仮面ライダー剣 Another Ace   作:上川 朔真

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第七章 蘇る『伝説』、蘇る『ジョーカー』

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相川 始(あいかわ はじめ)はバイクを降り、気配を感じる方向へ走る。

 

気配は鬱蒼と木が茂った林の中から発せられていた。

 

強力なアンデッドが放つ肌がひりつくような気配─。

始がそれを感じ取ることができたのは、彼もまたアンデッドだったからである。

 

木立を抜けた先に立っていたのは、黒い鎧を纏った者。

 

「ハートのカテゴリーA(エース)…マンティスアンデッド─、いや、『カリス』といったほうがいいか…。」

 

そのアンデッドは強力なカテゴリーA(エース)の中でもずば抜けた実力をもち、同族からは『カリス』と呼ばれたマンティスアンデッド。

カテゴリーK(キング)にも匹敵するという『伝説のアンデッド』だった。

 

固有能力『カリスベイル』により纏ったシャープな鎧のような甲殻は、他のアンデッドとは異なった無機質な印象を与える。

 

『カリス』は始の方へ向き直り、その手中に二振りのナイフを出現させる。

 

次の瞬間、残像も捉えきれないほどのスピードで踏み込み、ナイフを突き出した。

始はそれを反射的にバク転でかわしたが、『カリス』の方がわずかに速かったらしい。

 

頬に傷がつき、傷口から緑色の液体が流れ出す。

彼の身体に流れるアンデッドの血だ。

 

「まさか、また貴様と戦うことになるとはな…」

 

─『お前は人間達の中で生き続けろ…。』

 

四年前にあの男が言った言葉がふとよぎる。

 

(悪いが…今だけは獣に戻らせてもらう…!)

 

(だが、本能で戦うのではない…。人間を守るため、人間の心で戦う!)

 

風が吹き、ざわざわと木々の葉を揺らす。

 

始の身体に変化が起こる。

 

黒い甲殻が身体を覆ってゆく─。

腰にハート型のバックルが現れる─。

 

本来の姿を取り戻した『ジョーカー』が獣の如き雄叫びをあげる。

 

「グルアアアァァァァァァァァ!!」

 

その咆哮はあたりの空気を震えさせ、生物の根源にある恐怖をかき立てるものだった。

 

『カリス』は気圧されたように少し身じろぎをしたものの、すぐさまナイフを構え直す。

 

咆哮をピタリと止めた『ジョーカー』はつい先程とは違い、静かな怒気を放っていた─。

 

 

 

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上城 睦月(かみじょう むつき)は、四年ぶりに手にしたカードデッキから一枚のカードを取り出した。

 

スートが描かれていないA(エース)のカード─。

 

「これを使えばいいのか…?」

 

手にしたカードをライダーシステムのひとつ、レンゲルバックルにそのカードを装填する。

バックルを腰に当てて装着すると、心臓の鼓動にも似たリズムの待機音が流れ始めた。

 

「変身!」

 

『OPEN UP』

 

叫びつつカバーを指で弾き、奥に隠されたクラブの紋章を露出させると睦月の目の前に光のゲートが現れ、ゆっくりと近づいてくる。

ゲートをくぐり抜けた睦月の身体にアーマーが装着された。

 

妖しく光を放つ双眼。

クラブのマークをかたどった胸部装甲。

杖型の武器『レンゲルラウザー』。

 

四年前と同じく、睦月が変身した『仮面ライダーレンゲル』。

色彩を失っていること以外は四年前のままである。

 

睦月は因縁の相手であるスパイダーアンデッドを指差す。

 

「もう一度お前を封印し、俺は自分の''運命''に打ち勝ってみせる!」

 

 

 

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─『ジョーカー』と『カリス』は何度目かのぶつかり合いを繰り広げていた。

 

『ジョーカー』が右腕に装備された鎌を振るうと『カリス』がそれを受け流し、『カリス』が素早い斬撃を繰り出すと『ジョーカー』が受け止めて見せた。

今のところ勝負は互角である。

 

一瞬でも隙を見せた方が負ける─。

 

まさに達人同士の決闘のようだ。

 

しかし、そんな戦いを繰り広げる『ジョーカー』の様子は以前とは異なっていた。

以前の『ジョーカー』ならばダメージをくらいながらでも闘争本能のままに攻撃を仕掛け、相手を強引にねじ伏せていただろう。

 

その変化の原因は心の中にあった。

 

四年間人間として過ごしていたことにより、始には人間の心が根付いていた。

 

人間の心がアンデッドのもつ闘争本能を抑え込んでいたのだ。

そのため、『ジョーカー』となりながらも彼は冷静な思考を保っていた。

 

矢継ぎ早に繰り出された斬撃を弾き、左手にもつブーメラン『マンティス』を投擲する。

 

『カリス』がブーメランをかわしつつ走り出す。

 

そのままチャンスとばかりに『カリス』が飛びかかろうとした瞬間─。

 

その背後から『マンティス』が弧を描いて飛来し、『カリス』の背部に深々と突き刺さる。

『カリス』は空中で身悶えしたものの、飛び出した勢いのままに『ジョーカー』に突っ込む。

 

そして、『ジョーカー』がカウンターの一撃を叩き込んだ。

右腕の鎌が黒い鎧を突き破り、その下の本体まで貫通する。

 

鎌を引き抜き、付着した緑色の血を振り落とす。

 

