リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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ここからハワイ編です


ハワイ諸島編
第30話 その大佐、厄介につき


 

 

 

Coordinates: 15.50°N, 179.29°W

ハワイ諸島沖の海上。

 

 

 

 

航海は順調そのものだった。

 

ソロモン海を抜け、北東へと進む輸送艦「ハミングハート」は、穏やかなうねりの上を一定のリズムで進み続けている。艦体を叩く波音と、機関部から伝わる低い振動が、艦内のすべてに規則正しい鼓動のように行き渡っていた。

 

空は高く、雲は薄い。

 

戦時下であることを忘れさせるほどに、海は静かだった。

 

ハミングハート級とも呼ばれるこの艦は、輸送艦としては中型クラスに位置するものの、ハウンドアーマーを15機搭載可能。さらに垂直離着陸機に限られるが艦載機を3機、偵察用ヘリも運用できるという輸送艦並みの輸送能力に加え、軽空母的な運用も可能とする汎用性を持つ。

 

その高い運用柔軟性から、多くの基地に配備される名艦として知られていた。

 

甲板下の格納区画では、固定具に繋がれたハウンドアーマーたちが静かに佇んでいる。整備員たちは必要最低限の作業にとどめ、過度な稼働は避けていた。

 

ここは前線ではない。

 

だが前線へ向かう船であることに変わりはなかった。

 

ニューブリテン島を奪還したレンネル基地一行に提供されたこの艦艇には、修理されたハウンドアーマーに加え、件の勇者ロボ……ボルガー。

 

そして特A型V.L.Tであるカリプトから回収された未確認機体も搭載されている。

 

特に、未確認機体は厳重に隔離された状態で格納されており、常時監視体制が敷かれていた。

 

その存在は、艦内にいる誰もが意識している。

 

この輸送艦ハミングハートは、もともとニューアイルランドからニューブリテン基地へ、ダン・ムラクモやテルリードたちを救援するために派遣される予定だった。

 

しかし、船の準備が整うよりも早く戦闘は終結。

 

その結果、乗組員全員がニューブリテン基地を奪還した者たちに深い敬意を抱き、今度はハワイ奪還のために力を貸したいと、自ら同行を申し出たのである。

 

それは命令ではなく、意志だった。

 

一方で、搭載された未確認機体については、現状の立て直しを最優先とするニューブリテン基地では管理しきれないという事情もあった。

 

加えて、Unknown01――ボルガーの第一人者であるカエデが同行していることもあり、「輸送艦を渡す代わりに持っていってくれ」というのが、基地側の本音でもあった。

 

そうした紆余曲折を経て、必要物資と運用要員を乗せたハミングハートは、いままさにハワイ諸島沖へと差し掛かろうとしていた。

 

静かな海。

 

穏やかな航路。

 

だがその先に待つものが、穏やかなはずがなかった。

 

「艦長、左舷前方海面に浮上反応!」

 

張り詰めた声が艦橋に走る。

 

それまで一定のリズムで流れていた空気が、一瞬で変わった。

 

見張り員の報告とほぼ同時に、灰色の海面が大きく盛り上がる。水圧に押し上げられるように海が割れ、白波が円を描いて広がった。

 

その中心から、黒い影が浮かび上がる。

 

「来るぞ」

 

誰かが、無意識に呟いた。

 

白波を押しのけ、黒く濡れた巨体がゆっくりとその姿を現す。海水を滝のように滴らせながら浮上したのは、見慣れた地球軍の艦影……原子力潜水艦だった。

 

潜望鏡、セイル、そして艦体上部。

 

すべてが、確かに味方のシルエットをしていた。

 

「識別信号を確認!カイルア・コナ基地所属、原子力潜水艦ヨトゥンハイムです!」

 

艦橋の空気がわずかにどよめく。

 

カイルア・コナ基地。

 

ニューブリテン基地と同じく特A型V.L.Tの奇襲を受け、状況が全く掴めない基地の一つ。

 

その最前線から、逃れてきた潜水艦がこのヨトゥンハイムであった。

 

「ヨトゥンハイムより入電。接舷申請が来ています。いかがしますか?」

 

艦長は、海面に巨体を横たえる潜水艦をしばし見据えた。彼らもまた、ニューブリテン基地から逃れた自分たちと同じように、特A型V.L.Tによって作られた地獄を目の当たりして、それでも生き延びてきたのだろう。

 

わずかな沈黙のあと、艦長は口を開く。

 

「受け入れよう」

 

迷いのない声だった。

 

