リアル系ロボットゲームなのに世界観が違う! 作:紅乃 晴@小説アカ
結局のところ。
V.L.Tと呼ばれる敵勢力の正体については、ボルトボックスというゲーム内でも言及されていない謎の一つだ。
西暦2350年。
人類によって開発されたワームホール発生装置「ハイパーゲート」。
それは、地球を含む太陽系を遥かに超えた場所……新たなる宇宙〝フロンティア〟を開拓するという願いを込めて、全人類が共同出資で開発した長距離移動用転送ゲートだった。
人類の記念すべき日になるはずだったその起動初日。
ハイパーゲートは制御不能に陥り、そこから多数の巨大な兵器が出現した。
人類が協力して作り上げた遺産は、ボルトから放たれた位相収束砲によってあっけなく崩壊し……そこから、果てのない戦いが始まった。
現状で判明している設定は、驚くほど少ない。
①ボルトの敵兵器は自律AIで制御されていること。
②機体はC型、B型、A型、特A型と分類されていること。
……たったこれだけだ。
まずはC型。
いわゆる一般的な兵器で、有名なのは蜘蛛型のシルエットだが、陣地構築用に作業ポッドのような丸い機体など、様々なモデルが存在している。
戦闘力はそこまで高くなく、50mmライフル程度でも撃破可能な耐久力しかない。
だが、その欠点を数の暴力で補ってくる厄介さがある。
次にB型。
後方支援を目的とした高火力タイプの兵器であり、テンタクルブリッジを崩壊させたのも、こいつらが持つ位相収束砲だった。
この収束砲は人類から見れば完全にオーバーテクノロジーであり、従来のビーム兵器とは全く異なる概念のエネルギー砲となっている。
物理的な防御は意味をなさず、防ぐにはボルト由来の動力「ガルダリア・エンジン」から放出されるエネルギー力場を使うしかない。
……まぁ、それが実装されるのは特A型の技術が流用された第三世代機からの話だが。
そしてA型。
拠点制圧を目的とした大型兵器で、そのサイズはV.L.T兵器群の中でもトップクラス。
内部にはC型の生産機関を持ち、拠点防衛用の武装も多数備えている。いわば、V.L.T側の空母のような存在だ。
基本的にC型、B型とセットで運用されるが、B型のような位相収束砲は持たない。
つまり、周辺機を潰せば防衛力はガタ落ちになる。
作戦を立てれば撃破は可能だ。
……問題は、特A型。
A型とは名ばかりで、性能も武装も完全に別次元。
まさにボス機体だ。
エネルギー収束砲を三門搭載し、ホーミングミサイルを標準装備。個体によってはエネルギー刃を飛ばしてくる。
近づけば隠し腕など人間工学を無視した構造からの不意打ち。距離を取れば三門の収束砲、鬼追尾ミサイル、そして飛ぶ斬撃。
逃げ場がない。
さらに厄介なのが、機体表面に展開される流体エネルギー膜というシールドだ。
これがとにかくおかしい。
遠距離からの物理攻撃もビームもほぼ無効化し、受けたダメージはワームホール理論で別次元へ放出される。
つまりいくら撃っても“当たっていない”ことになる。
……相変わらずふざけてるだろ。
だが、打つ手がないわけじゃない。
唯一の攻略法は、至近距離まで踏み込み、ガルダリア・エンジンを全開にしてMMX(多機動格闘処刑刃)を叩き込むこと。
これなら流体エネルギー膜を無視して直撃ダメージを与えられる。
もちろん、三門の収束砲をすべて躱し、ミサイルと斬撃を避け、ゼロ距離まで到達することが前提という、超絶鬼畜仕様だが。
そんな敵相手に、ナノマシン抜きの出力不安定なハウンドアーマーで挑むインフィニティランカーたち。
……やはりドMなのではないだろうか。
