リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第28話 夜明けの海に

 

 

夜が明けた。

 

特A型……カリプトを撃破した直後、俺たちのもとには、ニューアイルランド島を出発した残存戦力が合流してくれた。

 

彼らは墜落の危険を考慮し、予備のフライテール(輸送飛行機)ではなく、歩兵戦力とハウンドアーマーを15機も搭載できる輸送艦で向かってきてくれたらしい。

 

船の上からでも、ボルテリガーと特A型の激突は視認できていたそうで、見たこともない怪獣クラス、化け物同士の戦いに、「自分たちはここで死ぬ覚悟を決めていた」と語っていた。

 

特A型を撃破した後、ニューブリテン基地北部の各要所に散らばっていたC型V.L.Tは、到着した残存戦力をまとめたデルベルトたちによって掃討。

 

平原の拠点として機能していたA型も、平原突破時に俺たちが撃破していたため、ニューブリテン基地のV.L.T勢力は完全に駆逐されることになった。

 

そして、到着した友軍たちは四機のハウンドアーマーを見つめながら語る。

 

「たった四機……え、あれ、ハウンドアーマー? ハウンドアーマーでいいんだよね?」

 

「ハウンドアーマーです」

 

「見た目全然違うし、合体解除とかしてるんだけど?」

 

「地球軍が秘密裏に開発していたハウンドアーマーですっっ!」

 

……と、到着したパイロットたちから、ボルガーへの懐疑の視線を向けられつつも、デルベルトたちの説得もあって大きな混乱にはならず。

 

俺たちは無事、ニューブリテン基地の奪還に成功したのだった。

 

……冷静に考えて、四機(うち一機は勇者ロボ)で、島一つ取り返すとか、頭おかしいだろ。

 

ボルテリガーの戦力を当てにしていたとはいえ……いや、インフィニティモードでも主人公であるテルリードくんがほぼ単騎で特A型を沈めるし、あんまり変わらないか。ごめんな、君の主役的な立ち回りを全部食っちまった。

 

さて、件のボルテリガーは特A型との戦闘後、ユナイト・アウト(分離)し、分離したV・モジュールは何事もなかったかのようにハイパーゲートへと帰還していった。

 

装甲は割とボロボロなんだけど……修理とかどうするんだ、あれ。

 

ちなみに素体であるボルガーのダメージはほぼゼロで、運用にも一切支障はなかった。

 

ナニコレ怖。

 

内心、勇者ロボであることには納得したけど……やっぱりトンチキ技術の塊である。

 

そんなわけで、現在は急ピッチでニューブリテン基地の指揮系統と基地機能の復旧が進められている。

 

レンネル基地にはデルベルトが作戦成功の報告を送っており、残存戦力がニューアイルランド島へ脱出する際に使用したフライテールを借り受け、必要人員や物資を搬送する準備も進められていた。

 

そして、夜が明けきった空の下。

 

昇りきった太陽を見つめるように佇むボルガーの隣で、俺は一人、ぼんやりと時間を潰していた。

 

「何、手伝おうとしてるんですか、ムラクモ中尉」

 

「一番の功労者は、ボケっとどこかにいてください」

 

「指揮系統はこちらでまとめておきますので」

 

上から順に、デルベルト、カレン、レイラである。

 

主人公であるテルリードは、C型V.L.TやB型V.L.Tの残骸除去に駆り出されていて、それを手伝おうとした俺だったが、この三人に待ったをかけられていた。

 

「いや、俺も何かしないと……」

 

「特A型を倒した英雄のくせに、低姿勢すぎる!」

 

「レンネル基地の司令やフレデリック少佐が来るまでは、大人しくしててください」

 

いや、じっとしている方が居心地が悪いからと働こうとするのだが……この三人にやんわりと押し返されてしまう。

 

結局、やることを失った俺は。

 

静まり返った海岸で、佇んでいるボルガーの装甲にもたれかかるように腰を下ろし、朝焼けの名残をわずかに残したソロモン海峡を、ぼんやりと眺めていた。

 

