和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第14話:とおりゃんせ

 体が貫かれていた。

 黒い蜘蛛の足……鋭利なそれは、俺の脇腹に深々と突き刺さったあと俺の血で染まり鈍く光っている。

 

「逸らしたんだすごいねー」

 

 余裕を持ったその態度、同い年ぐらいの少女の顔で嗤うそいつに殺意を覚える。

 油断――いや、違う。

 こんな場所で、誰かが死んでいたこの場所で一人でも生きていてほしいと願ってしまったのが悪い。甘い考え、この世界では捨てるべきそれを持っていた俺が。

 だけど、脳がバグる。だっていまだ発動していた妖力感知の反応を見るにこの子は人間のはずだから。

 

「おい……お前、それ人間の体……だろ」

「そうだよー? 私が憑依してるのー! だから騙せたんだすごいでしょ!」

 

 ――そういう事が出来る妖怪がいるのは知っている。

 だけど、最初の敵がそうとは思わない。狭く暗い洞窟の中、相対するのは多分蜘蛛の親玉。背中から伸びている足が本体の一部だろうが――。

 

「生きてるのか、その子は?」

「そうだね、生きてはいるかな? 私が操ってるから、もうすぐ死ぬけど」

「そっか、ならいい」

「なにが? 貴方も死ぬんだよ?」

「いや、祓えば勝ちだろ」

 

 意識を切り替える。

 ……嘘かもしれないが、こんな優位な状況で嘘をつく意味も人間相手を騙そうとする意味を持たない妖怪の言葉だ。この状況で言っても意味ないがずっと読者として追ってきたから、おおよその性格は分かる。

 

「生意気、むかつくからお人形にしてあげない」

「ぬかせよ……くそ妖怪が」

 

 自己治癒を試みる。

 木の術を使い体をつなぎ、出血を何とか止める。

 相手は一人、ここに来るまでに相当な数の蜘蛛たちを祓ったから増援は多分ない。だから決めるなら今しかないだろう。

 

「暗月――焔纏い」

 

 炎を灯して自分を鼓舞する。まだ子供だと思って油断している相手に、一矢報いて祓うために。

 俺は全力で属性を起動して、意識を切り替えた。

 

「なに、その炎。すごいいや」

 

 言葉はもういらない。

 ……だから、命を懸けるだけだ。

 踏み込んで、一気に突撃する。迎撃するように足を背中から生やしたその妖怪、俺はそれをかわしてからカウンターとして炎を纏った暗月で切り裂いた。

 

「ッ熱い!」

 

 切り落とされた足はビクンとはねながらも、その場に転がり広がった炎に燃え尽きるまで焼かれ炭となる。

 術だけを焼くこの炎、親から受け継いだそれは魔の存在である妖怪にも特攻を持っている。それこそ、憑いている妖怪を焼くほどに。

 斬撃は入れてはいけない、だから直接相手に炎を叩きこむ必要があるだろう。

 

「ちか、づかないで!」

 

 先ほどと同じように足を延ばしたその攻撃、手からも糸を出し俺を拘束しようとしてくるが、炎を扱える俺には悪手だ。糸を焼き切り、足を裂き――そのまま懐に潜って――。

 

「やめて、お兄さん!」

 

 その瞬間のこと、声が変わって残っていた蜘蛛の足が消えた。

 やられないように憑依を解いた? いや、違うまだ気配は外に出てない。だから、ここで決める。

 

「もう騙されねぇよ!」

「チッくそが!」

 

 そうして俺は心の中で謝ってから空いた手で拳を叩きこみ……そのまま炎を直接ぶつける。人間には害がなく術や妖怪だけを燃やすそれは、確実に中の化け物を燃やし始めたのだが――。

 

「なん――だ、これ」

 

 急に視界がぐらついた……吐き気に頭痛、それに眩暈。

 ありとあらゆる不調が俺を襲い、術の持続を阻んでくる。

 ……遅効性の毒か、これ。

 理解するのも束の間、一瞬の隙が生まれてしまう。術が綻んだその刹那、俺の体に何かの影が入り込む。

 

