らが苦境に立たされていたのかが物語っている。
目の下の隈にやつれた顔、乾いた肌と唇。V.L.Tの襲撃から一睡もせずに戦い続けていたのだろう。
「お前さんたちが使っていたフライテールがこちらに来てな……。空路から逆算して俺たちもここに来たわけだ。まぁ、当てが外れた場合はそのままUターンして逃げるつもりだったがね」
軽口めいた言い方だが、その実、紙一重の賭けだったことは想像に難くない。
「つまり、ニューアイルランド基地の仲間も挟撃作戦の準備を?」
「そうだ。……と言いたいところだが、かなりこちらも削られている。戦力は出せるが、特A型と戦う力はもう残っていない」
一瞬、通信が沈黙する。
その言葉は、現実を突きつけるには十分すぎた。
ニューアイルランドにいる仲間に負担をかけるのはこれ以上できない。だが、戦いには数が必要だ。俺たちだけで切り抜けるには不安要素が多すぎる。
そこでひとつ提案する。
「アンタたちはC型やB型をどうにかしてくれ。特A型は俺たちがなんとかしよう」
「なんとかって……軽くいうが……アンタは?見たこともないハウンドアーマーだが……」
「レンネル基地所属のダン・ムラクモ中尉です」
その名を告げた瞬間、通信の向こうで空気が変わったのがわかった。
「ダン・ムラクモ……ムラクモ中尉!?あの北米のバーバリアンと呼ばれるパイロットの!?」
「なんていう二つ名!!」
レイラが悲鳴のような声をあげて、俺も思わず顔をしかめる。
けれど否定できないのが辛い。
北米戦線での戦い方を思い返せば、そう呼ばれても仕方がないのだが……それにしたってもう少しこう、あるだろう。
「ゴホン。ひとまず、こちらはラバウルへ向かう。そちらはニューアイルランド側から援護をしてくれ。その隙に俺たちは特A型を……」
戦場の空気が、再び引き締まる。
誰もが、その“最悪の相手”をどう処理するかを考えていた。
だが……。
【いや、その必要はありません】
その言葉を発したのは、通信越しではない。
すぐ傍。コクピット内に響く声。
【来ました。この地にいる特A型が】
エーテリアスの淡々とした報告。
その直後、収音センサーが拾ったのは、空気を裂くような低い振動音。
遅れて、地平線の向こう側で空間が歪む。
空気が、重くなる。
まるで、そこに存在しているだけで周囲を支配する何かが現れたかのように。
平原からラバウルに向かう道筋に….俺たちにとっての絶望が姿を現したのだった。