リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
夜が明けた。
特A型……カリプトを撃破した直後、俺たちのもとには、ニューアイルランド島を出発した残存戦力が合流してくれた。
彼らは墜落の危険を考慮し、予備の
船の上からでも、ボルテリガーと特A型の激突は視認できていたそうで、見たこともない怪獣クラス、化け物同士の戦いに、「自分たちはここで死ぬ覚悟を決めていた」と語っていた。
特A型を撃破した後、ニューブリテン基地北部の各要所に散らばっていたC型V.L.Tは、到着した残存戦力をまとめたデルベルトたちによって掃討。
平原の拠点として機能していたA型も、平原突破時に俺たちが撃破していたため、ニューブリテン基地のV.L.T勢力は完全に駆逐されることになった。
そして、到着した友軍たちは四機のハウンドアーマーを見つめながら語る。
「たった四機……え、あれ、ハウンドアーマー? ハウンドアーマーでいいんだよね?」
「ハウンドアーマーです」
「見た目全然違うし、合体解除とかしてるんだけど?」
「地球軍が秘密裏に開発していたハウンドアーマーですっっ!」
……と、到着したパイロットたちから、ボルガーへの懐疑の視線を向けられつつも、デルベルトたちの説得もあって大きな混乱にはならず。
俺たちは無事、ニューブリテン基地の奪還に成功したのだった。
……冷静に考えて、四機(うち一機は勇者ロボ)で、島一つ取り返すとか、頭おかしいだろ。
ボルテリガーの戦力を当てにしていたとはいえ……いや、インフィニティモードでも主人公であるテルリードくんがほぼ単騎で特A型を沈めるし、あんまり変わらないか。ごめんな、君の主役的な立ち回りを全部食っちまった。
さて、件のボルテリガーは特A型との戦闘後、
装甲は割とボロボロなんだけど……修理とかどうするんだ、あれ。
ちなみに素体であるボルガーのダメージはほぼゼロで、運用にも一切支障はなかった。
ナニコレ怖。
内心、勇者ロボであることには納得したけど……やっぱりトンチキ技術の塊である。
そんなわけで、現在は急ピッチでニューブリテン基地の指揮系統と基地機能の復旧が進められている。
レンネル基地にはデルベルトが作戦成功の報告を送っており、残存戦力がニューアイルランド島へ脱出する際に使用したフライテールを借り受け、必要人員や物資を搬送する準備も進められていた。
そして、夜が明けきった空の下。
昇りきった太陽を見つめるように佇むボルガーの隣で、俺は一人、ぼんやりと時間を潰していた。
「何、手伝おうとしてるんですか、ムラクモ中尉」
「一番の功労者は、ボケっとどこかにいてください」
「指揮系統はこちらでまとめておきますので」
上から順に、デルベルト、カレン、レイラである。
主人公であるテルリードは、C型V.L.TやB型V.L.Tの残骸除去に駆り出されていて、それを手伝おうとした俺だったが、この三人に待ったをかけられていた。
「いや、俺も何かしないと……」
「特A型を倒した英雄のくせに、低姿勢すぎる!」
「レンネル基地の司令やフレデリック少佐が来るまでは、大人しくしててください」
いや、じっとしている方が居心地が悪いからと働こうとするのだが……この三人にやんわりと押し返されてしまう。
結局、やることを失った俺は。
静まり返った海岸で、佇んでいるボルガーの装甲にもたれかかるように腰を下ろし、朝焼けの名残をわずかに残したソロモン海峡を、ぼんやりと眺めていた。
波は穏やかで、さっきまでの戦いが嘘みたいに静かだった。
ふと、胸の奥に引っかかっていた違和感を、言葉にする。
「……エーテリアス」
【はい、なんでしょうか】
呟いた声は、すぐに脳内へと返ってくる。
横目でレイラを見るが、彼女は忙しそうに指示を飛ばしており、この声が聞こえている様子はない。
エーテリアスと、俺だけの会話。
それを確認してから、俺は地平線の彼方を見つめたまま、胸の奥に引っかかっていた問いを投げかける。
「この世界では……お前は、知っていることはすべて話したって言ったよな」
それは、レンネル基地で状況確認をしていた時のことだ。
エーテリアスは、自身の出自……ゼブロイドについて語った。
ゼブロイド……高位電子体。
回帰論……電子体であるゼブロイドが、有機体へと回帰することを望む思想。
そして、この世界におけるV.L.Tとの戦い。
ガルダリア・エンジンやナノマシンが生まれた理由。
それらは、紛れもない事実だった。
そしてエーテリアスは、こうも言った。
〝この世界〟については、と。
「……俺の世界で、お前は何を知ってるんだ」
この問いは、この世界の人間には理解できない。
だが異なる世界から来た俺には、その意味がわかる。
あの時は、壊れてしまった
けれど……今回の戦いで、いい意味で踏ん切りはついた。
だからこそ、今なら聞ける。
エーテリアスの言葉の、本当の意味を。
【……この話は、貴方にしかできませんでした】
わずかな間を置いて、エーテリアスは続ける。
【この世界にとっての〝外来有機体〟である、貴方にしか】
その瞬間。
俺の脳内に、何かが流れ込んできた。
相変わらず人の頭を記録媒体か何かだと思ってやがる。
流れ込んできたそれを、読み取った瞬間。
俺は、小さく呟いた。
「
それは、俺が愛したゲームの名前、そのものだった。
エーテリアスから送られてきた情報は、一見するとゲームの設定にも思えたが……中身はまったく違う。
ゲームの内容でもなく、ただ〝計画名〟だけが存在している。
そんな歪な情報だった。
【回帰論を提唱したゼブロイド、モクシャリアスが水面下で進めている計画です】
「……なんとも嫌な名前だな」
【全容までは私も把握できていませんが……おそらく】
わずかに間を置き、エーテリアスは続ける。
【この世界そのものを〝箱庭〟……
「何かって?」
問い返した俺に、エーテリアスはさらに一拍置いてから、静かに答えた。
【回帰論の主題である……有機体への回帰】
ナノマシン注入による、この世界に生きる有機体を器としたゼブロイドの回帰は、すでに失敗している。
ならば別の方法で、有機体の肉体を手に入れようとしているのか?
