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─研究員の青年、
再び現れることの無いはずだった怪物、『アンデッド』が眼前に迫っている。
他の研究員達が悲鳴をあげ、逃げ惑い、集団パニックに陥ってしまっている。
彼自身もまた、疑問と恐怖に塗り込められた思考を振り払えずにいた。
だが、目に飛び込んできた光景が彼をハッとさせた。
一人の女性研究員が逃げ遅れている─。
恐怖で腰を抜かしてしまったようだった。
必死で後ずさりしているものの、ヤツは、アンデッドはジリジリと距離を詰めていく。
(このままじゃ…)
そう思ったの次の瞬間─
「うああああああああっ!!」
悲鳴に近い叫びをあげながら、逢瀬は駆け出していた。
渾身のタックルをかましたが、アンデッドはやはりびくともしない。
(でも…意識はこっちにそらせた…!)
「早く逃げて!」
恐怖で顔を強ばらせた女性に避難を促す。
やはり、腰を抜かしてしまったようだ。
「その女性をお願いします!」
近くにいた男性と目を合わせ、そう依頼する。
小さく頷いた男性は彼女のもとに駆け寄り、肩を貸した。
二人が逃げる時間を稼ぐため、アンデッドにしっかりとしがみつく。
だが、踏ん張りも虚しく、圧倒的な馬力で押されてしまう。
背後を見やり、二人が通路の奥に消えていくのを確認し、安堵する。
しかし、息をつく間もなかった。
身体が宙に浮く。
一拍おいて、激しい衝撃が身体を貫いた。
頭蓋に反響した衝撃が視界をぐにゃりと歪めた。
肺の中の空気が搾り出され、低い呻き声となる。
アンデッドに放り投げられ、通路の壁に背中を強く打ちつけたらしい。
頭がぼうっとする。
意識が消失しかけている。
(あの時とおんなじだ…。)
だが、今回は助かる保証はない。
身体中に鈍い痛みが走る。
意識がぼんやりとしてゆく。
ヤツがゆっくりと迫ってくる。
死神の大鎌が首もとに押し当てられたような感覚を味わった瞬間だった─。
「待て!」
通路の奥から男の声が響く。
アンデッドはしばし動きを止めた。
声がした方向に振り向く。
こちらに駆け寄ってきた声の主は─
「橘所長…!」
そう、かつて仮面ライダーギャレンだった者─。
橘 朔也である。
「大丈夫か!」
「大丈夫…です…」
「俺が時間を稼ぐ!その間に君は逃げるんだ!」
そう言いつつ、橘は四角い機械と一枚のカードを取り出した。
機械にカードを挿入し腰にあてると、ベルト部分が出現し、システムの始動を告げる待機音が鳴り始めた。
左拳を胸の前に構え、レバーに右手をかける。
目の前のアンデッドを睨みつけつつ、叫ぶ。
「変身!!」
『TURN UP』
レバーを引いてバックルを反転させると、光のゲートが現れた。
橘がゆっくりとゲートをくぐり抜ける。
逢瀬が次の瞬間目にしたものは─
天に向かって伸びた二本の角。
翡翠色をした一対の眼。
菱形の意匠をもった各部の装甲。
逢瀬が息を呑む。
そして小さく呟いた。
「あれが…仮面ライダーギャレン…!」
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─その姿になるのはじつに四年ぶりだった。
仮面ライダーギャレン─
BOARDが最初期に開発した、ライダーシステム初号機とでも言うべきライダー。
かつて橘が使っていたギャレンバックルはダイヤスートのカテゴリー
つまり、現在彼が使用しているものは、新たに造られたものであった。
それだけでなく、あの時とは決定的な違いがあった。
もともとのギャレンは烈火のごとき紅いボディをもっていた。
しかし、今は色彩を失ってしまったかのようにくすんだ灰色となっている。
理由は、橘が変身に用いたカードにあった。
─『ケルベロス』と呼ばれるアンデッドがいた。
『ケルベロス』とは、全アンデッドのデータを元に創り出された人造アンデッドだった。
カテゴリー
その後、他のアンデッドと同じくBOARDの管理下におかれていたが、『人類が造り上げた不死生命体』として研究のため、デッドコピーというべき三枚のカードが製作された。
─それこそが、橘が使った一枚のカード『コピーケルベロス』であった。
どのスートにも属さない特殊なカテゴリー
そのため、どのライダーシステムでも同一のカードで変身が可能という利点はあったが、本来の性能の半分ほどしか発揮できないデメリットがあった。
色が失われてしまったのもそのためだ。
もともと実戦での使用は想定されておらず、研究の副産物のようなものだった。
しかし、今回はカテゴリー
─ギャレンとビートルアンデッドはしばし睨み合いを続けていた。
しばらくの後、瞬間的にギャレンはホルスターから醒銃『ギャレンラウザー』を引き抜き、連続でトリガーを引いた。
それに反応したビートルアンデッドは左腕に装備した盾で、ラウザーから放たれたエネルギー弾を防いだ。
「今のうちに逃げるんだ!」
怒鳴りつけるように橘が言う。
逢瀬は自問自答していた。
(このまま逃げたら…いくら橘所長だからってあんな状態じゃ無茶に決まってる)
(でも俺に戦う力なんてない。足を引っ張るだけだ…)
(いや、もしかしたら…!)
