呪術廻戦リリカルなのは∅   作:織姫ミグル

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第7章

 

 

「これが·······私が知る全てだ」

 

 

現在の天元はそう語り終えると重たく息を吐いた。

 

これで終わり。

 

結果として天元は羂索と決別し、日本全土に結界術を施した後、最初に見たのはかつての友が今どこでどうしているかを見た。

 

その際に偶然落ちていた女性の体を拾い、自身の術式をその体に施したのを目撃。

 

そのすぐ隣に落ちていたのが────“()()()()()()()()()()()()()()

 

という、話だった。

 

 

「それだけ·······?」

 

 

一通り聞き終えて出てきた感想は、もう終わりかという物足りない感情に苛立ちを覚えた末に出てきた疑問だった。

 

時間で言うなら本当に数分、短編小説の一つを五分で読み終えたくらいだ。

 

だから。

 

そんな中途半端な終わり方をされたら結末はどうなったのか気になりすぎて、九十九は呆然と天元にそう呟いていた。

 

 

「それだけか?」

 

「それだけだ。それ以外のことは知らない」

 

 

あっさりと。

 

あまりにもあっさりと。

 

天元は九十九の疑問にそう返した。

 

 

「それ以降のことは?」

 

「知っていたら良かったんだがね。言っただろう? 羂索は私に次ぐ結界術の使い手·······回游の結界同様に私を拒絶しているからその後どうなったのかは分からない」

 

 

先程、羂索の目的について聞いた時に話されたものの中に、『羂索は天元の次に結界術に優れている術師』だと教えられた。現に干渉せずに日本全土のことをほとんど把握していても、羂索が何をしているのかまでは分からなかったらしい。

 

でも。

 

それだと矛盾が生じる。

 

 

「だがオマエは現にその時に羂索がどこで何をしていたのかを見たのだろう? 何故その時に見失った?」

 

 

相次いで生まれる疑問に脹相は目を鋭くして聞く。

 

そういう理屈なら、何故その時は羂索がどこで何をしていているのかを見ることができたのだろう?

 

見つけることが可能であったのなら、そもそも渋谷での一件を事前に食い止めることだってできたはずだ。現に干渉しなくなってもある程度の抵抗はできるはず、例えば情報を教えるとか。

 

その疑問に天元はこう答える。

 

 

「私は五条悟ほどではないが、ある程度はその人物の呪力が分かる。彼の持つ六眼は対象の呪力を精細に読み取ることができ、相手の術式も見抜ける。私の結界術にもそれと似た効果があってね、別れた当時に羂索の呪力の残穢を追えたんだ。それで見つけることができ、さっき話した出来事を覗き見る事もできた·······とはいえ────」

 

 

認識はできていた、だがそれでも天元の結界術から逃れられる方法があった。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()·······私の知る呪力ではなくなったから知り得た情報は本当にわずかで、入れ替わった直後に羂索は私を拒絶する結界術を使い、姿を眩ました。その瞬間を見ていたのならばその付近を探し回れば良かったのではないかと疑問を抱くかもしれないが、その前にこちらも一つ問おう。呪力や肉体の情報を詳細に認識できる六眼を持つあの五条悟が、一体どうして封印されてしまったのか分かるか?」

 

 

疑問に答えてばっかりだから天元も皆にそう質問した。

 

渋谷での一件、五条悟が封印される瞬間にその場にいた脹相が答える。

 

 

「獄門疆の使用方法は、『対象の人物が一分間そこから動かないこと』であり、その一分間は物理的なものではなく『脳内での一分間』────その状況を作り出すために羂索はかつての親友である夏油傑の肉体を使っていた·······なるほど、そういうことか」

 

 

脹相が説明しながら考えていると、自動でその答えに辿り着いた。

 

それならば納得がいく。

 

天元がその時どうして追えなくなったのかを。

 

脹相が代わりに皆に答える。

 

 

