リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
第三話 英雄と左遷と太平洋の島と
レンネル島基地。
南緯11.7度、東経160度付近。
ソロモン諸島南端に位置するその孤島は、鬱蒼とした密林と珊瑚礁に囲まれた、地図上ではほとんど注目されることのない小さな島である。
だが、その島こそが、かつて滅亡寸前であった人類が再び立ち上がり、侵略者であるV.L.Tに抗うための礎となった拠点のひとつであった。
ヨーロッパ全土に浸透したV.L.Tを押し返す契機となったノルマンディー反攻作戦。
投入された100機のハウンドアーマーは70%という甚大な損耗を出しながらも敵戦線を押し崩し、後に【ミラクル・イーグルス】と称されるたった五名の小隊がA型ボルトを撃破。
その結果、敵の指揮系統は崩壊し、人類側の勝利として幕を閉じた。欧州の一部を奪還したことで、人類は確かに勢いづいた。
だが、V.L.Tも沈黙はしない。
ハウンドアーマーの脅威を察知するや否や、即座に新型機を投入。従来のA型を凌駕する性能を持つ、特A型が戦場に出現した。
それに対抗すべく、人類はハウンドアーマーを第一世代から第二世代への移行を加速。幾多の試作機を経て完成した第二世代後期型の傑作機、HX-16A《レイジングブル》が前線へ投入される。
最大の特徴は、既存のものとは違い、パイロットへのナノマシン投与することによって、操縦系統のレスポンスを格段に向上させたのだ。
生体信号と機体制御を直結することにより、従来の複雑なコクピットデバイスを大幅に削減し、機体の軽量化と、飛躍的なレスポンス向上を同時に実現した。
さらに背部ハードポイントによるモジュール換装機構を採用。固定武装の概念を排し、戦況に応じた兵装選択を可能としたことで、汎用性は飛躍的に向上した。
加えて、撃破したA型ボルトから得られた人工筋肉技術を各部に転用し、従来の機体にはない「粘り」のある機動力が付与されている。
このレイジングブルの大量配備により、戦局は確かに変化した。
人類は機動戦力を分散投入し、V.L.Tの拠点を電撃的に削ることで戦線を押し返しつつある。
しかし特A型の脅威そのものは、何一つ変わっていない。
実際、遭遇した小隊は「敵影を確認」と通信を発してから、わずか五秒で全滅した。
それが現在の戦力バランスだ。
地球軍全体の火力は確実に向上している。
だが、特A型の前では無力。
奴らの放つ位相収束砲は、透過した存在を分子レベルで崩壊させるため物理的なシールドは意味を成さず、装甲も存在しないも同然に消し飛ばす。
理論は未解明で、人類の物理法則を逸脱した攻撃だ。その威力は厚さ50メートルの核シェルター防壁を貫き、山すら貫いたという記録もある。
そんな存在に対し、単騎のハウンドアーマーが対抗するなど不可能というのが、地球軍全員の認識であった。
▼
レンネル島基地。
かつては人類反攻の象徴の一端を担ったと父から聞かされていたが、実際に配属されてみれば、その言葉がどこか遠い過去の話に思える。
レイラ・ストーム少尉は、この基地に配属されて半年が経過していた。1年間を通して26℃〜30℃付近を行き来する熱帯気候で一年中ほぼ夏のような地域だ。
そこにあるのは南方特有の湿った空気と、終わりの見えない単調な作業。配属された最初こそ焦燥と苛立ちに満ちていた心も、今では諦めに近い感情へと変わりつつある。
彼女は今日も、基地倉庫の整理と兵装の品番確認を黙々と続けていた。
このレンネル島基地は、名ばかりの基地だ。
最前線は遥か北西……ここから数千キロ以上離れた戦域に存在する。
つまりここは、戦場から切り離された後方のさらに後方。戦略的価値など、ほとんど存在しない。
ハウンドアーマー搭乗の絶対条件であるナノマシン適性検査に落ちたレイラは、地球軍内で名の通った家系であるがゆえに、この安全圏へと配属された。
そして、その事実を、彼女は受け入れられずにいた。だが、納得できないことと、軍属としての義務は別問題だ。若かった彼女は、その現実を容赦なく叩き込まれた。
前線への志願書はすべて黙殺。
かつてはナノマシンなしでも搭乗可能だった第一世代機、第二世代前期型でさえ、搭乗資格はいつの間にか剥奪されていた。
レイラは、シミュレータでしかハウンドアーマーを操縦したことがない。
成績も決して優秀とは言えない。
それでも、彼女は、戦いたかった。