変態の名は伊達じゃないぜ。
さて、ハウンドアーマーの動力源であるガルダリア・エンジンについても軽く説明しておこう。
このエンジンが搭載されたのは、トリプルゼロの後継機、HA-08Fリゴッティからだ。
当初は試作段階で出力も安定しなかったが、この革新的なエンジンによってハウンドアーマーは第二世代へと移行した。
現在、前線で主力となっているのは、第二世代後期型、HX-16A レイジングブル。
この機体はナノマシン未投与のパイロットは搭乗不可。
ナノマシン適性がないパイロットたちは第二世代前期型のHX-10 レイブンアームズやHX-12 アーマライトを使い続けている。
ハウンドアーマーの動力源であるガルダリア・エンジンは、ノルマンディー反攻作戦で撃破したA型V.L.Tの機体を解析した結果もたらされたオーバーテクノロジーだ。
内部に強力なエネルギー力場を形成し、それを防御フィールドで内包することで無理やり安定させるという、かなり力技な構造をしている。
この防御フィールドは非常に優秀で、物理ダメージを軽減するだけでなく、ボルトの位相収束砲に対しても高い耐性を持つ。
さらに、内部エネルギーは収束砲と同じ因子を持ち、それを活性化させ続けることで出力が上昇することも判明している。
そして、この因子との同調率が高いほど性能が向上する特性が発見され、第二世代後期では生体デバイスへのアプローチ……つまりパイロットへのナノマシンの導入が始まった。
エネルギー同調率の向上と操縦レスポンスの改善。
その代償として、ナノマシンがなければ出力が安定しない機体が主流となっていった。
……とはいえ。
ガルダリア・エンジンもまた、ボルトと同様に謎が多い。開発にはハイパーゲートにも出資していた貴族、ガルダリア家が膨大な資金援助をしていた。
その功績を称え、エンジンにその名が冠されているのだが、その貴族は作中一切登場しない。生きているのかすら不明だ。
まぁ、主人公たちの時代になると特A型の同時多発奇襲で地球軍は壊滅的な打撃を受けるわけだが……。
ネットではボルトの正体やガルダリア・エンジンについて様々な考察が飛び交っているが、その真相は未だ開発サイドのみぞ知る、というわけだ。
▼
「カエデさん、お疲れ様です」
ストーム少尉に案内された俺は、レンネル基地の兵器倉庫に足を踏み入れていた。
倉庫内は騒がしいほどに稼働している。無機質な床を滑るように、自動搬送ロボットが何台も行き交い、時折、金属同士が擦れる乾いた音が響く。
見上げるほど高く積み上げられた収納用コンテナ。
その一つ一つに、地球製とV.L.T製の技術品が無造作に詰め込まれている。
埋葬、という言葉が妙にしっくりきた。
ここは倉庫というより、戦場の残骸を詰め込んだ墓場のように思える。
「あら、レイラ。……隣にいるのは今日から配属になった噂のパイロットかしら?」
声のした方を見ると、タブレットを片手に何かを確認していた女性が、こちらに視線を向けていた。
スラリとした体型。スカートタイプの制服を着るストーム少尉とは対照的に、彼女はパンツスタイルで、どこか実務的な印象を受ける。
その視線は、値踏みするように鋭かった。
「本日付けでレンネル基地配属となった、ダン・ムラクモ中尉です。よろしくお願いします」
軽く背筋を伸ばして名乗る。
だが返事はない。ただ、ジッと見据えられる。
無言のまま。
……え、何この間。怖い。
「前線で鬼のように強いって噂で聞いていたけど……それで中尉なのね」
ぽつり、と。
「てっきり佐官クラスだと思ってたわ」
(ですよね!!)