「五条悟が封印されたのは、『死んだはずの親友が目の前に現れた』からだ。そうなれば戸惑うのは必然。そして五条悟の六眼でも、中身が羂索だとは見抜けなかった。その後に本人の直感で中身が違う奴だと見抜けたわけだが、六眼は羂索ではなく夏油傑の情報を認知し、五条悟の脳内に夏油傑と過ごした日々の記憶を呼び覚まさせた。つまり、オマエはこう言いたいんだな──────」

 

 

脹相は元々呪霊達の計画に加担していた。

 

その後虎杖が自分の弟だと分かり、そして夏油傑の中身が忌むべき存在だと知ってから縁を切ったわけだが、わずかな間でも奴らと行動を共にしていた。

 

その時に聞いたはずだ、五条悟の封印方法を。

 

五条悟の目は特別で、見たものの呪力や肉体の情報を視認でき、そして術式まで見抜ける能力がある。構成や条件、使用方法まで知ることができ、さらにそこに原子レベルの緻密な呪力操作と呪力をロスなく効率的に扱うことを可能とするため、彼の最強の術式である無下限呪術が使えるわけだ。

 

それが、六眼だ。

 

しかし六眼はあくまで凄まじい解像度で呪力が見えるだけであり、術式の看破は五条悟が持つ天才的な洞察力によるものであるため、解析能力があるわけじゃない。

 

だから、情報は詳細に得られるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

本来、彼の目を誤魔化せるようなことなど起きるはずもなかった。そもそもそんな高度な術式を持った奴なんてそうはいないだろう。幻覚を見せる術式があっても彼には効かない、すぐに解析してしまって対応策を思いつくからだ。

 

だが、そんな彼の目を誤魔化せる術式を持った奴がついに彼の前に現れたのだ。

 

それが彼のかつての親友である夏油傑の体を奪った、羂索という術師だ。

 

奴は他人の体を乗り移れる術式があり、頭脳を空っぽになった頭の中に収めたらその体を奪い取れる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

つまり────“誤認”だ。

 

だから彼はまんまと罠に嵌まってしまったのだ。

 

獄門疆の使用方法である『対象の人物が一分間そこから動かないこと』という条件を満たしてしまい、彼は封印された。封印有効範囲内から出ようとした時、自らの手で葬ったはずの死人が目の前に現れ、そこで夏油傑と共に過ごした日々の三年間が頭の中に流れ込んだはずだ。

 

三年もの時間が流れたら、『脳内時間で一分』という隠された仕様が発動してしまう。

 

五条悟の目は彼のあらゆる可能性を否定し、死んだはずの親友が目の前にいると告げて混乱してしまった。

 

本当ならそんなことにはならなかったはずだ。

 

けれど、不運で残酷な展開がいくつも重なってあの状況を作り出した。

 

以上のことによって、五条悟は獄門疆に封印された。

 

そこから導き出せる答え、それを脹相は述べる。

 

 

「五条悟でも認識できなかったように·······『肉体が変わったから感知できなかった』と」

 

「そうだ」

 

 

的確な脹相の考察に天元は頷いた。

 

でも、それだけでは納得できない。

 

 

「だとしても引っ掛かる部分が多すぎるよ天元。脹相が最初に聞いた通り、その時に羂索がどこで何をしていたのかを見ていたのならば、それらしい人物の呪力を感じることだってできたはずだ。周囲は夜の森だったんだろう? だったら人も少なかったはず。どこへ隠れようとも、呪力の流れや残穢を追えたはずだ」

 

 

九十九の指摘は正しい。

 

五条悟ほどでないにしても、呪力を感じて羂索の居場所を知ってその様子を見ていたのならば、周囲を探索すればそれらしい人物を探し出せたはずだ。回游の結界同様に天元を拒絶し、羂索が乗っ取り後に天元の結界術から逃れる術を発動したとしても、その奪った肉体の呪力の残穢は残されているはず。

 

何より、足跡だって残っていたかもしれない。

 

一二年前にこの薨星宮に辿り着いた“呪力が全くない一人の男”も、そんなわずかな手掛かりで侵入できたのだ·······から?