名のある家のため。
前線で部隊を指揮する姉のように。
だが現実は非情だった。
この基地での任務は、倉庫整理と在庫確認。やっても、やらなくても、誰も困らない仕事。
かつてこの基地では、V.L.T兵器の解析や研究が行われていた。その名残で、倉庫には地球製部品と、用途不明のボルト由来部品が無秩序に積み上げられている。
整理しても終わらない、混沌。
それが、この基地の実態だった。
「ストーム少尉〜。そんなに気張っても疲れるだけだよ〜」
振り返ると、うちわで顔を仰ぐ司令官がいつもの調子で声をかけてくる。
覇気のない大佐。かつては艦隊で護衛艦長を務めた優秀な軍人だと聞くが、今の姿からは想像もつかない。
朝から司令室で茶を啜り、外部から届いた雑誌を読み漁る日々。
基地の人員も似たようなものだ。
定時まで適当に仕事をこなし、終われば島の集落で酒を飲む。
そんな環境の中で、レイラだけがかろうじて踏みとどまっていた。
いつか姉のように、気高く在る兵士になる。
その想いだけを胸に。
ふと、今朝届いた通達に目を落とす。
「司令官。今日からですよね、例のパイロット」
「あぁ〜そうだねぇ。まぁここは安全圏だし。前線帰りが何やらかして飛ばされてきたのか知らないけど……大人しくしてくれればそれでいいよ」
レイラはため息をつき、席を立つ。
新たに配属されるパイロット。
ナノマシン投与を拒否しながら、第二世代機で戦果を上げ続けた男。
そんな噂が、本当なのか確かめたくなった。
基地の滑走路を見渡せる場所へ向かう。
その時だった。
一機の古びた輸送機が、南国の湿った空気を震わせながら降下してくる。
エンジンは悲鳴のような音を上げ、機体は軋みながら滑走路へと降り立った。
▼
どうもこんにちは。
地獄のデスロード編を初期メンバー5人全員生存で突破した上に、損耗率99%だったノルマンディー反抗作戦を死に物狂いで生き延びた変態インフィニティランカー、ダン・ムラクモです。
そんな俺が今いるのは、前線から遥か後方。
ソロモン諸島、レンネル島基地だ。
……まずは、あの地獄のようなノルマンディー反攻作戦後の話からしよう。
作戦後、俺はヨーロッパ前線に配属された。
朝起きて哨戒、ボルトと戦う。
飯を食ってまた哨戒、また戦う。
昼は敵陣地の奪還。
夜は偵察、そしてまた戦闘。
シャワーを浴びて、報告書を書いて、寝る。
そんな生活を月月火水木金金で回していた。
で、ある日突然。
俺は前線から外され、後方送りになった。
……なんでや。
ナノマシン入れるの怖……じゃなくて。
ナノマシン頼りは甘え……でもなくて。
実際、戦果は上げていたはずだ。
単騎でC型V.L.T編隊を撃墜。
撤退戦では殿を務め、ナノマシンを投与したパイロットたちを逃がし。
B型とはタイマンで倒し。
A型が制圧した基地すら奪還した。
それでも、結果がこれだ。
まことに遺憾である。
話を持ってきたアルに抗議したら、「コイツ何言ってんだ」みたいな顔で、「君は何を言ってるんだ」と返された。
顔にも出すし、声にも出すな。
ちなみにアルこと……アーノルド・ゼノン〝少佐〟は、ミラクル・イーグルスの一人であり、ノルマンディー反攻作戦じゃ相棒として一緒に死地をくぐった。
今は他のメンバーと同じく前線を離れて上層部にいるのだが、俺から上官扱いされるのは死ぬほど嫌がる。実際、さっきも少佐って呼んだら露骨に顔をしかめた。ほんとに面倒くさい男である。
で、話を聞いてみれば。
地球軍上層部にとって、俺は目の上のたんこぶだったらしい。
理由は簡単。
軍はナノマシンを前提に、操縦のハードルを下げ、
若年層の投入や徴用で戦力を増やそうとしていた。
だが現実には、ナノマシンなしで、撃墜もされず、C型やB型どころか、A型すら単騎で沈めるパイロットがいる。
そりゃ、徴兵している軍から見て都合が悪い。
「ナノマシンの恩恵は本当にあるのか?」
そんな疑問が、新人パイロットたちの間に広がり始めていた。俺は完全に余計なことをしてしまったらしい。
そして、とどめがこれ。
小隊の撤退護衛中、特A型と遭遇。
本来、交戦は禁止されている相手だが俺は、損耗した小隊を逃がすため、殿に立った。
武装は片腕ごと吹き飛び、メインセンサーも沈黙。それでも死ぬ気で時間を稼ぎ、這うように帰還した。
で、待っていたのが特A型からの敵前逃亡の罪。即刻、軍事裁判。そして刑は銃殺刑確定している。
……それを裁判とは言わねぇんだよなぁ!?
