すいません、『エクスタスの裏ワザ』を解禁します。   作:原作改編

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『シェーレが初めてエクスタスを握った日』にさかのぼる。


奥の手を斬る!

 ナイトレイド入りたてのシェーレがため息を吐く。

 彼女が吐息を洩らすのは決して退屈だからではない。革命軍にスカウトされてから役に立てなかった自分が初めて期待に応えられてほっとしているからだ。手にしたハサミ型帝具『エクスタス』の感触を確かめながら喜びに打ち震えた。

「すいませんボス、この帝具、私にしっくり馴染むようです」

「おめでとう、まさかシェーレが『エクスタス』を使いこなすとはな」

 ふたりがいるのは竹林。

 シェーレの周りにはこの地域で最も耐久力のある『ガチガチ竹』が無様に転がっている。彼女を中心として、キレイに360度、エクスタスの届く領域すべての竹を切断していた。ナイトレイドのボスであるナジェンダは竹の綺麗な切り口を見て感心する。

「この帝具、そんなにスゴイものなんですか?」

「使ったのにわからんのか?!」

「いえ、なんとなく聞いておこうかなって」

「マイペースな奴め。いいか、ハサミ型帝具『エクスタス』は万物両断、つまり『なんでも斬れる帝具』だ。鎧だろうが武器だろうが、あとは試したことはないが『帝具』だろうと切断できるだろうな。てっきりワタシのような『頭のキレる人間』が使い手になると思っていたが、よりによってシェーレとは、正直意外だったぞ」

「話はよくわかりませんが、つまり私が『ボスのように頭のキレる人間』だったということですか?」

「それはない」

「あ、なんかボスが怒ってます。なんかもう、すいません、すいません」

 シェーレはぺこぺこと頭を下げる。

 話が脱線するのは、彼女にとって呼吸をするのと同じことだった。掃除や洗濯、料理調味料の発注まで何をやらせてもダメなシェーレは天性のおっちょこちょいだった。そんな彼女でも帝具を使えるのだから、ナジェンダの驚きようにもうなずける。

「それよりシェーレ、手は大丈夫か?」

「え?」

「普通の使い手なら、エクスタスの取っ手に触れただけで斬れてしまい、まともに掴むことさえできなかったんだ。すこしでも痛みや違和感があるなら言ってみろ」

「いえ、なんともありません」

「そうか、ならいい。だが過信はするな。エクスタスの万物両断は刃の内側だけだ。そして奥の手の『目くらまし』は相手のスキをつくるためのモノだ。暗いからって灯り代わりにしないことだ。わかったな」

「え、あ、おまかせあれ、です」

 本当に大丈夫か、とナジェンダは思う。

 万物両断『エクスタス』の奥の手。一斬必殺の村雨とはまた違う『必殺』を備えたこの帝具の奥の手がまさか『目くらまし』だとはだれも思わないだろう。逆にこの意外性が初見殺しとしてうまく作用する可能性もある。

「しかし、その、なんだ。基本性能が凄まじいだけに、奥の手が『目くらまし』とは、その、あれだな。ちょっと地味な帝具だな」

「そうですか? ぴかぴか光って派手な帝具だと思いますけど」

「……そうだな、たしかに派手だな」

 ―――そういう意味じゃない、という言葉をナジェンダは飲み込んだ。

 シェーレに説明しても、わからないことは目に見えているからだ。

「とにかくこれでエクスタスはシェーレのものだ。来たるべき暗殺に備えてきっちり磨いておけよ」

「あのーすいません。ボスに見てほしいものがあるんですけど」

 シェーレの言葉にナジェンダは足を止める。

 彼女はもじもじと、なにかを言いたそうにして、やっぱり止めとこうか葛藤しながらも考えている真っ最中だった。ナジェンダはナイトレイドのボスとして部下の話を聞いてやらねばならない。

「ん? どうした? 言ってみろ」

「このエクスタスって帝具、なんか文献にはない使い方があるんですよ」

「なんだと!?」

 ナジェンダは素直に驚いた。エクスタスに触れて間もないシェーレがもうすべてを把握しているかのような物言いだったからだ。文献には奥の手が載ってないから『目くらまし』だけで充分な情報だったが、文献に未記載の情報があるならこれほど嬉しいことはない。

「それは本当か!?」

「えっと、たぶん。私はてっきり、こっちが『奥の手』だと思ったんですけど、見てもらえますか?」

「もちろんだ。文献にも載ってない、噂さえ聞いたことのないエクスタスの『裏ワザ』、ワタシに見せてくれ」

 シェーレは期待に応えるため、もう一度だけエクスタスのカバ―を外した。

 そして、ほどなくして帝具の文献に新たな一行が付け加えられた。

 ―ー『万物両断エクスタスの裏ワザの使用を一切禁ずる』、と。

 

 

 




次回、絶対悪を斬る!

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