 

 

「!?」

 

 

と、九十九が疑問に思っていると、『とある可能性』に辿り着いた。

 

一万分の一にも起こり得ないと言えるほどの、一つの可能性。

 

 

「馬鹿な··············ッ!?」

 

 

九十九は自分で思考を広げて、その答えを言う。

 

 

()()()()()()()()!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「しかし、実際にそうだったんだ。だから残穢なんてものも残っていなかった」

 

 

九十九は天元のその答えに激昂したようだった。

 

 

「だったらどうやって天元の結界術から逃れる術式を発動した!? 呪力もなしに術式を発動できるわけがないだろうッ!?」

 

 

まさに、八つ当たりをするような声で。

 

矛盾点の多さにいよいよ苛立ちが限界地点に達していると思われるが、天元自身も不快そうに言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

天元の言葉に、九十九は絶句した。

 

言葉の意味が、理解できなかった。

 

 

「な、に?」

 

「それは私も最初に思ったさ。何故呪力もないのに術式を発動できたのか、と。他人の肉体を乗っ取った場合には呪力はその肉体のものを使用する事になるはずで、その肉体に呪力がなければもちろん自分の持っていた結界術も使用できるはずもない」

 

 

だが、と。

 

天元は一度息を吐くと。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

全員の思考が空白に染まったような気配がした。

 

何を言っているのか、ちっとも分からなかった。

 

 

「何、言ってるんだ?」

 

 

九十九でさえこの反応、それだけ意味が分からなかったのだ。

 

天元の口から出てきたものは、“呪いではない別の力”というもの。

 

そんなことを言われてしまったら、呪術師としてこの世に君臨している者達以外にも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「────ッ!!」

 

 

皆が動揺を隠せない中、一人だけ冷静に、いや額から汗を流していることから少なからず焦っているはずだ。

 

“呪いではない別の力”───それに心当たりがある、虎杖悠仁。

 

その力の名を、彼は思わず呟いていた。

 

 

「“魔力”──────?」

 

 

その声に全員が振り向いた。

 

聞き慣れない単語が虎杖の口から出てきたのだ、皆が何かを知ってそうな彼に注目するのも無理もない。

 

しかし言った本人でさえも信じられないという顔をしており、でもその可能性を述べたことで納得がいってしまった者が他にも一人いる。

 

虎杖と同様にその力を目にした───伏黒恵だ。

 

 

「嘘だろ·········あり得ねぇ·········ッ!?」

 

 

そう否定しても、納得がいってしまう要素がいくつもあった。

 

まず、羂索の奪った肉体が、“アリシアの血族らしき人物”ということ。

 

そして。

 

そのアリシアの本名は、“アリシア・テスタロッサ”だということ。

 

この“テスタロッサ”というファミリーネームは、以前に彼らが迷い込んだ『異世界』で出会った“少女”にも使われていた。

 

その少女は呪術ではない別の力、おとぎ話でしか聞かない架空の存在である、“魔法”と呼ばれるものを使っていた。

 

 

「「·········ッ!?」」

 

 

二人は自分達の中で勝手に納得していた。認めたくはないと思いつつも、それで説明ができてしまう要素が多すぎて強制的に理解していた。

 

しかし、それでも否定の材料を探し出そうとしていた。

 

 

「で、でも·········あれはこの世界にはない別の力だ。仮にそれがここにあったとしても魔力で呪術を使うなんてできるわけねぇじゃん!? 入れ替え後ならその羂索だって魔力の扱い方なんて分かるはずない!!」

 

「必要ないんだよ、虎杖悠仁。言ったはずだ、羂索は入れ替え後にその肉体の記憶を受け継ぐことができる。使用方法を学ぶ必要がない」

 

 

天元はすでに知ってそうな虎杖に対してそう言った。

 

虎杖と伏黒だけが何か知ってそうな空気の中、置いて行かれている状況が気に入らない他の者達は声を低くして聞く。

 

 

「君達は何か心当たりがあるの? その呪い以外の力のことを?」

 

 

前から思っていたが、乙骨って普段は大人しい分、怒るとめっちゃ怖そうな顔になる。

 

