和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
あの日から約二日後、宮崎に向かう準備を整えてから俺と雫そしてイザナは車に乗せられて今は、高千穂に向かうことになっていた。
前の車両に源弥さんが一人乗り、その後ろを追従する俺達はこれから約十五時間のリムジンの旅を経験することになる。
車で移動と伝えられた時。え、新幹線とか使わないの? 飛行機は? とかは思ったが、今は原作十年前。つまりは2011年であり、一般人用の技術は発達しているが、陰陽師の移動を守れる結界術や防御術を搭載した乗り物がないから無理らしい。
妖怪というのは人を食べるモノが多い。
そして何より、狙われるのはより霊力や魂の強い子供が主。本当に優しくないよなとか思いつつも、仕方ないのは分かるので俺は長時間の移動を受け入いれた。
もしも二人みたいな霊力の塊が結界もなしに移動したら、それだけで妖怪ほいほいだし、めっちゃ危険。
そして認識されても不味いということ移動に使われるリムジンの室内は黒塗りの窓に閉ざされていて、外の景色も楽しむことができない……流石に退屈かなとは思ったが、乗ってから約一時間それはあまり気にならなかった――だって。
「やべぇ、初めて漫画みた」
なぜなら、このリムジンの中には……ほぼ漫画喫茶と変わらない量の漫画が詰め込まれていて、なんならドリンクバーがあるし移動型要塞みたい。
こんな至れり尽くせりでいいんだぁという感動を味わいながら俺は、あまり行儀良くないけど横になりながら漫画を読んでいた。
「……涙が出そう」
思えばこの世界での俺は修行に修行に……雫の従者(仮)生活がメインだった。
それに最近は二人との鍛錬も重なって娯楽という娯楽に触れてなかったのだ。
時代的にまだあまりサブカルが布教しておらず、俺がいた2025年あたりと比べればまだまだそこまで一般に受けてなかった時代が元になってるので、こんな最高環境を目にできるなんて思ってなかった。
「蓮、行儀悪いわよ」
「いやだって、めっちゃ面白いしくつろぎたい。だってあと半日以上あるだろ?」
「面白いの? その本」
「めっちゃ、すごい、たのしい」
「語彙が消し飛んでるわよ」
……だって、楽しいんだもん。
それに前世にはなかったような作品もあるし、なんかもうオタクとしては最高の環境。というか、ここまでの作品を用意できるなんて誰がやったんだろうか?
確かこのリムジンは前に一緒に任務に行き、今も運転してくれてる天治さんと仁さんの物らしいけど。
「……えっと天治さんこの漫画って貴方のですか?」
「違うっすよ? 全部仁君のっす。家にあるけど今日この日のためにとリムジンを改造してたんすよね、それで買いなおしてたっす」
「……仁さん、貴方が神か」
まじか、やっぱりツンデレだこの人。
なんかずっと印象が変わってる気がするけど、いい人ってことしかわからない。あの夜も俺が倒れた後でずっと回復してくれたのこの人って聞いたし頭上がらねぇ。
「俺は人だ。静かにしてくれてるからありがたいが、つまらないか」
「いえめっちゃ楽しいです。ありがとうございます」
「そうかならいい。スピンオフやアンソロジー作品もあるからな。うるさくない様に時間を潰していろ」
言葉選びだけ残念だけど、本当にいい人だなぁと。
そんな感想を抱きつつ、俺は横目でずっと黙っているイザナを見れば、そこにはちらちらと漫画を見つつも赤面するイザナの姿が。表紙は一瞬見れたが多分少女漫画。
感想は聞かないけど、熱心に読んでいるみたいだし邪魔しない方がよさそう。
「そんなにいいのかしら、これって」
「雫は小説ばかりだからな、まぁ面白いぞ」
それから約十四時間、百冊以上はある漫画の群れと戦いながら俺は旅を終えたのだが、宮崎に着くころには――。
「嫌だ、まだ俺はここにいるんだ! まっまだ読み切ってない!」
「蓮が壊れたわ」
「気持ちは分かりますが、行きますよ貴方様」
「いーやーだーよむー」
着いた午前二時、もはやこの城に脳を焼かれて出たくなくなっていた。
ドリンクバーに漫画の山、どこまでもくつろげるこの空間に俺は籠ると決めたんだ。だってめっちゃうまいソフトクリームまで食べれるだぞ? もはや城いや高天の原といっていい。
「……子供らしいが、今は茜様に会う必要がある。今度家に呼ぶから、今はいくぞ」
「あ、ハイ! 約束ですよ仁さん!」
「ちょろいわね、私もそっち方面で攻めたほうがいいのかしら?」
「無理やり合わせても意味ないと思いますよ、妬ましいですけど」
しゃーそれならいいわ。
なんか道中で話を聞けば限定品もあるっぽいし、めっちゃ行きたいから今はおとなしくしよう。そしてそんなことがありつつも、俺たちは高千穂にある天岩戸神社方面までやってきて。
「お前等遅かったが何かあったのか?」
「蓮が壊れただけよ」
「大丈夫か?」
「全然大丈夫です! それより早く終わらせましょう!」
「まじで壊れてんな、おいなにしたんだよ仁」
「黙秘だ」
流石仁さん、俺のことをかばってくれてる!
さいこー
「まぁいいか、それより今から入るのは神域だ。まず禊からやってくから真名井の滝に向かうぞ」
え……滝行? 滝行なんで?
そんなの経験したことないんだけど、とか思ってる間にも源弥さんは向かってしまい、他の皆も何の疑問も持たずについていった。
俺もそれについていき、なんかあれよあれよと滝行にぶち込まれ、道着で滝を受けることになったんだけど――めっっっっちゃ寒かった。
冷静になってほしいんだけどさ、今午前二時の丑三つ時だぜ?
それも四月の滝行、慣れてない俺には酷だし何よりも寒い。みんな当たり前のように身を清めてるけど、なんで耐えられんの?
「……さ、むい」
「へぇ弱った姿なんて珍しいわね」
「貴方様、あとで暖めますので」
「か、かんかくがなく――なる」
俺って弱かったんだ。
あぁ、寒いすっごい寒い。
約三十分ほど滝に打たれ、滝行ってこれでいいの? とか思いながらも禊を終えた。俺達……というか俺はガクブルしながら、着物に着替えて神社へと輸送された。
たどり着いたのは天岩戸、つまりはかの主神出る天照大御神が閉じこもったその場所へとやってきてしまった。
『……懐かしい、ね』
心の奥そこ、魂の中で……そんな声が聞こえた。
それは空の声、俺の中に宿る百鬼夜行の女神は、とても寂しそうに、何よりも儚げに言葉を残し――。
『一緒に、いて欲しいな。あとで、話そう?』
とても弱った様子で、珍しくそう言った。