波は穏やかで、さっきまでの戦いが嘘みたいに静かだった。

 

ふと、胸の奥に引っかかっていた違和感を、言葉にする。

 

「……エーテリアス」

 

【はい、なんでしょうか】

 

呟いた声は、すぐに脳内へと返ってくる。

 

横目でレイラを見るが、彼女は忙しそうに指示を飛ばしており、この声が聞こえている様子はない。

 

エーテリアスと、俺だけの会話。

 

それを確認してから、俺は地平線の彼方を見つめたまま、胸の奥に引っかかっていた問いを投げかける。

 

「この世界では……お前は、知っていることはすべて話したって言ったよな」

 

それは、レンネル基地で状況確認をしていた時のことだ。

 

エーテリアスは、自身の出自……ゼブロイドについて語った。

 

ゼブロイド……高位電子体。

 

回帰論……電子体であるゼブロイドが、有機体へと回帰することを望む思想。

 

そして、この世界におけるV.L.Tとの戦い。

 

ガルダリア・エンジンやナノマシンが生まれた理由。

 

それらは、紛れもない事実だった。

 

そしてエーテリアスは、こうも言った。

 

 

〝この世界〟については、と。

 

 

「……俺の世界で、お前は何を知ってるんだ」

 

この問いは、この世界の人間には理解できない。

 

だが異なる世界から来た俺には、その意味がわかる。

 

あの時は、壊れてしまったボルトボックス(俺の知る世界)との乖離に、正直、頭の整理がつかなかった。

 

けれど……今回の戦いで、いい意味で踏ん切りはついた。

 

だからこそ、今なら聞ける。

 

エーテリアスの言葉の、本当の意味を。

 

【……この話は、貴方にしかできませんでした】

 

わずかな間を置いて、エーテリアスは続ける。

 

【この世界にとっての〝外来有機体〟である、貴方にしか】

 

その瞬間。

 

俺の脳内に、何かが流れ込んできた。S.W.I.S(スウィス)の機能だろう。強制的に展開されるデータの奔流に、思わず眉をしかめる。

 

相変わらず人の頭を記録媒体か何かだと思ってやがる。

 

流れ込んできたそれを、読み取った瞬間。

 

俺は、小さく呟いた。

 

箱庭計画(ボルトボックス)……?」

 

それは、俺が愛したゲームの名前、そのものだった。

 

エーテリアスから送られてきた情報は、一見するとゲームの設定にも思えたが……中身はまったく違う。

 

箱庭計画(ボルトボックス)の全容は明かされていない。

 

ゲームの内容でもなく、ただ〝計画名〟だけが存在している。

 

そんな歪な情報だった。

 

【回帰論を提唱したゼブロイド、モクシャリアスが水面下で進めている計画です】

 

「……なんとも嫌な名前だな」

 

【全容までは私も把握できていませんが……おそらく】

 

わずかに間を置き、エーテリアスは続ける。

 

【この世界そのものを〝箱庭〟……ボックス(それ)に見立て、何かをしようとしている】

 

「何かって?」

 

問い返した俺に、エーテリアスはさらに一拍置いてから、静かに答えた。

 

【回帰論の主題である……有機体への回帰】

 

ナノマシン注入による、この世界に生きる有機体を器としたゼブロイドの回帰は、すでに失敗している。

 

ならば別の方法で、有機体の肉体を手に入れようとしているのか?