寝ているアリシアを抱えて虎杖と伏黒を睨むその目は寝不足で隈が目立つが、逆にそれが怖さを増幅させている気がする。

 

虎杖は乙骨に一度殺された経験があるからか、思わずひっ!? と情けない声を出してしまったが、伏黒は落ち着いた声で説明する。

 

 

「前に俺達が数日間行方不明になった話は知っていますか?」

 

「うん、まあ。話だけは聞いてるよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

乙骨の後ろから真希がそう言ってくる。

 

虎杖達が行方不明になっている間の出来事は、記憶がなくなっていたという話で説明されていた。実際はそれだけの説明じゃ納得がいかなくて済まないのだが、五条悟の強引なやり方で事が収まっていたのだ。

 

それに実際そういう事例は稀にだがあるのも事実だ。

 

一二年前くらい、当時二級だった“庵歌姫”と一級術師である“冥冥”は、とある呪いが潜む洋館に任務に行った時があったのだが、その時彼女達は呪霊の結界に囚われて時間がズレる現象の中にいた。当人達の間では三◯分間しか経っていなかったが、現世では二日という時間が過ぎ去っていたという浦島太郎のような奇怪な現象、五条悟はそれに近いものだと説明した。

 

虎杖達もそれは無理がある話だろうと思っていたが、彼の持つ権限(ゴリ押し)でもう事が済んでいた。

 

だからみんなが半信半疑の状態のままで、一番迷惑をかけた虎杖なんかしばらく先輩達に冷たくされた。全員にパシリにされた時はマジでへこんでしまった。庇ってもらった五条先生にまでおつかい頼まれた時は思わず『ブルータス、お前もか』なんて古代ローマの英雄の迷言を言ってしまったほどだ。

 

でも、そういう風にしようと決めたのには訳があった。

 

 

「すみません、あれ嘘だったんです」

 

「·········ま、だろうな」

 

 

案外あっさりと納得した真希に伏黒も目を丸くした。

 

 

「だって悟の言うことなんて大体適当だろ? だから真相を知ろうとしてお前らに聞いたわけだけど、恵も含めて全員口を揃えて記憶がないって言ってばかりだったし。それ以上聞こうとしてもお前ら何も言わなかったじゃねぇか、渋谷のハロウィンの時もずっと」

 

「「本当、あの時は申し訳なかったです」」

 

「今はそれよりもその魔法について説明してくれよ、時間がねぇから」

 

 

急かされる真希に虎杖達は申し訳なさそうにしていたが、気持ちを切り替える。

 

二人は語る。

 

行方不明になっていた時期の本当の出来事を。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「呪いが存在しない『別世界』·········ね」

 

 

虎杖と伏黒の二人の説明には、九十九でさえ驚くべき真実が隠されていた。

 

彼女が目指すのは“呪いが存在しない世界”で、そんな理想郷が異なる世界にはあると説明されたら耳を疑ってしまう。

 

けれども、その話を信じないと羂索が天元から逃れられた事の説明がつかない。

 

でも、あまりにも常軌を逸している。

 

まさか並行世界なんてものが実際に存在するなんて、呪いに触れてきた者達でも信じられなかった。

 

 

「なんだよそれ·········意味が分からねぇ」

 

 

真希が苛立ったように頭を押さえながら呟いている。

 

 

「他にもその『小さな子供達』と一緒に『一悶着あった』って言ってたけどよ。何だよ、魔法がある世界っていうのはそこまで何でもありなのか?」

 

「あの時伏黒君が虎杖君に言っていた“あの子達”って、その“()()()()”のことだったんだね。虎杖君の許可なしで宿儺に肉体を奪われた一度目もその時で、その世界にいた“()()()”っていう人達に追い詰められたから」

 

 

二人の説明を聞けば聞くほど頭が混乱していた。

 

乙骨が虎杖を殺して保護した時、伏黒が合流して落ち込んでいる彼を再び立たせるために力強く説明していたが、その時に話していた“あの子達”は説明された時に出てきた“少女達”のことだったのだ。

 

 

“高町なのは”

 

“フェイト・テスタロッサ”

 

“八神はやて”

 

 

