すいません、『エクスタスの裏ワザ』を解禁します。   作:原作改編

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絶対服従を斬る!

 

 

 コロを退治したシェーレは、マインの方へ目を配る。

 マインは帝都警備隊員の少女ひとりを相手に苦戦を強いられていた。

 帝都警備隊セリューユビキタス。帝具ヘカトンケイルの使い手であり、トンファーを使った接近戦を主とした戦闘スタイルを持つ少女である。

 マインが追い詰められるのには理由があった。

 それは、『ピンチに強い』とされる帝具パンプキンを持つがゆえの苦悩だった。

「ああ、やっぱり。マインのパンプキンは一騎打ちには向いてませんね」

 マインは憎らしそうに歯噛みしていた。帝具なし、それに一対一の相手ではパンプキンの精神エネルギー弾に威力がない。彼女にとってあまりに有利過ぎる状況は逆に決定打を奪い去ることになっていた。

 そして、セリューユビキタスの地力の高さである。

 いくら精神エネルギー弾の威力がなくなったとはいえ、セリューの仕込みマシンガン『トンファガン』程度の殺傷能力は持っている。しかしセリューの身体能力はマシンガンの弾程度ならトンファ―で叩き落とすほど鍛えられていたのだ。

 マインに決定打はなく、限りある精神はセリューに削られていった。

 瞬時に把握できたシェーレは、マインを手助けしようとする。

「うーん、ピンチ、ピンチですか。困りましたね。そう簡単に危機なんて落ちてないと思うんですけど」

 マインを追い詰めればいい。そうすればトンファーごと敵を粉砕してくれる。

 シェーレはマインを追い詰める方法を考えた。

「ああ! 閃きました! 援軍が来たって煽ればいいんですね!」

 満足に戦えないシェーレにできる最大の援護であった。もちろん本当に呼ぶわけではなく、あくまで『援軍が来た』と仮定した演技である。コロを始末できたことを伏せて、絶望的状況を煽るようにしなければならない。

「行きますよぉ―――せーの!」

 シェーレは、大声を上げようとして―――異変に気付く。

 バラバラにしたコロの肉片が、動いていたのである。

「マ――――、え? なんで動いてるんですか?」

 振り返ると、ヘカトンケイルの核に薄い膜が張っている。

 ―ーーコロの肉片が、再生しつつあるのだ。

「……まぁ、こんなになってもまだ、再生するのですか……?」

 あわててシェーレは、『ヘカトンケイルの核』を蹴りつけた。しかし、肉壁に覆われた核には傷一つ付かない。そして核はかなりの重量があり、シェーレの蹴りでは動かすことさえできない。

 ――しまった、これではもう手の出しようがありません。

 それでもシェーレはヒールの踵で踏みつける。しかし肉の壁は思ったよりも厚く、中にある核まで届くことはなかった。硬く弾力性のある肉壁は、どんどん大きくなっていく。

 もたついている間にも、核は第一形態のコロまで復元した。

「これは、まだ蘇生している!?」

 おそらく第二形態の『腕』まで復活するつもりだろう。肉片の集まり具合が身体周辺から腕にかけて集中していたからだ。

 シェーレは、急いでエクスタスを引き抜こうとする。

 しかし、裂傷で手に力が入らず、深々と刺さったエクスタスが抜けない。あと一分もすれば、コロは修復を完成させるだろう。

 焦りは、シェーレの判断力を奪っていく。

 ――せめて、時間を稼がないと。

 シェーレは、突く刺さったエクスタスを逆に押さえつける。コロの再生に、うまくエクスタスを巻き込むことができれば、コロは動くことができないはずだ。地面に突き刺さった楔として、ヘカトンケイルを拘束できるはずである。

「マイン、急いでくださいっ! この帝具が、目を覚ます前に……」

 コロが復活するのは、時間の問題だった。

 

 

 

 マインは、このままいけば勝てると踏んでいた。

 浪漫砲台パンプキンの性能は、彼女自身良く知っていたからである。だから、どの程度ピンチなら、どれくらいの弾が出るかなどは感覚で把握していたのだ。

 計算からしてあと一分足らず、それでエネルギー弾がトンファーを砕くまで高まる。

 それまでは、根気の勝負だった。主に接近戦では勝ち目がなく、掴み技、特にパンプキンを奪われないことが最重要事項だった。さらにトンファーに仕込まれた『トンファガン』の殺傷能力を侮ってはいけない。

「くはは、帝具を持ってるくせに! 全然大したことはないな!」

「……チィ、あんたが強すぎんのよ」

「当然だ! 正義はかならず勝つからな!」

「あんたの歪んだ正義感なんて、聞いてないわよ!」

「悪になんと思われようと知ったことか!」

 セリューがトンファガンを連射する。的確に急所を狙ってくる銃撃を、パンプキンを盾にすることでなんとか凌いだ。しかし、その間に迫ってくるセリュー本体はどうしようもない。

 パンプキンごと殴られて、木に背中を強打した。痛みに悶絶する間もなく追撃してくるセリューのトンファーを前転することによって回避することに成功する。攻撃の余韻に浸っている彼女のスキを突いて、マインは身を隠した。