だが、アルたちが動いた。ノルマンディー反攻作戦の功績と特権を無理やりねじ込み、俺を「処分」ではなく「左遷」にすることで、司令部を黙らせたらしい。
その結果が、このレンネル島送りというわけ。
さすがボルトボックスの軍部。やることなすこと腐ってやがるし、俺を思っての仲間の行動も、当事者の意見を完全に置き去りにしてやがるぜ。
当然、この左遷命令の直後、前線の部隊長各位から反対する書面が送られている。だが、アルたち曰く、各部隊長を説得して回ってなんとか落ち着かせたのだとか。
そりゃあ、銃殺刑か田舎へ左遷かと言われたら頷くしかないわな!
ははは!困ったわい。
ちなみにボルトボックスの地球軍は終始こんな感じで腐ってる。
それもそのはず、ハイパーリンク建設後は国家間の戦争や小競り合いもなくなったことから軍縮が進み、当時の軍上層部は形だけのお飾り状態で、過去の繁栄の結果、長らく戦闘することを忘れていたのだ。
軍というものの、作戦や方針はおざなり。責任の押し付け合いに終始し、人類全盛期の頃にやっていた派閥争いまで再現する始末。
要するに、稚拙な軍だ。
プレイヤーたちからも「地球軍が内部崩壊した?残当」としか言われない状態である。
さて。
ガタガタとすっごい揺れる機体に押し込められて十五時間ほど。
ようやく到着した基地なのだが……アルたちは狙ってここを左遷地としたのだろうか。
そうと言うなら地獄の片道切符だし、神のお導きというなら、その神のドヤ顔にMMXをぶち込んでやりたい気分だ。
このレンネル基地。メインストーリーに登場する基地である……ただし、補給物資を確保するための廃基地なのだ。
ボルトボックス本編におけるレンネル基地だが、本編時間軸では軍がほぼ壊滅状態。
指揮系統は破綻し、物資調達や兵站を担保していた基地が軒並み壊滅。
地球軍は物資不足と兵糧責めに喘いでいるところからスタートする。
つまり……本編以前に、このレンネル島の基地はすでに破壊されているのだ。
V.L.Tから逃げる形で撤退した主人公たちはこの基地にたどり着き、奇跡的に破壊を免れた基地倉庫から物資を調達することに成功する。
加えて、この基地は過去にV.L.Tの兵器群研究所でもあったため、新規武器の作成や改造、機体の整備や改修も可能な安地ポイントとなる。
……まぁ、辿り着いた段階で生存者はゼロ。基地も機能不全になるほど破壊し尽くされているんだけどな!
そんな基地に左遷とは、まことに遺憾である。
「長旅、ご苦労様でした。自分はレイラ・ストーム少尉であります」
オンボロ輸送機のタラップをショルダーバッグひとつで降りていると、奥に見える建物から一人の女性士官が出てきて、俺に敬礼を打ってそう言ってきた。
「本日付けでレンネル基地所属となったダン・ムラクモ中尉です」
ちなみに漢字にすると叢雲 弾である。万年中尉で本当に申し訳ない。上層部が頑なに昇進させてくれんのだ……なんでや、アルたちなんて少佐になってるのに。こちとらミラクル・イーグルスの小隊長やぞ。
ちなみに、ダン・ムラクモという名はボルトボックスで名無しの主人公につけていた名前であり、我ながら愛着があった。
戸籍の問題とかも転生した初期には心配したのだが、俺は正真正銘のダン・ムラクモであり、出生年月日や出生届もバッチリ確認できた存在である。
ただし転生前のダンの記憶は一向に呼び起こせない。肉体で記憶したことやデジャヴは感じるのに……。
「では、基地内を案内いたします。ムラクモ中尉」
ストーム少尉に連れられるまま、基地内に入る。
まずは司令官に着任の挨拶に行ったのだが……彼は少し古いゴシップ雑誌とくわえタバコをしたまま「はい、よろしくぅ」と気の抜けた返事だけを返してくれた。
まじで素敵な左遷先ですねぇ!
