和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
第一話:転生だー!
和風な物語が好きだった。
日本独自のファンタジーから生まれる優雅さや畏れ。
妖怪、あやかし、物の怪……そして怪異に八百万の神々。それらが織りなす不思議で、懐かしくて、怖いようなそんな噺が大好きだった。
幼い頃からそういうものに惹かれて、好んで読んで、熱中して楽しんで……そんな日々が続くと思っていた。
たとえ死んでも、その果てで魂が消えてでも、忘れないと――きっと来世があるのなら、その時も楽しむんだって……そう、思ってたんだ。それこそ、転生でもしたら和風な世界がいいなぁぐらいには。
「流石に確定で死ぬキャラに転生は違うじゃん!? クソがァ!」
拝啓、前世の両親へ俺は多分死にました。
そして、今世の両親へ俺はこの先で死ぬます……。
和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?
ある日の事、気付けば五歳ぐらいの少年になっていた。
そりゃあ最初は混乱したし、まじで何が起こっていたか分からなかったけど……この世界で生きていた記憶と、元の世界の記憶のおかげか、一応だけど転生という事象という事だけは分かって。
自分がその世界の主人公の親友となる運命を持っていることと、何より物語の終盤で主人公を庇って死ぬという未来を知って絶望したのがさっき。
訳あって幼稚園等には通っていない今世。
両親は仕事でいない中、庭で遊んでたときに戻った記憶。
あまりの情報量というか、前世の自分の十数年分の記録を戻されたせいで気分悪いし、この世界の事を知ってしまってもっと最悪で……なんというか意気消沈中の現在。
「えぇ、数ある和風漫画からこの世界とかないわぁ」
自分は生粋の和風漫画好きのオタクだった。
それ故に沢山の話は読んでいるし、もしも転生したら……みたいな妄想は一度はしてみたことはある。
だけど、よりによって読んだ中でも一番過酷で人の心どこに置いてきた? みたいなこの「あやかしがたり」の世界だけはマジでない。
はぁ、無理無理、今時転生とか流行らないからドッキリってことにしよう?
だってあれだから? まじで転生とか有り得ないって、ほら今の流行はVRMMOとかラブコメとかで……そんな漫画の世界に転生なんて夢ってことで……。
「……ないよなぁ、なんか五感あるし……なんなら今までの三歳児からの記憶があるし……顔、違うし」
チラリと見えた水面に映るのは、自認最悪だけど黒髪の美ショタ。
将来絶対イケメンになるんだろうなぁ……的な蒼い瞳の子供がこっちを見てる。
というか……これが俺なのを信じたくない。いやさ、わりと好きだったよ? このキャラというか、俺というか、親友枠の
てかさ男キャラの推しの一人だったんだけどさぁ……主人公君庇って死ぬし、それなきゃ主人公君死んでるから、原作というかこの世界の運命的に俺死ぬんだよなぁ。
俺が蓮君かぁ……キャラ違くて笑えてくるな。
だって少なくとも一応クール系だったし、この子。実質幼女とか依木君とかも呼ばれてたけど、基本はクール系男子(笑)みたいな感じだったし、俺が再現できる気はしない。
「そっかぁ転生かぁ、はぁ……」
望んだことも、妄想したこともある。
だけど、ほんとにここはないわぁと……心底思ったのが、転生した初日のことだった。
◆
『あやかしがたり』
陰陽師と妖怪の戦いを目撃した正義感溢れる青年が、この世界の悲劇を覆し続けて人と妖怪を救う物語。
それが俺が好んで読んでいた和風系の漫画で最も残酷で人の心がなくて……何よりも大好きだった漫画である。掲載場所は月刊誌、40~50ページの大ボリュームで描かれる青年漫画であり、掲載期間は日本中の読者を喜ばせ、楽しませ、何より絶望を与えていたことは記憶に新しい。
超王道な和風の物語な上に、日本のファンタジー文化に外国のファンタジー要素を上手く混ぜ読者を飽きさせなかった個人的に最高で最悪な漫画。
厨二病全盛期に沼に落ちたせいで、人生で読んだ和風漫画の中で一番好きではあるが……だからといって転生したやったーとなるメンタルなんて持ち合わせてない。
理由は幾つかあるが、まずこの世界では一般人の命は軽いし、何より俺が生まれた陰陽師の家系の死亡率なんて笑えないくらいにやばい。
というか俺の今世の両親も原作時点じゃ全然死んでる。
故に天涯孤独になるのも知ってるし、主人公君が俺を救うまで心を閉ざす的な展開も……というか俺はこの世界の最終回まで見守った読者なのだ、この先起きる悲劇も喜劇も、全部主人公君の視点で他にも他のキャラの視点で知ってしまっている。
「はぁ、つらいなほんと」
これがさ……正義感の溢れる奴が蓮に転生したとかならよかったんだろう。
でも、俺はただの一般人だ。
使命感も責任感もないし、覆すなんて気概持てるわけがない――だって死にたくないから。
誰だって持つ感情だろう、生きてるからには死にたくない。
「蓮ー帰ってきたよー。あれ……いないのかい?」
色々考えながら自室で休んでいると……そんな今世での父親の声が聞こえた。
優しい声音だ。この体で何度も体験している両親が帰ってきたのを迎えるということ。今までの俺は妖怪達を倒して帰ってくる二人を一人で待って、帰ってくると迎えていた。
「ごめん……勉強してた」
「謝る必要ないだろ? 偉いじゃないか!」
「いつも遅くてごめんね蓮。でも暫く仕事がないから、明日からは術の練習付き合えるよ」
二人の仕事は妖怪退治。
それもかなり強い者ばっかりを任せれるくらいの実力者で、基本的に休みはない。
そんな二人を待つのが当たり前で、なんなら帰ってこない日もあるのを知っている。だって、それは俺がずっと経験してきたことだから。
優しい人なのを知っている。
俺を大切に育ててくれるのを前世の知識で嫌というほどに理解してしまった。
あぁなんで……転生というのなら、前の記憶を消してくれなかったんだろうか、戻ったタイミングがここなのだろうか? もしもこの世界に転生させた者がいるのなら、俺はきっと恨むだろう。
なんで、俺なんかを転生させたんだ。
なんで、知識を残したんだって。
知らなければ楽だった。思い出さなければよかったと、そう思う。
混ざった記憶に知ってしまった先の事。何をすればなんて思えるわけがなくて、どこまでも自分勝手な、臆病で死にたくないと思ってしまう俺は。
「…………ほんと、最悪」
そんな言葉しか、今は残せなくて。
あぁ、神様。
この世界の神なんてろくな者がいないのは知ってるけどさ……どうか、平和な日々が続くと願ってもいいですか?