リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第26話 俺の本心はここにある

 

 

俺は、ボルトボックスというゲームが好きだ。

 

ストーリー、ロボットアクション、操作性、潤沢な装備やアイテム、キャラクター造形。

 

そして、濃厚な背景や兵器企業といった設定の数々。

 

そのすべてを含めて、俺にとってこのゲームは……まさに芸術(アート)だった。

 

このゲームの世界に来たとき。

 

絶望的なトリプルゼロと、デスロード編という最悪な始まりではあったが……。

 

正直に……本心で言えば……。

 

肌で感じた絶望感と同じくらい……いや、それ以上に。

 

胸が高鳴っていた。

 

俺が芸術だと……大切なものをがすべて塗り潰されるような衝撃を受けて……ひたすらに夢中になってやり込んだこの世界に、リアルとして触れられることに、俺はただただ感動していた。

 

けれど……俺というイレギュラーがいることで、少しずつ……しかし確実に変わっていく。

 

ストーリーに、キャラクターの運命。

 

最初は、軽い気持ちだった。

 

死ぬ運命から逃れられない者を救うことで、ゲームをプレイしていたとき、胸を締め付けられたあの感情が救われたような気がした。

 

だが、その“救い”は錯覚だった。

 

気がつけば、それは……この世界を、自分の手で汚してしまったという感覚に変わっていた。

 

本筋から外れていく物語。

 

変質していく世界の在り方。

 

それを前にして、俺の中に罪悪感と、浅はかさを呪う気持ちが生まれていた。

 

至極の芸術(アート)だと思っていたものを、自分の手で壊してしまった。

 

澄んだ水の中に、バケツいっぱいの汚水をぶちまけたような、取り返しのつかない感覚。

 

 

そして……極めつけが、勇者ロボだ。

 

 

このゲームは……ボルトボックスは、堅実なリアル系ロボットアクションだったはずだ。

 

なのに、なんだよ……勇者ロボって。

 

世界観も、ゲーム性も、何もかもをぶち壊す存在じゃないか。

 

俺が愛した芸術が、音を立てて崩れていく。

 

その崩壊の音は、どこか遠くで鳴っているんじゃない。

 

すぐ足元で。自分の手の中で。

 

そして同時にこの世界で生きる理由すら、崩れていくような気がしていた。

 

俺が壊してしまった世界。

 

その在り方を、俺は……どこかで受け入れられずにいた。

 

だから。

 

面白く、なくなっていた。

 

いや……違う。

 

面白くなくなったんじゃない。

 

俺が、諦めていたんだ。

 

勇者ロボという異物を、最初は面白がっていた。

 

だが、それもただの刺激に過ぎない。

 

所詮は一つの要素でしかない。

 

狂っていることなんて、長くは楽しめない。

 

異物は、いずれ“慣れ”に変わる。

 

俺は、そのことにとっくに気付いていた。

 

そして、気付かないふりをした。

 

「思っていたのと違う」

 

そう言ってゲームをやめることもできないこの世界で。

 

俺はダラダラと続いているゲームを、漫然とプレイし続けるだけの存在になっていた。

 

自分の意思じゃない。

 

選択しているようで、何も選んでいない。

 

ただ流されているだけのプレイヤー。

 

……ボルガーに乗ったとき、それは確信に変わった。

 

あの圧倒的な力。

 

敵をねじ伏せる性能。

 

それを手にした瞬間、俺は調子に乗った。

 

これはゲームだ、と。

 

どこかでそう思っていた。

 

まるで高難易度のゲームをプレイしている最中に、思いつきでイージーモードに切り替えるような感覚。

 

簡単すぎて、テンポよく進めるか。

 

それとも、途中で飽きて元に戻すか。

 

そんな軽さで。

 

そんな、責任のない選択の延長で。

 

何も考えずに。

 

ただ流されるままにプレイする。

 

そんな気軽さで、気の抜けた薄っぺらい思いが、確かに、俺の中にあった。

 

だから。

 

どこかで、決めつけていた。

 

もうこれは、俺の愛したボルトボックス(芸術)ではない、と。

 

そう思うことで。

 

そう“割り切る”ことで。

 

俺は……この世界と、真剣に向き合うことから逃げていた。

 

 

 

 

ラバウル南東内陸部。

 

ラカル地下指揮中枢区。

 

道中のC型やB型を撃破したデルベルト、テルリード、カレンがたどり着いたラバウルは、それはもう、酷い状態であった。

 

かつて軍港として機能していた湾岸施設は、無数の爆裂痕によって抉られ、係留されていたはずの艦艇の残骸すら見当たらない。

 

レアメタルの抽出・加工を担っていた工廠群は、骨組みだけを晒したまま崩れ落ち、精錬炉のあった場所には黒く焼け焦げた地面だけが広がっている。

 

