死んだら結婚しようね。   作:いまり。

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「大学生」と「送り狼」

送り狼。

狼の姿をした怪異。

暗い夜道を歩く者の背後から忍び寄りつけ回す。

道中転んだり隙を見せると襲いかかると言われている。

 

 

「大学生」と「送り狼」

 

そこは最悪と言っていい場所だった。

辺りは安酒やすえた臭いのするタバコの煙に満ちていて、鼻が曲がりそうだ。顔を顰めたくなるのをグッと堪えるあまり、表情筋が仕事をしなくなる。それだけでもうんざりだと言うのに、無駄に大きい男の声と被さる女の笑い声が頭に響く。

 

そうか。これが世に言う大学サークルの新歓なのか‥。

 

頭に思い浮かべるのは1人の男。

ここに居るのはそれと同じ年頃の者達。

人の法に照らせば、酒は早いはずだが特にそれを指摘する者は居ない。寧ろ、そんな事を言うのは無粋だと言わんばかりに、誰もが初めて刺激に酔いしれていた。

 

そんな空間で1人ポツンと浮いている。それが私だ。

さっきまで同じ卓に座っていた者達も気づけば、他の盛り上がる卓へと姿を消した。残されたのは、私と冷めたフライドポテトだけ。

 

少しそっけなくし過ぎただろうか?

自分以外誰も居なくなったテーブルで、誰にも見向きもされなくなったポテトに親近感が湧く。

 

「なぁ、あんた大丈夫か?」

 

指先でポテトを弄る私に声を掛ける。

顔を上がると、そこには大柄な男が立っていた。むっすりとした表情は低い声と合わさり余計不機嫌に見える。見るからに愛想のない奴だ。

しかしその男が——庸こそが私が此処にいる理由だった。

 

「‥すみません。私、こういうところに慣れてなくて」

 

ジッと心配そうに見つめられた私は消えてしまいそうな声で答える。

今の自身の容姿にあったごく自然な反応。

男は単純だ。さぞ庇護欲が刺激されている事だろう。

 

手で口元を隠しながら反応を見る。

すると、庸は引き攣った顔でこちらを見ていた。

 

「‥お前、深月だろ。何してんだよ」

 

「ミヅキ?‥何のことですか?」

 

すっとボケてみるが、庸の眉間の皺は深くなるばかり。

 

‥何だもう分かったのか。残念。

 昔からいくら姿を変えてもコイツには見破られてしまう。

 

「大学生の飲み会ってもんがどんなもんか気になったんだ」

 

「だからって何でわざわざ此処なんだよ」

 

「別に‥私がどこに行こうがお前には関係ないだろう?それに、私は正式な手順を踏んで此処にいるんだ!」

 

私は数時間前に受け取った1枚のビラを突きつけた。

スキューバダイビングサークル「ダイブ」。そう書かれたそのビラには、新入生歓迎会という名の、この飲み会の時間と場所が書かれている。

 

「私は断ったんだけどな、あの男がどうしてもと言うから来てやったんだ」

 

白魚のような手で指遠くの席を指し示す。

そこには騒がしい店の中でも、一際馬鹿騒ぎをしている男女の集団。その中で中心にいる特に軽薄そうな優男が、私を此処に誘った奴だった。

 

「あんまり人に指を差すな‥よりにもよって中野先輩か」

 

庸は私の指を掌で包むと、子供に言い聞かせるように嗜める。

その表情は複雑なものを帯びていた。

 

「お前、あの男の近くにいる女に気があるのか?」

 

包まれた指を優男から少し右にずらして尋ねると、庸の視線が泳いだ。

 

「そんなんじゃない。ただなんか‥というか別に、お前に関係ないだろう」

 

こいつが素っ気なく答える時は図星の時だ。

本当に分かり易い奴。

それにしてもアレか‥。

 

あらためてソレを見て思わず失笑しそうになる。

が、流石にそれは我慢した。

 

なんというか、こいつらしいというか見る目が無いというか‥。

 

そんなところも可愛い奴だと思うが、それはそれとして他の女に目が行くのは面白くない。

 

少し揶揄ってやるつもりで庸の手に指を絡ませる。

するとピクリと身を固くする。

 