内心で全力同意しつつ、どうやらそれが顔に出ていたらしい。
彼女は一瞬だけ俺の表情を見て、何かを察したように視線を落とす。濃い隈の刻まれた目が伏せられた。
「……まぁ、いいわ」
それ以上は踏み込まなかった。察しがいい人で助かる。助かるけど、ちょっと精神ダメージは入った。
隣のストーム少尉が、不思議そうにこちらを見ていたが、知らない方がいいこともある。特に、上層部から厄介者扱いされて、階級も上がらず、馬車馬みたいに使い潰されるパイロットの事情なんてな。
インフィニティランカーじゃなかったら、普通に死んでるからな。マジで。
「貴方、ミラクル・イーグルスの生き残りでしょ」
「……まぁ、はい、そうですね」
わずかに言葉を選んで答える。
「なら、後方に回ることもできたはずよね」
その通りだ。アルを含め、ノルマンディー反攻作戦で生き残った連中は、全員がパイロットを降りて、軍の上層へ進んだ。
もちろん、その時に俺にも声がかかっている。
「なんで、まだ前線にいるの?」
静かで、しかし逃げ場のない問いだった。
……前線は地獄だ。
ゲームで体験したもの以上に怖く、恐ろしい。V.L.Tの脅威は、実際に相対した人間にしか分からない。一度でも生き残ったパイロットが、再びそこに戻ることを拒む。それは、何もおかしくない。そう断言できるほどに。
「戦う選択を選ぶなんて戦闘狂か……よほどのバカなの?」
「カエデさん、それは流石に……」
ストーム少尉が慌てて制止するが、カエデは意に介さない。虚ろで、深い隈に沈んだ目が、まっすぐ俺を射抜く。
その目。
戦場で見たことがある。
V.L.Tと真正面から戦い、恐怖を知り、それでも生き残ってしまった兵士の目だ。
「逃げられるのに、わざわざあんなものに乗って戦う神経が理解できないわ」
「あんなもの、って」
「分かるでしょ」
即答だった。
「ハウンドアーマーは、人を壊す機械よ」
……否定はできない。
前線の兵士は、V.L.Tに殺されるか、精神を壊されるか。あるいは、自分の乗る機体を信じられなくなって、乗れなくなる。
あんなもの、普通の人間が乗るものじゃない。多くの人間が、絶望した顔でコクピットに乗り込み、死地へ向かう。
そんな中で、後方へ下がる選択肢を持ちながら、それでも最前線に立ち続ける俺は……外から見れば、ただの異端だ。
「……そんなのだから、万年中尉なんじゃないかしら」
空気が、わずかに冷えた。
ひどい言い草だ。
けど、不思議と腹は立たなかった。
この人は、きっと本気でそう思っている。
「……まぁ、否定はしませんよ」
肩をすくめる。
「前線は、綺麗ごとで語れるものじゃないですから」
命が軽い。本当に、軽い。
昨日まで隣にいたやつが、次の日にはいない。
それが、当たり前だ。
「だから……少しでも、それを減らしたかっただけです」
それだけだ。
過去に経験したボルトボックスの追加コンテンツは、一般兵と共にA型V.L.Tが占拠するエリアを解放するため戦うミッションだった。
戦いが始まるたび、絶叫。悲鳴。助けを求める声、それが途切れることなく耳に残る。
どれだけ足掻いても、救えない命がある。
それでも。
俺は、前を向いて戦うことを選んだ。
アルも、仲間たちも。
前線で出会った連中は、俺を信じてついてきてくれた。上役に上がったというのに、変わらずに仲間は時に背中を押してくれる。
だから。俺には、逃げる選択肢があっても、選ばなかった。
V.L.Tに対抗できる力があるなら、使うべきだ。
そう思った。ただ、それだけだ。
沈黙。
カエデは何も言わないが、ほんの一瞬だけ、目を伏せた。
「……そう」
短く、それだけ。
「まぁ、ここに来た以上は、もう前線には戻れないわ」
興味を失ったように、淡々と告げる。
「せいぜい休みなさい。戦うことなんて、忘れた方がいい」
「……忘れられれば、苦労しないですけどね」
小さく返すと、彼女はわずかに鼻で笑った。
そのまま、物資運搬ロボットの方へ視線を移す。
「メンテナンスがあるの。それが私の仕事よ」
工具箱を手に持って、彼女はさっさと倉庫の奥へと歩いていく。
「なぁ、アンタの名前は?」
ふと、背中に声を投げる。カエデという名前しか知らない中で自然と出た言葉だった。
「カエデ。カエデ・ガルダリア」
その名前に、思わず反応する。
「ガルダリア……って、あの――」
「その話を続けるなら」
被せるように、言葉が叩きつけられた。
足が止まる。
振り返らないまま。
「二度と貴方とは口を聞かない」
空気が、張り詰める。
冗談じゃない。本気の拒絶だった。
「……承知した。肝に銘じておく」
即座に引いた。
あれはきっと踏み込んじゃいけないラインだ。
聞きたいことは山のようにある。