「おにごっこの次はかくれんぼか? 悪はお前らだと言うのに、皮肉なものだな」

 鬼の形相をするセリューが言うと説得力がない。

 ―ーーなんとか、ピンチをつくらないと。

 マインのいくつかまとまった追い込みプランを展開する。

「あんた! ナイトレイドに恩師を殺されたんだっけ?」

「……それがどうした?」

「なんで殺されたかわかる? オーガは油屋ガマルと結託して罪のない善良な帝国民に濡れ衣を着せて処刑していたのよ! これがアンタの恩師の『正体』なのよ!」

「悪の言葉を信じる理由がない」

「可哀想なやつ、オーガ隊長に都合よく教育されて、使いやすいコマにされてたのね」

「だまれ!」

「いまのアタシが何言っても聞かないわよね。でもアンタらを見る帝国民の目を思い出してごらんなさい? 怯えた目をしてる、愛想よく笑っててもすぐに逃げるように退散していったんじゃない?」

「だまれだまれだまれっ!」

「守るべき帝国民を殺して、アンタ、なんのために闘ってんのよ?!

「―――だまれえ!」

 セリューは、茂みに隠れるマインに発砲する。彼女は木の影に隠れて銃撃をなんとかやり過ごす。

 しばらくの静寂、そしてセリューはつぶやく。

「ワタシは正義の為に戦う。ごくごく少数の帝国民など知ったことではない」

 もう手に負えない、とマインは思う。バカは死ななきゃ治らないとはよく言ったもんだ、あいつの中では帝国民など、もっと言えばオーガ隊長さえどうでもいいのだ。自分の正義のために、戦う理由が欲しいだけなのだ。

 たぶんオーガ隊長が革命軍に裏切ったとしても、容赦なく斬り捨てるだろう。なぜならこいつが戦う理由は『正義は悪に屈してはならない』という強迫観念なのだから。

「そう―――じゃあ、最後に一つだけ言っておくわ」

「……?」

「そのオーガ隊長を殺したの―――実はアタシなのよね」

 セリューの血液が沸騰する。

 口に出すことで誤魔化していた殺意は彼女のトンファーを握る手を震わせた。

「きさま、よくもよくもよくも―――オーガ隊長を殺したなぁああああああああッ!

 セリューはトンファガンを乱射する。

 木陰に隠れるマイン目がけて、障害物など関係なしに撃つ続けた。やがて銃弾のきれた仕込み銃は、トリガーを引いてもむなしく空音を響かせるだけになった。彼女の激情を利用して弾を無くしたのである。

 すべてはマインの思惑通り。

 あとは、『援軍を呼ぶ警笛』を鳴らしてくれれば完璧だった。それだけでパンプキンの精神エネルギー弾は彼女のトンファーを砕き、致命傷を与えるに十分な威力まで高まるのだから。

 しかし、マインの予想は外れる。

 セリューは、弾がなくなっても直接殴りかかってきたのである。

「貴様は、私が殴り殺さねば気がすまない!」

 木陰に隠れていたマインを殴り飛ばした。援軍など呼ばない、恩師の仇は自分の手で討つと息巻いたセリューをマインは予測しきれなかったのだ。頬の激しい痛みに、マインは思い知らされる。

「正義は必ず勝つ!」

「寝言は地獄で行ってなさいな!」

 マインが、パンプキンを撃ちこむ。人体に当たれば殺傷するに十分な威力だが、セリューのトンファー捌きの前ではまるで意味がない。それでもやらないよりはマシだった。

 しかし、セリューは避けない。

 トンファーを持っていた右手で受け止める。精神エネルギー弾が着弾した右ひじから先にかけて、跡形もなく吹き飛んだ。想定以上のダメージに、撃ったマインが驚愕する。四肢欠損するほどまで威力が上がってないはず、とマインは思った。

 そして次の瞬間、答えを見る。

 二の腕から単発式仕込み銃が出てきたのである。おそらく人体改造して、腕を取り外し可能にしていたのだろう。腕が取れたのではなく、自ら切り離したと言った方が正しかった。

「正・義・執・行ッ!」

 セリューは、銃撃した。マインは左手を撃ちぬかれ、予想をはるかに上回る威力によって身体は後ろへと吹き飛ばされた。狙撃手にとって命の次に大事な腕を、撃たれてしまったのだ。

「よし―――着弾確認ッ! 待ってろ! いま正義を完遂して……や―――」

 倒れるマインを追撃しようとしたところで、悲鳴が上がる。

 セリューやマインのモノではない。獣の悲痛な叫びであった。セリューにとっては聞き憶えのある声だった。

 そして、セリューは目撃する。

 ――エクスタスによって、地面に張り付けられたコロの姿である。第二形態の腕の状態まで回復していたコロが、動けないでいた。そして、エクスタスを踏みつけることでなんとか押さえつけるシェーレの姿があった。

 ――しまった、バレてしまった。

 再生して目覚めたコロは、暴れだしたのである。

「……コロ!」

 セリューの顔は一瞬だけ焦りを浮かべたあと、歪に微笑んだ。

「コロ! 『吠えろ』ッ!」

 セリューの命令で、口が開く。

 手も足も出ないこの状況において、大音響が飛び出した。音の壁は大気を震わせ、馬乗りになっていたシェーレは紙のように吹き飛ぶ。支えがなくなったエクスタスは、コロの剛腕によって無理やり引き抜かれたのだった。

 エクスタスの磔から解放されるコロ。

 そしてシェーレにはもう武器がない。

 

「そのまま喰らい付けェエエエエ―――ッ!」

 セリューは、生涯最後の命令を下したのだった。

 




次回、主従関係を斬る!
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