リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う!   作:紅乃 晴@小説アカ

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第31話 状況確認

 

 

「ま、そちらの状況は理解したわ」

 

輸送艦ハミングハートのブリーフィングルームにて、どっかりと中央に座ったレーネルベルク大佐を相手に、ニューブリテン基地でのことの顛末をかいつまんで話をした。

 

そしてこの輸送艦でハワイを目指していた理由についても、自分たちも大佐と同じく情報が不足しているという点に関して、大佐は納得してくれた。

 

なぜか報告のメイン進行が俺になったのは納得できなかったけども。

 

あとは……まぁ……肝心な部分については問題のない範囲で誤魔化してみたものの……。

 

「それで?どうやってニューブリテン基地に来た特A型を撃破したの?」

 

レーネルベルク大佐の言葉に、ブリーフィングルームにいる全員が俺の方に視線を向ける。

 

それも俺が説明しなきゃダメなことなのか!?

 

「あの……答えなきゃダメですかね」

 

思わず口に出して言うが、レーネルベルク大佐はブリーフィングルームのテーブルをバンっと叩いて、勇み足な口調で声を荒げる。

 

「当然よ!アナタ、自分の価値をぜんっぜん理解してないのね!」

 

ほんとこの人、ブレないな。

 

何を間違えたんだろう。

 

俺はただ北米大陸の作戦中に、V.L.T勢力下を、高級将校を乗っけて迂闊に飛行し墜落しかけたフライテールを救護しただけなのに……。

 

「アナタはこの地球における……いえ!人類における最後の切り札よ!私はそんなアナタの全部を知る必要があるの!」

 

レーネルベルク大佐……あの件からずっと、何かにつけて俺にご執心なのである。

 

何かあるたびに階級が合ってないとか、俺が万年中尉なことが地球軍の損失だとか、さっさと上へ上がって地球軍を改革する救世主になってとか。

 

その話をされるたびに俺の指揮下にいるメンツからは蜥蜴の如く嫌われてるし、隣にいるリンなんて顔を見るだけで威嚇とかし始めるし。

 

「なんか言い方がアレでキモい」

 

「狂犬はお黙り!」

 

立とうとするリンの肩をそっと押さえて座らせる。

 

狂犬ぶりに関しては大佐の言葉に激しく同意だし、リンも売り言葉に買い言葉ですぐに殺気立つのはやめなさい。

 

相手は大佐よ?

 

あれでも地球軍の高級将校なんだから。

 

「隊長。たぶんレーネルベルク大佐には説明しないと納得しないかと」

 

フレッドがわざとらしく言ってくるのもわかる。

 

リンもレーネルベルク大佐は、ミラクルイーグルスメンバーでも「あ、この人何言ってもダメだわ」という判定を受けた人だからね。

 

あれこれ理由をつけて逃げようにも真正面から強行突破してくるだろうから、ここでゲロっておかないと後が怖い。とても怖い。

 

「だよなぁ……はぁ、エーテリアス。頼めるか?」

 

【え、えぇ、私にできることなら】

 

あらかじめ電子デバイスに待機してもらっていたエーテリアスが、やや困惑気味に話を始める。

 

カエデ女史の組んだアプリで、簡易だが口の動きと若干の表情は再現できるようになった電子モニター越しに、エーテリアスはレーネルベルク大佐と向き合う。

 

「あら、可愛らしい子ね?アナタ、ダンの何なのかしら?」

 

【初めまして、レーネルベルク大佐。私はエーテリアス。ゼブロイドであり、ボルガーに乗るダンのパートナーの一人です】

 

そこからエーテリアスは、自分の出自のことや、レンネル基地で保管されていたUnknown01(ボルガー)のこと、そして解脱論と回帰論をもった敵の目的について話をする。

 

側から聞いても与太話めいたことではあるが、レーネルベルク大佐は止める言葉は言わず、ただ黙ってエーテリアスの言葉を聞いていた。

 

そして彼女が話を終え、大佐は一息、紅茶を口にする。

 

「ふーん、ボルガーにボルテリガー……V・ウェポンね」

 

「レーネルベルク大佐。地球軍上層部で、そのことに関する情報とかないんでしょうか?」

 

「フランでいいわ。親しい人はみんなそう呼ぶの。いつも言ってるじゃない」

 

俺の言葉に、そうねっとりとした目で見るのほんとやめてほしいんですけど……リンがあからさまに威嚇の顔をしてるんで。

 