「我々も、カイルア・コナ基地の状況を把握できていない。あの艦が持つ情報は、戦局に直結する」

 

「了解」

 

通信士が即座に回線を開く。

 

「こちら輸送艦ハミングハート。ヨトゥンハイムの接舷申請を受諾する。左舷側へ誘導する、針路を維持せよ」

 

通信が返るまでの数秒が、やけに長く感じられた。

 

やがて、短い応答。

 

その直後、海上の巨体がゆっくりと動き出す。

 

浮上した潜水艦が、慎重に、しかし確実に距離を詰めてくる。

 

海は静かだった。

だが、その静けさは嵐の前触れのようでもある。

 

カイルア・コナから来た生存者たちが、いったい何を見て、何を持ち帰ってきたのか。

 

それは希望か。

 

それとも。

 

ハミングハートの誰もが、その答えを待っていた。

 

 

 

 

地球軍の所有する大型原子力潜水艦、ホエールサブマリン級の3番艦「ヨトゥンハイム」。

 

それは、ハウンドアーマーを水中から射出する機構が組み込まれた初の原子力潜水艦でもあった。

 

ハウンドアーマーの収容数は左右の射出機構合わせて四機と数は少ないものの、沿岸部からハウンドアーマーを展開できる能力と、ハウンドアーマー用に開発された水上滑走用オプション「フロートサンダル」を併用すれば、海側から敵勢力を叩く電撃作戦にも投入可能という強みを持つ。

 

潜水艦という隠密性と、ハウンドアーマーを展開できる打撃力を併せ持つこの艦は、点検と整備のためハワイのカイルア・コナ基地へと停泊していた。

 

本来のメインストーリー(ボルトボックス)

 

特に裏ルートでのカイルア・コナ基地奪還作戦にも大きく関わるこの潜水艦は、特A型V.L.Tの襲撃を受けた際に緊急発進を行い、基地から脱出。

 

外部との連絡が遮断される中、ニューブリテン基地を奪還した主人公たちと合流し、共にカイルア・コナ基地の奪還を目指す。

 

それが大まかなストーリーの流れだ。

 

なお、ユーラシア大陸を横断する表ルートでは、この潜水艦は太平洋上でV.L.Tにより撃沈されたという報のみが語られる。

 

裏ルートでは“共闘する存在”であり、

表ルートでは“失われた戦力”として扱われる。

 

その差異が、この艦の存在をより際立たせていた。

 

さて、そうした前提は置いておこう。

 

今回選んだのは、裏ルートだ。

 

裏ルートにおける「ヨトゥンハイム」は、気さくな艦長が指揮を執る艦である。

 

だが、接舷し、輸送艦へ乗り込んできた指揮官の顔は、その陽気さとは無縁のものだった。

 

「カイルア・コナ基地所属、フランシス・レーネルベルク大佐だ」

 

まるで鉄を打ち鳴らすような声。そこにいたのは本来の艦長ではなく、地球軍の高級将校であることを示す制服に身を包んだ一人の人物。

 

フランシス・レーネルベルク大佐は、険しい表情のまま、ハミングハートの艦橋を一瞥した。

 

視線は鋭く、隅々まで艦橋にいる人員を評価している。艦の状態、乗員の練度、空気。すべてを測る目だった。

 

フランシス・レーネルベルク大佐。

 

彼は地球軍統合戦略局出身の高級将校であり、戦時特例によりハワイ方面軍の指揮を任された人物。

 

特A型V.L.T襲来時、その戦力差を即座に見抜き、脱出可能な士官を乗せてヨトゥンハイムを発艦させる。

 

残存戦力にも撤退を指示したものの、逃げ延びられた部隊は僅少。フライテールで脱出した一部がミッドウェー島へ到達するのが精一杯という、壊滅的な状況だった。

 

前線とは無縁のエリートだが、状況に応じて現場指揮も執る柔軟性と決断力を併せ持つ。合理主義、結果至上主義。必要とあれば、冷徹な判断をためらわない。

 

そして内側には強い情と執着を秘めている人物でもあった。

 

「こちらの艦識別番号上、貴様たちがニューブリテン基地から来た部隊であることは確認している。ニューブリテン基地は襲撃を受けなかったのか?」

 

現在の地球軍は北米大陸はもちろん、世界規模での音信不通の状態に陥っている。そんな中でニューブリテン基地の輸送艦がハワイ諸島沖合に現れたのだ。

 

大佐の問いでありながら、許可を求める響きはなく、一方的な尋問のようにも思えた。

 

重苦しい空気感の中、ハミングハートの艦長は直立不動で大佐の問いに応じる。

 