ガルダリア……人類に繁栄をもたらしたハイパーリンクやハイパーゲート、そしてハウンドアーマーの動力源となる「ガルダリア・エンジン」の開発に尽力した億万長者の家名。
その名を持つカエデは、そのまま倉庫の奥へと消えていった。残されたのは、わずかな静寂と、機械の駆動音だけだ。
「彼女も、その……やむにやまれぬ事情でここにいるんです……」
困ったように笑うストーム少尉。
「私も、詳しくは知らないんですけどね」
そのまま、俺はストーム少尉の案内のまま倉庫の奥へと進む。
……広い。
整然と並ぶ棚が、果てなく続いている。ここに積み上げられているのは、物資だけじゃない。
戦場で積み重ねられた何かが、まだここに残っている気がした。
「整理を本格化して多少は見えやすくはなったのですが……それでも片付いたのは半分くらいなんです」
そう言う彼女が向けた目線の先。
そこには山のように積まれた廃材や部品がある。
あそこはまだ片付いていないエリアでロボットでも侵入ができないため、人海戦術で整理を進めているのだとか。
あれでも片付いたと言うほどなのだから、当初は足の踏み場もない混沌とした倉庫だったのだろう。
「以前、レンネル基地ではV.L.Tの技術に対して研究や実験が盛んに行われていたんです」
回るだけで2日はかかりそうな倉庫の概要を説明してくれるストーム少尉に相槌を打ちながら、俺は倉庫内を見渡す。
彼女のいうことは真実であり、過去にここではV.L.Tのオーバーテクノロジーに対する研究が行われていた。
故に倉庫内には未知のテクノロジーで作られた武装も多く転がっていて、メインストーリーでは技術屋たちが放置されたV.L.Tの武装を魔改造して主人公のハウンドアーマーに装着すると言う展開もあったりする。
しかし、なんというべきか。レンネル基地の倉庫が、あまりにも広い上に……。
「何かありましたか?」
「なぜこんなにV.L.Tのオーバーテクノロジーが、この倉庫にはあるのかなと思ってな」
質問をしてきたストーム少尉にそう返す。メインストーリーで主人公たちの強化に活躍するこの基地もまた、ボルトボックスの謎の一つである。
その充実した設備は……まるで主人公たちがV.L.Tに反撃するために、あらかじめ用意されていたと言われても疑わないほど、場が整っている。
その歪さを前に、俄然調べたくなるのが変態であり、インフィニティランカーなのである。
俺はしばらく一人で見て回りたいとストーム少尉に告げて、彼女の気配がなくなるところまで歩いてから兵器が保管されているエリアへと進んだ。
正直に言えば15時間もオンボロ飛行機に体を揺さぶられていたので、すぐにでも寝たいのだが……ボルトボックスの謎であるレンネル基地の完全なる姿が目の前にあるのだ。
今はその好奇心がその全てを凌駕している。
しばらく倉庫内を歩くと、メインストーリーでもよくお世話になったハウンドアーマー専用のハンガーがあった。
しかし、ストーリー時に発見した時よりもとっ散らかっていて、使うには積み上げられている廃材や部品を撤去するしかない。
まぁ、果たして自分が生きている間にここを使う主人公たちを観れるかどうかも定かではないのだが……。
【やっと出会えた】
そんなことを考えると、ふと声が聞こえた。ストーム少尉か、カエデ女史かと思って自分が通ってきた通路には誰もいない。
それに声が聞こえた方向も全く違う。
【貴方がここにきてくれるのをずっと待っていた】
恐る恐る声がする方へと目を向ける。
声が聞こえるのはハウンドアーマーが整備を受ける専用ハンガーの裏手からだ。散らばる部品や武器や残骸を乗り越えて進む。
そして俺は、声がはっきりと聞こえた場所を見上げた。
そこには壁に背を預けるように腰を下ろし、放置された存在。
それは、既存のハウンドアーマーとは全く異なる形をしていて、オレンジ色のカメラアイが備わる頭部を、まるで糸の切れた人形のようにだらりと首を垂れさせている。
いや、待て。
こんなハウンドアーマー……見たことないぞ。
形としては……キービジュアルブックに載っていた要素開発で製造されたプロト・ハウンドアーマー(トリプルゼロのベースとなった本当のプロトタイプ)の姿にどこか似ているが……。
少なくとも、俺は追加要素を含めて全ての難易度で入手可能なハウンドアーマーを手にしていた。
だが、目の前にある機体は全く見たことない体系の機体だった。
さっき響いた声はもう何も語らない。
震える手で鎮座する機体に触れる。
その時だった。
「中尉!大変です!A型が南の沖合に出現しました!!」
俺を探してこの場に駆け込んできたストーム少尉が飛び込んできたと同時。
オレンジのカメラアイに光を満ちさせた機体がひとりでに動き始め、アーマーに触れていた俺は突如として伸びてきた腕に捕まり……
そして。
そのまま、コクピットへと押し込められたのだった。