だからウインクとかやめろって言ってんでしょうが。

 

「ヴ……体裁のこともありますので」

 

当たり障りのない言葉でレーネルベルク大佐の機嫌を損なわないようにするのが、万年中尉な俺にできる唯一の抵抗です。

 

俺の言葉に満足したのか、レーネルベルク大佐は用意された紅茶をスプーンでクルクルかき回しながら答えてくれた。

 

「私の知る限り、上層部はUnknown01……ボルガーのことはタブーに近かったわ」

 

「レンネル基地にずっと放置してたのに?」

 

「それは逆よ、お嬢さん。下手に厳重にすれば要らぬ詮索が入るから、あの状況が都合よかったってことね」

 

カエデ女史の言葉に、レーネルベルク大佐はそっと返す。

 

たしかにガルダリア・エンジン開発後、主な開発現場と研究施設は北米大陸に移動されたし、その頃はノルマンディー反攻作戦の痛手から立ち直っていない時期だ。

 

ボルガーを価値のなくなったレンネル基地にあえて放置し、周囲の目を北米やヨーロッパ方面の敵に向けさせることで、その無防備かつ、厳重な警戒をせずともボルガーから目を離させることに成功したわけだ。

 

「上層部はどうしてボルガーをそこまで危険視するのですか?」

 

そう質問するレイラ。

 

本来なら気安く質問できるような相手ではないし、下手をするとレーネルベルク大佐の後ろにいる護衛士官に叱責されるのもあり得るのだが……俺と大佐が会話していた内容を聞いているのか、いい意味でも悪い意味でも緊張感が遥か彼方に忘れ去られている。

 

それにあの護衛士官、俺と大佐が話をしてる空間だと一切邪魔しないんだよな……頼むからいい感じに大佐の威厳を保たせてくれ。

 

抱きつけるような距離に来るのを防いでくれ。

 

無理なら無理で諌めるくらいしような。

 

「ボルガーを危険視する理由。それはトーラス機関が大きく関わってるわね」

 

「トーラス?レイジングブルやナノマシンを作った……あ」

 

カエデさんが何かに気づいたところで、ご明察、と大佐が一言。

 

【おそらく、V.L.Tから何らかの知識を与えられた者がいるのがそこだと思われます】

 

「でしょうね。ナノマシンとか新型ハウンドアーマーとか、やることが先進的で怪しいと思ってたもの」

 

エーテリアスの説明には、ナノマシンが開発された理由、そしてガルダリア・エンジンも同じく外部からの刺激で作られた存在だということも含まれていた。

 

おそらく大佐は、その時点でトーラス機関が何かしらV.L.Tの影響を受けているというところまでは推察できていたのだろう。

 

気持ち悪いけど頭の回転はピカイチだ。気持ち悪いけど。

 

「もしかしてそれで?」

 

「嗅ぎ回る私のことは疎ましく思われてたみたいね。でも、ダンが前線で頑張ってるのだから、私が簡単に折れるわけにはいかなかったの!」

 

何度飛ばされそうになったか!と、ふんふん鼻息を荒くして言うレーネルベルク大佐だが、その度に相手の不祥事や弱みを握って、更迭や移動をことごとく握り潰していた実績を知っているから、あえて言及はしまい。

 

「でも、ダンがレンネル基地に左遷させられるって聞いてから、やる気がなくなっちゃってねぇ。気がついたらハワイ送りが決まってたの。まったく、やになっちゃうわね」

 

「この人のおかげで助かったこともあるけど、それ以上に色々かまされてるから喜べない……」

 

具体的に言えば、功績を作れば認めてやるという上の奴らに「ムッキィー!なら見せてやるわよ!私の救世主の力を!」って言って、単騎で敵集結地点に突っ込まされたりとか。

 

俺の命は上層部のおもちゃじゃねーんだぞ!まじで!

 

「ダンがいるなら話は早いわ。私の指揮下に入ってはもらうけど、独自の自由権をアナタにあ・げ・る❤︎」

 

「あ、はぁ、どうも……」

 

要は、指揮系統には組み込むけど自由に動けってことね。了解。

 

その場合、俺の指揮下にいる戦力も俺の裁量で動かしていいということになる。

 

実はこれ、北米大陸でよくやっていた手で、命令系統は整備されてるけど現場は実力主義という狂った統治構成なのである。

 

少数精鋭ならいいけど、派閥争いに巻き込まれてる部隊との協力作戦の時とかは、上の足の引っ張り合いで悲惨そのものだったからな。

 

「兎にも角にも、カイルア・コナ基地をどうにかしないといけないわ!ただ、その前にやることもあるわね!」

 

そう言って、ビンビンの目を俺に向けてくるレーネルベルク大佐。

 

え、ほんとに何をするつもり!?怖いよぉ!

