すいません、『エクスタスの裏ワザ』を解禁します。 作:原作改編
決着は、いつだって一瞬だ。
コロが第二形態でシェーレに襲い掛かる。人間を丸呑みにする大きな口が満足に動けないシェーレを捕食するために開かれた。あと一歩、帝具ヘカトンケイルの跳躍によってセリューの命令通りに喰らい付くだろう。
しかし、コロは気付いてしまう。
コロはセリューの方から飛んでくる『殺意』、それは自分ではなく主に向けられたモノなのだと野生の本能が告げていた。コロは一秒に満たない時間の中で、殺意の『正体』を見つける。
茂みに隠れたマインが、銃口を向けていた。
左手を撃たれながらもパンプキンの銃口を両足で挟むことで標準を合わせている。そして銃口からあふれる精神エネルギーの迸りはコロが受けたものよりも鋭く、強烈なのがよくわかった。
セリューはまだ、気づいていない。
コロがシェーレを捕食する様を目に焼き付けようとこちらを凝視している。いつ放たれてもおかしくはないほどに高まったパンプキンの輝きを見て、帝具ヘカトンケイルはいてもたってもいられなかった。
コロは吠える。そして主の下へと方向転換した。
目の前にいる瀕死の敵を見逃し、主の敵へと果敢に飛びかかる。
マインは、冷静だった。
突如、方向を変えて迫りくる凶悪な帝具、外せば次はなく、正真正銘最後の攻撃になるだろう。援護はなく、シェーレの命が乗っている重たい重たいトリガーである。
しかし、だからこそ『パンプキン』は真価を発揮する。
「いっけェえええええ―――――ッ!」
放たれる、一筋の光線。これまでの中で一番強い輝き。
コロの腹部を、やすやすと貫いた。
決死の一撃はコロを貫通し、さらに後ろにいるセリューの『単発式仕込み銃』を抉っていく。そして雑木林に丸い爪痕を残して決着を迎えた。
精神エネルギーは『ヘカトンケイルの核』を見事に射抜いていた。しかしこれにマインは首をかしげる、なぜなら自分が求めた結果とは違うからだ。
マインは確かにセリューの頭を狙った。コロが迫っていようと関係ない。使い手を葬ればいう事を聞かなくなるのだから構う必要がないからだ。だが、結果としてセリューの頭を撃ちぬくことができなかったのだ。
答えは、コロ自身にあった。
主を守るため、わざとエネルギー弾を『核』で防いだ。
コロは自らがもっとも硬いと信頼する『核』で受け止め、必殺だったはずの光線をわずかばかりに逸らすことができたのだ。すべては主を守るための決死の献身だった。
そんなことを知るのは、飼い主のセリューだけだった。
第一形態に戻ったコロを、抱き寄せる。
「……コロ、もう治せないんだね。ワタシを、庇ったりするから……」
もう間もなく死ぬ。それでもコロは、賊に対する威嚇を止めなかった。子を守る親のような、必死のうねりが後ろ手にいるマイン達へと向けられる。
マインは、パンプキンの引き金を引く。
しかし、むなしくトリガーを引く音だけが響き、光線が出ることはなかった。
「ダメ、やっぱり弾が出ないわ」
パンプキンは『無抵抗な相手にトドメを刺せない帝具』だった。目の前にただ撃つだけで絶命する標的に対してなんのピンチも感じないからだ。危機的状況において圧倒的な火力を誇るパンプキンの唯一無二の弱点である。
「シェーレ、あとは任せたわ」
「……」
回収したエクスタスを握る。もう充分に振るう事はできないけど、首を刎ねることぐらいはできる。目の前にいる儚い存在を摘み取ることなど容易だった。
シェーレは標的を見て、思ってしまう。
涙を流すセリュー。そして、死にかけのコロ。
それが、落ち込むタツミと慰めるシェーレ自身を見ているような気持ちになった。
結局、セリューにエクスタスが振るわれることはなかった。
「……もう、行きましょうマイン」
「は? 正気!? こいつには顔を見られてんのよ!?」
「時間がかかり過ぎました。それに、私はどうしても、今の彼女に手を出したくありません」
「……甘いわね」
「すいません」
「まぁ、らしいっちゃらしいけど」
マイン達は踵を返す。あれだけ大音響や閃光、そして破壊を繰り返していたのだから、急いでこの場を離れないと援軍が来てしまうだろう。帝具ヘカトンケイルを失った彼女にはもう気にも留めない。
そして、それこそ間違いだった。
二人が走り去ろうとすると同時に、セリューがゆっくり立ち上がる。
先ほどまで浮かべていた涙もない、歪み切った顔は明確な殺意を表わしていた。そして口から出てくるのはライフルの銃口である。相手の意表を突き、遠くの敵も狙撃できる奥の手だった。
セリューは、マインの背中に目がけて宣言した。
「正・義・執・行ッ!」
そしてパァン、と渇いた銃声が響く。
撃ちだされた小指程度の殺意の塊は―――硬いなにかに阻まれた。
シェーレのエクスタス。防御にも使えるほど頑丈な帝具が、マインの背中を守ったである。そして防がれた銃弾は、そのまま狙撃手の方へと打ち返されたのだった。
「―ーーえ?」
セリューの額に命中する。
絶対正義の断末魔は、実に情けないものだった。遺言もなく、ただ自らの正義のために殉職した。セリューは糸の切れた人形のように仰向けに倒れ込む。
息絶えたコロに寄り添う形で、この世から去った。
それを遠目で、シェーレは看取った。
こうして、帝都警備隊セリューユビキタスを撃破した。
絶対正義を自称する彼女は、自分の悪意によって殺されたのだった。
「ナイス、シェーレ」
「……はい」
シェーレは勝ったのに、すこし後味の悪さを感じていた。
最終話 仲間を斬る!