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─研究所にアンデッドが出現する少し前。
一人の青年がパソコンのキーを叩いている。
彼の名は
『
彼は少しばかり特殊な事情を抱えていた。
その事情の一端により喫茶店『ハカランダ』の地下室を間借りし、生活している。
依頼された記事を書き上げていた最中─。
突然、身体中がカッと熱くなり、鼓動が速まる。
血が沸き立つような感覚。
こみ上げる衝動。
唐突な苦痛にキーを叩く手を止め、懐から一枚のカードを取り出す。
すると、彼の腰にハートマークを模したような物体が出現する。
その中央に走った溝にカードを通す。
先程までの身体の火照りが冷め、息を整えつつ独りごちる。
「またあの感覚か…」
あの時以来感じることがなかった感覚─。
「何かが起こったのか…?」
〈再び戦うのです。相川 始─。いえ、『ジョーカーアンデッド』。〉
いきなり脳内に響いた声に反応し、狭い室内を見回す。
声の主は自分の正体を知っているらしい─。
(貴様は何者だ…!?)
〈その質問には答えられません。私とゲームをしませんか?〉
(ゲーム…?)
始は眉をひそめた。
〈その通り。これからカテゴリー
(ばかばかしい。そんな誘いにのるとでも?)
強気で突っぱねる。
〈強制はしません。ですが、どちらにしろカテゴリー
(貴様…!)
嫌らしい口調で語りかけてくる声の主に怒りが湧く。
〈それでは参加ということでよろしいですね?ゲームスタートまでしばしお待ちを─。〉
謎の声は聞こえなくなった。
─相川 始は人間の姿をし、人間としての心をもっていたが、その正体は異なっていた。
彼の本当の名は『ジョーカーアンデッド』。
ハート型をしたバックルにカードを通すことで、カードに封印されたアンデッドに擬態する能力をもっていた。
彼の今の姿は
彼は、四年前の最後の戦いの後も封印されず、人間『相川 始』として生きてたが、やはり本能までは捨て去れない。
先程の感覚は心の奥底に眠った闘争本能を駆り立てるものだった。
地下室から飛び出し、階段を駆け上がって店の外に出る。
その時、後ろから声があがった。
「始さん!」
後ろを振り向くと、一人の少女が立っていた。
その少女の名は
この店を一人で切り盛りする女主人の娘だ。
居候となった始にすっかり懐き、半ば父親代わりに思っていた。
「始さん…。そんな怖い顔をしていったいどこへ行くの?」
「すまない。ちょっとした用事ができたんだ。」
「…早く帰ってきてね。」
彼女は始の正体を知らないはずだが、なにか良からぬ予感を感じているようであった。
(今の俺にはこうして心配してくれる人がいる…守るべき存在がいるんだ。)
「心配しなくていい。すぐに戻るさ。」
「必ず帰ってきて…。」
始が微笑みをうかべ、優しく語りかける。
「もちろんだ。お母さんと一緒に待っていてくれ。」
そう言い、バイクに跨がる。
エンジンを掛け、ピリピリした気配を感じる方向へと走り出してゆく。
その後ろ姿を天音が心配そうに眺めていた─。