逢瀬はあることを思いついたようだ。
「早くしろ!!稼げる時間にも限りがある!」
盾で銃撃を防ぎつつ、アンデッドはこちらに歩みよってくる。
橘が再び怒鳴る。
逢瀬は腕をつかまれ、引っ張り上げられるように立ち上がる。
逢瀬は唾を飲み込み、橘に許可を求めた。
「俺にライダーシステムを使わせてください!」
「なんだと!?」
「まだライダーシステムはあるはずでしょう!?それを使わせてください!」
「馬鹿なことを言うんじゃない!そもそもあれは普通の人間には─」
「俺だってライダー候補者だったんです!うまくいくやってみせます!」
橘の言葉を遮り、逢瀬が続ける。
逢瀬はもともと新世代ライダーの候補者としてBOARDに参加していた。
しかし、新型ライダーシステムの開発が凍結されたため、研究員に転向していたのだ。
「それに…このままじゃアイツは倒せません!犠牲者が出ますよ!」
仮面越しに橘の目をまっすぐ見つめる瞳。
いつか見たことのある正義感に燃えた瞳だ。
「…仕方ない。これを受け取れ。」
逢瀬に差し出されたのはもう一つのライダーシステム、『ブレイバックル』だった。
「ありがとうございます!」
「だが無茶だけはするな。いいな?」
「退き際はわかっているつもりです。」
〈市街地にアンデッド出現!繰り返します!市街地にアンデッド出現!〉
「またアンデッドだと!?」
「いってください橘所長!ここは俺が引き受けます!」
「…すまない!」
身を翻したギャレンはガレージへと駆けていった。
そして、逢瀬とビートルアンデッドが向かい合う形となった。
カードをセットしたバックルを腰にあて、装着する。
(あの時とは違う…。今の俺には力がある)
仮面ライダーとしての力─。
誰かを救える力─。
大きく息をついた次の瞬間、レバーを引き、バックルを反転させた。
同時に大きく叫ぶ─。
「変身!」
『TURN UP』
目の前に現れた光のゲートを走ってくぐり抜ける。
身体にアーマーが装着される。
紅蓮の光を放つ一対の眼。
スペードの意匠をもった鎧。
腰のホルダーに提げられた剣。
色こそ失われているが、逢瀬が変身した姿はあの時の青い鎧の戦士だった─。
「今は…今だけは…!俺が仮面ライダーブレイドだ!!」
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新たに出現したアンデッドの反応を追い、ギャレンは市街地に向かっていた。
長い間愛機としてきた紅きマシン、『レッドランバス』に跨がり、全速力で駆けていく─。
─現場に到着すると、人々の悲鳴が聞こえてきた。
歓楽街の中心に突如現れたアンデッドは手当たり次第に暴れているようだ。
(一刻も早く人々を避難させなくては…!)
愛機を降り、破壊音のする方向へ向かう。
そこにいたのは、ダイヤスートのカテゴリー
同じ形状をした二本の剣を振るい、辺りを破壊している。
(まずは先制攻撃をかけさせてもらう!)
ギャレンラウザーをホルスターから引き抜き、連射する。
だが、全て手前で見えない壁に阻まれてしまい、本体に着弾することはなかった。
剣を振るう手を止め、アンデッドがギャレンの方に向き直った。
「やはりバリアーか…!」
捨て身の作戦で倒したギラファアンデッドと同じ能力─。
「だが、前と同じ手は喰わん!」
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「さあ、ついて来い!」
窓ガラスを突き破り、ブレイドは中庭に飛び出した。
ブレイドを追い、ビートルアンデッドも飛び出して来た。
狭い研究所内では戦いにくいと判断し、広い中庭に誘き出したのだ。
「はああああああっ!!」
腰のホルダーから醒剣『ブレイラウザー』を引き抜き、ビートルアンデッドに斬りかかる。
しかし、盾で易々と受け止められてしまった。
「なにっ!?」
さらに反撃の一太刀を振るってくる。
紙一重でかわしたものの、装甲の表面にうっすらと刀傷が刻まれた。
(直撃を受けたらひとたまりもない…!)
「どうする…。どう戦う…!?」
こちらの攻撃を受け止め、強力な一撃を放ってくる敵は、難攻不落の城塞のように思えた─。