 

「決まってるでしょ。ニューブリテン基地で撃破した特A型V.L.Tが何なのか、はっきりさせることよ!」

 

不安材料を抱えたまま戦うなんて真っ平ごめんですからね!と言って、レーネルベルク大佐はブリーフィングルームを意気揚々と出ていく。

 

あの無駄にテンション高いところ、どうやってメンタル維持してるのか。

 

出て行った後、全員で互いの顔を見合わせ、それからぞろぞろとブリーフィングルームを後にする。

俺たちも、先へ進んでいく大佐の後に続くのだった。

 

 

 

ハミングハート艦底部に位置するドッグでは、運び込まれていたニューブリテン基地で撃破された特A型V.L.Tが横たわっている。

 

その存在は、ただそこにあるだけで空気を圧迫していた。

 

巨大な鋼の塊なのに、どこか生きているもののような気配が抜けきっていない。

 

その見た目は、基地で戦っていた姿とはまったく別のものになっていた。

 

純白の装甲はすべて砕け、剥ぎ取られ、露出した内部フレームは妙に完成されすぎている。

 

……なんというか、うん。

 

ぶっちゃけて言うと、かなり勇者ロボの外観だ。

 

ボルガーやボルテリガーの容姿と似通っていて、明らかな技術体系の繋がりを感じる。

 

あの異質な存在たちと、目の前の残骸が同じ系譜にあると、嫌でも理解させられる。

 

ニューブリテン基地でもあれこれとデータを取ってみたものの、得られる結果は何もなく、沈黙を貫いていたのだ。

 

「あれからどう?」

 

カエデさんが、情報端末を見ている技師にそう話しかける。

 

だが、モニターから顔を上げた相手は、疲労の滲んだ顔のまま力なく首を横に振るばかりだった。

 

「ボルガーで試したことは全部試してみてるんですが……全く反応はないようです」

 

その言葉に、周囲の空気がさらに重くなる。

 

レンネル基地で眠っていたボルガーも、目覚める前は同じだった。

 

何をしても、何も返ってこない。ただそこにあるだけの存在。

 

エーテリアスと交流するにも、素質がある人間しかできない。

 

通常は俺とレイラが脳内でS.W.I.S(スウィス)と同じ原理で会話しているし、エーテリアス自身が外部機器と接続して第三者と会話できるようになったのも、つい最近の話だ。

 

つまり、普通に触ったくらいでどうこうなるものじゃない。

 

「ダン」

 

レーネルベルク大佐の声に、思考が引き戻される。

 

「はっ」

 

「触れてみなさい」

 

「……は?」

 

一瞬、聞き間違えたかと思った。

 

「アナタがボルガーを動かせたのなら、このわけわかんないものも何とかなるんじゃないのかしら?」

 

「レーネルベルク大佐は俺をどう思ってらっしゃるので?」

 

半ば呆れながら返すと、即答だった。

 

「人類の切り札」

 

……この人、ほんとブレねぇな。

 

背中に突き刺さる期待という名の圧を感じながら、俺は渡された作業用手袋をはめる。

 

ゴムの擦れる音がやけに大きく聞こえた。

 

周囲も異様に静まり返っている。

 

技師たちは冷却装置の操作パネルに手を添え、いつでも対応できるよう身構えていた。

 

「……やるしかねぇか」

 

小さく呟いて、俺は歩き出す。

 

近づくほどに、あの機体の違和感が強くなる。

 

「……っ」

 

俺は意を決して、深い緑色のボディにそっと触れた瞬間。

 

【やっと触れやがったか。待ちくたびれたぞ】

 

「――ッ!?」

 

脳内に響く……いや、違う。これは外に出て反響している。スピーカー越しに、はっきりと。

 

「カリプト……!?」

 

反射的に声が出ていた。頭部の青色のカメラアイが、かすかに明滅する。

 

死んでいたはずの機体が、こちらを見ているのがわかった。

 

【おお、俺の声が他の有機体にも伝わるのか。有機体と会話をするという概念がなかった我々にとっては、新鮮だな】

 