その稼働を支えていた住民たちの居住区も同様だった。

 

建物は無残に引き裂かれ、瓦礫の山と化し、中には、まるで最初から存在しなかったかのように、跡形もなく消え去っている区画すらある。

 

「こんな……ひどい……」

 

その惨状を前にしたカレンが、小さく、掠れた声で呟く。

 

ここにあった生活の全て。人の営みも、時間も、記憶すらも。まるで否定されたかのように、根こそぎ奪い取られている。

 

「これが、特A型によってもたらされる現実か……」

 

デルベルトの低い声が、静まり返った廃墟に重く落ちる。

 

おそらく、このニューブリテン基地だけではない。

 

ハワイ諸島、カイルア・コナ基地、さらには北米大陸の各拠点も、特A型V.L.Tの襲撃を受け、同じような地獄に変えられているに違いない。

 

「テルリード、周囲に敵影は?」

 

「現在はありません。センサー範囲内、クリアです」

 

わずかな間を置いて返ってきた冷静な報告。

 

「……よし。作戦通りに信号弾を打て」

 

デルベルトの指示を受け、テルリードは腰部に備わる信号弾を取り出し、夜空へと打ち上げた。

 

乾いた破裂音とともに放たれた光弾は、闇を裂いて上昇し、やがて赤い光の花を咲かせる。

 

それは、敵拠点の確保を示す合図。

 

ラバウルから海峡を挟んだ先、ニューアイルランド島にいる友軍へ向けた、生存と勝利の証だった。

 

やがて暗闇に沈んでいた海の向こうで、同じように光が弾ける。

 

応答は成功だ。

 

「こちらの信号を確認したようだな」

 

デルベルトが短く頷く。

 

「ここを橋頭堡として、ニューブリテン島の完全制圧を進めるぞ。ココポやラバウル西部には、まだV.L.Tの残存戦力がいる」

 

「了か……」

 

テルリードとカレンが応じようとした、その瞬間だった。

 

ニューブリテン島を覆う満天の星空。

 

その光を何か巨大な影が、横切った。

 

視界の端に映ったそれは、ほんの一瞬。

 

だが次の瞬間、理解するよりも早く轟音。そして、衝撃。地面が爆ぜたかのような振動が、三機のハウンドアーマーを揺さぶる。

 

「な、なんだぁ!?」

 

センサーを開いたデルベルトの視界に、異常反応が叩き込まれる。

 

自分たちから見て東……数キロ先。

 

軍港跡地に、ひときわ強いエネルギー反応。

 

「……ボルテリガー!?」

 

「嘘!?ここから平原までは20キロ以上離れてるのよ!?」

 

カレンが叫ぶ。

 

自分たちが数分かけて踏破した距離をほんの一瞬で?

 

だが、次の瞬間。肉眼で捉えたその姿は、想像とはまるで違っていた。

 

地面にめり込むように横たわる巨体。装甲の各所には、激しい損傷の痕跡。ひび割れ、焼損、抉れた跡。

 

それは「降り立った」のではなく、叩きつけられたのだ。

 

「ま、まさか……やられたのか?」

 

誰かが、呟いた。

 

三人にとってボルテリガーという存在は、どこか絶対だった。

 

これがあれば負けない。そんな根拠のない確信すら抱かせる、圧倒的な象徴。

 

だがその幻想が、音を立てて崩れる。

 

【ラバウルを奪還し、ニューブリテン島を解放すると言うか……有機体】

 

空気が、震えた。

 

いや……違う。

 

大気そのものが、歪む。

 

イオン化した空間の中から、音もなく姿を現す影。

 

カリプト(特A型)

 

短距離テレポーテーションをもつ相手は、投げ飛ばしたボルテリガーを、追跡してきたのだ。

 

【やはり……俺の夢を満たすのは回帰論しかない。こんなことでは……俺の夢は叶わない】

 

「全機!特A型との戦闘準備!」

 

デルベルトの怒声が響く。

 

「本気でやる気なのね……!」

 

「当然だ!俺たちの未来は、あれを倒さない限り開かれない!」

 

【無意味だ】

 

淡々とした否定。

 

【お前たちと戦っても、何も得られない。だから……消えてくれ】

 

収束砲が展開される。

 

圧縮されたエネルギーが収束し、三機のハウンドアーマーを飲み込もうとした。

 

「グランドブレストォォオ!!」

 

全てを吹き飛ばすような音と共に、倒れ伏していたボルテリガーが立ち上がる。

 

フラクタルウイングを展開し、三人の前へと躍り出るその姿は、満身創痍でありながらも。

 

なお、立っていた。

 

 

 

 

グランドブレスト。

 

