和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
屋敷から漂う少し甘いような香りが鼻に入り、ぼやけながらも目を覚ます。
いつもより長い時間横になっていたせいか少しい体が硬いけど、起き抜けに伸ばせば僅かにほぐれて、気持ちがいいような感じ。
「……ここ数日、暇だったなぁ」
数日と言っても二日。だけどこの二日間は、奏とかいう邪神が毎日遊びに来たせいで休んでいるのに心労が凄かった。ほんと、何をミスったんだろうなぁ。
ゲームでいうところのチャートなんて一切組んでいないけど、ミスったというか全部無茶苦茶になった感が否めないというか。
本が詰まれた見慣れた四角い部屋の四隅には相変わらずの高そうな字図符。
ここ数日に宵闇家の召使の人たちが張り替えてくれたのを見ていたが、これ後で請求されるとかないよな?
……やめよう、変なこと考えても仕方ない。というか考えたら怖い、というか困る。ただでさえ心が休まってないのに、無駄なこと考えても意味がないわ。
「えっと、出ていいのこれ?」
治ったとはいえ字図符の効果が残っている以上は出ない方が。とかちょっと悩んで数分。まぁいっかと思って部屋から出ようとした瞬間のこと、急に目の前に人が落ちてきた。いや違う、なんか逆さづりで――めっちゃイケメンの黒髪男性が……。
「おはようだ史郎のガキィ! 治ったようでよかったぞぉ!」
「うわちょ――急に何!?」
「ふははは回復ドッキリだ、びっくりしたか!」
うん、びっくりした。
だけど口に出すのが癪だから黙る。
いやまじで、心底驚いたし心臓バックバックしてるけど、絶対驚いたとか言わないぞ俺。それは負けた気がするし、何より――なんだろう、感情追いつかない。
「……死んだか?」
「生きてます」
天井に器用にぶら下がりながらも、これまた器用にツンツンと俺の顔を刺す大人。彼からのめっちゃひどい言い草に、なんとか言葉を返す。
「そりゃあそうだろうな俺の符で直したんだからな」
「え、あれ源弥さんが作ったんですか?」
「そうだぞ?」
――和風漫画の常識だが、回復の札は高い。
まず作れる者が限られるということもあるが、量産するのにはかなりの霊力がかかる。それにそれを簡易的に使える物にするだけでも練度が必要。
まぁ、それに関してはこの人なら問題ないんだけど。一番重要なのが、この世界で最上級クラスの実力者が作った札ということ。
あ、そりゃ効果高いわ。
あの傷空に直してもらったとはいえ、めっちゃ治るの早かったもん。納得ぅ! ごめん父さん、変な難癖付けられるかも。
「そのわざわざありがとうございます」
「気にするな。というより、これは詫びだ」
「詫びって……源弥さんなんかしましたっけ?」
「いや俺が何かをしたわけではないが、任務でお前が怪我しただろう? 明らかに俺の発注ミスだ」
この人、そういう事気にするんだ。
なんか意外だな。
今世話になってる宵闇家当主の意外な一面というか、原作でもこういう姿はあまり見たことなかったから少し不思議。慣れないとまでは言えないけど、本当にびっくりする。
「なんだその顔、鎌鼬の尾でも踏んだか?」
「いやそれはめっちゃ怪我しますって」
「じゃあなんだ?」
「いやその意外だなぁって」
「ふっ納得したお前はやはり史郎のガキだな」
「え、何納得されたんですか今?」
ニヒルな顔で、それこそ合点がいったといった様な表情で彼はそう言い切った。
今のこの短いやり取りで何がわかったかなんて理解するのは無理だけど、妙にむかつくというか、もっとなんかなかった? 感がすごい。
「ぶっちゃけ癖があいつのまんまだ」
「えぇ……」
「いや俺が言うのもなんだが、もっと敬うだろ宵闇家の事」
「だってそうしたら雫キレるので」
「……変な慣れだな、それは」
どうしよう、なんかさっきとは打って変わってめっちゃ微妙な顔をされた。
思ったよりこの人も面白いなぁとか思いながらも、俺は今さらながらにここに来た用事を聞くことにした。
「あの、それでなんで来たんです?」
「そりゃあ完治したかの確認と、修行を付けるためだな」
「……ありがたいですけど急ですね」
「詫びも兼ねてだからな!」
「そういう?」
「あぁ――それでなんだが、そろそろ降りていいか?」
「それは、ご自由に」
これは本当に今さらなこと。
この人、今の今までの会話の中でずっとぶら下がっていたからかちょっと顔色が悪い。というか当主ってこういう能力必要なのかな、俺も将来的には父さんの家を継ぐかもなので今からこういう芸仕込んだ方がいいか?