その声。間違いない。ニューブリテン基地で死闘を繰り広げた、あの特A型……カリプト。

 

声を聞いたことがあるレイラが息を呑む気配が伝わる。エーテリアスも、明確に警戒しているのがわかった。

 

だが、周囲の人間は違う。何が起きているのか理解できていない。

 

その中で、レーネルベルク大佐だけが一歩前に出た。

 

「アナタ……ニューブリテン基地を襲った特A型って、本当?」

 

【ああ、そうだとも。剛腕(シュピルフラーレ)のカリプト。それが俺の名だ】

 

わずかな間。

 

【もっとも……その剛腕は、もう失われてしまったがな】

 

その言葉に、空気が張り詰める。

 

「すぐに破壊しましょう! 危険です!」

 

堰を切ったように、乗組員たちが声を上げた。無理もない。こいつは敵だ。しかも、ただの敵じゃない。ニューブリテン基地の人間からしてみれば、仲間も、基地も、街も奪った存在だ。

 

【無駄なことはやめるんだな】

 

その憎悪に満ちた声に対して返ってきたカリプトのセリフは、驚くほど冷静だった。

 

【そのV・ウェポンは、お前たちでは破壊できん。ゼブロイドの力をもってしてもな】

 

それは、この場にいる誰もが嫌でも理解させられていた。

 

カリプト……特A型の中にいたこの存在は、バラバラになったガワと比べて傷ひとつついていない。同じ技術体系のボルガーも、あれだけの戦闘を経ても傷ひとつつかなかった。

 

ここにある装備でどうにかできる相手じゃない。

 

【それに……この身体、動かせないようだ。つまり今の俺は、ただのガラクタというわけだ】

 

その言葉に、俺は無意識に眉をひそめた。

 

本当にそうか? ただのガラクタが、こんなふうに喋るかよ。動かせないと言っても、その理由はまったくわからない。つまり、今は動かないが、何かの拍子に動き出すというリスクが常に伴っているということだ。いつ起爆するかわからん爆弾を手元に抱えてるような状態だ。

 

海中に沈めるという案も出たが、V.L.Tに対する何らかの手がかりという点もあり、現場の判断でどうにかできる存在でもないという不自由さもあるわけであって……現状できることは、常時監視と異常時の凍結措置……最悪の場合は海に沈めるということくらいだろうか。

 

「V・ウェポンって……なんなんですか?」

 

そんな中、カエデさんが静かに問いかける。その問いに、カリプトはわずかに間を置いて答えた。

 

【俺もすべてを知っているわけではない。だが、この機体のメモリーにアクセスしたことで、いくつか理解したことがある】

 

青いカメラアイが明滅する。

 

しかしその光は……どこか不安定に揺らいだ。

 

【……ソウルパージから人々を守るために私は存在……】

 

「……っ!?」

 

声が、変わった。

 

ザザッ、とノイズ。

 

機械音が混じる。

 

【……っ、メモリーからの汚染か。かなり強力だな……】

 

カリプトが呻く。まるで、自分じゃない何かに上書きされるような感覚を、ゼブロイドであるカリプトは感じている様子だった。

 

「ソウルパージ? なんなのそれ?」

 

次いで、同席していたカレンが問う。

 

ここまで、ゼブロイド、解脱論、回帰論と聞いたこともない単語のオンパレードだ。

 

ソウルパージと戦っていたなんて脈絡がなさすぎて理解ができない。

 

【この機体は、我々がゼブロイドになる以前……まだ有機体であった時代から存在していたものだ。そして、このV・ウェポンと敵対していた存在……それが「ソウルパージ」だ】

 

再びノイズ。青いカメラアイが激しく明滅する。

 

【おれは、私は、その戦いを支える……支える……支える……】

 

「カリプト!?」

 

ノイズと変化する声色に、思わず声が出た。

 

【カリプト!? しっかりなさい!】

 

俺の声に、エーテリアスの声が重なる。

 

【……はっ……くっ……意識が……】

 

スピーカーからノイズが走り続ける。機体全体が、微かに震えているように見えた。

 

なんというか、やばいな、これ。

 

カリプトがここにいるという点も充分にやばいが、この存在……ボルガーと同じ技術で作られたもの。

 

“何か”が、こいつの中にいる。

 

ただの機械のはずなのに、そうとしか思えなかった。あのノイズの奥に、意志とは別の存在があるように思えてならない。

 