別世界で出会ったその少女達と共に大きな事件に巻き込まれ、そこで虎杖は二人の“魔導師”によって意識を失ってしまい、その時入れ替わるようにして両面宿儺が彼の体を乗っ取った。

 

虎杖が目を覚ます間好き放題暴れ、その少女達に迷惑をかけてしまったが、最終的にこちらの世界から駆けつけた五条悟によって何とか収まった。

 

そして。

 

最後にその少女達のうちの一人である八神はやてを蝕んでいたものを倒すため、共に手を取り合った。

 

何もかもが馬鹿げている。

 

たった数日、虎杖達が行方不明になっている間にそんなことになっていたなんて。

 

この際彼らが行方不明だったことはどうでもいい、むしろ一番注目したいのは異世界は本当にあるということだ。

 

 

「五条君がゴリ押しでそう上に報告したのも分かるね。異世界に行ってました、なんて·········話された今でも信じきれていないのに。もしそれを馬鹿正直に説明して、万が一にもあり得ないけど、上がそれを信じたらその子達に危害が及ぶだろうし」

 

 

九十九もまだ半信半疑の状態だが、五条が何故真実を言わなかったのかは分かった。

 

上の連中は臆病だ。

 

もし自分達の住んでいる所とは違う世界があるなんて知ったら、彼らは何としてもその世界を消さなければならないとか、襲ってこられたりでもしたら大変だとか、そんな感じで慌てふためく様子が容易に想像できる。

 

もちろん、虎杖達の言うその別の世界の連中も黙ってはいないだろう。

 

だから虎杖を追い詰めたわけだし、だがそのせいで宿儺が現れてしまったわけだが。

 

宿儺という存在が彼方の世界にも知れ渡っている以上、これ以上捜索されても見つからないように虎杖達は死刑となって、そのままこちらに戻ってきたわけだ。

 

五条なりにあちらにも危害が及ばない方法を考え、ゴリ押しで押し切った理由も理解できる。

 

ほんと·········五条悟はどこまでも欲張りである。

 

自分とは関係のない世界のことまでも考えて上を騙すなんて、同じ特級術師であってもやはり遠い存在であると九十九と乙骨は思った。

 

 

「おい·········ちょっと待て」

 

 

すると、虎杖達の説明を聞いて体を盛大に震わせている者がいた。

 

脹相だ。

 

 

「聞きたいことは山ほどあるが、今は一番聞きたいものだけにしておく。その説明が本当ならば·········()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

脹相は震える指で、乙骨の腕の中で眠っているアリシアを指差す。

 

今出てきた話題の中にいた少女の一人、“フェイト・テスタロッサ”と同じ名前を持つアリシアが無関係とは思えなかった。

 

脹相的には兄妹がまだいると思えて嬉しかったわけだが、今の話を聞いていて感じたことがあった。

 

 

「同じテスタロッサの名前を持ち、話を聞く限りではそのフェイトはアリシアと似た姿をしているんだろう? だったら·········その子は一体何なんだ? フェイト・テスタロッサという少女は一体何者だ!? 俺にはどうもアリシアとは無関係とは思えないッ!!」

 

 

脹相が声を荒げた。

 

無理もない。

 

説明されたものの中にアリシアと同じ名前を持つ少女が出てきて、そして魔法という単語もあってか無関係とは思えなかったのだ。

 

さらに。

 

なのは達のことを話す時、一応どんな姿をしているのかも説明した。魔導師という存在が力を使う時、必然的にその姿を変えるという話も説明しなければならなかった。

 

小さな宝石などといったペンダントのようなものを使って、防具のようなものを身につけて戦っていたという話の途中でなのは達の姿も詳細に説明したわけだが、その際に『フェイトはアリシアと似たような姿をしていた』と説明してしまった。

 

そんなことを言ってしまえば、無関係と思えないのも当然だ。

 

しかし、それに関しては虎杖達でも分からなかった。

 

 

「悪ぃけどさ脹相、それについては俺にも分からない。フェイトと同じ名前をなんでアリシアが持っているのか知らないし、それにフェイトはアリシアのことを一度も口にしなかったからさ」