だが。
カリプトは言っていた。
〝本心を晒し出すことこそが、生き物としての在り方だ〟と。
だとするとゼブロイドは、ただ肉体を得て「生物に戻る」ことだけを望んでいるわけではないのかもしれない。
【ゼブロイドは高位電子体です】
エーテリアスの声が、静かに響く。
【有機体。あなた方が持つ好奇心や高揚感、達成感、虚無感といった感覚を、我々は感じることができません】
【カリプトの言ったような〝本心を晒す〟という行為も、本来は成立しないのです】
争いもなく、闘争もなく。
すべてが平等で、すべてが永続する世界。
普遍であり、完全。
だからこそ、どこまでも平坦な世界。
子孫も残さず、変化もなく、ただ存在し続けるだけの在り方に。
彼らは、それぞれの形で〝渇望〟を抱いているのだと、エーテリアスは言う。
カリプトのように、本心を曝け出し、戦いを望む者。
それ以外にも、無数の「何か」を求める存在がいるのだと。
【完成しすぎたがゆえに……】
わずかに沈んだ声音で、エーテリアスは告げる。
【我々は、それらを得る機会を……永遠に失いました】
遠い過去。
そして今、再び有機体を求めている。
様々な想いを抱えたまま。
「……だから、回帰論か」
【目的はそれぞれ異なるのでしょう】
【カリプトのように、本心の解放を願う者もいるように】
ざぶり、と。
波が砂浜に打ち寄せる音が響く。
静かな海だった。
これが現実じゃないなんて、思えない。
肌にまとわりつく潮風。
規則正しく繰り返される波の音。
かすかに鼻を刺す、海の匂い。
全部、リアルだ。
昨夜の死闘が、まるで嘘だったかのような世界の中で。
俺は、小さく息を吐いた。
「なぁ、エーテリアス。……なぜ、俺を選んだ」
この世界に来てから、ずっと抱え続けていた疑問を、俺はようやく口にする。
なぜ、俺はこの世界に来たのか。
なぜ、俺はここで戦っているのか。
なぜ、俺だったのか。
胸の奥に溜まり続けていた言葉が、ようやく形を持つ。
「俺以外にも、ピカイチなインフィニティランカーはいただろ」
事実、俺より上手いプレイヤーなんて、いくらでもいた。
万単位のフォロワーを抱える配信者。影響力を持つインフルエンサー。そして、ひたすらゲームに没頭する廃プレイヤー。
俺なんかよりも、ずっと強くて、ずっとおかしいプレイスキルを持った
「そんな中で、なんで俺なんだ」
ボルガーと出会うまでは、都合のいい夢だと思うこともあった。
だが違う。
「この世界」と「元の世界」を認識している存在……エーテリアスがいる以上、ここはただの夢じゃなく、現実だ。その確証を俺は持ってしまっている。
「……俺が、あのミッションをクリアしたからなのか?」
この世界に来る直前に攻略した追加ミッション。
カイ・ローベルトが乗っていた、あの歪な機体。
あれが、すべてのきっかけだったのか。
そう問いかけると、エーテリアスは迷いなく否定した。
【いえ、それは違います】
即答だった。
【貴方を選んだのは、私ではありません】
その言葉に、思考が一瞬止まる。
「……エーテリアスじゃない?じゃあ、誰だって言うんだ」
わずかに息を詰めながら問い返す。
【それは……】
「ダン中尉!今、大丈夫ですか!」
急に呼びかけられた俺は、エーテリアスとの会話を区切って呼びにきたレイラの方へ振り返る。
「……なんだ?レイラ」
張り詰めていた空気を断ち切るように、レイラの声が割り込んできた。
「すみません、ニューブリテン基地の代表者が話をしたいと」
「……わかった。すぐに行く」
駆けていくレイラの背中を見送ってから、俺はゆっくりと振り返る。
そこにあるのは、ただ静かに佇むボルガー。
答えは、もう返ってこない。
さっきまで確かにあったはずの気配は、嘘みたいに消えていた。
「……今はまだ答えられないってことか」
そう呟いた声は、流れている波音にかき消されていった。