しばらく続いた異常な点滅とノイズ。それがふっと収まり……カリプトが、荒く息を吐くように声を漏らした。

 

【……これ以上、深くメモリーに潜れば汚染される。それに、いくつかの領域にはプロテクトがかかっている。閲覧もできん】

 

この機体には、何かがあるのは確かだ。しかし、その謎は固く閉ざされていて、踏み込めばゼブロイドであっても呑まれてしまう。

 

なんとも厄介なものを抱え込んじまったものだ。海にでも沈めてしまいたい気持ちを抑えつつ、俺はもっと根本的に聞きたいことをカリプトに尋ねた。

 

「そもそも、どうやって助かったんだよ、お前……」

 

剛腕のカリプトは、あの戦場で確かに叩き潰したはずだ。あの時の手応えは、間違いなく仕留めたものだった。

 

なのに、何故こいつはここにいる。

 

【ゼブロイドは普遍的な存在だ。ハードの損失と、存在の消失はイコールではない】

 

「……は?」

 

そう言われて一瞬思考が混乱したが、ふと思い返す。ゼブロイドは高位電子体だ。肉体を持つ俺たち有機体は、肉体を失えば死ぬ運命にある。だが、それが電子体なら?

 

V.L.Tが機械科学技術の延長線上にいるなら、そのコアユニットを破壊する=存在消滅という図式が成り立つが、ゼブロイドはもっと高次元の存在だ。

 

ボルガーという肉体にこだわらず、電子機器の中を行き来できるエーテリアスが、その証左とも言えるだろう。

 

「つまり……特A型を破壊しても、お前たちは消えないってことか?」

 

【そういうことだ】

 

あっさりとカリプトに肯定された。

 

【ただし、高位電子体である以上、こちらから干渉することはできない】

 

……そしてお前は何を言ってるんだ?

 

「見ての通り、エーテリアスは基地のシステムをハッキングしてたぞ?」

 

彼女はレンネル基地にいた時点で、電子機器やプロジェクターに搬送ロボット……それに今は電子端末にも干渉している。カリプトも同じゼブロイドなら、そういった干渉でこちらの動きを制限したり妨害することもできるのではないか?

 

そう疑問をぶつけると、カリプトは肩をすくめるような声で答える。

 

【そいつは例外だ。エーテリアスはこの世界の技術を学んだ。俺たちには、その術がない。技術体系が違いすぎる】

 

「そんなに違うのか?」

 

思わずエーテリアスに聞き返すと、小さく咳払いが聞こえた。

 

【あの……簡単に言えば……】

 

エーテリアスが、少しだけ言葉を選ぶようにして続ける。

 

【今から旧時代の石板文明を完全に解読して、その石板の加工技術まで習得するようなものですね】

 

え、なにそれ怖……。

 

「それは……ボルガーがレンネル基地に落ちてから……か?」

 

【いえ、私が地球文明の機器に触れられるようになったのは、貴方とコンタクトをとってからです。それまでは地球人の技術レベルを推察することしかできませんでした】

 

ガルダリア・エンジンの構造図のアイデアをカエデに送った時も、エーテリアスは外部情報で確認できる地球文明の技術水準を予測し、そのレベルに落とし込んだ情報で発信していた。

 

「……それは、無理だな」

 

フレッドもエーテリアスの言葉を聞いて、それがどれほどのものかを理解する。

 

今の文明が失われた古代文明の情報を解析するのに、どれだけの時間をかけたか。一世紀? いや、もっと時間をかけて緻密に情報を集め、理論化させ、解析をしてきた。

 

それをたった一日……下手をすれば数時間で解析し、さらに十全に扱うなんて。

 

理解するだけでも無理だ。

 

ましてや再現なんて話にならない。

 

「私たちの技術って……V.L.Tから見たら石板文明レベルってことね……」

 

カレンが呆れたように呟く。エーテリアスにとってはたとえ話なのだろうが、当事者であるこちら側からすると笑えない話だ。

 

【カリプト。貴方はここで何をするつもりですか】

 

話を切り替えるように、エーテリアスは沈黙するボディに身を置いたカリプトへ問う。特A型を失い、戦力としての意義を失った今、それでもここに留まる理由が見つからない。

 

【俺はそこの選ばれた者相手に、本心を晒して戦うことができた】

 

しかし、カリプトの声はわずかに熱を帯びていた。

 

【俺は、ゼブロイドとして存在し続けることになってから……あれほど生を実感したことはなかった】

 