 

「けど、俺達なりに憶測はしてみた。この子はおそらく“並行世界のフェイト・テスタロッサ”なんじゃないかとな。つまり、この子は俺達の世界の“フェイト・テスタロッサ”で、名前が違うだけなんじゃないか、って。それ以外のことは何も知らないからこれ以上は答えようがない」

 

「ッ!?」

 

 

脹相と同じような疑問を二人も薄々思ってはいたのだが、フェイトからアリシアという名前すら一言も聞いていなかったし、関係性を問われても彼が望むようなものは何も答えられなかった。

 

だから二人は今ある情報だけで憶測を述べたのだが、それでも納得と理解ができない部分が脹相にはある。

 

 

「仮にそうだとしてもだ!! ()()()()()()()()()()()()!? 羂索という奴が入れ替わった時、アリシアはその母親と思われる奴といたんだろう!? しかし·········()()()()()()()()()()。千年も前からいたというのなら、何故今こうしてここにいる!? 一体どういうことなんだッ!?」

 

 

それだけじゃない話だった。

 

さっきの話もそうだが、自分と血が繋がっているかもしれないアリシアが千年も前から存在していたのなら、彼女は宿儺や天元と同様に千年も前から存在していたことになる。

 

であれば、脹相にとっては『姉』という位置付けとなる。

 

それがなんか彼の中ではあまり良く思えないのか、ひどく取り乱しているようにも見える。

 

脹相のその疑問に皆があ! と声を洩らしていたが、それについては虎杖達にも分からなかった。

 

 

「それについては単純だ」

 

 

と、その答えを持つ者がいた。

 

千年も前から存在し、彼女のことを知っていた天元だ。

 

そして。

 

天元の口から出てきたのは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、“()()()()()()()()()

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 

皆、心臓に杭でも打ち込まれたような気分だった。

 

意味が分からなかったのだ。

 

羂索が使った無為転変は“真人”という呪霊が持っていた術式で、その効果は『魂に干渉する術式』であるが、()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

今日は矛盾する話ばかり聞かされる。

 

もう本格的にキレてもいいだろうか?

 

 

「オマエ、何を言っている!? オマエはあの時言っていたはずだ!! 『アリシアはその時死んでいた』と!! ならば無為転変は対象外のはずだ!! 一体どういうことだッ!! 分かるように説明しろッ!!」

 

 

羂索どころか皆が分からない。

 

もし天元の言う事が本当なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この事件、本来ならアリシアのような小さな子供が関わるはずのものではない。

 

当の本人は相変わらず乙骨の腕の中で眠ったまんまだ。

 

天元は当時のことを振り返りつつ、説明する。

 

 

「確かにアリシアはその時に死んでいた。だから術式の対象外となるはずだった·········けれど、それを可能にする方法があった。といっても、本人自身も分かっていないようだったからこれも憶測だがね」

 

 

皆が息を呑む。

 

死んだ者の魂を干渉対象にする方法について。

 

 

「あの子はあの日、渋谷で五条悟を封印する時にちょうどその現象に遭った·········()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

皆そのことは知らない。

 

ちょうどその時その場にいた脹相でさえ、五条悟の無量空処を喰らって気を失っていたのだから知らないはず。

 

でも。

 

天元は知っていた。

 

渋谷での件は死滅回游のような天元を拒否する結界ではなく、帳に長けていない術者であっても発動させる事ができる嘱託式の帳であったため、何が起きているのかを知る事ができた。

 

その時に、見た。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「その際にあの子は魂に干渉する術式を持つ真人にこう言っていたよ·········『君は魂は肉体の先にあると述べたが、やはり肉体は魂であり、魂は肉体なんだよ。でなければ、この現象にも、入れ替え後の私の脳に肉体の記憶が流れてくるのも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、説明がつかない』と。真人はその時『自分とは術式の世界が違うんじゃないか』と口にしていたが、もしもその説が本当ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そこまで聞いて、皆が目を見開いた。

 

そして、気付いた。

 