 

だが。

 

カリプトは言っていた。

 

〝本心を晒し出すことこそが、生き物としての在り方だ〟と。

 

だとするとゼブロイドは、ただ肉体を得て「生物に戻る」ことだけを望んでいるわけではないのかもしれない。

 

【ゼブロイドは高位電子体です】

 

エーテリアスの声が、静かに響く。

 

【有機体。あなた方が持つ好奇心や高揚感、達成感、虚無感といった感覚を、我々は感じることができません】

 

【カリプトの言ったような〝本心を晒す〟という行為も、本来は成立しないのです】

 

争いもなく、闘争もなく。

 

すべてが平等で、すべてが永続する世界。

 

普遍であり、完全。

 

だからこそ、どこまでも平坦な世界。

 

子孫も残さず、変化もなく、ただ存在し続けるだけの在り方に。

 

彼らは、それぞれの形で〝渇望〟を抱いているのだと、エーテリアスは言う。

 

カリプトのように、本心を曝け出し、戦いを望む者。

 

それ以外にも、無数の「何か」を求める存在がいるのだと。

 

【完成しすぎたがゆえに……】

 

わずかに沈んだ声音で、エーテリアスは告げる。

 

【我々は、それらを得る機会を……永遠に失いました】

 

遠い過去。

 

解脱論(かいだつろん)に傾倒した祖先たちは、有機体を捨てた。

 

そして今、再び有機体を求めている。

 

様々な想いを抱えたまま。

 

「……だから、回帰論か」

 

【目的はそれぞれ異なるのでしょう】

 

【カリプトのように、本心の解放を願う者もいるように】

 

ざぶり、と。

 

波が砂浜に打ち寄せる音が響く。

 

静かな海だった。

 

これが現実じゃないなんて、思えない。

 

肌にまとわりつく潮風。

規則正しく繰り返される波の音。

かすかに鼻を刺す、海の匂い。

 

全部、リアルだ。

 

昨夜の死闘が、まるで嘘だったかのような世界の中で。

 

俺は、小さく息を吐いた。

 

「なぁ、エーテリアス。……なぜ、俺を選んだ」

 

この世界に来てから、ずっと抱え続けていた疑問を、俺はようやく口にする。

 

なぜ、俺はこの世界に来たのか。

 

なぜ、俺はここで戦っているのか。

 

なぜ、俺だったのか。

 

胸の奥に溜まり続けていた言葉が、ようやく形を持つ。

 

「俺以外にも、ピカイチなインフィニティランカーはいただろ」

 

事実、俺より上手いプレイヤーなんて、いくらでもいた。

 

万単位のフォロワーを抱える配信者。影響力を持つインフルエンサー。そして、ひたすらゲームに没頭する廃プレイヤー。

 

俺なんかよりも、ずっと強くて、ずっとおかしいプレイスキルを持ったインフィニティランカー(変態)は、いくらでもいる。

 

「そんな中で、なんで俺なんだ」

 

ボルガーと出会うまでは、都合のいい夢だと思うこともあった。

 

だが違う。

 

「この世界」と「元の世界」を認識している存在……エーテリアスがいる以上、ここはただの夢じゃなく、現実だ。その確証を俺は持ってしまっている。

 

「……俺が、あのミッションをクリアしたからなのか?」

 

この世界に来る直前に攻略した追加ミッション。

 

カイ・ローベルトが乗っていた、あの歪な機体。

 

あれが、すべてのきっかけだったのか。

 

そう問いかけると、エーテリアスは迷いなく否定した。

 

【いえ、それは違います】

 

即答だった。

 

【貴方を選んだのは、私ではありません】

 

その言葉に、思考が一瞬止まる。

 

「……エーテリアスじゃない?じゃあ、誰だって言うんだ」

 

わずかに息を詰めながら問い返す。

 

【それは……】

 

「ダン中尉!今、大丈夫ですか!」

 

急に呼びかけられた俺は、エーテリアスとの会話を区切って呼びにきたレイラの方へ振り返る。

 

「……なんだ?レイラ」

 

張り詰めていた空気を断ち切るように、レイラの声が割り込んできた。

 

「すみません、ニューブリテン基地の代表者が話をしたいと」

 

「……わかった。すぐに行く」

 

駆けていくレイラの背中を見送ってから、俺はゆっくりと振り返る。

 

そこにあるのは、ただ静かに佇むボルガー。

 

答えは、もう返ってこない。

 

さっきまで確かにあったはずの気配は、嘘みたいに消えていた。

 

「……今はまだ答えられないってことか」

 

そう呟いた声は、流れている波音にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

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