それは、ボルガーの動力源であるガルダリア・ドライブを、ボルトモジュールに搭載されたガルダリア・ブースターで底上げし、増幅されたエネルギーを機体全体へと循環させ、最終的に前面へと収束・展開する防御技だ。

 

機体表面を奔る光は、脈動するように明滅し、やがて一枚の壁となって空間そのものを押し広げる。

 

防御フィールドと化したそれは、極光を伴って発射された特A型の収束砲。

 

そのすべてを、真正面から受け止めてみせた。

 

空間が軋む。押し潰されるような圧力が、コクピット内部にまで伝わってくる。

 

それでも意地を通して押し返す。

 

収束砲を受け切った俺を見つめるカリプトは、うんざりしたような声色で言葉を投げかけてくる。

 

【まだやる気か?V・ウェポン。お前の本心がない以上……これ以上やっても意味はないぞ】

 

「……本心、だと……?」

 

グッと腕を覆う装甲の中で、俺は操縦桿を握りしめた。震えているのは機体か、それとも自分の手か……もうわからない。

 

「ダン中尉……?」

 

後ろに乗るレイラ声が微かに震える。

ただ、ここで本心を隠して……自分のちっぽけなプライドを取ったら、今度こそ負けるという直感があった。

 

「俺は……俺はただ……死にたくねぇって思ってた」

 

仲間を守るとか、そんな綺麗な理由並べ、ただ戦ってきた。

 

「でも、それも全部……言い訳だったのかもしれねぇな」

 

歯を食いしばる。言葉にするたびに、自分の中の何かが剥がれていく。

 

「お前の言うとおり、ボルテリガーの力に頼って……勝った気になって……この世界で生きてる実感から、逃げてた」

 

ゆっくりと、視線を上げる。

 

焼けた装甲の向こう。

 

それでもなお立ちはだかる、特A型の姿を俺はしっかりと見つめた。

 

「それでもな。俺はここまで来たんだ」

 

鈍重なトリプルゼロで仲間を守りぬき。

 

ノルマンディー反抗作戦というクソみたいな無謀な作戦を生き抜き。

 

北米大陸では地球軍の上役に冷遇されながらも仲間も守り、助けるために戦って。

 

「戦って、負けて、仲間が死んで……それでも立ってきた」

 

そして、今は、このボルテリガーに乗っている。

 

「それをフィクションだなんて言わせねぇ」

 

もう、これは。

 

俺の知っていた、あの宝石のような芸術のようなボルトボックスではない。

 

用意された分岐。

 

決められた結末。

 

プレイヤーの選択で編まれる完成された物語。

 

だが、今ここにあるのは、それとは明確に異なる何か。新しい何かが、すでに始まっている。

 

これは……これまでにない、新たなルートだ。

 

この先に何があるのか。

 

どんな結末を迎えるのか。

 

あのキャラは、生き残るのか。

 

あのキャラとの恋路は、どうなるのか。

 

V.L.Tに勝てるのか。

 

俺たちは、どこへ向かうのか。

 

何もわからない。

 

すべてが未知の、新しい物語だ。

 

だが。

 

だからこそ。

 

それを前にして、「過去はこうだったから」と「俺の見たストーリーはこうだったか」と否定するなんて、そんな、勿体ないことができるはずがない。

 

俺は、どこまで行っても。

 

ボルトボックスというゲームが好きだ。

 

その世界が、新たな道へ踏み出そうとしているのなら。

 

ならば。

 

それを楽しんでこそ。

 

その先を見届けてこそ。

 

この世界を生きる意味がある。

 

それができるのは、ここまで辿り着いた俺だけだ。

 

ならば。

 

やることは、一つだろうが!!

 

「ボルテリガーだろうが、なんだろうが関係ねぇ!」

 

「俺はここで終わらねぇ!生き残って……この物語の行き着く先を、この目で見てやる!!」

 

インフィニティランカーとして。

 

最後まで、この物語を遊び尽くしてやる!!

 

【……なるほど。それが貴様の〝本心〟か】

 

一瞬の沈黙。

 

その奥で、カリプトの気配が僅かに変わる。

 

【ようやく……生き物らしい顔になったな。ならば、試してやろう】

 

カリプトは両腕のシュピルフラーレ(剛腕)を合わせ、チャージモーションへと入る。

 

空間が歪むほどのエネルギーが、一点へと収束していく。

 

既に出力は臨界を超えている。

 

メガバズーカ砲の発射までの時間は、あまりにも短い。

 

【その意志が、どこまで通用するかをな!!】

 

次の瞬間、光が爆ぜる。

 

ラバウルの夜を塗り潰すように、蓄えられたすべてのエネルギーが解き放たれた。

 

 

 

 

 

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