和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
憑依? ……いや、転生してしまって翌日のこと。
両親が目覚めていない、午前五時頃に目が覚めた俺は家の敷地内にある訓練場に足を運んでいた。
「こうして見ると広いな」
今までは当たり前に使っていたこの場所。
別の世界の記憶が戻り、無理矢理成長した感性的にここはかなり広くて、少し新鮮なようないつもと同じ場所なのに違うような感覚を覚えてしまう。
「ひとまず、いつも通りに」
この「あやかしがたり」の世界にある基本的な陰陽術は魂に宿る五行の属性や起源とやらを元に使うことができる。
一般的な陰陽師は陰陽五行の木・火・土・金・水のどれか一つの属性を扱うことが出来て、それに自らの起源を乗せて術を高めるとかだったが……。
「うん……やっぱりスペック凄いな、蓮って」
術を練って、木を生やしそれに土を纏わせて金属に変化させる。
金属に変わったそれを燃やして溶かし、水で消化すれば一通りの確認が終わった。
主人公の親友枠、それにライバルも兼任しているこいつは俗に言う天才キャラでもある。その一つとして属性に関する才能がやばくて、五つの属性を使うことが出来るのだ。
「ほんとなんだこのチート……流石は天才」
当たり前に使える五つの属性。
それを研鑽すればどの属性も極められるほどの才を持つ此奴は、本当に反則だ。それに本質は別にあるし、まじでスペックだけでもイカれてる。
「いや、ほんとすごいな今までの俺……よく出来るわマジで」
自分に言うべき評価なのか分からないが、よく五歳という歳でここまで術を使えるまで練習したと思う。今までの俺の記憶はあるが、意識的には転生した方の人格が先行しているから、ちょっと変だけど……明確に別人なのだ。
ずっと俺……というか蓮は、親に認められるために、何よりそんな二人に誇れるようにと、研鑽を続けていた。
それを奪ったような罪悪感というか、言い表せないような違和感がずっと離れないけれど……蓮として生きていたのは事実だから余計に気持ちが悪い。
「……とりあえず父さん達が起きるまでに一通り確認しとこ」
自らの魂に意識を集中して、そこから霊力を引き出していく。
意識して巡らせる……そんな慣れ親しんだ反復作業、五行を循環させより高度に、何より高い出力で――と。
そうやっていつも通りの筈の練習をしていたときだった。
俺の中にナニカが、それこそ今まで感じることが出来なかった別の属性を覚えたのだ。普段使う五行とは別の、冷たい何か。
意識を向ければ止まらない、食い破るように自分の存在を示すように、それは俺の霊力を喰らいこの世界に事象となって顕現する。
「ッ――――まずっ!?」
暴走し全てを解放した霊力。
それが世界に示したのは、周り全てを凍らせるという現象で……俺が最後に見る事が出来た景色は銀世界に変貌する訓練場だった。
――――――
――――
――
意識が奈落に落ちていく。沈むように、溺れるように、どこまでも昏く寂しい水面に潜るようにして。
気付いたときには目が覚めていた。
目が覚めて最初に認識したのは、どこかも分からない月が浮かぶ湖。
「……何処だよここ」
いつもと自分の声が違った。
いやさ、違うというか、なんというか……聞きなじみにある声だけど俺じゃないというか。前世の――それこそ、蓮になる前の俺の声だった。
えぇ……とか思いながらも、前を見ればそこにあるのは石で出来た幾つもの灰色の鳥居。そこから奥には大きな社が構えられており、石造りの参道の下を見れば見たことのない魚のような生き物が沢山居る。
凄い透明度の湖だけど、反射で自分の顔は辛うじて見れる。
水面に映ってるのは黒髪黒目の俺の姿……十八歳ほどの青年で、見覚えのあるどこまで俺の筈の顔だった。
「……じゃあ、今までのは夢」
自分でそう言ったけど、なにか違うような感じがする。
とりあえず……嫌な予感というか、こんな場所知らないし本能的に居ちゃいけない気がしたので、俺は出口でも探そうとしたんだけど。
「なにも……ないな」
後ろを振り向いたら、そこには闇広がる森しかなくて……。
一応というか俺が覚えている限りこんな世界は知らない。
原作でもなかったはずだし、こんな穏やかで綺麗で……何故かいるだけで感傷に襲われる場所なんて一切記憶にない。
「いや……いや、あるわ」
どれだけ記憶を探っても見覚えのない景色……なのに感じるのは圧倒的な既視感。
気持ち悪さすら覚えるこの場所、そこでは何故か体の自由が効かなくて……いつの間にか石の鳥居の向こうへと足を進めようとしていた。
どくんどくんと脈打つ心臓、感じる数多くの視線に倦怠感。
風邪を引いた時……というより強く感じるのは拒否感。
この場所から離れたいというか、この場所そのものに対する拒絶の感情だろう。
ツッコみ所……と言えればいいが、あまりにも違和感がありすぎる。来た事が無いのに覚えがある場所、何故喋れて俺の姿でいるという現状。
穢れと言えばいいのだろうか? 空気全体が全て淀んでいて、息するだけで毒を吸っている感じ。
「待ってくれ……ここ知ってるぞ」
意味分からなすぎて色々記憶を探ってたが、その中で残っている原作知識に該当するシーンというかコマがあった。
それというのはとある女神の心情世界……いや彼女に作り替えられた常世とも言える咒禍の世界。
「いや、流石に無いだろ……まだ目を付けられるのには早いって」
思い出した瞬間に自由が戻ったので口に出して否定をするが、何故か本能で彼女がいるのを理解し、何よりここに来る前の直前の記憶が否定させてくれないのだ。
「あやかしがたり」は、現実世界をファンタジーに置き換えたような世界観。
特に陰陽道と日本神話をメインの軸としており、日本神話の概念はかなり多く使われている。そのせいか、この世界には妖怪とは別に様々な神が蔓延っている。
そして、俺がさっきから言っている彼女も社を持った神であり……この世界のラスボス候補とも言える少女。というか下手したらラスボスなんかよりもやばい存在。
とにかく鳥居の向こうに行くのだけは駄目だ。推しキャラの一人であるからこそ彼女の事は知っているが、下手な妖怪より何億倍かはヤバイあの子に気に入られるのだけは阻止しなければいけない。
「とりあえず縁が無かったって事で、帰らせてください」
一応問いかける。
この世界の主である彼女の機嫌を損ねるのだけはダメだが、相手はまだ俺の事を知らない筈だから。偶然って事もあるし、話は聞いてくれる彼女の事だきっと帰らせてくれる……と思いたい。
で、それが不味かったのかも知れない。
その瞬間周りから感じる視線が鋭くなり、鴉の鳴き声が響きだしたのだ。
「あ、ダメっぽい」
こうなった場合、交渉するしかなくないか?
帰るには彼女の許可が必要で彼女に会うには鳥居をくぐらなければいけない。
作為的なモノを感じるが、それは絶対条件なのでもう俺に残された選択肢は一つしか無いのだろう。
だから出来るのはその中で彼女に興味を持たれず気に入られないようにするだけ。
「……お邪魔します」