和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第19話:式神契約

 情報量にフリーズする脳みそ。

 無駄に華やかというか壺や掛け軸があるこの客間で、完全に固まった俺を目の前の少女……黄泉坂イザナが見て笑っている。

 

 頭の中をめぐりどうしてこうなったという文字。

 ……冷静になろうにも、考えれば考えるほどに頭痛がしてくるこの現状に心底胃が痛かった。俺の体って五歳だよな? 胃痛を味わうような年齢ではないはずなのに、なんでこんな目に。

 

「……なにか、ありましたか?」

「いーやぁ? なんでもない、です」

 

 流石に露骨かもしれないけれど、今の俺は冷静ではない。

 というか冷静になってくれと頼まれても無理、ほんまにまじで。

 俺の中にある原作知識が頭痛を加速させ、あり得ないくらいの心労に胸がキュッとする。悟られる心配などはないだろうが、流石にちょっとキャパ―オーバーです。

 

「それでなんですが、本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「え、あ……え? 本題ってさっきのでは?」

「いいえ、私としてはここからが本題なんです」

 

 何を言うつもりなのだろうか? 敵キャラの中ではまともというか過去が過去のせいか敵落ちしたという背景のイザナ。常識人というか、少し抜けてるだけでねじはぶっ飛んでない彼女だし、そこまでのことはいはないだろうが、身構えてしまう。

 ごくり……と喉が鳴る。

 変な緊張からか額に汗が浮かぶのがわかるし、何より顔を逸らしてくれないせいで端正な顔とずっと目が合って気まずい。

 

「私をあなたの式神にしてくれませんか?」

「ごめん、日本語でお願い」

「……日本語ですけど」

「あぁそうじゃなくて、俺が理解できる日本語でお願いしてもいい?」

「……? まだ式神について習ってない? なら単純に。どうか私をあなたの物に、道具にしてくれませんか?」

 

 すげぇやもっとわからなくなった!

 なにこれぇ日本語ってこんなに恐ろしいものだっけ? え、何その頼みは。

 軽い頼みとか重い頼みとか……頼みやお願いってのには分類があると思ってたんだけどさ、これその次元じゃなくてやばい頼みだぞ?

 いやまだわんちゃんある。

 多分黄泉坂家流の爆笑ジョークなのかもしれないから、ほら本人は至って真面目に何より一切視線をそらさずに素面で言ってるっぽいけど、きっと冗談で。

 

「なに、ゆえ?」

「貴方になら使われていいと思ったから、ですかね?」

「そっか、そっかぁ……」

 

 どうしよう冗談じゃなさそう。

 背景は分かるよ? だって、知ってるから。それに彼女は自分を拾ってくれた恩人である女性の道具としての生き方しか知らないという文言が漫画にはあったからだ。

 でも、それをこっちに向けるのは話が別で……そういえば、なんかさっきから胸が痛いし、魂に痛みが響いている気もしなくもないが今はこの状況を切り抜けなきゃいけない。

 

「えっと、源弥さん?」

「あ、俺はちょっと雫の様子見てくるわ。頑張れよ、いや……まじで」

 

 別居してる嫁みてぇとか零しながらも消えていく情けない大人。

 明らかに精神年齢がおかしい少女の吐露に、逃げ出しやがったあの人は本当にあとで殴る。家の立場とか直してくれた恩とか、父さんの幼馴染だとか関係ない。

 ただ純粋に一発殴らせてほしい。

 

「では邪魔者も消えましたし、私の身の上から」

「なんで自然な流れで紹介しようと思ったんだよ」

「……はて、やはり知ってもらわなければ道具になるもならないもないでしょう?」

「変なところで天然かまさないでくれ?」

 

 てん、ねん? といった風に、心当たりがないからか首をかしげるこの少女。あ、素なんだこれーすごいめっちゃ見覚えあるとか思いながらも、俺はなんとか軌道修正を試みようとする。一応口調を戻して、なんとか刺激しないように

