すいません、『エクスタスの裏ワザ』を解禁します。   作:原作改編

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シェーレを斬る! 

 エクスタスの大きな弱点は『斬れない峰』にあった。

 『防御に使える』という事はつまり『斬れない部分が存在する』ということだ。下手に斬れてしまえば斬りわけられた攻撃がエクスタスを超えて被弾してしまう。防御に使える頑丈さは、同時に『斬れない峰』という弱点を生み出した。

 ゆえに、エクスタスには『裏ワザ』が存在する。

 エクスタスの楔となるパンダを外すことで『三つ』の能力を解放する。

 まずは『二刀流』―――万物両断の双剣は圧倒的な攻撃手数を生む。そして小回りが利くようになったことでハサミ型の時よりも素早い動きを可能にした。

 次に『峰の万物両断化』―――ハサミとしてしか万物両断を発揮できなかったエクスタスが『両刃の剣』となる。防御を一切捨てた『超攻撃特化型』である。

 そして最後に、シェーレの身体にも劇的な変化が起きていた。

『リミッターの切断』―――彼女の肉体はまるで閃光のような輝きを放ち、限界を超えて肉体強化されていた。エクスタスのハンドルから回ってくる『毒』によって、肉体の持つ潜在的なリミッターを強制的に切断していたのだ。

 これが、エクスタスの裏ワザ。

 真の『万物両断』に到達した者のみに許される最後の手である。

 

「すいません、すぐ楽にしてあげます」

 コロは、いつのまにか威嚇していた。狂化されて、理性をほぼ失ったはずのコロに残された『野生』がシェーレを危険だと認めてしまった。いままで自己再生能力に任せて襲いかかっていたけれど、それさえできない。

 代わりに―――シェーレは動く。コロが反応する間もなく、一撃で首を落とした。あまりの速さに、咄嗟の回避行動さえ間に合っていない。いまの彼女はコロの反射神経より速い攻撃が可能だった。

 コロは頭を刎ねられながらも、即座に反撃する。シェーレがエクスタスを握り直す頃にはすでに頭の修復は六割ほど終え、首が完全につながってない状態でも反撃してくるのだった。

「また『再生』ですか……しかしもう、何の意味もありません!」

 反撃してきた腕を、シェーレは斬り捨てた。速すぎて反撃さえできない。手を出せば手が、足を出せば足が斬られる絶対領域を前にコロは初めて恐怖を感じていた。

 シェーレが、コロを中心に動き回る。

 目でも鼻でも耳でも負えない超スピードの攻撃を前に、帝具ヘカトンケイルは翻弄されていた。狂化しているのに、まるで捉えられない。パワー、スタミナ、生命力をはるかに上回るコロが、たった一つ、飛び抜けたスピードの前に手も足も出ないのだ。

 右腕、左足、首、右足、左腕、首……コロをすり潰すように切り刻んでいく。

 再生がもうまるっきり追いついていない。逃げるスキさえない。

 シェーレは、『裏ワザ』の最終攻撃に移る。

 この最終攻撃には『制約』がある、一度加速に入ったら、終わるまで止まることができない。止まった時が最後、『裏ワザ』が強制解除されてしまう。これが生涯最後になってもいい、という覚悟で彼女はこの最終攻撃にすべてを賭けた。

 コロの身体をミンチにする。本能的に核を守ろうとする腕を落とし、足を削ぎ、首を刎ねていった。ブロックサイズにまで肉片にしていく中、ついに目標物が顔を出す。

 ――ついにコロの体内から『核』を見つけた。

 薄紅色の球体、上質な宝石のように怪しく輝く『帝具ヘカトンケイルの核』だった。

 シェーレは、コロの身体から『核』を周辺の肉ごとそぎ落とす。

 地面に落ちる核、と同時にコロの肉体は活動を停止する。核が無ければ再生しない。つまり、脳みその切り離された今のコロに復活する術はないのだ。

 シェーレは、エクスタスを逆手に握り直す。

 裏ワザ最高のスピードまで上げる。コロが二度と復活しないようにエクスタスを振り上げ、空高く飛び上がり、地面に転がる核に向かって落下した。

「これでラストですっ!」

 二つの刃を手に、全体重を乗せて『核』を刺し貫く。最終攻撃の余波が雑木林の木々を軽々と切断し、地面に永久に消えない爪痕を残した。シェーレの輝きが、まるで木漏れ日のように雑木林全体を照らしたのである。

 そしてシェーレの身体から、輝きがなくなっていく。地面に刃元まで埋まったエクスタスから手を放すと、その場で尻餅をついた。

 すべてを懸けた裏ワザは、時間切れになる。

「ふぅ、すいません。終わりまし……え?」

 ゆっくりと目を開けたシェーレは『ある異変』に気付く。

 目の前がぼんやりと、水中のように滲んでいることに気付いた。彼女ははっと気づいたようにとっさに地面を手探る。

「あ、メガネメガネ……」

 あまりの速さに、シェーレのメガネが付いてこなかったのだ。跳躍する時の最高速度の時、メガネを落としてしまったようである。暗がりのなか、彼女は懸命に自分の体の一部を探した。

「あ、ありましたっ! 私のメガネ!」

 夜の闇の中でようやく落ちていた黒ぶちのメガネを拾い上げる、ちょっと付いた汚れを払うと、目の前にある状況を初めて目撃した。

 すべてを確認して、シェーレは落胆した。

 地面に深々と突き刺さる二対のエクスタス、その隙間に転がるほぼ無傷の『ヘカトンケイルの核』を見つけたのだ。最後の最後、メガネが外れたことによって手元が狂ってしまったのだ。

 外した、トドメを外してしまった。

「は、はずしちゃいました」

 もう一度、破壊を試みようにもエクスタスが地面に突き刺さってシェーレのチカラでは抜けそうにない。そして彼女の身体は裏ワザ発動の代償である『全身の深い裂傷』によって満足に核を破壊する火力がないのだ。ミリ単位で動かしただけで、ナイフで刻まれるような鋭い痛みが走る。

 結局、シェーレはヘカトンケイルを殺しきることができなかった。

「本当にすいません。あとはマインに託します」

 シェーレは、遠くで戦うマインに命運を託した。

 

 




次回、絶対服従を斬る!

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