アルからは少し休暇を楽しめって言われたけど、これ楽しむことできるんかな。
丁寧に敬礼を打ってくれたのはストーム少尉のみで、他の基地クルーやオペレーターたちもやる気が微塵も存在していなかった。
外伝とメインストーリーの間であるこの時間軸だが……いくらなんでもだらけすぎる。
まぁ、所属メンバーが「ヒャッハー!」な奴らになってないだけマシか……前線は兵士の命がクズゴミのように消えていく。
俺が所属していた隊や、共闘した部隊はマシだったが……他はひどい有様だった。
C型に襲われた奴らなんて目も当てられない。惨憺たる仲間の死に様を見せつけられ、なんとか生き残っても精神に深い傷を負うなんて日常茶飯事。
そんな高ストレス環境で刹那的な戦いをしていたら、ヒャッハーなクソ集団になるのも分からなくは……ないか。
現に民間人にしていた略奪行為が明るみになって軍事裁判沙汰になってたし。
特に一番酷いのが特A型と遭遇したときだ。収束砲なんていうインチキ兵器のおかげで、遺品も跡形も残らずに消されるのだ。
そこに倫理もへったくれもありはしない。
理不尽な奪われ方をする命を前に、俺は必死に戦ってきたが……くそ。今どうこう言っても仕方がない。
銃殺刑を回避してくれたアルたちに感謝の念を送りながら、俺は基地を案内してくれるストーム少尉の後に続く。
さて、到着したのが昼前だったこともあり、ちょうど昼休憩という時間になっていた。
食堂に案内されるが、並べられていたのは味が異なるエネルギーバーとスープであった。
食事にも品性がないやんけ!どないなっとるんや、この基地は!
ブチギレながらササミ味とチョコレート味、フルーツミックス味のエネルギーバーを食べていると、真正面に座るストーム少尉が言いづらそうな顔で口を開いた。
「ここは訳ありの者が送られてくる後方の……あってもなくても大差はないような基地ですから……」
そう言ってスープに口をつけるストーム少尉。
その声は小さく、どこか自分に言い聞かせているようでもあった。
いや、たしかにこの基地はV.L.Tにとっても地球側にとっても戦略的な価値は低いだろうが……あってもなくても大差がないというわけではない。
現にメインの物語中盤でこの基地にたどり着けなかったら、疲弊した主人公たちはV.L.Tの追撃部隊に追いつかれて、死ぬより酷い目に遭わされていたことは間違いない。
つまり、この基地があるからこそ人類は反撃の旗を掲げることができる。
そんな話を嘘と方便でマイルドにして伝えると、彼女は少し鼻を赤くして涙を堪えながらも「ハイ」と返事をしてくれた。
……だが、その返事にはまだどこか納得しきれていない色が残っている。
「……でも、この基地に意味なんて……」
ぽつりと漏れた言葉に、俺は肩をすくめる。
「意味がない、ね」
少しだけ視線を外し、スープの湯気を眺めながら続けた。
「今はそう見えるだけだろ。ここがあるから生き延びる奴もいる。そういう場所は、だいたい後から意味が生まれるもんだ」
「……後から?」
「ああ。誰かが辿り着いて、誰かが使って、誰かが生き延びる。その結果、ここが必要だったって話になる」
軽く言ってのけると、彼女は目を見開いたままこちらを見ていた。
まるで、そんな考え方は思いもよらなかったとでも言いたげに。
「……そんな風に、考えたこと……ありませんでした」
「まぁ、普通は考えないだろうな。俺もついさっき思いついた」
適当に笑ってごまかすと、彼女は一瞬だけきょとんとして、ほんのわずかに、笑った。
「……そう、なんですね」
その笑みはすぐに消えたが、さっきまでよりも少しだけ表情が柔らいでいた。
このレイラ・ストーム少尉は作中では外伝でもメインでも出てこないところを見るとモブキャラ。
おそらくボルトによる後方基地攻略時に、この島の基地ごと吹き飛んだのだろう。
まぁそうなった場合、俺とまとめて吹っ飛ぶんだけどな!!ガハハハ!!
……などと考えていたのだが。さっきのあの表情を見たあとだと、少しだけ笑えなくなる。
少し湿っぽい空気から逃げるように「お昼からどうするか」と聞くと、どうやら昼からは基地最大の難点であり、最大拠点である基地倉庫を案内してくれるということに。
やったぜぇ。
メインでもレンネル基地の倉庫はとてつもなく広く、ハウンドアーマーの改修スペースはもちろん、戦利品の保管や新規武器の開発ラボまであるのだ。
ボルトボックス箱推しである俺が、その見学を避けるとは愚の骨頂。
俺は食器を片付け、ウキウキしながらストーム少尉と共に基地倉庫へと足を向けたのだった。
【ついに……この時が来た。】