 

「道具になるなんて言わないでください。ほぼ初対面ですし、もっと自分を大切に」

「ですが、私には返せるものが何もないのです。すべてを失い捨てられた私は、この身をささげるしか手段を知りません」

 

 あーほんと、この世界はクソである。

 俺は彼女の背景を知っている。綺麗にその姿が描かれたから、何より「あやかしがたり」を語るうえで彼女という最初のボスは避けて通れないから。

 彼女は、この世界の被害者だ。

 

 魔を喰らい力を奪うという特異な家の血を引いたとある一族の末裔。最後の一人であり、その力を利用され幼少のころからずっと一人で戦ってきたという過去を持つ。

 村のため、平和のため、誰とも知らない他者のため。

 強いからという理由で酷使され続けたそんな少女……化け物だと罵られ、怪物だと蔑まれ、ずっと孤独だった子供。

 

 人間としては妖怪に近く、妖怪ではない半端物……と自分を乏しめたそんな子は、自分を駒として使っていた人間に裏切られて妖怪の贄にされた。それが彼女の過去であり、俺が知ってること。だからこそ、今彼女から漏れた言葉は重く……何よりも下手に触れてはいけない傷……なんだけどさ、ほんとむかつく。

 そんな環境に彼女がいたことが、それしか知らない彼女に――何よりそれを知ってたはずなのに最低な言葉をかけた俺自身に。

 

「お願いです、貴方様。私を使ってください。ではなければどう生きればいいか分からないのです」

 

 あぁ、最低だ。こんな生き方しか教えてなかった全てにムカつく。もう知らねぇよ、重いとかいい。敵対するキャラだとか、ずっと不安だったこの先の未来とか、今だけ全部投げ捨てさせろ。

 

「はぁマジで一度しか言わないからな。俺は今のあんたなんかいらない、生きてほしいから助けたのにそんな事を言われるのはムカつく。だけどな、何よりもイザナに今までかかわってきた全てが許せないから、今回だけのお試し期間だ。物とか道具とか考えずに、俺と暫く過ごせ」

「なにを――言ってるのですか?」

「だからお試し期間だ。俺がお前の生きる意味を見つけてやるから、それ見つけるまでは一緒にいろ。見つけたのなら俺が死ぬほど頭下げてでも源弥さんに手伝わせる」

 

 こんな修羅場に俺を放置したんだ。

 もうめっちゃムカつくから、巻き込んでやる。

 もうしーらね、なんか空の気配をすごい感じるけどもう知らん。ぜってぇ今の言葉完遂してやる――とそこまで格好つけたのはいいけれど、言葉が荒かったし、何より無意識に彼女の手を取っていた。

 

 我ながら何やってんの? 

 と思ったが、もう後の祭り。男性耐性がない彼女は、そのまま顔を真っ赤にして、何よりさっきまでの態度が全部崩れて慌て始める。

 

「あの、あの……貴方は何を言ってるのか理解してるんですか?」

「そりゃあ? 男に二言はないぞ、というかこれでなしーとかなったら父さんがめっちゃ馬鹿にしてくるから撤回しない」

「……それは、その――あのぉ、きゅう」

 

 なんかのぼせたように倒れるイザナ。 

 え、なにこれ……とか思ったのも束の間。部屋の外から感じるのは莫大な殺気。なにごと? と思う暇もなく、なんかあふれる影の波。

 

「――ねぇ、蓮。私は今凄く冷静さを欠いているの。説明できるかしら?」

「ちょっま――なんだ急に、え? あの雫様? 過去一怖いんですけど」

「ふふ、あはは。こんな気持ちは初めてね、私……貴方の事を殺したいわ」

 

 犯人が分かったのはいいが、なんで怒ってるか一切わからないままに俺は――イザナを抱えて逃げ出した。

 

 

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