「気持ちが悪いぞ」
「……その、修行って何するんです?」
四角い間取りの狭い部屋。
敢えて突っ込まなかった俺は、話を進めることにして彼に何をするかを聞く。
今までは独学というか、この屋敷にある五行の参考書を渡されるだけだったからだし、直接的な指導は依木関係だけだったからの疑問。
「自分でいうのもあれですけど、俺の属性って扱いにくくないですか?」
「まぁ、そうだな。
「……え?」
どういうことだろうと、本気で思った。
流石の俺も陰陽道のすべてを把握してるわけではないので、今の言葉の意味が解らない。一応母さんから聞いたことはあるが、あの人感覚派だからいつもかみ砕いて何とかしてたぐらいだし。
「……一応だが、相生と相克については分かるか?」
「なんとなく?」
思い出しながらもそう答える。
確か俺が覚えている範囲だとその二つは相性というか、じゃんけんというか、そんな感じだった気がするから。
「まぁ、簡単に説明するか。相生というのは助け合いの関係だ。五芒星があるだろう? あれの並びは木・火・土・金・水というのが基本だがなんでかは分かるか?」
「教えてくれると助かります」
「お前は本当にあの二人の子供だな。まぁいいぞ、あれはな右から順に次の属性を高めることができ助けることができるからこその並びだ」
真面目に聞くために正座をする。
意味はないかもしれないが、形から入るのは大事だし何よりもすごくわかりやすいから。
「それで改めてだが五行の流れは木が燃えて火になり、火が燃え尽きて土をつくり、土から金が生まれ、金が冷えて水を生み、水が木を育てるという関係となっている」
「あぁー確かに、自然の流れですね」
「そうだろう? そしてそれが循環するからこそのあの並びだ。この世界はその流れが繰り返されているからという考えからの物だな」
「へぇーじゃあ、相克の関係は言葉的に抑え合うみたいな感じですか?」
日本の考えとして漢字、あるいは言葉には意味がある。
陰陽師にとって言葉あるいは字、そして図形にはすべてに意味が込められており、そこから考えるに「克」という文字が使われている以上そういう意味があるはずだ。
「おっ賢いな。それであってはいるが一応の捕捉だ。相克の順番は基本的にだが木・土・水・火・金となる。これは相反する属性であり、その属性を抑えれる力だな」
今までのを踏まえて、なんとか自分で考える。
さっきの説明を元にして、源弥さんが言ってくれた抑える相反するという言葉。それを考えると、相克というのは木は土を抑え。土は水を吸い、水は火を消し、火は金を溶かし、金あるいは道具は木を切るという関係になるのか?
「まぁ、ややこしいが……相生は術の補助として、相克は相手の術へのじゃんけんだと思えばいいぞ。関係がない術同士ならばより練度が高い方が勝つと覚えればいい」
「その、すごい分かりやすかったです。ありがとうございます」
「そこまで畏まるな、お前にそう言われるのはなぜか慣れん」
「あの、本当に助かったんで今だけご容赦を」
それを伝えればなんか頭をわしゃわしゃと撫でてきてそれから彼は立ち上がった。急な謎の行動に戸惑っていると、立てと促してきてそれからか彼はこう続ける。
「そうだ、あと伝え忘れていたがお前が助けた奴もこの屋敷にいるぞ」
「え、あの子無事だったんですか!?」
「あぁ、お前が助けたんだろう?」
「まぁ、一応?」
「そうか。それなら、会ってくれ感謝を伝えたいと言っていたからな」
「……え?」