羂索がその時に真人に言った事の通りなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。死んだ夏油傑の肉体が息を吹き返したように勝手に動いて羂索の首を絞めたというのならば、羂索の言う通り『肉体は魂であり、魂は肉体』で、()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()()()()()

 

もちろん真人はそれに対して反論していたが、その反論にもそれを可能とさせることを言っていた。

 

『自分とは術式の世界が違うんじゃないか』という部分、それならば羂索には、死んだ肉体に宿っている魂に干渉する力があったのかもしれない。

 

そうとでも考えなければ、その現象の説明がつかない。

 

さらに羂索はこうも言っていた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、説明がつかない』

 

そこから導き出せる答え。

 

それは、つまり──────

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。チッ、どこまでも腐った思考なようだな。それで殺し合いに参加させることになったら意味がないだろうに。これで何としてでも回游を抜けるルールを追加しなくちゃならない理由がもう一つ出来たね」

 

 

九十九は吐き捨てるようにそう言った。

 

夏油傑の体を奪っていた羂索はあの時、無為転変を発動する際にこう言っていた。

 

 

『“虎杖悠仁のように呪物を取り込ませた者”、“吉野純平のように術式を所持しているが脳の構造が非術師の者”。それぞれの脳を術師の形に整えたんだ。前者は器としての強度を、後者は術式を発揮する仕様を手に入れた』

 

 

そしてその時に奴は『固く結ばれていた封印の札』を解き放ち、呪物化していた“過去の術師達”を受肉させた。

 

アリシアの肉体を呪術用の肉体に書き換え、そして呪物化させていた魂が目覚めたのなら、彼女が蘇った理由にも納得がいく。

 

しかし。

 

そうなると九十九の言う通り、アリシアには時間がない。

 

 

「となると、どうするんだ? その子も恵の姉同様に『一九日以内に結界(コロニー)に参加しない』と、“()()()()()”される。そうなったら、その子死ぬんだろ?」

 

 

真希は乙骨の腕に抱かれて眠っているアリシアを見る。

 

こんな時でもまだ起きずに眠り続けるとは、アリシアのマイペースっぷりには乙骨でさえも苦笑する。

 

けれども、真希の言うようにこのままではアリシアは命を落とすことになる。

 

死滅回游のルールには強制参加をさせられる残酷な仕様がある。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

術式が刻まれているのは脳と言われており、後追いで参加する術師にも適応される。

 

だとしたら剥奪は事前に無為転変で施した仕様ではない。

 

使用禁止といった何かを制限する縛りでもなく剥奪となると、脳に無理矢理何かしら発動するわけだから、ルール的にも死ぬ仕様になっている。

 

そもそもこのルールがないと皆が拒否することになる。

 

力を与えられただけで人々が殺し合いをするはずもないと九十九があの時言った言葉を羂索が否定したのも、このルールがあったからだ。

 

だからもはや、アリシアの参加は決定している。

 

しかし、こんな子供まで殺し合いに参加させるのかと思うと、羂索のクズ度が自分達の測れるものではないと再認識させられる。

 

これ以上奴の好き放題にさせていると、自分達の中の常識がどんどん狂っていくような気がする。このまま放っておくと取り返しがつかないぐらい歪んでしまうような、そんな錯覚さえ覚える。 

 

だから真希は早々に話をどうするか決めるために、手っ取り早く質問をした。

 

 

「で、どうするんだ?」

 

「参加させるしかないよ。ここにいたら却って危険だからね」

 

 

天元のあまりの判断。

 

その言葉にあの二人が声を荒げた。

 

 

「何だと!? オマエ今何と言った!?」

 

「まだ術式が覚醒して間もないし、それにこの子自分の名前以外何も分からないって言ってるんだぞ!? 呪いについても何も知らない顔をしていた!! それから分かる通り、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”!! それで参加させるというのか!?」

 

 

冗談じゃない、と。

 

脹相と九十九は思う。

 

目の前にいる天元だってこの国をよくしたいから守るために礎となったはずなのに、あまりにも他人事のように残酷に突き放した。

 

 

「·········理由は分かるだろう?」

 

