リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
平原の地面を砕き、着地するボルテリガー。
それを見据え、
巨大ロボット同士の戦いを前に、デルベルトの息を呑む声が聞こえる。
「ボルテリガー……!」
腕を覆う装甲に包まれる俺。
後部座席にいたレイラは、半ドーム状のモニターを頭から被るような姿勢で座っている。
万年の夜空が空を覆う中、俺は後ろにいるデルベルトに言葉を投げた。
「デルベルト!二人を連れてラバウルへ行け!」
振り下ろされる
衝撃でボルテリガーが立つ地面は陥没し、受け止めた衝撃はソニックブームのようにあたりへ拡散した。こんな戦いにハウンドアーマーが加わるのはまずい。下手をすれば余波を受けてダメージを負う可能性もある。
「特A型V.L.Tは俺が引き受ける!こいつを倒せなければ……俺たちに道はない!」
剛腕を振り解き、拳を逆に叩き込む。頑丈なやつだ。通常の打撃じゃびくともしねぇ。だが、後退させることはできた。
「しかし、ムラクモ中尉!」
「今の俺に、みんなを守りながら戦う余裕はない! 頼む、行ってくれ!」
それは本心だった。
大怪獣暴力バトルを前にして、デルベルトも不服ながら頷いてくれる。
「聞こえたな、二人とも! ラバウルへ向かうぞ!」
そう指示を出したデルベルトのエンフィールドが空を駆けていく。それに追従するようにテルリードと、片腕を失ったカレンのレイジングブルが後に続いていくのが見えた。
「ムラクモ中尉、どうかご無事で!」
「帰る時は全員よ……!」
飛び立っていった三機は
カリプトは、去っていく三機に興味を示すことなく、俺たちを見据えていた。それはまるで、あえて見逃してやっていると言わんばかりだった。
【今生の別れの挨拶か。それもまた、有機体……生きている者の権利か】
「誰がここで死ぬかってんだ。俺はお前を倒して先に行く!いくぞ、レイラ!」
「はい、ダン中尉!」
【ならば、やってみろ!】
背面に備わるフラクタルウイングを展開し、彼我の距離を一気に詰める。青白い閃光を背に、大地を削って前に出る俺は、そのまま片腕のスロットルを押し込んだ。
「トンファァアアーードリルッ!!」
ドリル型のモジュール「サンダーボルト」。
合体後、ボルテリガーの肘部となるドリルがスライドし、下部のパーツごと両腕に備わる。
メカニカルな音と共に突き出した取手を握り締めれば、見た目は完全にトンファーで、先端には肘部にあったドリルが装備されている近接戦闘用武器だ。
先端部のドリルには、ガルダリア・ドライブから供給される力場が発生している。
「スパイラルブレイカァアアー!!」
力場を用いた打撃攻撃をカリプトへと叩き込むが、
ならば!
トンファー形状の武器を半回転。先端だったドリルを後ろにすることで、回転エネルギーを推進力とする強力な貫通技へと昇華させる!
「サンダァー……スマッシャァアアーッ!!」
推進力から発生したプラズマの稲妻を背にして打撃を撃ち抜く。
激しい火花と衝撃音が響き渡るが、カリプトはその一撃を後ろに下がることでダメージを受け流した。
器用な真似をしやがる!