「‥それやめろ‥」

 

ゴツゴツとした男の手だ。いつの間にか私よりも大きくなっていた。

ほぼ毎日の様に会っているのだからそんな事は分かっていたが、こうして触れてみると骨張った指の1つ1つ。硬くなったタコの感触に時の流れを感じた。

 

そうか‥あの小便臭いガキが、今は酒を飲む大人になったのか。

 

感慨深さを感じるとともに、視線はより下へと引き寄せられる。

そんな下心を悟られぬために、指の腹を擦り付け媚びる。

すると庸はビクッと少し体が跳ねさせ、生娘のように手を胸にかき抱いた。

 

振り解かれ1人になった温度に寂しさを感じる。

名残惜しさからため息をつくと庸はジトッとした目を向けてきた。

 

「なぁ、お前もこんな所にいても退屈だろう?‥2人で抜け出さないか?」

 

「嫌だ」

 

「なぁ頼むよ、此処は鼻が曲がりそうなんだ」

 

迷っている庸に首を傾げながら訊ねた。

私の事が分かるように私もお前の事は知り尽くしている。

私がこんな風に頼めば拒めないのを知っていた。

 

しかし、今日の庸いつになく強情だった。

 

「帰りたければ帰れよ。今日はお前の我儘に振り回されないからな!」

 

「そうか。お前もそんな口をきく様になったのか‥あーあ、昔は可愛かったんだけどなぁ。どこに行くでも深月姉、深月姉って」

 

「うるさい!‥いつの話だ!俺はもう大学生だ。今後こそ普通になりたいんだよ‥普通に大学生をして、友達を作って、彼女も作って‥‥最後の学生生活を楽しみたいんだ‥」

 

恐らく庸の頭に浮かんでいるのは、これまでの学校での自分だったのだろう。怪異が見える、寄せ付ける体質というのはいつの時代も忌避されるものだ。それは庸も同じだった。

 

こいつの言う普通とはそういうものとは無縁な穏やかなものなのだろう。

きっとそこに私は居ない方が良いのだろう。

 

「そうか。お前がそんなに嫌なら今夜は別の者に相手して貰おうか。そうだ。私を此処に連れてきた中野とかいうのに相手してもらおう」

 

挑発気味にそう言うと、庸は勝手にすればいいと元居た場所へと戻ってしまった。

 

あの分だと庸はもう此処には近寄らないだろう。

どうも、私はアイツの前だと心に余裕が無くなる。

前はこんな風では無かったのに。

どちらかといえば窓憑に‥たかだか人間に腫れたのだ何だのと騒ぐ同類達を冷めた目で見ていた。なのに今じゃこの様だ。

 

そうして私が本気で落ち込み始めた時、今度は嫌な意味で見覚えのある男が横側の席に座った。私にサークルパンフを渡してここに連れてきてくれた男。確か‥中野とか言っただっただろうか。

 

「どう?楽しんでる?」

 

一見すると人の良さそうな笑みを浮かべた中野が言う。

 

「はい、凄く楽しいですよ」

 

とてもそうとは思えなかったが、一応は庸の知り合いということを考え最低限の愛想を持って答えた。

 

「本当に?その割には飲んでないみたいだけど?」

 

中野は咎める様に私の烏龍茶が入ったグラスを指差した。

 

「実は私、あんまりお酒得意じゃないんです」

 

息を吐くように嘘を吐く私だがこれは嘘じゃなかった。

別に全く飲めないわけではないだろうが、好んで飲みたいとは思えなかった。

 

私がそう言い遠慮したものの、そんなことは中野には関係ないようで

 

「苦いのが得意じゃ無いのかな?これとか甘くて飲みやすいよ」

 

そう言って牛乳が混ぜられた琥珀色のお酒を私に勧める。

甘い匂いで誤魔化されているが、酒が弱いと言う人間に飲ます酒精ではないのはすぐに分かった。

 

「‥変に酔ったりしたらご迷惑がかかちゃいますし」

 

「大丈夫大丈夫。俺ら先輩達もいるし、ここはウチの大学御用達の場所だから」

 