 

いや。

 

二人の叫びに対し、天元自身も心を痛めたような声で、

 

 

「彼女も羂索の手によって復活したのなら回游への参加は絶対であり、そうなれば格泳者に一体ずつ憑く“コガネ”がずっと彼女の側にいることになる。その式神は羂索から生まれたものだ、そうなれば彼女をここで匿うとそれを介して居場所を特定される恐れがある。羂索は私に次ぐ結界術の使い手、この薨星宮の封印もいつ解かれるか分からないんだ。余計なリスクは負えない」

 

「だとしてもだろ!!」

 

 

それでもやはり脹相はその案を呑むことはできない。

 

自分の兄妹が危険な目に遭って死んでほしくないのだろう。まだ会って数時間だが、もう兄妹認定している脹相はふざけた提案をした天元を激しく睨む。

 

だが。

 

そんな提案をされて、頷く者がいた。

 

 

「わかりました、アリシアちゃんは死滅回遊に参加させます」

 

「ッ!? 乙骨!? 貴様何を!?」

 

「大丈夫」

 

「ッ!?」

 

 

ずっと彼女を抱いてあげている乙骨が首を縦に振ったのを見て、脹相は彼の前までやって来て睨みつける。

 

対して、乙骨は一歩も引かずに言う。

 

宣誓する。

 

 

「約束するよ·········何があっても、アリシアちゃんは僕が死ぬ気で守る」

 

「ッ!!」

 

 

その目。

 

それだけで脹相が身を引いたわけではない。

 

その後ろ。

 

背中から漂う自分とは比べ物にならないほどの特級と呼ばれる異次元の呪力量によって、強制的に彼の足を引かせたのだ。

 

敵意も殺意もない。

 

しかし、

 

レベルの違う相手に挑もうとすること自体を考えさせないほどの乙骨の気迫に、脹相は負けてしまった。

 

だが、

 

乙骨にそれだけの力があるのもまた事実。

 

だから脹相は悔しそうに奥歯を噛み締めながらも、乙骨の言葉を信じて重い足取りで後ろへと退がった。

 

 

「乙骨君」

 

 

ポツリと。

 

脹相と同じように参加の反対をしていた九十九は、彼の名前を呼んだ。

 

それから彼女はこう続ける。

 

 

「信じて、いいんだね?」

 

 

彼の実力を知りつつ、彼女はそう訊ねた。

 

 

「はい」

 

 

その問い掛けに、彼は腕の中にいるアリシアに目を落としながら静かに頷く。

 

もはやそれ以上の意見は御法度のように思えた。

 

彼の力強い覚悟には、それだけの説得力があった。

 

ならばもう、何も言うまい。

 

 

「よし」

 

 

九十九が手を叩く。

 

各々の行動は決まった。

 

あとはできることを全力でやるだけだ。

 

 

「頼むよみんな! 君達の手にこの国の未来が掛かっているんだ!! 気を引き締めていこう!!」

 

 

全員が力強く頷いた。

 

皆がそれぞれのやるべきことに向かって動き出す。

 

虎杖を始め、伏黒や乙骨に真希がこの空間から抜けられる出口へと歩き出す。

 

 

「·········」

 

 

だが、その前に。

 

 

「脹相!!」

 

「!!」

 

 

自分を兄弟と見てここまで一緒にいてくれた、そしてアリシアの参加を最後まで拒否し続けていた脹相に対し、

 

珍しく虎杖はこう言い残していった。

 

 

「ありがとう、助かった」

 

「·········死ぬなよ」

 

 

虎杖は振り返らず、しかし応えるように手を挙げて去っていく。

 

その背中を見ると切なく感じるが、これも兄としての務め。

 

戦場の場へと赴く兄妹達を、彼は温かい目で見送る。

 

そう。

 

ここからが、正念場だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「泣いてんの?」

 

「·········」

 

 

そう言われて放っておけとでも言うように九十九に手を払う脹相は、涙を見せないようにもう片方の手で目を覆い隠す。

 

見送るけど、なんか釈然としないお兄ちゃんだった。

 

 

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