【なかなかな威力だ。だが!】
今度はこちらの番だ。
そう言わんばかりに振り上げた剛腕にはエネルギー波が展開され、そしてそれは高速で回転し始めた。
【シュピルフラーレの回転!】
腕を構え、回転するエネルギー波ごと突き出してくる。こちらも引くつもりはない。もう片方のサンダースマッシャーを突き出し、真正面から受けて立つ。
回転を主軸とする近接攻撃が互いに炸裂する。ぶつかり合った衝撃で地面にはクレーターが生まれ、あたりに火花が飛散した。
一歩も引かないぶつかり合いの中で、まばゆい閃光が溢れる。レイラは目を細めながら、その激突を見つめていた。
「ま、全くの互角……!」
【いえ、あの
ギャリ、と回転物同士が交差する衝撃と音を轟かせ、ボルテリガーとカリプトは位置を入れ替えるように互いの一撃を振り抜く。
エーテリアスの言うように、カリプトの
作中でも最強の硬度を誇る武装だ。スパイラルブレイカー、サンダースマッシャーも効かないとなると、その強度はまさに最強の部類だろう。
「ならばぁ!これでどうだ!」
右腕の操縦桿を前へと突き出すと、それに連動してボルテリガーの右腕に備わる発射口からオレンジの極光が溢れた。
「ガルダリア・ドライブ、最大出力!」
ボルガーの動力源であるガルダリア・ドライブから生まれるエネルギーは、合体したボルトモジュールに内蔵されたガルダリア・ブースターで増強され、敵と同じ位相収束砲となる。
「ガルダリアァァアフレアーーッ!!」
拳を突き出すように撃ち放たれた極光。それを前にしても、カリプトは自身の武器に対してまったく不安を覚えていなかった。
「シュピルフラーレの鉄壁!」
両腕を合わせて眼前に掲げる防御態勢。その光は
だが、本当の狙いは別にあった。
ボルテリガーは背部のフラクタルウイングを全開にし、構えた拳のまま一気に懐へと飛び込む。
拳を回転させ、ガルダリア・ドライブとガルダリア・ブースターから得られるエネルギーのすべてを突き出す拳に乗せる。
「サンダーボルトォ……バンカァアアーー!!」
稲妻を纏った拳は、赤色になった剛腕へと叩き込まれた。受けきれなかった威力を前に、カリプトは
だが……目的である
「無傷……だと……!?」
最大出力の拳を叩き込んだというのに……まったくの無傷。
【なるほど、極光で装甲を飽和させて強撃で装甲破壊を狙ったか。実に合理的だ】
両腕を合わせた防御態勢。それをそのまま前に突き出すカリプト。
その姿は、さきほど見たチャージモーションとまったく同じ……。
【小手先の悪あがきだ!】
瞬間、極光がボルテリガーを飲み込む。
敵の攻撃を受ける体勢をチャージモーションと仮定し、防御とチャージを同時に行ってしまう対応能力の高さ。
カリプトの放ったメガビーム砲にさらされたボルテリガーは、その衝撃のまま地面に叩きつけられる。
「ぐはぁ!」
全身が、まるで焼かれるような感覚だった。
あの光に飲まれながら、なんとか無事に原型を保っていられるのは……間違いなくボルテリガーのおかげだ。だが、装甲で受けきれなかったダメージの一部は、搭乗しているパイロットにも共有される。
「ダン中尉!」
サブパイロットであるレイラには痛覚の共有がされていないのは不幸中の幸いだったが、それでもボルテリガーが受けたダメージは深刻だった。
威力としては、フルチャージではなかったのだろう。
ボルテリガーの背後にあったバルルメア山稜は一部が吹き飛んでいたが、山の形を変えるほどではなかった。
だが、この威力。次に受ければ耐えられないということが否応なしに理解させられるし、フルチャージだったら耐えることもできなかった。
【その程度か、V・ウェポン! 伝説が聞いて呆れる!】
なんとか立ち上がろうとしている最中、エネルギー刃をまとわせた
まるで弾丸のように打ち出されたボルテリガーは、そのままバルルメア山稜の麓へと背中から叩きつけられた。
「ぐわぁあああ!」
「きゃああああ!」
あまりの衝撃と痛みで、俺もレイラも悲鳴のような声を上げる。墜落時の土煙と衝撃……まるで地震のようにあたりを揺らす轟音。
それが収まるのを待つように、カリプトは佇んでいた。
【ダン・ムラクモ、レイラ・ストーム!しっかりしてください!】
エーテリアスの声が頭に響く。
この敵は……強い。
ただ強い、ではない。
こちらの動き、思考、その全てを一段上から見透かしてくるような圧倒的な差。
敵の強さに対する認識が甘かったことを思い知らされる。痛みで身じろぎしている中で、カリプトはボルテリガーを見下ろすように立っていた。
夜空を背にしたその姿は、まるで裁きを下す処刑者のようだった。
【エーテリアスに選ばれしものよ。お前は〝本心〟では戦っていない】