「貴方を乗っ取れば、もっと強くなれるよね!」

 

 その声を最後に俺の意識は暗転し、毒に浸食されながらも地面に体を強くぶつけて意識を失ってしまった。

 

――――――

――――

――

 

「わたしってば天才、毒仕込んでよかったー」

 

 忌々しい子供の陰陽師に体を焼かれたけど、侵入した体の素質に驚いてしまう。こんな優良物件が釣れるなんて思ってなかったし、それに乗り移れるなんてことも。

 今私がいるのは巨大な湖の一角、人間なんかの魂にしては広すぎるそれの中。これに巣を張り掌握したらどうなるんだろうと頬が緩む。

 想像するだけで見えてくる強者への進化の予感、大蜘蛛の反応は消えたけどこれならおつりどころじゃない。

 

「えへへ、恨めしいけど感謝だよ――にしても広いなーここ」

 

 空気も私好みで死の気配が満ちるこの場所。

 少し疑問が残るけど、住みやすいに越したことはないだろう。だから、私は巣を張ろうと魂の中心部に向かってみたんだけど。

 

「……なんで人間の体に瘴気が?」

 

 感じるのは、私なんかじゃ比べ物にならないほどの魔の気配。

 重く、濃く、深く、おどろおどろしくて、気持ちが悪くて、見られてるだけで意識を失いそうな、そんな闇の気配。

 夜に満ちていたこの場所で空を見上げれば、そこにあったのは黒い太陽。

 

「なに、これ……?」

 

 動けない、いや違う。

 動けないじゃない、本能が、理性が動くことを拒否している。

 命を守るための防衛本能、どこまでも襲う死の予感に、私の体が凍り付いているだけだ。

 

「とおりゃんせ、とおりゃんせ……こーこはどーこの細道じゃ」

 

 歌が聞こえた。

 ……この世界に古くから伝わる、人間の童歌。

 どこから聞こえるかわからないそれが、耳に入ったとたんに私は吐血した。呪言、いや声の主はただ歌ってるだけだろうが、あまりの存在感から呪いになってるだけ。

 耳をふさぎたいのに、ふさげない。空の瞳が私を見てて動くことを禁じてる。

 

「私と彼の細道じゃ、一人も帰してあげませぬ」

 

 そう締めくくったとたんに、視界の先に何かを見た。

 鎖に繋がれた、純白で透明な、神の姿を見てしまった。背に浮かぶのは無数の瞳と死者の群れ。その少女が纏う何かが私の足元にまで伸びてくる。

 

「ねぇ、なんで……ここにいるの?」

「かえるから、かえして」

 

 短い言葉で懇願する。

 だってそうしなければ生きられないから、でも返ってくるのはあまりにも無情な言葉で。何より、どんな寒さより冷たいもので。

 

「だめ、だよ?」

「――ひっ」

 

 その瞳に映っていたのは、闇だけだった。

 すべてを飲み込む深淵のような、深く暗い闇。

 気づけば目の前に少女がいた。鎖に繋がれているはずなのに軽快な動きで私の頬に手を添えて。

 

「あの人が誰かとかかわるのはいいの、それを見るのが好きだから、頑張るのが見てて綺麗だから。でもね、あの人を汚すすべては許せない。だってそれは私の役目だから、死と生の狭間で生きる運命の人、彼を染めるのは私だけなの」

 

 潰される壊される。

 私という存在が触られただけで塗りつぶされる。痛みすら感じる呪詛の塊、それは手から広がって私を黒く染めた。

 

「だから、ね。死んで? 大丈夫、魂は使ってあげるから」

「や、やだ。消さ……ないで」

「だから大丈夫だよ、死んでも魂が焼き消えるまで焼べる、から。ずっと苦しませて残してあげる。行きはよいよい、帰りは恐い……ほらね。うたのそのまま、だよ?」

 

 それが私が生きていた時に聞けた最後の言葉だった。

 足元から伸びる影が、化け物の、怪物の手から広がる闇が、私の存在をどこまでもかみ殺して。そのまま意識が途切れて消えた。

 

「ふふ、褒めて……くれる、かな?」

 

 




今日の更新終わり!
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