支えを失って崩れ落ちた『カリス』のバックルが左右に割れて身体が緑色の光に変わり、やがて一枚のカードとなって地面に落ちる。

 

『ジョーカー』の能力により、封印されたのだ。

 

(ハート)2のカードをバックルに通すと始は人間の姿に戻り、地面に落ちたカードを拾い上げる。

そのカードはハートマークとカマキリが描かれたカテゴリーA(エース)だった。

 

「さっきの声といい、いったいなにが起きている…?」

 

始は言い知れぬ不安を感じた─。

 

 

 

♧♧♧♧♧♧♧♧♧♧♧♧♧

 

 

 

─スパイダーアンデッドが太く束ねた糸を鞭のように振るう。

 

レンゲルとなった睦月は苦戦していた。

なかなか間合いまで踏み込むことができない。

 

(それなら、鞭の威力が発揮できない距離まで接近して攻撃を叩き込む!)

 

一気に駆け出し、デッキから取り出したカードをラウズする。

 

(クラブ)3『SCREW』

 

懐に飛び込み、強力なコークスクリューブローを放つ。

 

だが、手応えはなかった。

 

「なに!?」

 

スパイダーアンデッドは強靭なネットを編み上げ、レンゲルの拳を受け止めていたのだ。

それと同時にレンゲルの身体に糸を巻きつけ、振り回す。

 

レンゲルの身体が空中に舞い上がったのも束の間、地面に強く叩きつけられる。

 

「ぐああああっ!!」

 

アーマーが衝撃を半減してくれているとはいえ、以前のものに比べると性能は確実に落ちていた。

 

クラクラする頭を叩いて再び気を引き締める。

 

(このままじゃ勝てない…!)

 

でも、まだやりようはある─。

 

デッキからカードを一枚取り出す。

 

その瞬間、スパイダーアンデッドが糸を伸ばしてカードを奪い取り、自らの背後に投げ捨てた。

 

「しまった!」

 

「…なんてな。」

 

もう一枚のカードを取り出し、素早くラウズする。

 

ラウズしたカードから紫の光線が伸び、スパイダーアンデッドの脇をすり抜けていく。

先程奪われたカードに光線が当たり、緑の閃光を放ち始めた。

 

睦月がラウズしたカードは(クラブ)10『REMOTE』。

アンデッドを解放する効果を持ったカード。

 

緑色の光が収束し、やがてマッシブな人型に変わっていく。

 

『REMOTE』の効果により復活したアンデッドは(クラブ)のカテゴリーJ(ジャック)『エレファントアンデッド』。

 

「お前に操られていた時とは違う…。俺には仲間がいる!」

 

「俺と一緒に戦ってくれ!」

 

エレファントアンデッドが無言で頷く。

 

前後から挟まれるかたちになったスパイダーアンデッドがうろたえる。

 

レンゲルとエレファントが両側から同時に駆け出し、攻撃を繰り出す。

レンゲルラウザーの突きとエレファントの鉄球に追いつめられ、反撃すらままならないスパイダーアンデッド。

 

ラウザーの突きで体勢を崩されたところにエレファントの重い一撃が繰り出される。

ネットで受け止めようとしたものの、圧倒的なパワーで突き破られ、スパイダーアンデッドは直撃を受けて吹っ飛んだ。

 

近くの店のショーウィンドウに突っ込み、フラフラと立ち上がる。

直撃を受けた箇所がえぐられ、酷く出血していた。

 

指先から糸をのばしてレンゲルを狙うが、あっさりとかわされ、糸を引っ張られて引きずり出されてしまう。

 

『REMOTE』の効果が切れ、エレファントアンデッドがカードに戻った。

 

「これでトドメだ!!」

 

三枚のカードを連続でラウズする。

 

(クラブ)2『STAB』

 

(クラブ)4『RUSH』

 

(クラブ)6『BLIZZARD』

 

『BLIZZARD RUSH』

 

コンボが成立するとレンゲルラウザーの刃から冷気が放たれ、鋭い突きが繰り出される。

一発ではなく、数十発連続で放たれた突きがヒットする度、凍りついた甲殻が細かく砕け散った。

 

そして、力をためて最後の一撃をくらわせる。

冷気を纏って鋭い氷柱(つらら)のようになった刃がアンデッドの胸を貫いた。

 

胸に風穴があき、凍りついたアンデッドのバックルが割れる。

 

『プロパーブランク』を投げつけ、カテゴリーA(エース)の封印を完了した。

 

手元に戻ったカードにはクラブの紋章を背負ったクモが描かれ、その足の先には金色の輪がかけられて完全な封印を示している。

 

変身を解いた睦月は、一息ついた。

 

「睦月!」

 

建物の陰から急に飛び出してきた望美(のぞみ)がハイタッチを求めてくる。

睦月がぎこちなく返す。

 

「望美、すまないけどちょっと行くところができたんだ。」

 

「…仮面ライダーの仕事だよね。」

 

「ああ、よくわからないけどまたアンデッドが復活したらしい。」

 

「そう…じゃあ、帰ってきたらまた買い物付き合ってよね!」

 

「約束するよ。どこにでも付き合うさ。」

 

「じゃあ、先に家に帰っててくれ!」

 

(橘さんなら何か知ってるかもしれない…!)

 

睦月は研究所に向けて走り出した。

 

「頑張ってね!私はいつまでも『睦月だけの応援団長』なんだからー!!」

 

走り去る睦月の背中に望美が叫んだ─。

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