本心を晒して戦う。いや、戦うことは単なる結果に過ぎない。カリプトにとって、本心を……自分という存在をさらけ出せたことが何よりの吉報だったのだ。

 

ゼブロイドにはそんなものは存在しない。

 

彼らは何もせずとも存在し続けられる。

 

本心、野心、欲望、待望……そんな概念が遠き過去の遺物となった彼にとって、あの瞬間はまさに「自分」という存在を訴える大きな転機となったのだ。

 

【では、回帰論を諦めると?】

 

目的を果たしたのなら、それにこだわる理由もない。そう捉えたエーテリアスの問いは鋭い。

 

【諦める? とんでもない。実感できるなら何度でも実感したいものさ】

 

あの充足感。悠久の時を過ごしたゼブロイドであるカリプトにとって、それはまさに劇薬だった。あの瞬間をもう一度味わえるなら、何度でも街を焼こう。何度でも有機体を殺そう。

 

何度でも。なんどでもだ。

 

そんな思想が脳に叩きつけられる。レイラも感じたのか、その表情は険しい。

 

こいつは危険だ。

根本的な価値観が違う。

 

それに、またあんな戦いをしろって? 勘弁してくれ。思わず本音が漏れる。あんな無茶苦茶な戦いは一度で十分だ。

 

「それ、どうやったら見れるの? 言い値で買うわ」

 

「大佐、大佐。ソイツ敵です」

 

人が危険度合いを引き上げているというのに、この大佐はまったく! 俺の戦いを間近で見たいからって前線の指揮所に来た時もイカれてるとは思ってるけど、相変わらずだな、ほんと!

 

【なら、貴方を野放しにしておくことはできません】

 

エーテリアスの声が低くなる。

 

それは明確な排除の意思だ。

 

【構うことはない、エーテリアス】

 

しかし、カリプトがそれを制した。

 

【俺も、お前が選んだ有機体に興味が湧いた。だからしばらくはおとなしく、お前たちの選んだものを見させてもらうとする】

 

こちらのことなどお構いなしに、そう宣言するカリプト。まったく、ゼブロイドってやつはどいつもこいつも話を聞かないやつばっかりだな。

 

そう思っていたら、隣にいたニューブリテン基地の兵士が怒りを込めた目でカリプトの宿るボディを睨みつける。

 

「貴様! ニューブリテン基地の戦友を殺しておきながら、何を都合のいいことを!」

 

それは当然の反応だ。彼らからしたら、この鉄の肉体に宿る存在は明確な仇なのだ。たとえ破壊できないとわかっていても、それは見逃す理由には決してならない。

 

「よしなさい!」

 

だが、その復讐をレーネルベルク大佐が制止する。

 

「V.L.Tでも傷が付かなかったというなら、私たちでどうこうできるものじゃないわ」

 

「しかし……!」

 

「こう考えなさい」

 

大佐は淡々と言い切る。

 

「相手は出られない牢獄にいると。下手に動かれるよりはマシってことね」

 

合理的すぎるが、間違ってはいない。

 

ここで敵対することで、こちらに生まれるメリットはないに等しい。それに動けないのなら、やりようはいくらでもある。

 

そう言うレーネルベルク大佐だが、それでも納得できない様子の彼らに、俺からも声をかける。

 

「すまない。俺が責任を持って監視する」

 

俺もカリプト……V.L.Tのことや、相手が宿るV・ウェポンを見過ごすわけにはいかない。それに、ここまで関わった以上、放置もできない。

 

「ムラクモ中尉がそう言うなら……」

 

乗組員は歯噛みしながらも引き下がる。

 

「でも、俺たちはお前のしたことを決して忘れない。決してだ!」

 

「ああ」

 

その言葉に、俺は小さく頷いた。

 

……忘れるわけがない。あの焼け野原になった光景を見た俺だって、同じ気持ちだ。

 

「それで? どうするの?」

 

カエデが場を切り替える。

 

空気が一段、現実に引き戻された。

 

「このわけわからん奴については無視します」

 

わざと軽く言う。

 

「とにかく、我々はカイルア・コナ基地の奪還を目指します」

 

目的はなにも変わらない。

 

俺たちはまっすぐハワイ諸島に向かい、その島を占拠する特A型を撃破する。

 

北米大陸へと向かわない限り、時間が経つにつれて劣勢になるこの状況は打破できないのだから。

 

 

 

 

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