やんわりと断ろうとしても中野は薄く笑いながらも引いてはくれない。

それどころか、逃すまいと肩が触れ合うほどに詰めてきた。

 

はぁ、なるほどな。これが、こいつの手口か。

やけに怨念臭い奴だと思って着いてきてみたら、そういうことか。きっと、目の前にいる私はさぞやいい獲物にでも見えたのだろう。

こんな奴が、あいつと同じ場所で同じ空気を吸っていると思うと、腑が煮え繰り返りそうだ。

 

いっそ向こうにでも放り込んでやろうか‥。

そんなことを考えつつも周囲を伺う。

誰か奇特な人間が助けてくれないかと思ったが、多くが話に夢中になっていて気付かないか、気づいても気の毒そうに直ぐに目を逸らすか好奇の目を向けるだけだった。

 

「何事も経験だから。ね?」

 

中野は言い方こそ、優しげだったがその目は何処か値踏みをするような無遠慮さあった。正直言って、今にでも八つ裂きにしてやりたいが、今の祓い屋共はさておき、同類達に目をつけられたくはない。

ここは穏便に済まそう。

 

「‥1杯だけなら」

 

「おお、いいねぇ」

 

さっさと酔ったふりでもして、こいつをここから引き離そう。

なに、外に出て人気の付かない場所に行ったら眠らせて、その辺に放り投げればいいだけのことだ。

その後で、あいつと待てば良いだけだ。

 

ため息共に手を伸ばした瞬間、横から出た別の手にグラスを取られた。

 

「これ、俺が飲みたかった奴じゃないですか!これ貰っても良いですか?」

 

そう言ってこちらの返事も待たずグラスを奪っていったのは、庸だった。

そしてそのまま、風呂上がりの牛乳でも煽るかのように、腰に手を当てて飲み干すと

 

「ご馳走様でした」

 

そう言って、男に軽く一礼すると周りの事などお構いなしに私の手を引いて店の外へと連れ出した。それをただ見るだけで呆気に取られる中野の顔を横目に、私は人目も憚らずに声を出して笑っていた。

 

◇◆

 

 

「‥気持ち悪い」

 

そう言って、庸は薄暗い小道の端にしゃがみ込んだ。

一体これで何度目だろうか。

そんなに気持ちが悪いのならその辺の店のトイレで吐いて仕舞えばいいものを、無駄に育ちの良いこいつはそれはダメだと言って聞かない。

確かに店に迷惑をかけるかも知れないが、往来で吐くよりはマシだろうに。

 

「馬鹿なやつだ。飲めもしないくせに一気飲みなんてするからだ」

 

私がその背中を摩りながら苦言を呈すると、庸は情けない上げながら唸る。こいつも馬鹿なことをしたと反省しているだろう。

 

しかし、なんだってあんな慣れないことをしたのか‥。

私がその事を訊ねると

 

「‥別に、無理やり酒を飲ますとかそういうのが嫌なだけだ」

 

と口を尖らす。

 

「嘘つき。本当にそれだけなら、あの場でそう言うだろ?お前はそういう奴だ」

 

そうだ。お前はそういうやつだ。

私が見初め、私のものになった時からそうだ。

臆病で寂しがり屋で誰よりも普通でありたいと願っているのに、困っている誰かを見たらほっとけない、自分の損得を考えず行動する。

そんな不器用でウザい奴がお前だ。

私の牖憑だ。

 

だからお前があの時、私を連れ出したのはそうせずにはいられなかったからだ。

 

「私があの男の隣にいる事がそんなに嫌だったか?」

 

「‥‥」

 

沈黙は時に雄弁だ。

特にこいつの場合は。

 

「少し此処で待ってろ。水を買ってくる」

 

私の言葉に庸は返事とも言えない呻き声で答えた。

それに苦笑し、通ってきた道の方へと引き返す。

 

庸が俯いてくれていて助かった。こんな顔を見られるのは沽券に関わる。

 

目当ての自販機はそう遠くない場所にあった。

そこで自分用にも水を買い、火照った顔に当てた。

 

ずるいなぁ。自販機に寄りかかりながらついそんな言葉が漏れた。

 

気を抜くと先程のやり取りを思い返して顔が緩む。

冷たいペットボトルで冷やされているはずの掌が熱くてたまらない。

 