「ニューブリテン基地は敵を撃退し機能を回復。しかし北米大陸の状況は依然不明です」

 

簡潔。それ以上の情報はない。ここで詳細を詳しく話しても大佐は納得しないであろうという判断であった。そして、艦長の直感めいた予感は見事に当たる。

 

「ひとまず、諸君らは私の指揮下に入ってもらう」

 

潜水艦にいる乗り組み員は非戦闘員もいるし、カイルア・コナ基地奪還を目指すためには明確な戦力回復は急務だ。ニューブリテン基地が敵を撃退し、機能を回復させているというなら、この船を指揮下に置き、まずは状況を整理、カイルア・コナ基地の奪還作戦を練るのが先決だ。

 

「そんな!我々は……」

 

「この現場における最上位階級は私だ」

 

艦長の言葉をレーネルベルク大佐は断ち切る。反論する余地は許さない。彼は自身の階級と権力をよく知る人物であり、それをどう使うかも弁えている。非常時であるということも理解している。だから、いち早くこの事態から回復させることに努めなければならない。

 

「異論があるなら、後で正式に提出しろ。今は従え」

 

艦橋の空気が凍りつく。レーネルベルクの姿は、完全に現場を掌握する側の人間だった。

 

まずはこの船の持つ戦力の確認。そして不足している場合はニューブリテン基地への増援要請。

 

南方の資源基地であり、重要な拠点でもあるが……最悪の場合は基地の防衛戦力を全て引き抜いて、カイルア・コナ基地に居座る特A型を撃破しなければならない。

 

そうしなければ状況がわからない北米大陸への対処のしようもないのだから。

 

「我々はカイルア・コナ基地の奪還を計画を……」

 

その言葉の途中だった。

艦橋の自動ドアが開く。

 

「すいません、遅れてしまい……」

 

遅れて集まったクルーが次々と入室してくる。レーネルベルク大佐は、あからさまに表情を顰めた。

 

(まったく接舷したというのに緊張感のない……)

 

その時だった。

 

空気が、止まる。

最後に入ってきた一人。

その顔を見た瞬間。

 

フル稼働していたレーネルベルクの思考が、ほんのわずかに途切れた。

 

「……待て」

 

短い制止。

 

大佐の視線が、一点に固定される。

 

艦橋に最後に入室したのは……ダン・ムラクモ中尉。そして当の本人は、レーネルベルク大佐と視線が合った瞬間に、そっと逸らした。

 

見なかったことにできないかな……と、そんな空気すら漂わせながら。

 

しかし。

 

「……そこにいるのは」

 

絶対に逃がさない。

レーネルベルク大佐の声色が、変わる。

 

「……アナタ」

 

距離が詰まる。鼻先がくっつくような距離感まで近づいた大佐は、感情いっぱいの声で溢れるように呟く。

 

「……生きてたの……!?」

 

そこに先ほどまでの冷徹な指揮官はいなかった。口調も堅苦しく男らしいものから……完璧な「女性口調」に変わっていた。ちなみにこちらがレーネルベルク大佐の素である。

 

「後方基地に左遷されたって聞いてたのよ……!各要所が襲撃されたでしょ?!」

 

言葉が溢れる。感情が抑えきれないといった様子で、安堵と歓喜が鼻先にいるダンに伝わるようで……ダンはあからさまに顔を逸らして悪寒を感じていた。

 

「ほんと、心配してたのよ……!」

 

目がもうビンビン……言葉も全部本気だった。

 

「レーネルベルク大佐もお元気そうでなにより。てっきりロサンゼルス軍司令部勤務かと」

 

ダンが苦笑混じりに返す。

その一言で、さらにスイッチが入った。

 

「そうなのよ!」

 

さらに距離が詰まる。

もう抱きしめんと言わんばかりだ。

 

「アナタがレンネル基地に左遷させられるって聞いて、私もやる気ガタ落ち!張り合いがないから後方で高官育成に回ろうと思ったら、この有様よ!」

 

肩をすくめ、ため息まじりに笑う。さっきまで指揮権を振りかざしていた人物と同一とは思えない。

 

「ダンと同じ理由で、生き残ったってわけね」

 

その一言だけ、静かだった。

 

ダンは内心で思う。

 

……あー、どっかで死んでくれてたら嬉しかった……!

 

それを察したのか、レーネルベルク大佐は笑みを浮かべた。

 

「私しぶといわよ?」

 

にやり、と笑う。

 

「アナタと、お・ん・な・じ、ね!」

 

トンっと触れ合っていた鼻先を指で叩いてくる。ほんとこの人……苦手だ!