それは、あまりにも唐突な言葉だった。
無防備なボルテリガーへ、剛腕が振り下ろされる。
避ける間もない。
衝撃が機体を貫き、地面が砕け、ボルテリガーはそのまま大地へとめり込んだ。衝突の瞬間、土砂が爆ぜ、周囲に衝撃波が広がる。
【お前は戦いに必要なものを持たずに戦っている……お前には死んでも成し遂げたい気概がない!】
「な、なにを……!」
視界が揺れる。警告音が鳴り響く。
だが、その言葉のほうが痛く思えた。
【所詮はフィクション。お前たち有機体は、自分に都合のいい現実だけを現実と呼ぶ】
直後、放たれるホーミングミサイル。夜空を切り裂く軌跡が幾重にも重なり、次の瞬間、爆炎がボルテリガーを包み込んだ。
連続する衝撃。装甲を叩く爆発。
内部へと伝わる振動と熱。
痛みが、焼けるように身体を這い回る。
「ぐっ……!」
呼吸すらままならない。
レイラも必死に立て直そうとしているのがわかる。だが、機体は揺れ続け、制御は安定しない。耐えることで精一杯だった。
カリプトは
【お前にはその現実がない】
振り下ろされる一撃。
ガンッと、大地が割れる。
その直前、フラクタルウイングを強引に展開。推力を無理やり引き出し、傾斜を駆け上がるように飛翔する。
だが逃げた先に、すでに照準が合わされていた。
カリプトは焦る様子もなく、三門の収束砲を同時に展開し、距離を取ろうとする俺を正確に追撃してくる。
閃光が奔る。かすめるだけで装甲が焼け、視界にノイズが走る。
【与えられた役目をなぞり、都合のいい力に縋り、勝った気になっているだけだ】
その言葉は、まるで機体の外からではなく、内側から響いてくるようだった。
三門から放たれる収束砲を躱しながら、俺は言葉を振り絞る。
「俺は……死にたくはない!」
それは、叫びというより、絞り出した声だった。
【それは建前だ。お前の本心ではない!】
否定は、一瞬だった。
次の瞬間。
あり得ない軌道。
あり得ない速度。
迫り来る剛腕を前に反応が、間に合わない。
直撃。
「――ッ!」
視界が反転する。
衝撃に弾き飛ばされ、制御を失ったボルテリガーはそのまま墜落し、平原へと叩きつけられた。
「ぐはっ!」
地面を削りながら転がる。土煙が視界を覆い、衝撃が何度も身体を打ちつける。
回転しながらも、なんとか機体を立て直そうとするが……その視界の先に、すでにカリプトの姿があった。
ひっ、と背後にいるレイラが怯えた声を漏らすのが聞こえる。
【都合のいい世界に逃げ込み、その中で役を演じる。……それは生きているとは言わん】
「……このぉ!」
それは負け惜しみだったのかもしれない。
咄嗟に突き出した拳は、空気を裂く勢いでカリプトへと迫る。
だが、その動きすら読まれていたかのように、
鈍い衝突音と共に、剛腕の拳がボルテリガーの顔面へと突き刺さった。
「がっ……!」
装甲を軋ませる衝撃。
視界が白く弾け、次いで黒く沈む。
頭部フレームを通して伝わる振動が、脳を直接揺さぶるかのように襲いかかる。
凄まじい威力と衝撃に、痛みで意識がぐらつく。
【お前には、有機体の持つ〝生き意地〟が何も感じられない!何もだ!】
間髪入れず、もう一撃。
横殴りに振り抜かれた拳が再び顔面を打ち据え、機体ごと大きくよろめく。装甲の一部がひしゃげ、火花が散る。
内部フレームに伝わる衝撃が、神経に直接ノイズのように流れ込んでくる。
そしてカリプトの言葉もまた、心の奥底にあった何かへと突き刺さっていた。
【もっと本心で戦え!】
さらに拳が刺さる。
打撃のたびに、視界の端で警告灯が明滅し、警報音が断続的に鳴り響く。それでもなお、衝撃は止まらない。
魂ごと、大きく揺さぶられる。
【お前にとって戦いとはなんだ!生とはなんだ!】
なんのために戦う。
誰のため。
自分のため。
何を理由に?
何を求めて?
問いが、内側から響く。
カリプトの声なのか。
それとも、自分自身の声なのか。
心の奥底にある本心を揺さぶるものはあるか。
ただ、流されて戦っているのか。
お前は、なんのために、ここで生きている。
胸の奥が、鈍く軋む。
答えられない。
言葉にしようとした瞬間、それは霧のように掻き消える。
【それが無いのなら……このまま死んでしまえ!】
軋む装甲。圧迫されるフレーム。逃げ場のない拘束の中で、機体がきしみを上げる。
そのままカリプトは一回、二回と横へ回転するように体を振り回す。
視界が激しく流れる。地平線と夜空がぐるぐると入れ替わり、遠心力が機体を内側から引き裂こうとする。
そして……解き放たれる。
砲弾のように、糸の切れた人形のように。
ボルテリガーの巨体は夜空へと放り投げられ、空気を裂きながら無防備に舞い上がったのだった。