 

こんなに送り道は久々だった。最近の私は待てをずっと喰らっている飼い犬の様な気分だった。今日はもう良いだろう。私は狼だぞ。送り狼だ。

私の前でそんな無防備な姿を見せたお前が悪いんだ。

 

今夜ばかりは待てができそうになかった。

十数年待った据え膳がそこにあるのだ。

 

だからこそ邪魔する奴を私は許せそうにない。

 

「あぁれ。わた、わたしの。マド??ど/こ?」

 

そのこの世の者とは思えない声に、共鳴するように街灯と自販機が明滅し始める。点灯と消灯を繰り返す不安気な明かりは、着実に近づいてくる下手くそな呪詛を吐くそいつを照らした。

 

「オ?まえ。アレ。どこ??にやっタ?わたしの」

 

それの姿は視界に収めるだけで不快なものだった。

体はつぎはぎだらけ。男と女それぞれから無差別に切り出されたものを無理やり縫い付け形だけは人間だった。そんな体の上には、庇護欲の唆られるあどけない顔立ちの女の顔が乗っていた。

 

あの飲み会で庸が気にしていた女だった。

あいつも厄介なものばかり引き寄せるものだ。

 

それにしても、わたしの‥か。言ってくれるな。

 

「おい、今日の私は機嫌が良い。今ここで消えるなら見逃してやる」

 

「あ?れどこ?あれどこぉ?」

 

つぎはぎは焦点の定まっていない目で繰り返す。

私の前を通り過ぎ、庸がいる方向へと歩き始めた。

 

明らかに話が通じるタイプではない。

 

窓憑はその性質からこういったものを呼び寄せる事がある。

それは庸も例外ではなく、最近こそ減ったものの昔はよく付き纏われていた。

 

こういった時、私達の対応は分かれる。

過激なものは自分の男に近づいた瞬間、対話を試みる事なく消す。

温厚なものは無理矢理隠り世に帰すか、少し痛い目に合わせて害が無い程度に散らす。

 

では、私はというと‥

 

「そうか。残念だ」

 

狼は獲物を横から取られるの見過ごすほど優しくない。

 

◆◇

 

時間にしてそう立っていないが、戻った頃には庸は完全に酔い潰れていた。図体のデカい男が小ぢんまりと地べたに座り込んでいる様子はシュールだ。

 

「おい、水買ってきたぞ」

 

そう言って体を揺するが、庸は呻き声を上げるだけ。

 

このまま放っておくわけにもいかないが、納得もできない。

今日こそはと思っていたのに‥。

喚き散らしたい気持ちをグッと堪え、ガス抜きでため息を吐く。

 

「ほら、帰るから乗れ」

 

そう言って庸の前でしゃがみ背中を向ける。この歳になると庸も背負われる事に抵抗感があるのか、いつまで経っても来ないので、早くしろと怒鳴ると渋々といった様子で体を預けてきた。

 

子供の時ぶりに背負った庸の体はあの頃よりもずっと重たかったが、人でない私にとってはあまり関係なかった。しかし、側から見れば普通の女が自分よりも大柄の男を背負っているのだから色々と異様な事だろう。

 

本当に人通りが無い場所でよかった。

こんなところを見られれば庸はいい笑いものだろう。

 

いや、それも良いかもしれないな。

そのほうが悪い虫が付く心配もない。

どれ、人通のある道でも通って帰るか。

 

そんな私が企んでいるとも知らず、背中からは穏やかな寝息が聞こえた。

 

私は送り狼。隙を見せたお前が悪い。

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

「大学生」と「送り狼」

 

 

ーーーー

ーーー

ーー

 

茹るような暑さが形を顰め始め、茜色に染まる空から巣へと戻るカラスの鳴き声がした。鳥が帰る時間なら人もそうだ。そこらかしこで子供が家路を急ぐ声が聞こえた。そんな中、小さな公園に1人の子供が居た。

 

「だから‥それで‥だって」

 

擦りむいた膝を抱えた子供が泣きじゃくりながら何かを訴えていた。

私はその子供の隣に座って相槌を打っていた。

 