 

そう顔で訴えるダンに、レーネルベルク大佐はまったく悪びれた様子もしない。

 

ダンの隣にいるリンが明確に威嚇の表情を見せ、さらに隣にいるレイラは困惑の顔をし、合流したフレデリック少佐は、全く予想していなかった相手の登場に手で目を覆い天井を仰いでいた。

 

「ああ、そうだ」

 

ふと、レーネルベルク大佐が思い出したように姿勢を正し、艦長の方へ視線を向ける。

 

一瞬だけ、軍人の顔が戻った様子に、艦長も呆気に取られていた。

 

「さっきの話だが……ダン・ムラクモ中尉がいるなら、話は別ね」

 

そして、さっきまでの高圧的な態度で言っていた方針を完全に変えた。

 

「指揮権は一旦保留。状況共有を優先するわ!」

 

艦橋の全員が、内心で驚いていた。

あの強引な指揮官が、あっさりと引いた。

 

「詳しい話は直接するわ。ムラクモ中尉、どうせアナタがニューブリテン基地を奪還したのでしょう?たっぷりお話を聞かせてちょうだい!」

 

言い終えると、こちらの返答も待たずにレーネルベルク大佐は護衛の部下たちと共に艦橋を後にし、ブリーフィングルームに向かうのだった。

 

 

 

 

ヴォエ!!!

 

俺は言い表せれない吐き気をも様子何かを一身に受けてその場で膝をついてしまった。隣にいるリンが思わず支えようとしたが、骨折してるため無理はしないよう手で彼女を制する。

 

あ、危ないところだった。

 

もう少し会話に巻き込まれていたら今度は蕁麻疹が出ても不思議じゃなかった……。

 

「……あの、ダン中尉?今の人は?」

 

レーネルベルク大佐が爽快に去っていった後。終始ぽかんとしたままのレイラが、小声で聞いてきた。

 

「ああ」

 

軽く息を吐いて精神状態を整える。あの人と会うたびに何かしろの精神攻撃を受けるのだ。

 

ほんとに勘弁してほしいし……なぜ神は、あの人を生かしているのか……!

 

「フランシス・レーネルベルク大佐。俺のことを何故か敵視してる人」

 

「敵視……?でも、かなり親しそうでしたよね……?」

 

「うん……まぁ……うん」

 

うん。ほんと……言葉を濁すしかないよね。側から見たら敵対とはかけ離れた様子のレーネルベルク大佐だけど……俺からしたら迷惑以外の何者でもないんですよ……!

 

「あー、レーネルベルク大佐は、隊長に命を救われてるからなぁ」

 

横からフレッドが補足してくれる。

 

フランシス・レーネルベルク大佐。

 

俺の知るゲーム本編でも名前だけが出てくる大佐であり、彼は北米大陸の戦いに巻き込まれ戦死した高級将校であり、その戦死をきっかけに地球軍で内ゲバが加速度的に増えていき、内部崩壊の兆しが見えるというきっかけを作った人物なのだが……。

 

その本来死ぬ運命にあった大佐を、俺は偶然……ほんとに偶然助けてしまったわけであって……。

 

「隊長に命を助けられたのと、目の前で隊長がV.L.T勢力を鏖殺した様子に脳を焼かれ……ゲフンゲフン。そんなこんなで、前線にいた頃から、隊長が正当に評価されてないって、ずっと上に押し上げようとして、裏で色々やってたんだ」

 

裏事情を知るフレッドやアルからすると、その脳の焼け具合はなかなかにヤバいらしく……かなり危ないやり方で自分の派閥……なんだっけ、「救世主伝説」とかぶっ飛んだ派閥を作った上に、俺を疑う上層部に噛み付くわなんやで……それきっかけでハワイに飛ばされたんかな、あの人。

 

本当に上層部は碌なことをしねえ……!

 

「その結果……気がついたら、隊長の苦手な人ランキングのトップに」

 

「……ああ〜〜」

 

レイラが、すべてを察した顔で天を仰いだ。

 

「前線にいたい人間と、上に押し上げたい人間……そりゃ拗れますね……」

 

リンは彼を見るたびに「前線から隊長を抜く!?人類を滅ぼしたいんですか!」と噛みつきまくっていたし……俺の周り碌な奴いねぇな。なんでやろうな……。

 

俺は、先ほどまでここにいたレーネルベルク大佐の姿を思い出す。

 

あの人なりの正義で動いているのはわかっている。

 

……わかっているからこそ、面倒なんだよなぁ。

 

 

 

 

 

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