すいません、『エクスタスの裏ワザ』を解禁します。   作:原作改編

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絶対強者を斬る!

 

 セリューは断罪の言葉を告げる。

「コロ! 『粉砕』ッ!」

 狂化されたコロはシェーレとマインに向かって襲い掛かった。まさに特級危険種クラスの強さにまで跳ね上がった帝具ヘカトンケイルは強化された身体を存分に使い、ナイトレイドのふたりに迫る。

「あなたの相手は私がしてあげますっ!」

 シェーレは雑木林に向かって走った。この場所でエクスタスの『裏ワザ』を使えばマインを巻き込んでしまうという彼女なりの配慮である。さらにコロの狙いが彼女であるとわざわざセリューが宣言してくれたのだから心置きなく逃げられる。

 すべては、ふたりでこの場を切り抜けるために。

 シェーレはしばらく走った後、足を止める。狂化したコロから逃げられないと判断したのだろう彼女は先ほど受け止めたようにエクスタスでコロの突進を防御する構えを取る。

「さぁ、かかってきなさいっ!」

 轟音とともに、シェーレはコロの攻撃を受ける。打ち上げ気味に繰り出されたコロの拳はシェーレの身体を上空へと吹き飛ばした。地面を転がりながらも、彼女はなんとか受け身を取る。

 シェーレは雑木林まで殴り飛ばされた。

 予想外な威力である。殺したはずの勢いに押され、巨木に背中を強く打ち付ける。想定以上の力に肺は呼吸をすることを忘れ、口の中は血の味でいっぱいに広がった。

 ―ーなんて怪力、直撃なら間違いなく死んでた。

 しかし、運は彼女を見離してはいないらしい。

 遮蔽物の多い雑木林は殺し屋にとって最高のフィールドだった。コロの動きを抑制し、なおかつエクスタスを斬りこむには程よい間隔で樹木は生い茂っている。一騎打ちに必要な最低条件は満たしていた。

 コロが雑木林に入ってくる。夜の雰囲気と公園からのバックライトのせいで三割増しの怖さを演出する帝具ヘカトンケイルに対して、シェーレは対峙した。

 ―ーただの一撃も喰らわず、核を砕く。

 シェーレの孤独な戦いが幕を開ける。

 彼女は縦横無尽に動き回った。暗殺者特有の『足音のない走り方』でコロに居場所を特定させないようにするためだ。追ってくるコロに対してあくまで流動的に、付かず離れずを繰り返しながらの接近戦を挑む。

 ヒット&アウェイ。コロの身体を端から刻んでいった。

 しかし、コロはすぐに対応してくる。シェーレが攻撃しようと踏み込む一瞬に合わせて拳を振り回してきたのだ。目で頼らなくとも、鼻や耳の感覚器官を使って彼女の動きを捕捉しつつあった。ほとんど視覚の不利はないようなものだった。

 千年生きようが、やはり獣である。自然の戦場は彼らの領域だった。

 ここにきて、シェーレが追い詰められる形になった。

「それでも、私は、負けません!」

 シェーレはエクスタスの奥の手『金属発光』を使う。暗がりでの強烈な閃光は効果絶大であり、コロの視界は一瞬にして真っ白な世界に包まれる。そのスキに、彼女はコロの懐に潜り込んだ。

 シェーレは、コロを切り刻む。

 エクスタスの最大射程範囲を維持しながら、コロの身体をなます切りにした。一撃ごとにコロの身体は部位単位で寸斬りにされていく。豪快に切り分けられながらも、コロの再生は始まっていた。

 終わらない再生と限りあるシェーレの体力。勝負は明らかだった。

 それでもシェーレは、核を斬るためにコロを刻む。

 そして、ついに終わりが見えた。

 コロが、エクスタスの刃を受け止めたのだ。斬れない峰の部分を器用に掴み、そして決して放さないのは、すでにエクスタスを見切っているからだろう。

 武器を押さえてしまえば、もう攻撃はされない、と理解してるのだろう。

 シェーレはエクスタスを取り返そうとハンドルを引くけれど、びくともしない。時間が経つにつれ、コロの切り落とした頭部は再生していく。そんな様子を見せつけられながら、彼女は武器を取り返そうともがくことしかできなかった。

「うぅ、動かな――」

 コロががぱっと大口を開く。無数に並ぶ歯、人ひとり丸呑みできそうなほど大きな口はシェーレの頭を齧るためにゆっくりと近づいてきた。眼前に広がる圧倒的な死の予感は、帝具戦の残酷な現実を連想させる。

 シェーレは走馬灯をみていた。

 アカメと料理した時の思い出、初めてエクスタスを獲得した時にパーティを開いてくれた時の思い出、ナイトレイド全員でバーベキューをした時の思い出。みんなみんな、私の大切な宝物。

 そしてシェーレは涙を流していた。

 ボス、マイン、ブラート、ラバック、アカメ、レオーネ、そして―――。

 新入りの、泣きじゃくっていた少年の顔が頭をよぎる。

 すいません、タツミ。たぶんもう、抱き締めてあげられません。

 ですが、許してください。何もできない私だけど、今こそ―――。

 ――運命にあらがい、切り開きますっ!

「――――『エクスタス』ッ!」

 シェーレは、最後の金属発光を放つ。

 轟音、そして同時にコロの親指が切断される。なにが起きたのか、コロにはすぐ理解することができなかった。強烈な閃光は、いままでの金属発光とはまるで違う『優しい光』だった。

 コロは確かに見た、強い輝きを放っているシェーレを―――。

 そして、闇夜に煌めく『二刀流』を―――。

 エクスタス、裏ワザ、自らの限界さえ断ち切る二刀流の帝具である。

 楔から解き放たれたエクスタスに斬れないものは、ない。

 




次回 シェーレを斬る!

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