正直、話の大半は要領を得なかった。かろうじて分かった事は誰かに意地悪をされたのだということ。これくらいの年頃にはよくあることだったが、こうも頻繁にあると少し心配になってくる。

 

「そろそろ泣きやめ。そんなに泣いてばかりいたら目が溶けて無くなってしまうぞ」

 

そう言うと、子供はしゃくりあげながらも泣くのを堪えた。

その様子が愛おしくて頭を撫でる。

 

「ほら、もう遅いから帰ろう。母御も心配する」

 

辺りは徐々に暗くなっていた。あと30分もすれば完全に陽が沈む。

 

「‥足痛いから‥歩けない。負ぶって」

 

溜息を吐いて渋々、背中を向けると子供は遠慮もなく飛び乗ってきた。

 

さっきまで泣いていたのに現金なやつだ。

それにしても送り狼の私が人間を背中に乗せる時が来るとはな。

 

ゆっくりとした足取りで歩き始めると子供はいつもより高い視点が楽しいのか、痛いはずの足をぶらつかせる。私が落ちるからやめろと言っても聞かず、それどころか頭上の雲や何やらに気を取られ、顔を仰け反らす。

その度に、私の首に結ばれた腕が食いこんだ。

 

「おい、良い加減にしないと歩かすぞ」

 

不本意な絞技を喰らいながら低い声で脅すと、流石に大人しくなった。

 

そうして、大人しくなった子供を連れて家まで道の半分以上を来たくらいに、ポツリと子供が囁いた。

 

「‥みんな深月姉みたいに優しかったら良いのに」

 

それになんて答えたら良いのか分からず、そうかと一言だけ返した。

優しいなんて言われたのは初めてのことだった。

 

「みんな僕の事を嘘つきだって言うんだ。お化けなんて見えないって‥ねぇ、僕がおかしいのかな?」

 

「さぁな。例えそうでも気にするな。どんな普通に振る舞っていても誰しもどこかおかしいものだ」

 

「そっか。‥ねぇ、深月姉もお化け見えるんだよね?」

 

「あぁ。見えるぞ」

 

 何ならそのものみたいなもんだからな。嘘は言ってない。

 

「そうなんだ。僕、あいつら嫌いじゃないんだ、見てて面白いし。

そういえば、深月姉と居るとあいつら出てこないんだよね。何でだろ?」

 

そりゃあ、出てきたら消されると分かっているからな。

私が逢引きを邪魔する奴を許すわけないだろ?

 

「もし、皆が正しくて見える方がおかしいんだったらさ、僕も深月姉お揃いだね。それならそれでも良いかな」

 

これ同意だよな?

送り狼の私にこんなこと言うって事はそう言うことだよな?

あぁ、どうしようかなぁ、このまま私の隠り世に攫ってしまおうかなぁ。

 

理性と本能の間で苦しみ立ち止まった私に、子供は大丈夫と尋ねる。

 

「‥大丈夫だ。何でもない」

  

そうだ落ち着け。こいつはまだ一桁のガキだ。

せめて酒が飲めるくらいになってからじゃないと、同族共に馬鹿にされる。

少し前だって鎌鼬の馬鹿姉妹が喧嘩になってたじゃないか。

  

 

「そういえば、最近転校してきた子がいてね、その子面白いんだ」

 

それ私だ。

あまりにもこいつが絡まれるものだから学校でも化けて憑くことにした。

あくまで護衛みたいなものだ。決して一緒に大きくなっていくのも筒井筒みたいで良いなと考えていない。まぁ、私は浮気なんてさせないけど‥。

 

「話し方とか大人みたいなんだけどね、当たり前の事を知らなかったりしてその度に驚いて‥この間なんてさ‥」

 

そうやって帰り道の間、私達は他愛の無い話を続けていくうちに、

いつの間にか子供は間抜けな鼻息を立て眠りこけていた。

 

子供を背中に乗せるなど、自分も甘くなったものだと思いながらも、

背中に感じる温度に自分の空いていた穴が埋まっていくのを感じていた。

 

いつの日かこの子は全てを知るだろう。

そしてその時になっても私はこの子の側に居れるだろうか。

そんな不安と期待が入り混じったその感情の名を私はまだ知らなかった。

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